江戸の技、日本の髪に艶を

本物のつげの櫛

初夏から雨模様にうつりかわるこの頃ですね。

今日は櫛のお話を、投稿いたします。

それは今からさかのぼる事、十年ほど前のこと。
和服を着るのがとにかく楽しくて、仕方なかった時期がありました。
当時もおろどいたのですが、着物は古着屋さんに行けばとても素敵な（元は良いお値段の）お着物がびっくりするくらい格安で売られているんです。

寒い冬などは首元まで来るスカーフやブラウスと組み合わせたりすると、より暖かくなります。
あまり暑くない時期は、帯や小物との組み合わせで色々と楽しめます。
着物なんてとんでもない、と思いがちが夏も絽の着物と下着の工夫で涼しく過ごせたり。

その頃、幼い頃に見た祖母の櫛を思い出していました。
使い込んで飴色になっていた、櫛。

つげの櫛です。

あちこちネットだのを調べたら、結構お安く買えたりするじゃないですか。
祖母があんなに長年ずっと大事に使っていたから、もっとお高いのかと思っていたのに……

と少し不思議に思ったのです。
その理由が、更に数年後にわかることになったわけですが。

娘が生まれたお祝いに

娘が生まれたら、お祝いに用意しようと考えたのがこの十三やさんの櫛です。

御徒町の駅から徒歩で少し、まだ暑い頃でした。お店を探して辺りを歩いたら、なんというか賑やかな看板がたくさん。
どちらかというと夜の匂いがする界隈で、とても江戸時代からつづくお店があるようには思えませんでした。

お店はその派手な看板や店構えに囲まれた、一角にありました。

戸口から少しドキドキしながらお店に伺うと、ご主人がいらっしゃいました。
年を召された店主（当時）さんに櫛を求めに来たというと、店頭に並んだ櫛をにこやかにどうぞご覧になって、と。

まだこれから生まれる娘のためだということ、卯年で、可愛らしいものがいいこと。
できれば、娘の一生ずっとそばにあるものであること。
そうお伝えすると、彫刻のもあるけれど……と塗りの櫛を紹介くださいました。

見せていただいた櫛にあった塗りの絵柄や、彫刻の花たちはとても美しいものばかり。

どうしようかな、としばし考えていたらオーダーで作れますよ、とご主人。

櫛をオーダーメイドなんて、考えてもいなかったので驚いたのです。
でも、一生ものを用意するなら、オーダーメイドはとても素敵なアイディアです。

その場でお願いして、数ヶ月。
お店からお電話をいただき、再び御徒町へ。

そこで出会ったのが、こちらの櫛でした。

若手の蒔絵師さんが描いてくださったとのことで、娘むけに可愛らしいうさぎが花に囲まれています。
可愛くて、でも大人になっても可愛すぎることのない雰囲気。

ご主人からいくつか伺ったお話です。

昔は、江戸も全国にもたくさんの櫛屋があったこと。
その櫛やは、今の十三やさんと同じく最初から最後まで全て手作業で作っていたこと。
今では、全ての工程を手で仕上げるのが、浅草の十三やさんだけになってしまったこと。

安い櫛は、柘植とうたいながら柘植ではなかったり、酷いものは粉を混ぜて生成しているものもあること。

手入れをしながら使うことで、櫛を末永く

椿油をつけた布で拭くことで、汚れも取れて櫛自体の艶が増すのです。

一つ一つが手作業で削りだされ、多くの工程を経て作られる浅草十三やさんのつげの櫛。

娘は8歳になりました。
この櫛以外にも、プレゼントでもらったりしたキャラクターの櫛などを持っています。

でも見ていると、毎朝きまって使うのは、この櫛。
娘にどうして、と聞くと使いやすいから、と。
一見すると、ブラシの方が目も荒くてとかしやすように見えるんです。
でも、私も自分のつげ櫛を持っていますが、髪が落ち着くというか、根元から一本一本があるべき形にスッキリするというか……

必要なものを、大事に使うこと。
江戸の時代から続いてきた職人さんたちの技を、毎日の中でふと思います。

今日は少し珍しく、長年使ってよかったものの記事でした。

一生物との出会いは、生活を豊かにしてくれると思います。

本日も最後までご覧いただき、ありがとうございます。