「中之条ガーデンズ」の魅力、苦労話、メンテまでバラの専門家・河合伸志さんにインタビュー!

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この記事の目次
  1. 河合伸志さんにズバリ質問! 感動分岐点を超える「中之条ガーデンズ」の魅力
  2. 河合伸志さんが語る 「中之条ガーデンズ」の制作&管理秘話
  3. 河合伸志さんからアドバイス! 自宅のガーデニングに生かせるアイデア&テクニック集
  4. 「中之条ガーデンズ」に行ってみよう!

2018年、群馬県中之条町にオープンした「中之条ガーデンズ」。バラの専門家、河合伸志さんが植栽デザインを担当した美しいバラ園を始め、いくつもの表情のガーデンを見ることができる、癒やしの空間です。今回は、「中之条ガーデンズ」のバラ園を制作・管理する河合さんに、メールでテレワークインタビューを実施。ガーデンや植栽の魅力から、制作の裏側、さらには、自宅の庭に生かせるガーデニングのコツやテクニックまで、植物愛溢れる河合さんの解説をたっぷりお届けします。2020年6月上旬に最盛期のガーデンで撮影された、今井秀治カメラマンによる美しい「中之条ガーデンズ」の写真とともにお楽しみください。

河合伸志さんにズバリ質問! 感動分岐点を超える「中之条ガーデンズ」の魅力

群馬県中之条町にある「中之条ガーデンズ」には、冷涼な気候を生かした、バラや植物の生き生きとした色彩に目を奪われる美しいバラ園があります。このバラ園を植栽デザイン・管理指導するのは、「横浜イングリッシュガーデン」のスーパーバイザーも務めるバラの専門家、河合伸志さん。そんな河合さんに、バラ好きさんなら一度は訪れたい、「中之条ガーデンズ」の魅力を伺います。

Q. 全国の美しいガーデンの中でも、「中之条ガーデンズ」ならではの魅力は?

「中之条ガーデンズ」の魅力は、なんといっても一つのバラ園の中で、違った景色を散策しながらいくつも楽しめることですね。各地にあるバラ園の多くは、入り口で全体を見通せることがしばしばです。これはこれでスケールを体感できてよいのですが、全てが一度に見えてしまうため、奥まで行く楽しみが軽減します。ですが、この「中之条ガーデンズ」は、あえて小さな庭に分け、入り口から全てが見渡せないようにしたことで、園路を進む楽しみがあります。これは中之条ガーデンズ全体のランドスケープを担当した吉谷博光さんと私の考えによるものです。

さまざまな景色を楽しめる「中之条ガーデンズ」。ピクチャレスクな和モダンのバラのエリアも、来園者から評価の高い風景。*

またバラと合わせるアーチなどの構造物は、すべて吉谷博光さんデザインのオリジナルの物で準備しました。「美味しい料理は美しい器に美しく盛り付ける」というのが私の考えですが、「中之条ガーデンズ」では最高の器を準備できたと思っています。ぜひ、バラと構造物とのハーモニーも楽しんでいただきたいです。

Q.「中之条ガーデンズ」のコンセプトを教えてください!

じつは、このガーデンには明確なコンセプトがありません。「中之条ガーデンズ」の「ガーデンズ」とは、いくつかの庭が集まっているという意味合いで、ガーデンズ全体のプロデュースは、「あしかがフラワーパーク」の大藤の移植でも知られる樹木医の塚本こなみさんが行っています。私がどのようなコンセプトでバラ園をつくればよいかと塚本さんに尋ねたところ、「感動分岐点を超えるものにしてください」と言われました。ですので、強いて答えるのならば、「感動分岐点を超えるバラ園」でしょうか。

Q.「中之条ガーデンズ」で見逃さないで欲しい見どころスポット&個人的なお気に入りスポットはどこでしょうか?

「中之条ガーデンズ」の一番の見どころは、やはり満開に咲くバラのガーランドでしょう。開花のピークは、一年にほんの数日間ですが、この最高に美しい瞬間を見ていただきたいです。特に奥の八角形のガーランドのエリアは、サークル・ベンチに座ると、まさに四方をバラに囲まれるのです。時間帯によってはより芳しいバラの香りが漂いますので、「中之条ガーデンズ」を訪れたら、ぜひこのベンチに腰掛けて、瞼を閉じて思いっきり香りを吸い込んでみてください。至福のひと時が味わえることと思います。

バラのガーランドのエリア。

ガーランドのあるエリアでは、ガーランドの柱の縦ラインを生かすため、あえて樹木はファスティギアータ(箒性)のものを選んでいます。バラの美しさはもちろんですが、背景の樹木にも目を向けていただけると、よりこのガーデンを楽しめますよ。

河合伸志さんが語る 「中之条ガーデンズ」の制作&管理秘話

「中之条ガーデンズ」に、河合さんが主なバラや樹木などを植え付けたのは、2018年7月のこと。それから、2020年6月現在の美しい姿になるまで、約2年弱。この間、ガーデンをより美しく管理・維持するために、ガーデナーや町の職員さんたちは日夜さまざまな作業を続けています。また、「中之条ガーデンズ」のある群馬県中之条町は標高が高く、冷涼な気候が特徴で、平地のガーデンとはまた異なる品種選びや管理が必要です。そんなガーデン制作や管理の裏側のエピソードを、少しだけご紹介します。

Q. 河合さんがスーパーバイザーを務める「横浜イングリッシュガーデン」と、異なる点はありますか?

バラ‘オデッセイ’。冷涼な「中之条ガーデンズ」では見事なパフォーマンスを見せる。

大きく異なるのは、バラの品種選びの基準です。「中之条ガーデンズ」ではバラの品種を決めるに当たり、それぞれのエリアの景観イメージにマッチすることを第一優先に選びました。次に基本的に四季咲き性の品種で、しかも可能な限り秋の開花数が多いことを考慮しました。従ってオールド・ローズは一部を除き植栽していません。一方の「横浜イングリッシュガーデン」では、バラはコレクションの意味合いも持たせているため、性質が弱いものや、秋には咲かない品種、花数が多くない種類なども含み、歴史上意味のある品種やコレクションとして価値があるものであれば植栽しています。それぞれのガーデンのコンセプトに合わせたバラ品種を楽しんでいただきたいと思います。

春から秋までほぼ連続的に咲き、年間の開花数が多いバラ‘花の道・タカラヅカ’。

また、当たり前ですが気候の差を考慮し、寒さに弱い植物は中之条では使用していません。逆に多少耐暑性に欠けているものでも、このガーデンでは見ることができます。

Q. 美しい景観を守るための、病害虫対策はどのようにしていますか?

数少ないオールド・ローズ。バラ‘ベル・ポワトヴィーヌ’。

この景観を薬剤散布無しでつくり出すことは難しいため、多いシーズンでは1週間に1回のペースで薬剤を散布しています。地域的に、春と秋はベト病の問題がありますし、バラは景観のイメージに合うことを重視して選んでいますので、品種によっては黒星病やうどんこ病に弱い品種も植栽されています。この春もベト病が発生してしまい、一時的に危機的な状況に陥りました。幸い、病葉の摘み取りと薬剤散布によってかろうじて首の皮一枚で何とか持ち直しましたが…。

Q. ガーデンの制作・管理にあたって、想定外だったことや困ったことはありましたか?

標高の高い山間部にある「中之条ガーデンズ」は、そもそも平地よりも生育期間が短く、さらには冬の寒さが厳しいため、バラは品種によっては概ね8月までに生育した枝しか越冬できないことが分かってきました。9月以降の枝は未熟(十分に光合成できていない)なうちに冬を迎えるので、厳しい寒さに耐えられないのです。そのため、平地ではつるバラとして扱える品種でも、さほど伸びないこともあり、木立ち性として扱えることもある反面、つるバラとして扱うには伸長力不足の場合もあります。また、山沿いの地域のため、夜露が発生しやすい気候で、そのため平地ではめったに発生しないベト病に悩まされています。

下草に黒葉のクローバーが植えられたエリア。
ヤマボウシ‘ヴィーナス’。中之条では手のひらサイズの大きな花を咲かせるが、横浜で咲く場合は普通のヤマボウシより少し大きい程度にしかならない。*

また、寒さが厳しいため、常緑広葉樹は種類を選ばないと越冬できないようです。トキワマンサクやセイヨウヒイラギ‘サニー・フォスター’はギリギリ越冬できていますが、ヒメユズリハは寒さで枯死してしまいました。ツバキやヒラドツツジなども、防寒をしても多少の傷みが発生します。今後周囲の樹木がもう少し大きく生育し、完全に樹下に入ればそこまで傷まないのかもしれませんが…。一方、ヤマボウシ‘ヴィーナス’などは、平地では見ることができない本来の特性が存分に発揮され、人目を惹き付ける巨大な花を咲かせています。これは「中之条ガーデンズ」の気候ならではですね。横浜での姿しか見ていなかった「横浜イングリッシュガーデン」のガーデナーなどは、その姿を見て平地での限界を嘆いていました。

下草類では、ヘデラは場所と品種を選ばないと越冬できません。また耐寒性がある宿根草でも、秋植えでは枯死してしまうことがあり、品目によっては早春植えにする必要があります。半面、夏がやや涼しく短いため、平地では夏越しできない植物も生き残っているようです。中にはリグラリアや黒葉のクローバーのように平地で管理するよりも大きく育ちすぎ、株数を減らさないとならないほど旺盛に生育するものもあります。

河合伸志さんからアドバイス! 自宅のガーデニングに生かせるアイデア&テクニック集

美しいガーデンを堪能したら、自宅の庭にも生かせるガーデンづくりのコツを知りたくなるのがガーデナーの性。「中之条ガーデンズ」をお手本に、美しいガーデンをつくるためのポイントやテクニック、おすすめの植物の組み合わせについて、河合さんにアドバイスをいただきました。早速チェックして、ガーデンで実践してみましょう!

Q.「中之条ガーデンズ」に使われているテクニックの中で、個人の庭で実践できることを教えてください!

バラ‘サマー・ドリーム’と‘スプリング・ドリーム’のアーチ。枝変わりのバラ2品種のため、咲き姿も開花期も見事に同調する。*

「中之条ガーデンズ」では、バラの組み合わせで、枝変わりの品種を上手に用いているシーンがあります。枝変わりの品種のうち、色違いのパターンは、花色以外の特性が同じため、株姿や咲く時期などがピタッと揃い、理想的な景色になります。異品種でこの演出をしようとすると、なかなか相性のよい品種を見付けることが難しいのです。例えば自分の庭でアーチにバラを植える場合、同様に枝替わりの品種を合わせるテクニックを用いると、開花や咲き姿が揃った見事なアーチを作ることができます。

色違いの花が咲く枝変わりの品種の具体例には、‘ピエール・ドゥ・ロンサール’と‘ル・ポール・ロマンティーク’、‘サマー・スノー’と‘春霞’、‘珠玉’と‘玉鬘’、‘レオナルド・ダ・ヴィンチ’と‘アントニオ・ガウディ’などがあります。ぜひ参考にしてみてください。

Q. ガーデニングを始める人へ「イメージ通りの庭をつくるための、初めの準備」のアドバイスは?

最初に、庭のイメージに合う植物がどのような性質(開花期や生育の大きさ、好む環境など)のもので、どのように姿を変化させながら生育していくかを、ある程度知ることが重要です。簡単なようにも思えますが、決してそうではなく、地域によって大きく変わりますし、たとえ同じ庭の中であっても、微細な差で育つ場所もあれば、そうでない場合もあります。ネットや書籍、地域のガーデンの見学などをしながら調べましょう。もっとも、こうして厳選した植物で計画を立てても、それだけでパーフェクトなものはできません。後は状況に応じて手直しをして、よりイメージに近づけていきます。

近年のガーデニングでは即興の寄せ植えやハンギングなどが人気です。これらはイメージにあった植物をその場で選び、すぐに完成しますが、庭はそんなに短期間でできるものではなく、少なくとも一年以上かけてつくり上げていくものです。単純に見た目で選び、枯れたらまた植え替えればよいという発想から脱却していくことが、イメージした庭をつくるための近道かもしれません。

Q. 魅せるガーデンづくりで押さえるべきポイントは?

ガーデンの設計図は、通常上からの方向で作成されていますが、実際の庭での人の視線は横向き。そこで、まずは現場をしっかりと人の目で把握し、空間全体を掴むことが大切です。どこにポイントとなる物を置くべきか、そのポイントはどの程度の大きさのものがよいか、どこに園路を設けるべきかなどを考えていきます。ポイントを樹木など植物とした場合、成長に伴って変わっていくその将来像を見据える必要もあります。このようにして、ガーデンデザインの骨格を最初に決めます。

次に、具体的な植物を配置する際には、色彩計画をしっかり立てていくことがポイントです。特にバラのように派手な花は、あれこれ色を混ぜると目がチカチカするような印象になり、今一つまとまりがなくなります。一番簡単なのは、同系色でまとめる方法。慣れてくれば反対色を上手に使用したり、トリカラーなどの組み合わせにチャレンジするのも一案です。また、色と同時にポイントとなってくるのが形状です。隣同士に同じ形状のものがひたすら並ぶと、凹凸のない公園のサツキの植え込みのようになってしまいます。なるべく異なる形をバランスよく並べて、変化のある景観を目指しましょう。なお、植物の配置の際は、図面では気付きにくい植栽地の背景や、樹陰の裸地など見落としがないかの確認もしましょう。

Q. バラと合わせるおすすめの組み合わせを教えてください。

ガーデニング初心者向けのおすすめは、定番ですが、オルラヤやシノグロッサム、ネペタ(キャット・ミント)‘シックス・ヒル・ジャイアント’、サルビア・ネモローサ‘カラドンナ’、ヤグルマギク、ジギタリス・プルプレアなど。このうちシノグロッサムは平地では秋植えするのが理想的ですが、中之条など寒冷地では早春植えにしたほうが無難なようです。

サルビア・ネモローサ‘カラドンナ’(紫色の穂状の花)やアリウム・ギガンチュームがバラと共に咲くガーデンの一画。
ジギタリス・プルプレア‘サットンズ・アプリコット’(背の高いアプリコット色の花)もバラと相性のよい植物の一つ。

Q. 植物を元気に生育させる秘訣はありますか?

植物の健全な生育の秘訣は、常に植物と向き合うこと。そして向き合いながら、植物に今どのような作業が必要かを感じ、適時実施していくことです。そして、このことこそが庭づくりの醍醐味だと思います。手入れによって、誰よりもいち早く季節の到来に気付いたり、自分の行った作業でみるみるよくなっていったり。ガーデン作業はすぐに結果が出るものばかりではありませんが、植物が見せてくれる変化は、管理者に大きな喜びを与えてくれます。庭は設計・施工も大切だと思いますが、下手をするとそれ以上に管理が重要かもしれないと、私は考えています。

「中之条ガーデンズ」に行ってみよう!

平地での開花が終わってから咲き始める中之条のバラは、涼しい気候の元で咲くため、平地よりもとても色鮮やか。中には同じ品種とは思えないほどの変化を見せるものもあります。また開花の早晩の差が平地よりも少なく、一気に花を咲かせるため、ピークがやや短い反面、満開時はとても華やかです。

バラの開花時の「中之条ガーデンズ」は、バラ園はもちろんのこと、スパイラル・ガーデンやパレット・ガーデンも楽しめますので、訪れた際にはぜひゆっくりと時間を取って園内を散策してみてください。

また、中之条町には泉質が高く名湯とされる四万温泉や沢渡温泉などの観光スポットもあります。時間に余裕のある方は、1泊してたっぷりと楽しむのもおすすめです。中之条町は同じ群馬県内の草津や伊香保の他、長野県側の軽井沢や上田方面にも抜けられますので、週末の小旅行に訪れてみてはいかがでしょうか?

Credit

文・回答&写真(*)/河合伸志
千葉大学大学院園芸学研究科修了後、大手種苗会社の研究員などの経歴を経たのち、フリーとして活躍の場を広げる。現在は横浜イングリッシュガーデンを拠点に、育種や全国各地での講演や講座、バラ園のアドバイスやガーデンデザインを行う。著書に『美しく育てやすい バラ銘花図鑑』(日本文芸社)、『バラ講座 剪定と手入れの12か月(NHK趣味の園芸)』(NHK出版)監修など。

写真(*以外)/今井秀治

まとめ/3and garden

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