「カマキン」最後の展覧会#2

日本モダニズムの名建築と言われ、60年以上にわたって市民に愛され続けた神奈川県立近代美術館(通称カマキン)。2016年春の閉館に伴い、最後の展覧会が行われています。坂倉のOBとしてマニアックな目線で紹介します。

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前回に引き続き、カマキンのお話です。

中庭と連続する内部の彫刻展示空間。大きなガラスは引戸になっていて、展示によっては一体化して使えるようになっています。当時の技術を思えばとても大きなガラス戸です。
周囲の壁は大谷石。大谷石は凝灰岩で柔らかく吸水率も高いので、性能重視の現代では外装材として使うことはなくなってきました。大らかな時代だったんですね。逆にいえば、そういう素材でも60年以上持っているとも言えます。

展示を見終わって中庭に下りていく階段。池の方には腰壁を設け、手摺が浮いて開放的にしている方向に中庭があります。自然と中庭の展示に目がいくようにと考えられたディテールだと思います。

きれいなアングルですよね。中庭から池に向かう時に広がるシーンです。軒天に映る水面のゆらめきに目を奪われがちなのですが、私は鉄骨柱の左側に沿った3本のタテ格子に注目しました。
ちなみに鉄骨柱の右側はシャッターのポスト。シャッターがあるということは管理上の区分があるはずなのですが、柱をはさんで連続するタテ格子3本だけでは、区分ができないはず。まるで、タテ格子は飾りとしてしか見えません。

3本のタテ格子を振り返ったところ。中庭と区画するべく引戸の門扉があります。ただ、それだけでは、3本タテ格子との間、ちょうど階段裏ですが、区画できていません。
なぜ?どういうこと?じたばた見まわしていると、引戸に開き戸がくっついていることに気づきました。引戸を閉めてから、この開き戸を90°開くと、前述のタテ格子にぶつかり、施錠できる様になっていることが判明。

池に面したピロティの見上げ。直管型の蛍光灯が白く塗られた木のボックスに納められ、木のボックスは軒天から飛び出ないようチリなしで(通常は施工上の理由により10ミリ出っ張る)埋め込まれています。
60年以上前の照明器具はデザインされたものがとても少なく、光源を隠したかったのです。

この照明形式、上の屋内彫刻展示の天井でも使われています。天井にただスリットが切ってあるだけに見えるデザイン。訪問者がそこに目を行かないように、何もないように見せるデザインなのです。

その空間にとって必要なものを目立たせないデザイン。軒天井をできるだけ要素がないかのように見せることで、軒裏の白いキャンパスとして認識され、水面のゆらめきを素直に美しいと思える空間に仕立てあげています。

また、鉄骨柱の足元が石の上に乗っているように見えますが、実は柱の足元をコンクリートの基礎で巻き、それを隠すために石を二つに割り、基礎が見えないように覆っています。
構造を素直に見せるというのがモダニズムの教条の一つになっていますが、ここでは敢えて隠しています。そのほうが環境になじむと判断したのでしょう。

何を見せたいか、そのためにはどうしたらよいか、ひとつひとつを丁寧にデザインすることで、モダニズムの教条のみに終わらず、奥の深い建築になっているのだと改めて感じます。

これで見納めになると思うと、刻々とかわる軒天の水面のゆらめきは見ていたいし、それに飽き足らず、当時の先輩方の気持ちになろうといろんなところを見て、気持ちの良い時間と空間を過ごしてきました。

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白崎泰弘・白崎治代のパートナーシップによる設計事務所。男女両方の視点から設計し、機能的でありながら、住み手の心に響くデザインを心がける一級建築士事務所です。

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