建築家・中村拓志インタビュー5/テントのような家「那須のティピ」

春になり、キャンプシーズンがいよいよ始まる。建築家の中村拓志氏インタビュー第5弾で取り上げるのは、那須の林の中にある巨大なテントのような建築。一体、どのような意図でこの形態が生み出されたのか?そこに込められた中村氏の思いについて詳しくお話をうかがった。

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photo : koji fujii / nacasa & partners

まるでテントのよう! この土地の特徴を生かした建築とは?

「木を伐採せず、雑木林の良さを生かしながら住みたい」

それが建主からのオーダーでした。だから、とにかく「造成しない」ということを徹底しました。造成とは、傾斜地の山を削って、盛り土してコンクリートで固めて、平らな面を造っていくこと。それって、やっぱり、どこか風景を壊す原因になると思うんですよ。

この建築では斜面の良さを生かした建築を建てるということを意識しました。造成しなくても、土地の特徴にあった過ごしやすい空間を作って心地よく暮らすことが、人間にはできるんです。そういう感覚でこの場所に住むことができたらいいなって。

天井高は8m! 採光と空調を考えた空間

photo : koji fujii / nacasa & partners

ただ実際には、造成も伐採もしないとなると、林の中って結構暗いんです。木に光が遮られてしまって下まで届かなくなっちゃうんですね。そこで、なるべく高い位置から採光できるように、天井の高い空間を作って、トップサイドライトで光を入れることにしました。

photo : koji fujii / nacasa & partners

天井の高い建物だと問題になってくるのが、木の枝に当たってしまうこと。それと、容積が大きくなる分、空調の負荷が大きくなってしまうこと。特に那須は寒い地域なので冬場の空調は重要なんです。

そこで、天井高を上げながらも、容積を最小限におさえる方法として壁を斜めに倒して四角錐にすることにしました。そうすると、同じ床面積でも「四角柱」と「四角錐」では容積が1/3になる。つまり、天井高を8mと高くしても、天井高2.5mの建物と同じくらいの気積になるんです。これに加えて、上に集まった暖気を吸って下から吐き出す装置を壁の中に設置して、均一な温熱環境を保てるようにしました。

こういった理由からこの形が生まれたんです。

独特の形状によって生まれる、家族が見つめあえる場所

photo : koji fujii / nacasa & partners

この建築には「Nasu Tepee(ナス・ティピ)」という名前を付けました。「ティピ」というのはインディアンの移住用の住居のことで、それに似ていると思って。

僕は、ティピみたいな空間ってすごくいいと思っているんですよ。人ってこういう空間の中ではスペースを有効に使おうとして、低い部分に座って中心を見るんです。たとえば真ん中に火があってみんなが車座になっているような。いうなれば、家族が見つめ合うことができる空間なんです。

実際にこの家でも、真ん中にダイニングテーブルがあったり、リビングも向かい合って座れるようになっていたりするんです。

現地の自然を建築に取り入れる、というアイデア

photo : koji fujii / nacasa & partners

そして、この建築のもうひとつのポイントは自然の作り出す形をそのまま使っているところですね。

たとえば、2階の部屋に行くドア。ガラスの中に草花の押し花を挟んだものにしていて、植物は那須で自生しているものを選びました。

押し花だと劣化が気になると思いますが、その主な原因になるのは、酸素と紫外線の2つ。そこで、ペアガラスで真空状態にすることで酸素をカットして、さらに紫外線カットフイルムも使用しました。その上で、直射日光が当たらない場所に設置しています。

このドアはオリジナルなのですが、実際やってみるとすごく大変でしたね(笑)。樹脂を入れて圧迫するんですけど、高温になりすぎると変色してしまうし、それ以外にもシワや気泡が入ってしまったりして…。特に厚みのある花は難しかったですね。

本物の自然が生み出す「形」の魅力

photo by : Hiroshi Nakamura & NAP Co.,Ltd

こういった自然が作り出す表情って、ずっと眺めていても本当に全然飽きないんですよね。葉脈や、すごく小っちゃな毛が、全部見えるのが面白くて!

それって、僕らデザイナーが一生懸命頭で考えて、特殊なことをやっても全然勝てっこないって思うんです(笑)。

photo : Tadanori Okubo

僕が建築を建てるときにまず大切にするのは敷地、つまり場所性です。

重要なのは、その場所をよく見つめて、観察すること。そこにある特徴を生かしたり、そこで取れたものを使ったりすることによって、その場所に建築をなじませていくことを意識しています。

建築を通して人と自然との真の融合を生み出せたらいいな、と思って日々取り組んでいます。



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【プロフィール】
中村拓志(なかむら ひろし)
1974年東京生まれ。神奈川県鎌倉市、石川県金沢市で少年時代を過ごす。1999年明治大学大学院理工学研究科博士前期課程修了。同年隈研吾建築都市設計事務所入所。2002年にNAP建築設計事務所を設立し、現在に至る。地域の風土や産業、敷地の地形や自然、そこで活動する人々のふるまいや気持ちに寄り添う設計をモットーとしている。

代表作に「狭山の森 礼拝堂」、「Ribbon Chapel」、「Optical Glass House」、「録museum」など。主な受賞歴にJIA環境建築賞、日本建築家協会賞、リーフ賞大賞などがある。

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中村拓志氏のインタビュー第5弾、いかがでしたか。
自然をそのまま残しながらも、人間の生活に必要な採光や温度調整の設備が工夫されていることで、自然にも人間にも無理のないバランスのとれた空間が作り出されているのではないかと思いました。

次回は中村氏がデザイン監修を担当した東京国際空港国内線第二旅客ターミナル増築棟についてお話をうかがいます。お楽しみに!

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