予想以上の津波の威力。過去の教訓から知る、命を守るための方法
海が震源となる海溝型地震では、津波での被害がとても大きくなります。未だかつてない大きさの海溝型地震となった東日本大震災では、死者数18,131人の90.6%が溺死とされており(2015年3月時点)、津...
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海が震源となる海溝型地震では、津波での被害がとても大きくなります。
未だかつてない大きさの海溝型地震となった東日本大震災では、死者数18,131人の90.6%が溺死とされており(2015年3月時点)、津波による被害の大きさを物語っています。
大地震のときには、どのような津波がおこり、どのように行動すればよいのか、命を守る方法を過去におきた事例から知っておきましょう。
津波の高さよりも、もっと高い位置まで到達する遡上高
地震がおきたときには、大津波警報・津波警報・津波注意報によって予想される「津波の高さ」が発表されます。このときの津波の高さは海岸線での波の高さのことをいいます。
しかし、津波は海岸から陸地を進み高い場所にもかけ上がります。陸地を進んだ津波が到達した高さを「遡上高(そじょうこう)」と呼びますが、遡上高は海岸での津波の高さよりも高くなります。
東日本大震災で津波の痕跡を調べたところ、岩手県の大船渡では津波の高さ(※)が16.7mだったのに対し、遡上高は最大で23.6m。岩手県の宮古では津波の高さ(※)が9.3mだったのに対し、遡上高は最大で28.8mとされています。また、別の調査では、大船渡市綾里湾で局所的に40.1mの遡上高が記録されています。
このように、津波は海岸での波の高さよりも2~4倍も高い陸地まで到達します。そのため、津波警報で予想された津波の高さが、自分のいる場所の標高より低くても安心せずに避難をおこないましょう。
※津波計で正確な計測ができなかったため、津波の痕跡から推定
津波のスピード
津波の速さは水深の深いところでは早く、水深が浅くなるとともに遅くなってきます。水深5,000mで時速800km、水深500mで時速250km、水深100mで時速110kmとだんだんと遅くなり、津波が陸地に届く水深10mでは時速36kmとなります。
オリンピック選手が100m走を走るスピードが時速36kmとなりますので、人間の足では逃げ切ることはできません。また、車で避難すると渋滞してしまい津波に飲み込まれることが多くおきていますので注意が必要です。
津波は震源からすごいスピードで近づいてきますので、大津波警報・津波警報・津波注意報がまだ出ていなくても、地震のゆれを感じたら、いち早く徒歩で避難するようにしましょう。
数十cm~1mと低くてもあなどれない津波
人への被害
数十cmの津波と聞くと海面がすこし上昇するだけで、大きな影響はないと思うかもしれません。しかし、津波による水の勢いは非常に強く、20~30cmの津波では浮輪につかまった幼児が1km以上沖に流されることがあり、大人でも身動きが取れなくなります。また、50cmを超えると大人も流されるため死亡率が急激に上がり、津波の高さが1mで死亡率は100%となります。
また、津波は河川をつたって遡上することがありますので、地震がおきたときには海はもちろん川にも近づかないようにします。海水浴や釣りなどで海の近くにいる場合には、予想される波の高さが数十cmだったとしても、必ず海から離れましょう。
なお、2020年より海水浴場などでは津波フラッグの導入がされています。津波フラッグは赤と白の格子状の旗で、大津波警報・津波警報・津波注意報の発表を知らせます。海水浴場の放送が波音や風で聞こえにくい時がありますので、津波フラッグにも注意をはらいましょう。
建物への被害
建物の被害では、浸水が1mを超えると木造家屋が半壊、2mを超えると多くが全壊します。石造家屋では4mまでは持ちこたえるとされていますが、浸水が低くても船や木材などの大きな漂流物がぶつかれば建物は破壊されてしまいますので、自分のところは大丈夫と思いこまずに避難を行いましょう。
津波は1回で終わらない
津波で注意しないといけないことは、津波は1回で終わらないこと。津波は押し引きを繰り返し何度もやってきて、第二波、第三波のほうが大きくなることもあります。波が引いた後に自宅に戻り被害にあったケースも多くありますので、必ず警戒や注意報の解除を確認してから戻るようにしましょう。
なお、「津波の前には、必ず潮が引く」という話がされることがありますが、いきなり大きな波が押し寄せることがあります。
潮の満ち引きで判断せず、地震や警報、注意報があったときには、すぐに避難を行いましょう。
いち早く避難するためのポイント
津波からの避難は、いち早く行うことが重要です。
今後、高い確率でおきるとされる南海トラフ地震について内閣府が行った被害想定では、昼間に津波がおきた場合の最大の死亡者数は約11万2千人、深夜では約16万人とされています。
しかし、いち早い避難が行われた場合には、
地震がおきてから
70%の人が「昼間の場合5分後、深夜の場合10分後」に避難を開始
30%の人が「昼間の場合15分後、深夜の場合20分後」避難を開始
した場合には、昼間では57%減、深夜では41%減。
地震がおきてから
全員が「昼間の場合5分後、深夜の場合10分後」に避難を開始
した場合には、昼間では76%減、深夜では56%減。
となり、大幅に死者数を減らせると想定されています。
一方で大津波警報・津波警報・津波注意報は地震が発生してから3分(一部の地震は2分)を目標に発表されることになっています。十分な避難時間を確保するためにも、警報や注意報の発表前でもゆれを感じたら、事前に調べておいた津波避難場所や津波タワーに避難をしましょう。
避難に必要なものを探して逃げ遅れることがないように、玄関や自室の取り出しやすい場所に非常用持ち出し袋を用意し、貴重品なども1か所にまとめておきましょう。押入れの奥などの取り出しにくい場所にしまうと、逃げ遅れたり、扉がゆがんで取り出せなくなったりするため注意が必要です。
また、避難時は下記のポイントを守って避難をすることが大切です。
たくさんの人が一斉に車を使うと渋滞がおきて逃げ遅れることがあるため、避難は原則徒歩で行うこと。(歩行が困難な要支援者がいるなどの場合は除く)
川沿いは津波が遡上するため、川から離れて避難を行うこと。
一度避難をおこなったら、警戒や注意報が解除されるまで絶対に戻らないこと。
想定にとらわれない避難
大きな地震があったときには、想定にとらわれずにより高い避難場所を目指すことも必要です。
東日本大震災では釜石の奇跡と呼ばれる、多くの命を助けた例があります。
地震がおきたとき、岩手県の釜石東中学校の生徒たちは「津波がくるぞ!逃げろ!」と大声で叫びながら避難を始めました。その様子を見た隣接する小学校の先生と生徒が後に続き、近所の住民もつられて避難を始めました。
いつもの避難訓練で指定されている避難場所にたどり着きましたが、そこから見えた津波の大きさに危険を感じた中学生が声を上げ、さらに高い高台へ逃げることになります。
高台への避難が終わると目前まで津波がせまり、始めに避難をした避難場所には3mもの津波が押し寄せたそうです。
東日本大震災では、想定されていなかった場所にまで津波が届きました。「一番近い避難場所まで来たから大丈夫」という想定にとらわれず、より高い場所へ避難を行うことが命を救う分岐点になりました。
また、他の人が避難をしている様子を見ると、避難をするつもりが無かった人もつられて避難するようになります。大きな声を出すことで周りに避難の必要性が伝わったことが、より多くの人を救うことになりました。
今まで何回も避難したけれども、一度も津波は来なかったから今回も大丈夫。という思い込みも捨てる必要があります。避難をしても津波が来ないときに「空振りだ(無駄だった)」と思うのではなく、本当に地震が来たときのための「素振りだ(練習だ)」と考えるようにしましょう。
「避難しなくても大丈夫」と思い込んでしまう、正常性バイアスについてはこちらのページで紹介していますので、参考にしてみてください。
正常性バイアスとは?災害時に「自分は大丈夫」と考える落とし穴。事例を知って対策しよう
参考資料
気象庁 津波について
気象庁 津波発生と伝播のしくみ
総務省消防庁 東日本大震災記録集
3.1 被害の概要/3.2 人的被害の状況
平成22年 国土交通白書
第一部 第1章 第1節
津波の高さと被害状況
内閣府 南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ
南海トラフ巨大地震の被害想定について(再計算)~建物被害・人的被害~
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