【コラム】リーダー研修キャンプに参加した6年生が「校長先生、もう一回キャンプに連れて行ってください!」と言ったわけ
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弁当作りを通じて子どもたちを育てる取り組み「子どもが作る弁当の日」にかかわる大人たちが、自炊や子育てを取り巻く状況を見つめる連載コラム。「弁当の日」提唱者である弁当先生(竹下和男)が、先輩校長の夏休みのリーダー研修から教えられたこと———。
20数年前(つまり私が滝宮小学校の新米校長になった年)に、あこがれの先輩校長であるM校長先生の学校の研究発表大会に参加しました。そして、その発表大会後に校長室に呼ばれました。そこで大会資料にはない、夏休みのリーダー研修の話をしてくれました。
◆
私はこの学校に来て、まず6年生をリーダーに育てようと思った。教師の指導力を越えた影響力を、クラスのリーダーは持つことができる。ところが1学期を終えるころにも6年生にはその自覚がない。そもそも教員にもそのビジョンがなかったから、リーダーが育っていなくて当たり前だった。そこで私の権限で、すでに出来上がっていた年間計画のなかに、夏休み中のリーダー研修のキャンプを追加した。参加者は4・5・6年生のリーダー候補だけだった。
キャンプの初日の朝に、6年生の参加者と担任だけを教室に集めて私が話をした。
「このキャンプであなたたちに取り組んでほしいことを話すからよく聞いてほしい。あなたたちは最高学年の6年生だ。このキャンプが最高に楽しい思い出になるように4・5年生のために活動しなさい。細かな指示は、あなたたちの担任の先生もしてくれません。すべての場面で、6年生として何をすべきかだけを考えて2泊3日を過ごしなさい。それができる人をリーダーといいます。あなたたち全員がリーダーとして成長してもらうためのリーダーキャンプです」と。
6年生たちは真剣に聞いてくれた。話の効果は、そのあと4・5・6年生の参加者全員が集まった体育館での集会ですぐに出た。整列の指示もバスへの乗車も6年生が先導した。そしてキャンプ地での野外活動、食事、キャンプファイヤー、起床・就寝のすべてで6年生はリーダーであろうとした。学級担任は6年生をタイミングよくほめてやり、自信を持たせてやった。楽しい中に規律のある2泊3日になった。
リーダーキャンプを終えた数日後に、リーダーキャンプに参加した6年生が集団で校長室に来てこう言った。
「校長先生、もう1回キャンプに連れて行ってください!」と。わけを聞くと「4・5年生の世話をすることばかりを考えていたから2泊3日のキャンプは全く楽しめなかった。だから6年生だけで楽しめるキャンプに連れて行ってほしい」ということだった。
“4・5年生のため”という責務に応えたという自負が6年生たちにはあって、こう要求してきたのだ。私は「確かに、あなたたちの活動は素晴らしかった」とほめて快諾し、保護者と職員の承諾を得て、今度は6年生だけのキャンプを実施した。
次の年も4・5・6年生でリーダー研修を実施した。6年生には、前年と同じように「4・5年生の世話に徹しなさい」という指示を出した。6年生の自覚ある活動で2泊3日のいいリーダー研修が終わった。帰校後、6年生が前年のように要求してくると思って校長室で待ち構えていた。ところが数日たっても全くその気配がない。不審に思った私は、夏休み中も登校してきて校内で活動している6年生を探して問うた。
「去年の6年生は、自分たちだけで楽しみたいからもう一度キャンプに連れてってと言ってきたけど、そんな相談を今年の6年生はしていないの?」
竹下くん、“負うた子に教えられ”とはこのことだ。その6年生はこう答えたんだ。
「私たちは去年のリーダーキャンプで6年生からしてもらったことを、今年のリーダーキャンプで4・5年生にしてあげただけです。去年は私たちは世話してもらう側だったけど、今年は私たちが世話してあげる側のキャンプだったのです。だから6年生だけもう一回連れて行って欲しいと思っていないのです」
◆
この話を聞いて、M校長の決断力・行動力に感服しました。
前年の世話してやるべき4・5年生のいない2度目キャンプを楽しんでいる6年生たちを、校長も6年の担任も目を細めて見守っていたのです。私は、夏休みが明けてからの6年生のリーダーぶりを想像していました。
“キャンプの時の自分たちのリーダーぶりを校長先生が認めてくれたから、2回目のキャンプに行かせてもらえたんだ。自分たちは期待されているし、信頼されている。それに応えるための2・3学期にしたい。児童会活動や学校行事のすべてで、6年生としての責任と誇りを5年生以下の児童に見せたい”
いつも成長を願っている子どもという生き物は、こんな風に大人になっていくのです。5年生は翌年、6年生になることを知っています。そのことに気付けば、今のうちにするべきことが分かってきます。同じことができるようになるために努力することです。分かりやすくいえば6年生がしていることを真似ることです。
7~14歳の子どもは、無意識のうちに、そしてとっても熱心に真似たい先輩を探しています。その対象を「あこがれ」といいます。5年生にとって「あこがれの6年生」は「明るい、具体的な来年の姿」なのです。
「あこがれ」に近付くために自ら努力する意欲を持たせる方法を「内発的動機付け」といいます。それは外からの強制力で意欲を持たせる「外発的動機付け」より、長続きします。達成できた時の喜びも大きく、その後を生き抜く強い力になります。
◆
M校長から聞かされたこの逸話に私は、知識を実践に活かす方法論を学びました。私は10年間で3校の小・中学校の校長を務めましたが、この方法論は何度も活用しました。全校集会で、最高学年には「あこがれられる先輩になりなさい」、他の学年には「あこがれの先輩を見つけなさい」と訴えてきたのです。最高学年の問題行動は減り、先輩を慕う後輩が増えました。ある学年は「俺たちを越えてみろ」と豪語して卒業しました。
その学校から異動した年度の1学期が終わって前任校を訪問したら、新しい校長が私に言ってくれた言葉があります。「すごいです。この学校では生徒が生徒を育てている!」
私は思ったものです。「M校長のおかげだ。本当に子どもって素晴らしい」
のぞいていた子が、のぞかれる側になるという「あこがれ」の連鎖が、滝宮小学校の「弁当の日」では22年目になりました。
竹下和男
1949年香川県出身。小学校、中学校教員、教育行政職を経て2001年度から綾南町立滝宮小学校校長として「弁当の日」を始める。定年退職後、2010年度から執筆・講演活動を行っている。著書に『“弁当の日”がやってきた』(自然食通信社)、『できる!を伸ばす弁当の日』(共同通信社・編著)などがある。
#弁当の日応援プロジェクト は「弁当の日」の実践を通じて、健全な次世代育成と持続可能な社会の構築を目指しています。より多くの方に「弁当の日」の取り組みを知っていただき、一人でも多くの子どもたちに「弁当の日」を経験してほしいと考え、キッコーマン、クリナップ、クレハ、信州ハム、住友生命保険、全国農業協同組合連合会、日清オイリオグループ、ハウス食品グループ本社、雪印メグミルク、アートネイチャー、東京農業大学、グリーン・シップとともにさまざまな活動を行っています。
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