在来工法とツーバイフォー工法:それぞれの長所短所

日本で一般的な在来工法は柱や梁を使った工法で、アメリカで主流なツーバイフォー工法は2×4材の両側に構造用合板を貼りあわせ、パネル状にしたものを構造体として床・壁・天井で使う柱や梁のない工法です。

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近年、環境への配慮から木造への期待が高まっています。木造と言えば住宅のイメージが強いと思いますが、小学校や福祉施設など規模の大きな建物を木造で建てられるように、法律が変わってきているとともに構法も常にアップデートされています。この記事では、注目が高まる木造の中でも、主流になっている2つの工法である、ツーバイフォー工法と在来工法のそれぞれの特徴をご紹介します。

ツーバイフォー工法とは?

ツーバイフォー工法は「枠組み壁式工法」の通称で、19世紀にアメリカのシカゴで生まれた構法です。2インチ×4インチの木板をよく使うため、日本でこのような呼び方がされるようになりました。ツーバイフォー工法は釘の大量生産が可能になったこと、1本の木を薄く切り分け同じ断面の木材を量産することが可能になったことを活かして開発されました。開発当初はバルーン工法と呼ばれ、簡易な組み立て方が正統派ではないと言われていましたが、現在のアメリカにおける木造建築と言えばほとんどツーバイフォー工法がメインになっています。
また、「ツーバイフォー」という通称がついているものの、実際は2インチ×6インチや2インチ×8インチの材を使うこともあり、その違いはサイズのみです。日本では明治時代の初期に導入され、現状では日本の木造建築の20%を占めています。建築基準法の告示が示されたのは1974年で、日本では比較的まだ新しい建設工法です。

ツーバイフォー工法と在来工法の違い

ツーバイフォー工法では木造でよく耳にする柱や梁といった構造材を使いません。2×4材(3.8cm×8.9cm)の両側に構造用合板を貼りあわせ、パネル状にしたものを構造体として床・壁・天井で使い6面体の箱型構造となっています。木材同士を釘で固定していくのが特徴です。

一方で在来工法は柱や梁といった垂直な木材で構成される軸組工法のことをいいます。柱には芯を持つ1本の木から取れる「無垢材」か、スライスした材を接着した「集成材」のいずれかを使い、一般的な住宅ではいずれの材にしても9cm×9cmの断面を持つ柱が使われます。長い歴史を持つ土着的な構法で、日本の木造の80%がこの構法で建てられています。日本だけでなく、ヨーロッパの古い木造建築も柱と梁の在来工法で建てられていました。柱と梁や土台を接続する部分は仕口と呼ばれ、パズルのような組み合わせで固定できるよう工夫されています。

ツーバイフォー工法のメリット・デメリット

ツーバイフォー工法にはメリットとデメリットがあります。それぞれ見ていきましょう。

耐震性・耐火性・耐風性に優れている

6面体の箱型構造なので地震や台風などの外力に強いのが特徴です。
地震が起きた際は、揺れた時に自重を支え切れるか、全体が崩れないようバランスを取れるかが大切です。風は直接外壁に当たるので、横からの力に耐えられるかが求められます。ツーバイフォー工法はどちらの外力に対してもしっかりと耐えられる構造です。
また、日本ツーバイフォー協会では30年ほど前から火災実験を重ねることで技術や性能に関する検証を行い、データ収集をすることで耐火性の向上を図っています。その研究成果から木造で初めて耐火建築の道を開きました。

高い省エネ性能

構成するパネル材に入っている断熱材がすっぽりと家中を覆うので断熱性が高くなります。また、壁同士・壁と床・壁と天井の間に隙間がないよう、枠組み材が工夫されているので、機密性が高く内部の空気を外に逃しません。夏は外の暑い空気が入りにくく、冬は家の中の暖かい空気が逃げないので、冷暖房にかかるエネルギーを抑えることができ、省エネ性能が高いと言われます。

遮音性が高い

パネル壁は音を伝えにくく、隙間なく作られているため、遮音性も優れています。近年は窓のサッシュの性能も優れているため、さらに遮音性は高まっています。「窓を閉め切っていたので外で工事の騒音にまったく気づかなかった」という話も聞きます。線路沿いや幹線道路沿いなど騒音が気になる場所での建築に向いている工法とも言えます。

工期が短い

専門の工場で壁や床のパーツを製造し、現場で短期間に上棟させることができるため、現場での手間とコストを抑えてスピード感を持って組み立て上がります。釘打ちで固定するため組み立ては早く、釘も長さごとに色を変えるため打ち間違いがなく、組み立て後のチェックがしやすいようになっています。このように施工手順がマニュアル化されているところも多く、短い工期で工事が終わるような工夫がなされています。

建築費用が安い

構造体となる壁パネルが工場生産されていたり、現場組み立ても効率化されていたりするため、余分なコストカットが図られた工法であるとも言えます。設備や内装の部分では在来工法と同等品を使うため、建築費用の面で在来工法と大きく価格差があるとは言えません。しかしツーバイフォー工法は省令準耐火構造となるため、火災保険料が割引になることはランニングコストを考える面でメリットがあります。

間取りや開口部は制限される

壁で囲みながら部屋を構成していくため、間取りや部屋の大きさ、窓の位置や大きさにもある程度制限を受けます。段ボール箱を繋げたり積み上げて部屋を作り、部屋同士を繋ぐ部分に扉用の穴を開けたり、窓の部分に穴を開けるとどのようになるかを想像してみるとイメージがつきやすいのではないでしょうか。

湿気がこもりやすくなる

機密性が高い一方で湿気の逃げ場がなく、こもりやすくなります。北米の乾燥した地域で考案された工法だけに、高温多湿な季節のある日本では対策が難しい点もあり、当初は湿気による木材の腐食が問題になることもありました。その後、外壁に透湿防水シートを貼る、基礎からの湿気が上がってこないように基礎裏に防湿シートを貼るなど対策がされてきています。また、室内の換気による対策も重要です。近年では在来工法でも板材を貼り気密化されているため、双方の工法で湿気を逃し、壁体内の暖まった空気が屋根の軒裏から逃げられるよう、通気ルートをとる細やかな工夫がされています。

造体を変更することでの費用調整は不可

日本のような高温多湿な気候では、どんなに対策をしても経年劣化による傷みがまったく無いということはありえません。数十年後、雨がかりになりやすい箇所や湿気の溜まりやすい箇所は木材が傷みやすくなります。ツーバイフォー工法では構造体となる部分が腐ったりシロアリの被害を受けたりして傷んでしまった場合に、その部分だけを入れ替えて改修するのが難しく、改修にコストがかかるということは理解しておきましょう。

在来工法のメリット・デメリット

間取りや開口部の自由度が高い

柱と耐力壁の位置をしっかり検討して配置すれば、間取りや開口部はある程度自由に決められます。どうしても壁にしたくない場合には、柱と柱の間の筋交と言われる斜め材を見せることで壁を作らないこともできるため、開放的な空間づくりに向いています。

リノベーションや増改築がしやすい

壁や床を剥がし、柱・梁の構造体だけのスケルトン状態にすれば、かなり自由に壁や開口の位置を変更することができます。湿気で腐食してしまったりシロアリに侵食されてしまったりした箇所も、傷んだ部分の材料を切り取って新たな材料に交換すれば柱や梁を部分的に交換して何年も使い続けることができます。また、在来工法の改修の仕方は制度が整いつつあり、情報もオープンにされ実例が多くできてきたので、対応できる設計者や施工会社が多くなり依頼がしやすいという面もあります。

工業者が多いので困らない

日本の二級建築士の資格は木造在来工法の住宅設計のための知識を身につけているかどうかが問われるため、在来工法については広くオープンに情報が共有されています。そのため、設計者も施工業者も多く依頼先に困りません。
一方でツーバイフォー工法は一般社団法人日本ツーバイフォー建築協会の主催する講習会などで設計の詳細ルールや施工の知識を習得する必要があるため、ツーバイフォーの専門知識のある施工業者を探す必要があります。

建築費用が高い

在来工法はツーバイフォー工法に比べて工期が長いため、その分建築費用が高くなりがちです。自由度が高いこともあって使用する材料の選択肢が多いですが、高価な材料を使用すればその分費用がかさみます。
ただし、設計者、大工・棟梁といった職人さんや施工会社の数が多く、価格競争が激しいため、建築費用を抑えられることがあります。また、在来工法でもツーバイフォー工法でも同じことが言えますが、建売住宅などでは大量に資材を購入して各現場で同じ材料を使うことによってコストを抑えたり、複数の現場を同時に担当したりすることができるため、人件費のコストを抑えているメーカーもあります。

仕上がりの品質は業者によりばらつきがある

使用する木材の樹種や太さなどが施工業者により異なったり、断熱材の入れ方、防水性・気密性を高めるためのシートの貼り方や施工方法が会社によって異なったりする上、現場での一品生産なので仕上がりの品質にばらつきがあることは否めません。しかし品質管理が求められる中で、現場でのチェック体制やマニュアル化を進めている会社も多く、取組み方も変わってきています。また、近年は確認申請の厳格化や住宅性能表示制度など、設計の段階から品質を担保する取組みも進んでいます。

阪神淡路大震災で建物の被災状況に圧倒的に差がついたことで、在来工法でも建築基準法で徐々に構造規則にツーバイフォー工法の良いところを取り入れるようになり、耐震性や防火性が高まってきました。仕口だけだったジョイント部に金物を用いる、構造用合板を釘打ちする、根太レス工法が導入されるといったように改良が重ねられています。また、近年は接合部に木材に埋め込んだ金物をピンで固定する、ピン構法が登場し、在来工法でも大規模な木造建築が可能となっています。

ツーバイフォー工法も在来工法も、欠点を補うように相互の良い部分を取り合って進化し続けている工法です。大きな欠点がないように改良がされる中でも特に強みになる部分が異なるので、建築する土地の条件に合わせて検討する、希望の間取りにするためにどちらが適しているか検討すると良いのかもしれません。

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建築家としてコミュニケーションプランを作図。りんごスタジオとしてワークショップを各所で開催。「COOL WOOD JAPAN 木材がつくる居心地の良い空間」掲載…

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