実りと彩りの秋到来!「森と人をつなぐ」自然学校〜高原便り 四季折々Vol.7〜

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実りの秋到来。山々が彩り始め、そこにもここにも実や種を目にする季節となりました。私たちを楽しませてくれた花々は、ただ美しく咲いていただけでなく、さまざまな工夫や仕組みで受粉を完了させ、次世代へ命を繋ぐ種子に姿を変えました。まもなく冬を迎えるこの季節は植物の生存戦略にとって正念場。たわわに実った種子の散布はうまくいったでしょうか?

季節の森 ~色鮮やかに色づいて〜

菅平高原の紅葉。森には黄葉する樹種が多いのが特筆すべき点です。シラカンバ、ダケカンバ、カラマツがそれです。今年は特に色付きがよいように感じます。根子岳(ねこだけ)や四阿山(あずまやさん)は黄色に、カラマツ林は間もなく黄金色に染まることでしょう。

葉が色付くことはすなわち落葉の準備が整ったサインです。夏季には盛んに光合成を行うことで種子の形成や翌年の成長エネルギーを貯えます。これらの準備が完了すれば、光合成を担う葉は不要なものとなり、離層が形成されて栄養供給がストップします。すると葉は変色し、落葉します。

同時期に種子の散布も多様な形で行われます。動物に運ばれる、風に運ばれる、水に流れる、重力に従って転がるなどなど。動くことができない樹木が進化の過程で選び抜いた種子の散布方法なのでしょう。いくつかを紹介します。

黄色い葉っぱ集合(ハリギリ、ミズナラ、カツラ、シラカンバ、イタヤカエデ、シナノキ、オオバボダイジュ)

動物散布の例として、前回はリスでしたが鳥類にも貯食するものがいます。

この季節カケスはあっちの森からこっちの森へとミズナラのドングリをせっせと運んでは樹々の穴や隙間、土の中に隠しています。冬に食べようと貯えているのです。ところがカケスは貯食のたびに隠し場所に印をつけるわけもなく、回収しそびれたドングリが運よく芽生えれば、ミズナラたちが勝利したということになるわけです。

芽生え

風散布はプロペラを持つ種や綿毛などがそれに相当し、樹種として代表的なのはカンバ類、カエデ類やマツ類などがあげられます。菅平高原に顕著なシナノキやオオバボダイジュも風散布です。

数年前のこと、台風接近中にすっかり葉を落とした大明神沢ネイチャートレイルコースで下見調査をしていました。落葉しているので森の中はすこぶる見通しがよく、樹々に残る紅葉も色鮮やか・・・とその時、突然森を揺らすほどの強風が吹きました。するとイタヤカエデ、ウリハダカエデ、ハウチワカエデなどの種が上空に向かって吸い寄せられるように一斉に飛び立ったのです! 風散布とは、ひらひらと樹高の高さから地面に舞い落ちるものとばかり思っていました。よくよく考えればそれでは遠くまで種子を運ぶことはできません。このような強風で上空に向かって飛び立てば、遥か遠くまで散布することが叶うでしょう。忘れられない感動的な体験でした。

ハウチワカエデ

重力散布はどんぐりころころどんぶりこ♪ の歌がそれに当てはまるでしょう。水散布は水辺に生えるオニグルミやサワグルミが水に運ばれて、親から遥か離れた場所での発芽が可能になります。

ミズナラ

自動散布はホウセンカやツリフネソウがそれにあたります。つい最近のこと、ナガミノツルキケマンが面白い自動散布をすることを知りました。一列に鞘に収まった丸い小さな種が、丸まった鞘に押し出される形で飛び出します。押し出す力は驚くほどです。僅か1cm程度の鞘から1mmほどの種子が周辺2m四方に弾け飛びます。ナガミノツルキケマンは私たちのフィールドではよく見かけますが、じつは絶滅危惧種に数えられています。

種子という新しい命の旅立ちを応援しつつ、彩り鮮やかな森を楽しんでいます。

ナガミノツルキケマン
種子
種を放出した後

森がもっと面白くなる ~遷移(せんい)2~

前回からの「遷移」の続きを。草原から森への変化はどのように進んでいくのでしょうか。まずは先駆種(パイオニアプラント)といわれる日当りのよい環境でいち早く育つ樹種が侵入します。そのような性質をもつ樹木を<陽樹>(※1)といいます。陽樹は光合成の速度に比例して成長も早く、遷移の始めの段階では陽樹が主体の陽樹林となります。

先駆種シラカンバの林

数十年経過すると樹高が10〜20mを超えるような高木林となり森の中の環境が変化します。当初は明るかった森も樹々の成長に伴い光が届かなくなり、森の中は次第に暗くなっていきます。陽樹の種子が森に落ちても成長するのに十分な光が足りず、成長することができなくなります。

陽樹に対し、日陰の環境でも育つ耐陰性(※2)の高い樹木を<陰樹>(※3)と言います。陽樹が成長するにつれて光の環境が変化し、陰樹が徐々に混ざり混交林(こんこうりん)へと推移し、後に陰樹主体の陰樹林へと変化=遷移していきます。

陽樹と陰樹の混交林

遷移がさらに進むと陰樹林での新たな芽生えも陰樹となり、その後数百年が経過しても大きな変化が見られない極相(※4)と呼ばれる状態となります。地域によって極相林の樹種は異なります。菅平高原の場合はミズナラがそれにあたります。一度出来上がった森はずっと同じ姿を留める訳ではありません。台風など気象の影響や大木の倒壊などにより常に動き変化し続けているのです。森の中は誕生と死が混然一体となって存在しています。そんな目で森を見ると新たな発見があるかもしれません。

陰樹の森へ

※1 陽樹:耐陰性の低い植物を陽生植物といい、若いころの耐陰性が低い樹木のこと
※2 耐陰性:植物が弱い光の下でも生存し得る能力
※3 陰樹:耐陰性の高い植物を陰生植物といい、若いころの耐陰性が高い樹木のこと
※4 極相:遷移の結果として、その場所で最終的に到達する植物群落のこと

自然学校つれづれ ~やまぼうしの日常~

会員の方にしばしば「やまぼうしのHPやSNSは食べものネタが多いね」と言われます。私自身も創作料理が好きで、イベントのためのレシピを考えたり食材と調味料の組合せを考えたりするのが得意です。好きな作家の著書に出てくる「雑草イーター」を実践してみました。お昼の賄いをご紹介します。

ハルザキヤマガラシのパスタ

最初に食したのは「ハルザキヤマガラシ」(4/15)。あいにくキッチンにはパスタの具材が無く、まだ雪の残る事務所の庭から掘り出して使いました。「ハルザキヤマガラシ」は日本の侵略的外来種ワースト100や外来生物法で要注意外来生物に指定される何やら物騒なレッテルの張られた植物です。侵入経路は非意図的。ムギ類に混入して明治末期にヨーロッパからやってきたそうです。

菅平高原も一面に黄色い花を咲かせる場所が広がりつつあります。モリモリ美味しく食べて駆除できると良いと考えているのですが。

ハルザキヤマガラシ

続いて「ヤブカンゾウ」(4/17)。竹林整備の際、土手から採集しました。春先の若葉を茹でて酢味噌で合えると相性抜群です。シャキシャキとした歯ごたえが美味しさのポイントかもしれません。

ヤブカンゾウ
酢味噌和え

「ニワトコ」「カキドオシ」(4/28)。メインフィールド自然体験の森の橋の架け替え作業時に採集。他にも至る所に生える「オオバコ」「ヨモギ」「フキノトウ」と一緒に春の野草天ぷらを楽しみました。

野草(オオバコ、カキドオシ、ニワトコ、ヨモギ、フキノトウ)
野草の天ぷら

「ヨモギ」(5/10)。春の定番ヨモギでお団子を作り休憩のお供としました。幼児向けのイベントでもよく登場する、親しみやすく処理が簡単な野草です。

春先の柔らかいヨモギ
色鮮やかなヨモギ団子にオオヤマザクラを添えて

「タンポポ」(5/16)。今年はタンポポがあちこちで盛大に咲いていました。頂いた「たんぽぽジュレ」の味が忘れられず作ってみました。キラキラの美しい出来映えに感激し、急遽「たんぽぽジュレ作り」イベントを開催しました。

花びらとオレンジで煮る
黄金色のジュレの完成

「スベリヒユ」(8/19&23)。レタスの畑の厄介者。事務所に持ち帰ると皆から嫌なヤツ呼ばわりされる可哀想な雑草なのですが、調理してみると驚く程の美味しさでした。まずは芥子醤油のおひたしに。もう一品は特有の粘りと多少の酸味を生かし刻んだオクラと梅干しで和えてネバネバ丼に。これらをSNS発信したところ卵とじもお勧め、と投稿があり試してみました。

「スベリヒユ」は栄養価も高く薬効もあるとか。厄介者扱いされるのはその繁殖力の強さからだと推察されます。農作業の合間にじっくり観察すると、ラグビーボールのようなカプセルがくす玉のように真ん中でぱっくりと割れ、種が散布される様子を確認できました。

畑の厄介者スベリヒユ
茹でて芥子醤油和え
卵とじ
カプセルに入った種

「雑草イーター」を実践し、楽しみながら生態や環境に思いを巡らせ食育イベントとしても取り入れるに値する手応えを感じました。「野草」と呼ばれるならまだしも「雑草」とは何とも気の毒な呼ばれ方。名前を確かめしっかりと向き合って「雑草イーター」を実践します。

今月の気になる樹:シラカンバ

皆さんがイメージする「高原の風景」と言えば、シラカンバとレンゲツツジではないでしょうか。菅平高原もご想像通りの牧場風景が広がっています。長野の県木はシラカンバです。シラカンバは菅平だけでなく志賀高原や乗鞍高原、美ヶ原高原でも印象的な風景を形成する重要な構成要素となっています。

高原のシラカンバ

前出の遷移の話にも絡みますが、シラカンバは代表的な陽樹で山火事や森の伐採跡地に一斉に侵入します。そして蝶のような形をした細かい種子を大量に風散布します。森を伐採して作った牧場などは、利用をやめ放置されると瞬く間にシラカンバが侵入し、一斉林(※5)が形成されやすくなります。成長が早く寿命が短いのがシラカンバの特徴でもあるため、先駆種としての役割を果たしながら、陰樹への橋渡しを担うわけです。樹皮の白さが薄れ、桃色がかった色になるとそろそろ寿命です。

有毒植物であるレンゲツツジも、牧場の牛から食べられることを逃れて高原の景観要素となっています。

シラカンバとレンゲツツジ

環境教育プログラムでシラカンバの森を歩いた折、小学生に「誰が(シラカンバを)白く塗ったの?」と質問されました。長野に生まれ育った私には当たり前のシラカンバですが、都会で育った子どもにとって樹木の幹は多くが茶色という認識、ペンキを塗ったようなシラカンバを不思議に思ったのですね。

シラカンバの白い樹皮

白の秘密は何でしょうか。シラカンバは「ベチュリン」と呼ばれる有機化合物が含まれるため白く見えます。また抗菌作用もあり、樹皮には防腐作用もあります。この「ベチュリン」はマイクロプラスチックで問題になっている石油資源依存からの脱却素材としてバイオポリエステル開発の素材として注目されているそうです。

枯れて倒れたシラカンバを森でよく見かけますが、幹はすでに朽ちて柔らかくなっていても、白い樹皮だけはしっかりと朽ちた木を覆っています。外樹皮に豊富に存在し過酷な環境から守る役割を担っています。

根子岳麓のシラカンバ林

※5 一斉林:同一樹種かつ同一年齢の樹木で構成される森林

[シラカンバ]
カバノキ科カバノキ属/落葉高木
北海道・本州(中部以北)の山地帯の陽地に生息する

Credit

写真&文/加々美 貴代(かがみ きよ)

NPO法人やまぼうし自然学校代表理事。森林ライフプロデューサー、森林インストラクター他。

長野県安曇野市出身。幼い頃から野山を好み、道草や散歩が大好き。それが高じて大学で林学を専攻する。卒業後は東京・原宿の造園会社に就職後、2002年からやまぼうしで勤務開始。2008年代表理事に就任。森林環境教育、指導者養成に力を入れて活動を展開中。常に自然・森・樹との関わりを持って今に至る。

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