ハイツYの修理
築年数、駅からの遠さ、近隣駅前での賃貸居室の増加などにより長く空室であった一室。約52㎡で3DKという、現在の賃貸市場で考えると1LDKあるいは2DKとされるであろう専有面積と間取りのアンバランスでもあった。「内装・設備更新に必要な通常のコストで面白いことができないか」という建主との話からこの計画は始まった。
ここで試みたのは、ニーズに合わなくなった「壊れている」間取りを直す「間取りの修理」と、一般的な賃貸改修が内装材・設備機器の更新による「1→0→1→0→」の繰り返しであるとするならば、「1→2→3→4→」という風に「修理し使う」ことを許容する状態を設計することだ。
現状の間取りを残し、解体費を最小に抑える。垂壁・天井・枠類は残したまま、建具と南側洋室との間の収納のみ解体することで無窓だったDKに採光を確保した。そこに既存の居室を横断していくような新しい壁をつくり、現状の「3DK」が「2LDK」となり、新しい壁の挿入によって「4LDK」になった。LDKと室の間に生まれた小さな室は、屋内に作られたポーチのように距離を取り、あるいは調停をする機能を果たす。
LDKは住人以外も出入りしやすい土足の床とすることで、例えばスモールオフィスなどの使用が可能となり、競合賃貸に対して画一的でない住まい方を提示すると考えた。最小限の資材と材料で制作、敷設したコンクリート平板は簡易に量産が可能で、ひび割れた時には部分的に容易に交換ができる。また手製であることから形状がやや不揃いで、「個体差のある工業製品」的な様相は室内にある種の寛容さを与えている。
各室を横断する壁は、ガラス用フィルムを貼ったラワン合板でできている。フィルムは貼り重ねが可能なため、経年変化と更新性を併せ持つ壁となった。シートの艶は自然光を反射し室内外風景を映り込ませることで明るさと多重性をもたらせた。
この計画はそれぞれが独立した設計者・施工者が基本設計段階から案を出し合う特殊な体制で臨んだ。アイデア・コストのバランスが会議時にその場で算出され、仕上げ・素材のプロトタイプがその場で作りだされるというスピード感が特徴だ。この体制では限られた設計期間内にもさまざまな可能性を試みることができ、改修やローコスト物件に取り組む際効果を発揮する。また今後は建主もそのチームに加わればさらに可能性が広がるだろうと考えている。
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