【命のてがみ #4】出産への不安。でも幸せの痛み、ハッピーペイン

フォトグラファーのHAL KUZUYAさんが妊娠、出産の体験を綴るエッセイ「命のてがみ」。第4回目は、次第に大きくなるお腹に戸惑いつつも湧き上がる愛情、それに伴って募る出産への不安について。出産という初めての体験を目前にしたHALさんの素直な気持ちです。

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「なんだか不安」ーーそれを受け止めてくれた夫

写真提供:HAL KUZUYA

お腹の中の存在は、毎日元気に自己主張。

「ヒクッヒクッ」としゃっくりしたり、
「プルルル」と震えてオシッコをしたり。

横向きに寝ていると
「そっちは、苦しいなー」と言わんばかりに、グリッと足先で蹴ってくる。
「はいはいすいません」そう言って、向きを変えると、落ち着いて静かになったりする。

とにかく可愛いのです。お腹の中の存在が。
グニュグニュとお腹を蹴飛ばす、あの感覚が。
たまらなく愛おしい。

そんな風に毎日毎日、一心同体。
ずっと一緒のこのお腹の中の存在が、
目の前に「赤ちゃん」として、やってくるという
その実感は、いつまでたっても湧いてこない。
これは私特有のものなのだろうか?
目にするまでは信じられない。そんな感じ。

両手のひらに収まりそうな、新生児の肌着を下洗いして、丁寧に干してみる。
そんな自分に首を傾げ「うーーーん。実感ないわ」
でも、くすぐったい嬉しさも同時に湧いてきて、一人でニヤニヤ。
夫に、見てみて~、と、干したての洗濯を見せても、
こちらはさらに実感ない様子で。
「うんかわいいね」と一応言うだけ。

出産への言いようのない不安に襲われたのは、お腹もかなり大きくなった妊娠後期。
ホルモンのせいなのかなんなのか、
「なんだか無情に不安です」と急に半泣きで夫に訴える。
この時は流石に、ちょっとびっくりした様子で、真面目に話を聞いてくれた。

不安を丸ごと受け入れてくれた夫の大きさに、感謝です。

体調も、感情もいろんな波がやってくる。
めまぐるしく変わる心と体。

お腹も大きくなると、急に行動範囲が狭くなる。
仕事以外は、いつもの場所にしか行きたくない気持ち。
巣篭もりの準備のように
安心で守られている、いつもの場所にだけ行く。

歩いていける八百屋、近所のご飯屋さん、バスで乗っていけるお気に入りのカフェ。
それをひたすら繰り返すものだから、すっかり顔も覚えられてしまう。

大好きなカフェに夫と訪れたある日のこと。
店主の女性が、声をかけてくれた。
不安そうな顔でもしてなのかしら?

「出産の痛みは幸せの痛み、ハッピーペイン」

「痛いのだけれど、病気や怪我とは違う、
怖いものは何もなくて、待っているのは幸せな出会い」

「そう思ったら、きっと、安心して出産を迎えられるし、
痛みを味方につけることもできる。だからきっと大丈夫」

そして、胎児記憶の本を教えてくれた。

その言葉に、ドッと溢れた涙。
胸の下に押さえ込もうとしていた不安が、
一気に溢れて、そして流れていった。

この言葉に、どれだけ救われたか。
この言葉が、出産の瞬間、どれだけ私を助けてくれたか。

●文、写真 HAL KUZUYA
フォトグラファー。東京と京都に拠点を置き、主にファッション、広告の分野で活動中。

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