太陽の暖かさを蓄える家 足立の陽器(ようき)な家

パッシブデザインの技で自然を上手に利用したくても、都心では、なかなか大きな効果を得られるものではありません。周囲の建物に邪魔をされて、陽射しと付き合う時間が短すぎるから。しかし都心にも、あるところには、あるものです。好条件の敷地とめぐり会いました。周囲の建物と適度な距離を保つことができるから、陽射しを十分に活用できるこの敷地で、朗らかな家族4人が住まう快適省エネの家をつくる計画となりました。朗らかで「陽気」な家族と「陽射しを注ぎ込む器」という意味を掛け、つけた名前は「足立の陽器(ようき)な家」。また屋根には太陽光発電を載せ、エネルギーを作る力を得ることで、この家が1年間で使うエネルギーと比べてもお釣りがくるという暮らしぶり。聞いてるだけでも羨ましいでしょう。なにせ作り手の私が羨ましいのですから。

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大きな吹抜を頭上に設えたリビング。このスペースこそ、タイトルともなっている「陽射しを注ぎ込む器」の中心部分です。冬の陽射しをシミュレーションしてみると、下の断面のとおり。大きな窓からたっぷりと陽が射し込んできます。1Fの窓際には、石張りの土間。その石の下には厚み20cmのコンクリートを打ち、壁の下地となる石膏ボードにも21mmという破格の厚みの品を使い、蓄熱性能を向上させる要素を盛り込みました。そう、重たい素材ほど、熱を蓄える力があるのです。とはいえ、重い素材を揃えて蓄熱性能を上げれば良いかというとそうでもない。難しいことはさておいて、蓄熱性能を高くするほど、室温はなかなか上がりません。圧倒的な太陽の熱量をしっかり使えないと、むしろ不快感極まる住環境となってしまうのです。「陽射し」と「蓄熱力」は、お腹と背中。兼ね備えてはじめて効果が期待できるのです。陽が沈んだ夜は、大きな窓に断熱性能の高いハニカムブラインドを下します。するとこのブラインドが器のフタとなり、屋外に熱が逃げるのを防ぐという仕組み。

陽射しを蓄えることが上手な家だから、夏に陽射しを注いでしまうと暑くて堪ったもんじゃありません。そこで、庇で遮り、断熱ブラインドで跳ね返し、陽射しを室内に入れないように心掛けるのが、夏のスタイル。器の口を固く閉じれば、今度は高めた蓄熱力のおかげで、室温が上がるのを抑えてくれる効果も期待できるのです。蓄熱力が高いと室温が上がりにくいというのは、自然の道理。夏でも冬でも変わらないのです。

テーブル&チェアという設えが誘発させるのだと思いますが、ダイニングは食のスペースでありながら、家の中で事務的な機能を担う部分です。仕舞い込むよりは、見せる収納で。それが、ダイングに彩りを添えてくれます。右手のツルンとした壁は、ホワイトボードとして利用可能な材質。メモや伝言を書くに留まらず、お絵描きをしたり、磁石でプリントを留めたりと、家族の情報コーナーとなっています。

建物の配置を見てみると、敷地に対して平行ではなく、捻った配置になっていることが判ります。リビングと吹抜の大きな窓は、真南を向けば向くほど陽射しを取込むのに有利となり、より多くの熱を建物内に蓄えることができるようになるからです。
そしてこの配置にすることで、副産物が生まれました。建物と境界線の間にできた、三角形の小さな庭です。住まい手は、ここでハーブを育てたりという具合に、スペースを有効に活用をしています。

プライベートの色が濃くなる2Fは、寝室、クローゼットの他に、吹抜けに面した家族共有のデスクコーナーやフリースペースが配されています。このフリースペースは、双子のそれぞれの個室として区切られることを想定して計画されているのですが、それはまだ10年後の話。今は、ふたりがオモチャを広げるプレイコーナーです。4つの窓に、それぞれ選んだ4色のロールスクリーンが楽しげでしょ。お母さんは1F、子供たちは2Fで過ごしていても、吹抜けを介して互いの気配は、手に取るように伝わります。
さらに、この上の小屋裏にロフトを設けたことで、今も将来も余力のあるスペースとなっています。

玄関から眺めたリビング(上)と、リビングから眺めた玄関(下)。間を結ぶ廊下が無い代わりに、少し大きめに構えた玄関は、大幅の引戸を開閉することで、リビングとの境界が曖昧になったり、区切られたり。冬は、この引戸を閉めておけば、玄関ドアが開いても冷風が一気にリビングに流れ込むのを防ぎます。

室内から屋外へ、徐々に高さを落としながら石張りのテラスが続き、最後は芝生の庭へと至る。いわゆる内と外の曖昧な関係がそこにあります。たとえば初夏、庇が作ってくれる影の中で、幅広の掃出し窓を開放し、そこに椅子を置いて腰掛ければ、足裏からひんやりとした石の固い感触が伝わります。そこにそよ風が吹けば、居眠りするのに申し分のない居心地です。

浴室の外側には塀を建て、その内側をフロ庭として、植栽を設けました。視線的に区切られているので、浴室の窓ガラスは透明です。少し絞り気味の窓であるため、やや薄暗がりの浴室から屋外の明るい庭を眺めます。昼に入浴することも多い住まい手のバスタイムをより豊かなものにしてくれます。

竣工:2013年  
延床面積:99.98㎡  木造(SE構法)
設計:田村貴彦  
施工:株式会社 参創ハウテック
撮影:大槻夏路 ・田村貴彦

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建築士・建築デザイナー

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