二世帯の新しい形、見つけた! 親から子、子から孫へ継がれる家

形がいびつで高低差があるばかりか、防火指定地域や斜線規制などさまざまな制約がある土地に、4世代が暮らす2世帯住宅を建てたいというリクエスト。そんな難条件をクリアし、家族の夢を叶えるため、スタジオすぅ 西村佳大さんがとった手法がスキップフロアを使った「継」の家だった。

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部屋割りの自由度を高める、スキップフロアの中2階

世田谷の閑静な住宅街にあるYさん邸。白と黒のコントラストが美しい。現代風の建築ながらも、和の雰囲気を感じさせる光沢のある黒い壁は、息子さんこだわりの色。

建物は2つ並んだ玄関を覆うような造りになっていて、道路から見ると2世帯住宅には感じられない。西村さんによると、この造りのおかげで玄関が直接風雨にさらされないばかりか、安全性も高まるそう。
「小さなお子さんが玄関を開けてすぐ道路に飛び出してしまうという危険を避けられます。もちろん、玄関が道路から丸見えにならないことも目的のひとつです」
さらに、建物は道路より高さのあった土地を掘り下げてつくられた。これも、ご家族に高齢の方がいるため、外で階段を上るよりもまずは家の中に入り、手すりなどがある環境で数段上るほうがいいだろうと考えた西村さんの配慮だ。

施主のYさんご一家は、親世帯にYさんご夫妻と高齢のお母様、子世帯に息子さん夫妻と幼い娘さんの6人家族にペットのワンちゃんも。
家族4代が暮らす2世帯住宅を建てようとしていたYさん一家。建築コンペに参加した建築家の1人が西村さんだった。

それぞれ違う建築家からいくつものプランを提案されたなかで、西村さんを選ぶ決め手となったのが、「我々に寄り添ってくれるという信頼感だった」と息子さんが語る。

西村さんが提出したプランの内容自体が良かったのはもちろんだが、他の建築家のプランは、施主の望みを叶える家というよりは、自分の思い通りの家を実現させたいという建築家主導の提案に感じられたという。

それに対し西村さんのプランは、「他の方のプランは、親世帯子世帯で、部屋の広さや配置もバラバラでしたが、西村さんの案は親世帯と子世帯を同じ広さにしてくれたのが嬉しかった」という息子さんの奥さんの言葉に象徴されるように、家族の状況や要望をうまく汲み取ってくれていたという。

一方の、西村さんはこのお話が来たときに、どう感じたのだろうか。「今回の物件は正直、私の今までの経験の中でも最も難しい案件の1つでした。」高低差のある変形敷地、高齢者を含む2世帯住宅、そして斜線規制や防火地域でもある。厳しい条件をクリアした上で、施主の思いに応えたい。アイデアを練る中で出てきたのが、「継」というキーワードと、スキップフロアという手法だった。

「まずは、家族4代で住むこの家を、次世代にも『継承』してもらえる家にしたいという思いがありました。そしてそれを実現するために、スキップフロアで2つの建物を『継ぐ』というイメージのプランをご提案しました。」

通常スキップフロアは、同一空間内に数段の階段をつけ、半地下や1.5階、2.5階を設けることで床面積や収納スペースを確保したり、視覚的に広く見せる効果を狙ったもの。

だが、今回西村さんがとったのは、リビングなどのある2階建てと玄関や個室のある3階建ての建物を数段の階段でつなぐというもの。道路に面した部分は3階にできるため、空間を有効利用できるとともに、土地の高低差をうまく解消できる妙手だ。

この造りによって生まれた中2階は、親世帯にも子世帯にもつながっているオールマイティーな部屋。現在は親世帯が使っているとのことだが、家族の共有スペースとして活用することや、子供部屋にすることも建物に手を加えずに行える。この部屋こそ「継」を象徴しているといってもいいだろう。

上の世帯と下の世帯という完全分離ではなく、半階分昇るだけ、降りるだけで行き来できる関係。「プライバシーを確保しつつ、つながりも満たす」というちょうどよいつながり。そしてそれが、家族環境の変化にも対応し、長く受け継がれる使い勝手の良さも併せ持っている。
これをスキップフロアという手法で実現してみせた、西村さんの手腕には「お見事!」としかいいようがない。

「2世帯住宅になり、孫が元気に遊んでいるなとか帰ってきたなということが感じられるようになって、それがうれしくて」と目を細め語るご主人。
このスキップフロアの家に、2世帯住宅の究極の姿を見出した感じがした。

建物だけでなく、「住まい」を家族とともに

広々とした玄関から数段上った先に、親世帯のリビングの大空間が広がる。
まっすぐのアプローチが奥行きを出し、広さを感じさせている。また、上部の開口部からの光が白壁に反射し室内を明るくさせている。

ご夫婦こだわりの3連コンロが設置されたキッチンは、2人が並んで作業ができる広さと動線を確保。「この家になって、家族親戚が集まることも多くなり、2人でキッチンに立つことも増えました」と微笑むご主人。奥に設置されたパントリースペースは廊下側からも回遊でき、買い物後に直接パントリーにものを運べるのも嬉しい造りとなっている。

また、何と言っても目を引くのは、キッチンに据え付けられたバーカウンター。これも、西村さんデザインによるもの。これだけでなく、テーブルや壁面収納も西村さんが手がけられたことで、一体感が生まれている。

一方、2階の子世帯のリビングも1階同様の広さをもつが、天井が高い分空間の広がりが感じられる。こちらも西村さんが手がけたダイニングテーブルと一体となったアイランド型キッチンが目を惹く。「汚れや換気を心配していたのですが、大丈夫でした。料理中に、子供がどこにいても目が届くので安心です」と息子さんの奥様。

また隣にある寝室・ウォークインクローゼットの間も、回遊できる造りになっていて、スムーズな動線に配慮されており、まだ幼い娘さんのよい遊び場となっているようだ。

家全体から感じる、統一感のある美しさと暮らしやすそうな使い勝手の良さ。これは、建物を設計するだけでなく、家具やインテリアにまで西村さんが関わり、ご家族と一緒に「住まい」を作り上げてきたからなのだろう。

取材当日も、奥様が「先生、ここに合う椅子がほしいんだけど、何か良いものがないかしら?」となど相談されていた。
建物を設計し完成したら終わりという建築家と施主という関係にとどまらず、完成後も住まいのトータルアドバイザーとしての役割を担っている西村さんとYさんご一家の関係も次世代まで継がれていくのだろう。

【建築家 西村 佳太さんコメント】
私はどちらかというと、困難な状況をどう克服するかの解をみつけることにワクワクするタイプなので、今回の提案をご採用いただいた際は、「よっしゃ!」という気持ちでした。
今回は家だけでなく、家具についてもご発注いただきましたが、今後も家具やインテリアなどのアドバイザーとして、末永くお付き合いさせていただけたらと思っています。

【施主 コメント】
元々15年しか経ってない家を壊して作るのはもったいないかなと思っていましたが、結果として大満足です。先生は、我々の要望を汲み取ってくれる柔軟さと対応力が心強かったです。今後も相談に乗っていただいたり、ご提案いただけるとうれしいです。

撮影:アトリエあふろ(古川公元)

西村 圭太

スタジオすぅ

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