自然素材が心地いいナチュラル空間。 災害対策も万全な、敷地13坪の狭小住宅
東京都内の住宅密集地で、狭小地の家づくりに臨んだ建築家の藤田敦子さん。開放感や採光を得るために工夫を凝らし、自然素材の心地よさに満ちたナチュラルな空間が完成。日本では避けて通れない地震・水害リスクへの現実的な対策も注目だ。
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狭小地&採光に難ありでも、のびやかさ・心地よさを生み出した設計
長年住んだ自邸を建て替えることにしたKさまご一家。Bois設計室・藤田敦子さんの設計で、ご夫妻と成人した息子さんの3人家族、愛猫2匹が暮らす新居づくりがスタートした。
だが、K邸の計画にはハードルもあった。立地は3方向を隣家に囲まれた東京・葛飾区内の住宅地。良好な採光を望めない上、敷地は約13坪とかなりコンパクトだ。
この条件下で最も意識したことは「閉塞感、圧迫感がない家にすることでした」と藤田さん。その言葉通り、完成した住宅は「日当たりの厳しさ」「狭小地」という2つのハードルを見事に乗り越えている。
2階建て+ロフトというフロア構成のK邸。1階の玄関土間は仕切り壁がなく、玄関土間からリビングダイニング、奥のキッチンまで見通せる大きなワンルーム空間になっている。さらに、階段も見通しの良いスケルトンで、2階の気配が伝わる吹抜け風の造り。奥行きも、上への広がりも感じられ、のびやかな印象だ。また2階にある個室もロフトで空間ボリュームが生まれており、圧迫感が全くない。
採光・通風対策では、玄関引き戸をガラス戸にしてリビングダイニングまで光を通し、ほかにも隣家と視線がぶつからない要所要所に窓を設置。高い位置から広範囲に光を届けるハイサイドライトもある。
これらの工夫に加え、閉塞感、圧迫感をなくす上で重要な、天井の高さにも厚い配慮がなされている。
実は、K邸は天井の仕上げに少々の制約があった。区の建替え助成制度を利用するにあたり、準耐火構造でつくる必要があったのだ。そうなると通常は、火災の際に短時間で倒壊しないように、家を支える構造を不燃材で覆う必要がある。つまり、梁などの構造現し仕上げは原則NG。天井板を張らなくてはならないため、その分、天井が低くなって圧迫感が出てしまう。
そこで藤田さんは構造計算の専門家と相談し、不燃材で覆う代わりに、構造の梁や柱に十分な厚みをもたせて一定時間の燃焼に耐えさせる「燃しろ(もえしろ)設計」で準耐火構造の基準をクリア。構造現しのデザインを実現し、天井の高さを確保した(ちなみにK邸の場合、現しの梁はキャットウォークになり、愛猫に喜ばれるというメリットも)。
準耐火構造のために通常より梁や柱を太くした分、注意しないと圧迫感が出やすいが、先述の見通しの良い空間づくりや適切な窓計画が功を奏し、K邸は閉塞感、圧迫感がみじんもない家に仕上がった。建築家の工夫とアイデア、丁寧な設計があれば、採光が厳しい狭小地でも「のびのび」「明るい」という居心地の良さを生み出すことができるのだ。
厳選した国産の自然素材を使い、経年で魅力を増す健やかな家に
新建材や合板を使わない自然素材の家づくりは、Bois設計室の大きな特徴だ。しかも藤田さん、ご本人はふんわり柔らかで話しやすい雰囲気だが、素材選びは全くふんわりしていない。一流パティシエがどこの粉や卵、バターを使うか自分のスタンダードを厳選しているように、Bois設計室も選りすぐりの「スタンダード素材」があり、K邸でも使っている。
Bois設計室のスタンダードは、壁は漆喰や土壁で、断熱材もセルロースファイバーなどの自然素材。木材は生産者の顔が見える国産の無垢材だけを使う。具体的には、床や造作家具は徳島の杉、柱や梁などの構造材はじっくり天然乾燥した和歌山の熊野杉を使用。いずれも製材所や木材の協同組合から直接仕入れ、コストダウンにつなげている。
Bois設計室のアトリエもこれらのスタンダード素材でつくられており、健やかさ、手入れのしやすさ、耐久性といった魅力を藤田さん自身も実感しているという。でも取材で訪問しただけでも、自然素材の底力のようなものはわかる。アトリエは築18年を経ているのだが、年月を重ねた風合い、質感などの表情が味わい深くて美しく、とても心地いいのだ。もしかしたらK邸も、竣工間もない今より10年後のほうがもっと素敵かもしれない。新建材やビニールクロスにはない強みだ。
藤田さんは内装素材だけでなく、質の良い国産家具や魅力的な作品をつくる作家さんにも詳しい。だから藤田さんに全体のプロデュースをお願いすると、テーブルにポンと本を置いただけで絵になる空間ができ、日常が心豊かなものになる。奥さまはそんな藤田さんのセンスを非常に気に入り、「ご提案したものは、全て『これ好き!』とおっしゃってくださり、うれしかったです(笑)」と藤田さん。
心が豊かになる感覚は、日々の暮らしだけにとどまらない。
国産の自然素材の家は厳しい状況にある日本の林業に貢献し、山に人の手が入ることで自然環境に寄与するという社会的な意義もある。まわりまわって自分の国の環境に、子どもたちの未来に、役立つことをしているかもしれない──。そんな大きな視点で心の豊かさを得られることも、藤田さんが手がける家の魅力だ。
見落としがちなリスクもキャッチ。思いを尊重した現実的な災害対策
最後に、K邸の災害対策についてもお伝えしたい。
日本における家づくりでは、施主も設計者も、地震対策を強く意識するだろう。だが藤田さんは地震だけでなくあらゆる災害リスクを調査し、対策を組み込んだプランを提案してくれる。
K邸の敷地では、荒川氾濫時の浸水リスクが0.5m以上あったことから、「床下で0.5mをクリアするように地盤面設定を極力上げる」「電気配線を床下に通さず、分電盤は2階に設置」「建物土台の基礎に点検口や水抜き穴を設置し、床下浸水時は水を抜けるようにする」などの対策を施している。
声を大にして言いたいのは、これらの対策はKさまからのリクエストではなく、藤田さんが先回りして調査し、提案してくれたものであること。そして、藤田さんは施主の要望を踏まえ、現実的な対策を練ってくれることだ。
例えばK邸は、河川氾濫リスクのほか、地震発生時の地盤の液状化リスクも抱えていた。こういうとき藤田さんは、何代も永く住み継ぎたい家なのかなど、施主の思いをヒアリングし、予算も加味して対策を考える。
そしてK邸の液状化対策では「液状化が起きても絶対に沈まない家」ではなく、「万が一、沈んでも、建物を引き上げやすい基礎にする」「配管が破壊されても、復旧しやすい造りにする」など、Kさまの意向に鑑みた現実的な対策を施した。
温暖化の影響で水害も増え、自然災害は誰にとっても自分ゴトといえる。考えると不安になるが、その不安を払しょくするはじめの一歩は自分の土地のリスクを知ることだ。家づくりの際、多角的にリスクを調査し、包み隠さず教えてくれて、親身に対策を練ってくれる藤田さんのような建築家がパートナーだったら、こんなに心強いことはないだろう。
撮影:遠山功太
藤田 敦子
一級建築士事務所Bois設計室
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