
気取らない、気負わない。まっすぐで素朴な〔ブーランジェリーヤマシタ〕のパン
都心から電車に揺られること1時間とちょっと。神奈川県の南部で人気を集めるベーカリーがあります。開店時間の10時前から焼きたてのパンが並べられると、朝いちばんで近所の方たちが訪れます。買ったパンを抱えて出てくるお客さんたちは笑顔で、なんだかみんな嬉しそう。〔ブーランジェリーヤマシタ〕を訪れると、思わず笑顔になってしまう。そのワケを探しに行ってきました。
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自然豊かな町に佇むベーカリー
湘南のなかでも海と山に恵まれた自然豊かな二宮町。山々を望む県道から少し入ると、どこからともなくパンが焼ける香りが漂ってきます。その香りに引き寄せられるままに歩を進めると、生い茂る緑と小さな白壁が見えてきました。9時40分。開店前ですが、軒先に用意された椅子に腰掛け、お客さんたちがのんびりとおしゃべりしながら開店を待っていました。
今度の春で4年目をむかえる〔ブーランジェリーヤマシタ〕。二宮町に縁あって、古い美容院だった建物を地元の大工さんたちとみずから工事して、ヨーロッパの街角にあるような夫婦ふたりで営むパン店としてオープンしました。厨房でご主人の雄作さんが焼き上げたパンを、奥さんの房江さんが次々と棚へ並べていきます。
10時、開店です。「3名様まで入れますので、こちらで順番にお入りなってご覧ください」と、房江さんがお客さんを迎え入れます。約1坪の小さなお店にバゲットやカンパーニュ、ペストリーのほか、二宮の特産物にちなんだパンなどが毎日30種類ほど並びます。
みかんの特産地でもある二宮という土地への愛着と気持ちをこめてつくったというシナモンロール(250円)。オレンジピールを生地に練りこみ、シナモンバターをふんだんに使い焼きあげます。所狭しと並ぶパンと、店内に漂う小麦の香ばしさや濃厚なバターの香りが、ワクワク感と食欲をかきたてます。
もっちりとした生地にクルミを練りこんだくるみパン(75円)。パンには一つひとつ手書きのポップがついていて小麦粉、塩、牛乳、三温糖、バター、酵母、はちみつ、くるみと、使用した材料が書かれ、「はちみつ生地にくるみを入れました」と、説明が添えられています。
お店の奥にあるイートインができるカフェ〔La table de Boulangerie Yamashita〕で、購入したパンをほおばってみると、食べた瞬間に思わず「おいしい」という言葉が出てきました。決して華美ではないけれど噛むほどに口の中に小麦の滋味があふれる素朴でやさしい味に、口がほころびます。
「できるだけシンプルに。素朴でありたいと思っています」と雄作さん。パンは日々の食卓に並べるものなので、高くて買えないとお客さまが感じてしまうような価格設定にはしたくないと雄作さんは言います。「日常の食にしていただけたらと思っているので、ギリギリのラインで、いい材料を使おうと心がけています」。
ふたりで模索し、たどり着いたパン
〔ブーランジェリーヤマシタ〕は、その日に焼いたパンはほぼ毎日完売し、夕方にはすべて売り切れてしまうのだそうです。この日も、ひっきりなしにお客さんがやって来て、客足は途絶えることがありませんでした。〔ブーランジェリーヤマシタ〕のパンは、どうしてこうも人を惹きつけるのでしょう。食堂で隣あった常連さんに聞いてみると、こんな答えが返ってきました。「おいしいから。それと、房江さんの笑顔に会いに来ている人も多いと思いますよ」
奥の厨房では、ご主人の雄作さんがスタッフと黙々とパンづくりをしています。〔ブーランジェリーヤマシタ〕のパンはこの厨房でつくりだされているのですが、今日、ここに至るまでに、雄作さんと房江さんには紆余曲折があったそうです。
「高校卒業後、デンマークへ留学し、帰国後、北欧発の家具メーカーに勤めました」と雄作さん。仕事は順調で、やがて房江さんと出会って結婚し、子供も生まれました。茅ヶ崎の海辺の家に暮らし、順風満帆の生活をしていました。「仕事が終われば飲み歩いて、会社と家を往復するだけの暮らしで、家族といっしょに過ごすという時間もほとんどありませんでした」
一方の房江さんは「当時、茅ヶ崎のいわゆる"オシャレ"といわれる海辺の街に住んで、北欧家具でそろえた家で毎晩のようにホームパーティをしたりしていて……周囲に"湘南マダム"と言われて。自分ではそのつもりはなくても、それを演じ続けないといけない。いつしかそんな毎日に生きづらさを感じるようになっていました」
そんな生活を10年ほど続けていたご夫妻でしたが、ある日、知人に投げかけられた言葉がズシリと心に響いたのだそうです。「本当はもっとしたいことや大事にしたいものがあるのでは?」「それを見ないふりして生きているのでは?」という知人の言葉。
そしてそれがキッカケとなり、雄作さんは仕事を辞めて、それまでの生活をすべて切り捨てたそうです。「それから1年くらい、2人で模索し続けました。どうやって生きていこう。自分にとって何が必要で、何が不要で、自分に対して嘘をつかず、何をし続ければいいのか。そんなことを考えました」と房江さん。
そんな模索する日々のなかで、ふと子どもを見ると楽しそうに元気に食べている。その姿に心がハッとしたのだそうです。「自分の手でモノを作りたい。人のためになる日常の食に関わっていこう」。それはなにか。その先にあった答えが"パン"でした。
〔ブーランジェリーヤマシタ〕をオープン
家具メーカーに勤務していた雄作さんにはパン作りの経験はありませんでした。しかし雄作さんは家族を抱える身であるため、専門学校へ通って学ぶという余裕はなく、ベーカリーでアルバイトして修行を積んだのだそうです。そして2年10ヶ月後に〔ブーランジェリーヤマシタ〕をオープン。「家族を養うためには店を開かなければいけなかったので、パンを焼きながら自分のパンを追求してきました」
基本は粉、水、塩、酵母の原材料だけ。余計なものは入れず、シンプルに。自分なりのパンづくりを模索しているときに、デンマークの友人が庭で有機栽培しているリンゴを譲ってくれたのだそうです。「これで酵母を育ててみたら?と、友人がわけてくれました。そのリンゴから酵母をおこし、今も大事に育てながらすべてのパンに添加しています」と雄作さん。
「みかんや落花生などの土地ゆかりの素材を入れたくて」と、二宮の名産である落花生が入ったパンも考案。生地には抹茶が練りこまれています。この抹茶は、ご夫婦の大切な友人と縁のあるもので、その抹茶を自分たちのパンに使いたくてこのパンを作っているのだそうです。「パンの製法や技術うんぬんよりも、そういう人のつながりだったり、人の思いと思いがつながっていくことが僕はうれしいです」と雄作さんは言います。そしてその結果、おいしいパンがつくれたらそれでいいのではないかと。
ニンジンを練りこんだ生地のシンプルな丸いパンにカボチャの種がたっぷりついたニンジン&カボチャのパンは、併設のカフェ〔La table de Boulangerie Yamashita〕でハンバーガーのバンズとしても使われています。もともと遠方からわざわざパンを買いに来てくれる人のために、くつろげる場所にしようとお店の奥につくった〔La table〕。
パティは自家製、グリルしたタマネギ、トマト、サラダ菜を挟み、セットのチョップドサラダとスープも野菜がたっぷり。「食堂で食べられるメニューに卵のサンドイッチもありますが、いずれも家庭的な味だと思います。かっこよくておしゃれなものは、他にいくらでもありますから。うちの素朴なパンで作る料理を食堂で食べてもらえたらと思っています」と雄作さん。雄作さんは愛情をこめて、ここを"食堂"と呼んでいます。
「この店に来てくださったお客さんがホッとできるようなお店でありたいと思っています。うちのパンを喜んでもらったり、スタッフとおしゃべりをしたりして、少しでも幸せな気持ちを持って帰っていただけたら嬉しいですね」と房江さん。
お2人の思いが息づくパン、そしてお店。購入したパンを食堂で頬張るお客さんの姿が印象的で、その誰もがしあわせそうな表情をしていました。
【Boulangerie Yamashita(ブーランジェリー ヤマシタ)】
●住所:神奈川県中郡二宮町二宮1330
●電話:0463-71-0720
●営業:10時〜(パンがなくなり次第閉店。食堂は16時30分LO.)
●定休:月・日曜
●Hp:http://www.boulangerieyamashita.com/
●ライター 忍章子
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