罰を使うトレーニング方法は犬から希望を奪うという研究結果
体罰など嫌悪刺激を使うトレーニング方法の弊害は今までにも報告されています。新しい研究結果でも、2種以上の嫌悪的なトレーニング方法を使うことが犬の心理に悪い影響を与えることが発表されました。
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犬のトレーニング方法の2つのタイプ
犬のトレーニングには様々な方法がありますが、大まかに分類すると「報酬ベース」または「嫌悪刺激ベース」の2つに分けられます。
報酬ベースとは、犬が望ましい行動をした時にトリーツなどの報酬を与えて(反対に望ましくない行動をした時にはトリーツは与えない)「この行動をすると良いことがある」と犬が学習することで、望ましい行動を強化するというものです。
嫌悪刺激ベースとは犬が望ましくない行動をした時に、大きな音や水スプレーなどの嫌な刺激を与えて(反対に望ましい行動をした時には嫌な刺激は与えない)「この行動をすると嫌なことがある」と犬が学習することで、望ましくない行動を減らすというものです。
これら2つの違う方法でトレーニングされた犬がどのような違いを見せるかという研究は近年少しずつ増えています。この度、イギリス最大の犬保護団体ドッグズトラストに所属する動物行動学者と獣医師の研究チームが、それぞれの方法でトレーニングされた犬の認知バイアスを比較する実験を行い、その結果を発表しました。
報酬ベースVS嫌悪刺激ベースで比較
この研究に参加したのは、一般家庭でペットとして飼われている犬50頭でした。参加者は以前のアンケート調査に参加したことがある人や動物病院、トレーニングスクール、ブリーダーのリスト、犬種クラブなどを通じて募集されました。
参加希望者には質問シートに記入してもらい、年齢や不妊化手術の状態、持病の有無など基本的な情報の他に、普段のトレーニングについてどのような方法を使っているかという質問がされました。
トレーニング方法に関する回答は「嫌悪刺激を与える方法を使っている」「嫌悪刺激は全く使っていない」の2つに分類され、それぞれのグループの年齢、不妊化状態、犬種などの分布がほぼ同じになるよう調整されて各グループ25頭、計50頭が選ばれました。
ちなみに「嫌悪刺激を与える方法」とは次のリストのうち2つ以上を使用しているかどうかというものでした。
✔犬が吠えると声に反応して柑橘系のスプレーが噴霧される首輪
✔リモコンで操作する柑橘系のスプレーが噴霧される首輪
✔プシューッという音がするスプレータイプの道具
✔叩く、揺するなどの体罰
✔犬が吠えると声に反応して作動する電子ショック首輪
✔リモコンで操作する電子ショック首輪
✔水鉄砲
✔チョークチェーン首輪
✔コインの入った空き缶などで大きな音を出す
対称グループの方は、上記のような嫌悪刺激は全く使わずトリーツなど報酬を与える方法でトレーニングされている犬たちでした。
トレーニング方法が犬の感情に与える影響
調査対象になる犬が決定し、次の段階はそれぞれの犬の認知バイアスを調べることでした。認知バイアスとは、育った環境や経験などによって形成された物事の見方や考え方の歪みや誤りのことです。
身近なところではボトルの中の美味しいジュースが「まだ半分残ってる!」と、ハッピーになるか「もう半分しかない」と落ち込んだ気持ちになるか、などがあります。
犬の認知バイアスを調べる時には定型のテストがあります。選抜された50頭の犬と飼い主の自宅に研究者が訪れて、このテストと準備のためのトレーニングを実施しました。
テストは以下のようなものです。ある地点から4メートルの2つの地点にトリーツの入ったボウルと空っぽのボウルをおきます。ちょうどある地点を頂点に、2つのボウルが二等辺三角形を描く感じです。
犬たちはどちらのボウルに常にトリーツが入っているかを事前に訓練されます。次に2つのボウルを結ぶ線の中間地点、つまりトリーツが入っているかどうか微妙で曖昧な場所にボウルを置いて、犬にボウルに近づくよう促します。犬がボウルに近づく時の行動や時間を測定して犬の認知バイアスを調べます。
迷わずボウルに直進して時間も短い犬は「楽観的」と評され、反対にボウルに行くまでノロノロして時間のかかる犬は「悲観的」と評されます。2つのグループの犬たちの認知バイアスは、はっきり2つに分かれました。
嫌悪刺激を使わず報酬ベースのトレーニングのグループは楽観的、嫌悪刺激を使っているグループは悲観的というものでした。
犬に楽観とか悲観という言葉を使うとピンと来ないかもしれませんが「罰を与えられたことがなく良いことをしたらいつもご褒美がもらえる犬は、曖昧な状況でも良いことが待ってるに違いないと思って行動する」
反対に「日常的に罰を受けている犬は曖昧な状況に希望を持つことなく、どうせ良いことなんてないだろうと思って行動する」と言うと分かりやすいでしょうか。
日常的に罰を与えられると、犬も希望を失ってしまうということが伺えます。人間の場合はうつ状態になると報酬に対する感受性も低下すると言われています。犬の場合も罰によって常に気持ちが落ち込んでいる状態だと、たとえ報酬があっても喜ぶ感受性すら無くなることも考えられます。
まとめ
家庭犬をトレーニングする際に、日常的に嫌悪刺激を与える方法を使用していると、犬はより悲観的な認知バイアスを示したという調査結果をご紹介しました。この結果は犬のトレーニング方法が、動物福祉に与える影響を理解することの重要性を強く表しています。
ドッグトレーナーや獣医師の中にも、嫌悪刺激を使うことを勧める人は少なくありません。一般の飼い主は専門家の言うことだからと思ってしまいがちですが、動物行動学や比較心理学など、様々な分野の研究で嫌悪刺激を使うトレーニングの悪影響は指摘されつつあります。
飼い主もこのような情報を知っておくと、専門家を選ぶ時の基準にすることができます。大切な愛犬がいつも「何か楽しいこと、いいことが待ってるよ!」と思えるような状況を作ってあげるのは飼い主の大切な役目の1つです。
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