築15年の鉄骨造の家を大胆リフォーム。 森のような庭を楽しむための贅沢な住まい
洋風な外観、建売住宅を彷彿とさせるインテリアの築15年の家を、リフォームすることに決めたお施主さま。素材感が楽しめる、格調ある家にしたいと考え建築家を探し始めた。依頼を受けた傳寶さんは、お望み通りの品格ある佇まいの家と、豊かな庭を実現。居心地も含め全てが上質な家ができた。
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素材一つ一つを選び抜き実現した家の印象を180度変えるリフォーム
鉄骨造、築15年の家のリフォームを考えられていたTさまご一家。以前の家は白い外壁の洋風の家で、建売住宅を思わせる内装だったのだそうだ。そこで、木の表情を感じ取れる家に変えたいとインターネットで情報を探していたところ、出会ったのが傳寶慶子建築研究所だった。
ホームページに掲載されていた作例がイメージに合っていたというTさまは、依頼時に「傳寶さんにとって、一番の思い出に残るようなデザインをして欲しい」とおっしゃってくださったのだとか。傳寶さんも期待に応えるべく「思う存分デザインさせていただきました」と話す。
大切にしたのは素材感だ。杉など木材をふんだんに使い、壁面は主に漆喰の左官仕上げとした。アクセントにもなる石材やタイルは、お施主さまと相談しながらひとつひとつ選んだ。それだけではない。なんと、この「苦楽園の家」には既製品が一切使われておらず、すべて傳寶さんがデザインし、造作した。おかげで家の隅々までトーンが統一され、贅沢で、格調高い設えとなった。
外観も一新し、気品ある佇まいに。木材、石、タイルとこだわり抜いた素材をバランスよく配置し、落ち着いた色味のどっしりとした印象の家に生まれ変わった。
以前は切妻屋根の部分とフラットな屋根の部分があったが、切妻屋根で統一。そのうえで、1階2階ともに軒を出し家に重厚感をもたらした。要望から1階の軒は深めに計画。軒は日射のコントロールはもちろん、雰囲気づくりにも役立っている。たとえば玄関脇を一部減築してつくった縁側は、深い軒から落ちる影が外観に表情をプラス。さらに、「ここはいわば『余白スペース』です。空間に余裕を持たせることで、家の品格が一層増すと考えました」と傳寶さん。
以前とは趣が全く異なる家として生まれ変わった「苦楽園の家」。リフォームで、理想とするイメージをここまで叶えられるということにも驚きだ。
四季折々に美しい、自然そのままの姿を表現生まれ変わった庭を家のどこからでも
大きな要望のひとつが「庭を森のようにしたい」ということだった。というのも、以前の庭は一面が芝生張りで他にはほぼ何もなく、隣家から庭や家が丸見えだったのだそうだ。
それならば視線の問題も解決したいと、1本1本検討しながら木々の配置を決めたという。窓を隠し、視線を遮る役割を持たせながら、同時に自然そのものの姿を持ち込んだようなデザインの庭ができた。もちろん樹木は庭の施工を行う造園会社に協力してもらいながら、お施主さまと一緒に選んだもの。ブルーベリーやレモンなど実のなる木も多く、季節ごとの楽しみがある。
庭の主たる部分はリビングと繋がるこの「森のような庭」だが、そこから家の裏側まで庭は繋がっている。家を囲う庭は新しく植えた木とともに既存の木も多くあり、森に向かう小道のような雰囲気も感じられる。
「苦楽園の家」の1階は、玄関を入ると左にLDK、右に和室などがあり、間を廊下が貫いている。突き当りはガラス張りで、家の裏側の庭が眺められる。ただリフォーム前の家では窓の前に設けられた階段が邪魔をして、庭が全然見えなかった。
そこでまず、階段をスケルトンに変更。視線が抜けるようになったのはもちろん、階段そのものの印象も薄くなったおかげで、玄関に入った瞬間に庭の緑が自然と目に入るようになった。
階段と接する天井部分も圧迫感がなくなるように階段状にし、軽やかで開放的な空間になった玄関ホール。しかし、プライベートスペースが集まる2階と行き来するための階段は使用頻度も多い。そこで、階段の手前に1.4mほどの腰壁を設けた。眺望は確保しながらプライバシーを守り、暮らしやすさを向上させる。そんな細やかな配慮も傳寶さんらしい。
1階の和室からも庭が楽しめる。「苦楽園の家」は道路からかなり上がった敷地の上にあり、さらに庭もはさんでいるため道路側は大開口が実現できた。以前の家でも、息子さまにとってお気に入りの場所だったという和室の縁側。「リフォーム後も残してほしい」という要望に応えながら、さらに居心地のいいスペースに変化させた。
まず窓や障子を引き込み戸とし、余計なものなく庭が見渡せる視界を確保。さらに、室内の板の間と縁側の床を同じ素材で揃えてフラットに繋げ、また室内の収納と同じ雰囲気の設えを縁側にも取り入れた。室内外の境界線が曖昧になったおかげで庭まで意識が繋がり、豊かな自然を享受できる。風が抜け、和室らしい静謐さと穏やかさが同居するこの空間は、息子さまにとってさらに大切な場所になっているに違いない。
増築により、LDKを驚きの広さに拡張。構成の妙で空間にメリハリ、庭にも出やすく
今回のリフォームは、内装や外観はがらりと変化させたが、間取り自体は大きく変えずに行った。「LDKを広くしたい」という要望はどのように叶えたのだろうか。
傳寶さんは以前テラスを囲いL字型だったLDKから、テラス部分を増築し丸ごと室内に取り込んだ。完成したのは、Tさまが驚くほどの大空間だ。
リビングの窓は和室と同じく引き込み戸で大開口し、「森のような庭」へ自然な流れで出ることができる。自然を感じながら暮らせる、おおらかなワンルーム空間の心地よさは、ただ広いだけでなく、広くなったからこそ単調にならないようさまざまに工夫されているからだ。
リビングに対してダイニングキッチンエリアは床のレベルを上げ、空間に変化を持たせた。また、天井もフラットな部分に加えて、軒まで連続した勾配天井を組み合わせた。庭に続くこの軒まで続く勾配天井は、梁がまっすぐ庭に向かって伸びており、リビングの窓を通して視線や意識が流れに乗って外へ向く。
より広さを感じられるようにも配慮した。リビングの壁面をすべて収納棚とし、戸はフラットでありながら引き戸のように開くものを取り付けた。テレビも戸棚の中に収納。必要ないときは存在を隠してしまえる。さらにLDKの真ん中に立つ鉄骨の柱を、木材を使い八角形で覆った。「四角ですとどうしても存在感が出すぎてしまって」と傳寶さん。難しい作業ながら確かな技術により実現したという。
森のような庭をつくり、その庭が家のどこからでも見えるようになった「苦楽園の家」。また建物そのものも、庭と調和のとれた風格が感じられる家となった。庭の自然はもちろん、庭からの光による陰影の美しさにも豊かさがある。本物の贅沢というのは、この家のようなことをいうのだろう。
撮影:冨田 英次
傳寶 慶子
傳寶慶子(でんぽうけいこ)建築研究所
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