豊かな緑、心地よい木漏れ日。公園のような環境で働く快適オフィス

ここはオリジナリティあふれるプロデュース力に定評がある、不動産会社のオフィス。建築家の奥野公章さんは建物の中に樹木を地植えし、快適に仕事ができ、不動産会社としての提案力も訴求する空間を実現。公園のような環境を可能にした建築の秘策とは?

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テレワークが増える中、「会社で働く価値」を感じられる空間を

40mの壁が印象的なファサード。甲府市内の幹線道路沿いという都市スケールにマッチする、堂々たる佇まいだ。陰影のある出目地コンクリートと芝のマウンドによるシンプルな構成は、幹線道路の無機質な景色にうるおいをプラス。公園のような存在感がある
幹線道路に面した西面はデザインされたコンクリート壁で覆い、騒音を遮断。建物内では集中して仕事ができる

灰色のコンクリート壁に覆われた建物の中に入ると、まばゆい光に包まれた緑の公園が広がっていた──。

ちょっと文学的に紹介したくなるほどインパクトの強いこの建物は、山梨県甲府市にある株式会社ハウス・ネット(以下HOUSE-NET)の本社社屋。同社はデザイナーズマンションなど、オリジナリティのある建築を積極的にプロデュースすることで知られる不動産会社だ。

本社社屋の設計にあたって望んでいたのは、自社の提案力を表現できるような建築をつくること。斬新で魅力あふれるオフィスをモデルルーム的に見てもらうことで、訪れた顧客にプロデュース力をアピールしたいとの狙いがあった。

難度が高いこのオーダーに応えたのは、東京に事務所を構える奥野公章建築設計室の奥野公章さん。プランニングで奥野さんが意識したのは、「テレワークが増えている昨今、会社に来ることに価値を感じてもらえる空間をどうつくるか」だったという。

「会社に来れば、こんなにいい環境で仕事ができる。そう感じていただけるような空間にするために、着目したのが観葉植物です。でも、ただ植物を置いただけではHOUSE-NETさまの素晴らしい提案力の訴求には物足りません。そこで『オフィスに緑を置く』という従来のあり方をパラダイムシフトさせ、『緑の中に働く場がある』という発想でプランニングすることにしました」

奥野さんの言葉通りHOUSE-NETは緑に包まれたオフィスとなったが、すごいのは緑の多さだけではない。驚くことにそれらの緑は全て、完全な内部空間で「地植えされている」のである。

陽光、木漏れ日、きらめく緑……。息吹を感じる公園のようなオフィス

オフィスの東側から西側を見る。写真中央奥の白い扉がエントランス。写真中央と左は接客・セミナールーム。物件を探しに来た顧客やHOUSE-NETが開催する不動産セミナーに訪れる人も、緑に包まれた心地よい環境を楽しめる
接客スペースからワークスペース(写真右奥)を見る。建物内部はコンクリート打ち放しと白を基調としたモダンな空間

HOUSE-NETのオフィスは、天井の高い約200㎡の平屋だ。奥野さんは往来の多い幹線道路沿いという立地から、外壁を厚いコンクリート壁として音を遮断し、落ち着いて仕事ができる環境を整備。建物内はエントランス側から接客・セミナールーム、ワークスペース、役員室と、パブリック~プライベートゾーンが順に並ぶ。

この各スペースをゾーニングするパーティション的な役割を果たしているのが、屋内に地植えされたさまざまな樹木だ。人がいる場と植栽が交互に並び、植栽の上にはトップライト。鉢植えの観葉植物とは比べ物にならない豊かな緑は、燦々とそそぐ陽光を浴びながら「生きている」。

緑と木漏れ日に包まれたオフィスはまさに公園そのもので、深呼吸したくなるような心地よさ。高木は高い位置に葉がつく樹種が選ばれているため、緑で空間が分断され過ぎることもなく、仕事に集中できるプライベート感、コミュニケーションしやすい一体感のバランスもいい。

こんな環境で仕事をすれば、自宅の一角で日がな一日パソコンに向かうより、いいアイデアが湧いてくるのでは……。そんな風に思えるほど、「会社に来る価値」を十二分に感じさせてくれる空間といえるだろう。

また、贅沢なまでに木々が生い茂る空間は、訪れる顧客にもHOUSE-NETの高い建築プロデュース力をアピール。この点でも奥野さんは、クライアントの願いにしっかりと応えている。

地植えされた緑を建築に溶け込ませるアイデアも秀逸だ。奥野さんは白く塗装した水道管を植栽スペースの柱に見立て、白を基調とした空間と樹木を馴染ませているのだ。

「今回採用した樹木の幹はわりと細めなのですが、建築用の柱には同じようなサイズのものがないんです。でも水道管なら今回の樹木の幹と同じくらいの細さだと気づき、植物と建築を融合させる媒介としてぴったりなのではないかと思いました」

確かに、この水道管の柱があるのとないのとでは、樹木と建築の馴染み具合が全然違う。奥野さんの柔軟で独創的な発想の魅力をあらためて感じるポイントだ。

建物南側に位置するセミナールーム。たっぷり入る南の光とみずみずしい緑に包まれた、気持ちのよい環境でセミナーを受けられる
セミナールームからの眺め。手前から奥に向かって接客スペース、ワークスペース、役員室などが並ぶ。地植えした樹木は、幹が美しく高い位置に葉がつく高木と、豊かに葉がつく低木で構成。ジャングルのようにわさわさし過ぎず、ほどよいバランスで緑の豊かさを感じられる

ほぼノーメンテで緑は生き生き。うれしいポイント満載の建築テクニック

樹木をパーティションに見立てたオフィスは各デスクの独立感がありながら、空間を分断し過ぎない点が魅力
役員室(写真左)とカフェスペース(写真右)。役員室はエントランスから距離のあるプライベートゾーンに位置するが、ガラス張りなのでスタッフとの一体感は十分

緑の中で働く豊かな環境に魅せられつつ、一方でこんな疑問も浮かんできた。

なぜ、屋根付きの完全な屋内に樹木を地植えすることができたのか。そもそも観葉植物だって手入れが要るのに、こんなにたくさん緑があったらメンテナンスが大変なのではないか……。

奥野さんにこの疑問を投げかけると、こんな答えが返ってきた。

「HOUSE-NETさまの植栽は、軽量土壌のアクアソイル工法でつくっています。アクアソイルは保水性が高く通気・排水にすぐれており、植物に適した環境を保ちやすいんです。私も屋上庭園などによく利用していますが、これまでアクアソイル工法の庭で樹木が枯れたことはありません」と奥野さん。奥野さんはこの工法とトップライトによる採光を組み合わせて、生育に適した環境を整えたのだ。

アクアソイル工法で灌水が要るかどうかは環境や樹種によるが、HOUSE-NETでは自動灌水システムを導入。土壌の保水力のおかげで灌水は週にわずか1~2回。剪定はメーカーのサービスを利用しており、スタッフにしてみれば観葉植物より手間がかからない。また、葉などに埃がたまって成長を妨げるのを防ぐため、奥野さんはエアコンを採用。樹木の埃をはらう自然通風と同様の効果を、エアコンの風で生み出している。

完全な屋内で樹木が生き生きと育つ建築テクニックは、ショッピングモールやホテルなどの大規模施設、和食店などの小規模店舗まで、汎用性が実に高い。建築によって人と自然が共存し、都会にいても、屋内にいても、緑の息吹や四季の移ろいを満喫できる──。奥野さんの知見があれば、そんな素敵な環境づくりがかなうのだ。

撮影:小川重雄

奥野 公章

奥野公章建築設計室

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