教えて!多田センセイ/知っておくべき家づくりの法律 Q&A【1】
新築、リノベーション、プチリフォーム…。いざ、家づくりに取りかかると、思いもよらないトラブルに直面することがあります。家族や友人に相談してもクリアできない、そんなときは、弁護士に悩みを打ち明けるのもひとつの方法。この連載では、身近な問題を解決し続ける、弁護士法人Nextの多田 猛さんに、家づくりの悩みを相談を持ちかけてみました。皆さんのトラブル解決のヒントにしてみてください!
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【連載・第1回】デザインがイマイチ…(涙) リフォーム業者とのトラブル編
【質問】
私は、3か月ほど前、全面リフォームをすることを想定して、中古の建売住宅(2階建て)を購入しました。建物自体はしっかりとしているので、間取りはそれほど変更せず、主に壁紙、床材の変更、玄関部とキッチンを新しいものに変えることとしました。そこで、近所にあるリフォーム会社に依頼したのですが、その会社の仕事に非常に不満があるのです。
まず、壁紙が思っていたものと違っていたのに、驚きました。比較的小さ目の写真サンプルを見て選んだのですが、「希望されていたものは欠品中で似た壁紙にしました」と言われてしまったのです。でも、それが、最初に選んだものとは全然似つかないデザインだったのです。
次に玄関です。下駄箱はおしゃれなものにしたかったのに、リフォーム会社が勝手に選んだものが設置されていました。あと、コンセントの位置も微妙で、使い勝手が悪いです。そして、現在、まだキッチン部分は完成しておらず、工事はこれからです。でも、こんな感じだと、きっと予想と違うデザインになりそうで心配です。
リフォーム費用は総額で約400万円ですから、決して安い金額ではありません。本当は全部やり直してほしいけれど、夫婦共に気が弱い性格で、リフォーム会社の人たちに強く言い出せず…。どうしたらよいのでしょうか?新生活が想像していたおしゃれ生活とは程遠いものになりそうで、今から憂鬱な気分です。(東京都・Tさん・女性)
多田弁護士からのお答え!
言った・言わない論争にならぬよう、やりとりは文章で残しておくべし!
リフォームというのは、新築物件を購入するのと同じくらい、ワクワクするもの。でもそんなリフォームだからこそ、自分の思い通りにいかなかった時の落胆は、大きなものです。金額も決して安いものではありません。特に今回のご相談者様のケースは、リフォーム前提で中古住宅を購入されたというのですから、大変辛い思いをされていることでしょう。
リフォームのトラブルもよく寄せられるご相談の一つです。リフォーム業者からすると、注文者の依頼になるべく従えるよう、無理も聞きながら、ディスカウントもしつつ頑張って工事をしたのに、「なんで後からこんなに言われるの?!」と思うことも多いとか。トラブルを避けるためには、後から「言った、言わない」の水掛け論とならないように、注文をする方も、業者も、細かな指示までなるべく文章にしておいて残しておくことが大切です。
注文自体は、最近は契約書又は発注書・請求書など書面を残すことがほとんどですが、細かな指示について、口頭でやりとりしたことも、必ず事後的にメールで残して確認しておくなど、双方がトラブルを防ぐ工夫が必要だと思います。
「請負」契約とは?
さて、今回のご相談のようなリフォームは、法律の世界では、「請負(うけおい)」という契約形式になります。これには売買とは違う、少し特殊なルールがあります。「請負」は、我々弁護士に対して行うような「委任」という契約とは違って、仕事の結果というものが契約の対象となります。ですから、仕事に欠陥があっては、契約の目的を十分に達したとは言えないわけです。法律の世界では、「瑕疵(かし)」という難しい言葉を使うのですが、簡単に言うと「欠陥」だと思っていただいて結構です。
そのような欠陥があれば、注文者(相談者の方)は、請負人(今回のケースではリフォーム業者)に対して、「その欠陥を修理しなさい」と請求することができます。あるいは、「修理はもういい。こっちで直すから、その修理代を金銭で賠償して」と請求することもできますし、一部修理してもらい、なお損害があれば賠償を請求することもできます。このルールはわかりやすいですよね?
これは欠陥? 判断の基準は??
ただ、「何が欠陥か?」というのが非常に難しい判断です。鉄筋の数や強度が不足するといった欠陥住宅などの例は、わかりやすいですよね。誰が見ても、「そんな建物、基準を満たしていないから安全ではないぞ」ということであれば、それは明らかな欠陥です。しかも、それによって住めないような状態であれば、契約の目的を達しないわけですから、解除もできる(つまり、契約をなかったことにして、注文者が実際に得た利益分を除いて全額返還請求できる)ということになります。
さて、リフォームの場合です。注文者と業者との認識のズレが生じた場合、誰が見ても客観的に「欠陥だ!」と言えなければ、判断に難しい部分があります。
とはいえ、やはり注文者が「こういうデザインにして欲しい」と言ったのに、下駄箱などが予想と違うデザインにされたのであれば、私は、修理請求又は損害賠償請求ができると思います。特に、壁紙については、こちらが写真を示して指示したということですから、在庫がないのであれば、絶対に注文者に事前にお伺いを立てるべきです。それをせずに勝手に別の商品にしたのであれば、それは完全に業者の落ち度です。自信を持って請求してもよいと思います。
コンセントの位置については、少し微妙ですね。誰から見ても、明らかに利用が困難な位置に変更されていたら問題でしょうが、ご自身が思っていた家具の配置との関係でご不満ということであれば、注文者の方で事前にそのような指示をし、請負人がその指示に従ったか否か、ということがポイントになるでしょう。
ポイントは、注文者側の指示が証明できるか、どうか?
ただ、いずれの部分も、そのような注文者側の指示があったことを証明できるかどうか、というところが問題になります。契約書、メール、ICレコーダーの録音など、何か証拠があればいいですが、ないときは、いざ裁判となった場合に立証が難しい部分もあるでしょう。そうとは言っても、泣き寝入りするわけにもいきませんから、そのときは、弁護士など法律の専門家を利用して、粘り強く交渉するという方法も一つです。何が「欠陥」として請求できるかは、ケース・バイ・ケースですので、迷われたら専門家にご相談ください。
交渉をする期限は、1年以内!
ご注意いただきたいのは、こうした修理・賠償の請求や解除は、目的物の引渡しを受けたとき、つまり、リフォームが終了してから1年以内にする必要があるので、迷っていたら、まずは請求をして交渉開始することをおすすめします。
そして、今後のこと、キッチンをどうするかについてです。「この業者にはもうまかせられない」ということであれば、仕事が完成しない間は、注文者から一方的に契約を解除することができます。その際の報酬については、出来高払いが原則ということになります。既に手がけている請負人の仕事に落ち度(過失)がある場合は別として、そのキッチンを作るために既に材料を用意していた場合の費用など、請負人に損害が生じている場合は、注文者が賠償責任を負うのが原則です。
今回のケースに関しては、その他の作業部分に落ち度があるという中、注文者が賠償すべきか微妙なケースです。そういったときは、我々プロによる、交渉の腕の見せ所、というわけです。
◆プロフィール
多田 猛/
ただ・たけし 弁護士法人Next 代表弁護士。ロースクールと法曹の未来を創る会事務局次長、シニア総合サポートセンター理事など。家族の法律問題や不動産など住まいに関する法律問題、中小企業・ベンチャー企業を中心とした企業法務など、幅広い分野で活躍中。
◆Edit:LIMIA編集部
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