築27年の集合住宅をスケルトンリノベーションした住まいのご紹介。

東京都小平市にある、集合住宅をフルリノベーションした設計事例です。

本サービス内ではアフィリエイト広告を利用しています

  • 1916
  • 10
  • 0
  • いいね
  • クリップ

流行りすたりと言えるのかはわからないけど、間取りについていえば、家族という単位の中で、個人という単位の扱い方は次々と試行錯誤を繰り返している。ある世代間の時間差は概ね30年前後といったところだが、建物の寿命はもっと長い。この団地も75年ほどの寿命を見込まれた構造体ではあるものの、竣工後26年経った2009年現在、次の世代にはnLDKというスタイルがピンとこなくなってしまった。まだまだ丈夫な構造体なのだから、次の世代にピンとくる生活が実現できるという予感を刺激することができないだろうか。省エネルギーという点から見ても集合住宅の寿命を使い切ることはとても重要なのだから、次世代につなげる事例を団地内で実現させることにはとても意味があるように思える。

nLDKがピンとこないとは言っても、個室が要らないわけじゃない。だから「使いづらい」という事実の原因を丹念に洗い出してみることが肝心だ。生活に添わせた間取りを計画するということは、普通のことと感じることができる。しかし実際は部屋ありきで、限られたスペースに境界線を引いて小割りにしていくことを間取りと呼んではいないだろうか。そう考えると、なにか行き先を間違えているような気がしてくる。生活に添う間取りをつくるという行き先を見直すことからはじめよう。

ひとつの視点を据えてみる。生活=行為という視点。よくよく考えてみれば、なにかをするときに家の中の一部屋だけで済んでしまうことは、むしろ稀だ。ある行為を果たすには、もっと複合的に部屋を使ってはいるような気がする。しかも行為は多様だ。ひとつの行為に、ひとつずつのスペースを用意していたのでは、到底間に合わない。兼用するか、組合せを変えることで多様性に対応する必要がある。建物の多くの部分は、簡単に形を変えられないものが多いのだから尚のことだ。

そこで、家族で共有することができるものを、個室から引抜いてしまうことにしてみた。机と椅子が必要なことは、ダイニングに大きなテーブルをおけば大抵は賄える。ただ、作業をする都合上、食事の度に片付けてはいられない。「みんなのアトリエ」という共有の作業場が必要だ。

持っている服の量もそれぞれに違うから、クローゼットも個別に設けるのは効率が悪い、「みんなのクローゼット」でシェアをすれば、その時々で必要に応じた境界線をつくることが可能だ。季節毎の寝具の仕舞い場所も忘れないように。

服を脱ぐのにそんなに広い場所は要らない。ある程度の身支度に対応できれば、大きな洗面化粧台も必要ない。トイレだっておなじだ。小さくていい。

それぞれの部屋を結ぶのに、通路はどうしても必要だ。でもLDKと個室の間にある共有スペースは、所要室と廊下の機能を兼用してくれる。これがまた都合がいい。

こうして、個室と水廻りのスペースを整理してコンパクトにしたことで、LDKが広がり、利用効率の高い共有スペースに仕立て直すことができた。

すべての部分に説明のつく理路整然とした間取りには、なぜか落着く場所がない。自宅なのだからもっと油断してボォっと過ごす時間も欲しいと思う。ところが、こういうスペースに限って平面図の中では、無駄な部分に見えてくるから不思議だ。なにがしか役割を与えて名前を付けたくなるのだけど、結局そういう緊張感が空間に滲み出てしまうのだろう。だからプランの中にそんな場所を見つけたら、手をつけずにそっとしておくことにしている。冬の晴れた日、低い陽射しがさんさんと注ぐ水槽では、水草からプクプクと小さな泡が立ち上り、その間をメダカがぷらぷらと泳ぐ。ただ見ているだけで、あっという間に30分は潰せる。

リビングから給湯器を追い出すことができなかった。カバーをあつらえることにしたのだが、機器に必要な給気を賄うため、カバーには孔が必要だった。計画にとっては多少ネガティブなことだけど、これくらいのことはデザインの力で呑み込んでしまえばいい。ポジティブなことに生まれ変わらせることができる。

室内に季節毎の彩りを添える役割をしてきた床の間。ここに和室はないのだが、もてなしの心を表す機能は日常の生活にとっても瑞々しさを与えることができる。ガラスの壁を1枚建てれば、その壁面と一角はこの家の床の間となり、玄関、LDKの両方から眺めることができる。

リノベーションのプランニングでネックとなるのは、設備機器の配置。水関係は排水タテ管の位置で動かせる範囲が決まってしまう。電気関係はというと、天井や床下に自由に配線できる懐があるかどうかが分かれ目だ。もし懐がなければコンクリートから顔を出した配線の配置を変えることは出来ない。それでも照明計画は変更したい。ということで、ダクトレールが大変に重宝するというわけだ。

竣工:2009年  延床面積:78.21 ㎡ (集合住宅の1室のリノベーション)
設計:田村貴彦  施工:株式会社 参創ハウテック

  • 1916
  • 10
  • いいね
  • クリップ
コンテンツを違反報告する

あなたにおすすめ

関連キーワード

カテゴリ

このアイデアを投稿したユーザー

格好いいだけ、温かく涼しいだけ、耐震性だけ、長持ちするだけ、こんな「〜だけ」の家では、快適な住まいは実現しません。とはいえ、無計画に多くを取り揃えても良いものに…

カサボン住環境設計株式会社さんの他のアイデア

住宅設備・リフォームのデイリーランキング

おすすめのアイデア