医療保険は相続対策になる?賢い利用法をファイナンシャルプランナーが伝授!
「我が家は、財産もなさそうだし、相続対策は私には関係ないんじゃない?」そう思っている方でも、控除額引き下げや地価の上昇などによって、相続税がかかるケースが増えてきています。平成28年に相続税が課税された割合は、相続全体の8.1%(※1)、東京国税局管内に限れば12.8%(※2)。決して人ごととはいえなくなってきています。
もともと、相続対策を行っていたという方にとっても、課税対象が増えることから、追加で対策を考えていく必要があるといえるでしょう。そこで今回は、あまり知られていない医療保険を相続対策に活用する方法と、ポイントについて解説していきます。
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相続対策として医療保険に加入するメリットはある?
相続が発生したからといって、必ずしも相続税がかかるわけではありません。そのため相続対策を考える前に、相続が発生した場合に相続税がかかるのかどうかを確認しておく必要があります。
相続税を計算する際には、一定の金額までは相続税のかからない「基礎控除額」があり、相続財産の評価額がこの基礎控除額以下であれば、相続税はかかりません。
【相続税の基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人数】
配偶者と子ども2人のいる方が亡くなった場合、法定相続人数は3人。相続財産が4800万円(=3000万円+600万円×3)までは相続税がかかりません。
平成26年までは、同じケースでも基礎控除額は8000万円(=5000万円+1000万円×3)であったため、相続対策が必要なのは一部の資産家だけでした。しかし現在は、都内に持家があると、これといった金融資産がなくても相続税がかかるケースが増えています。
遺産分割でもめることが多いのも、このように実家の家と土地しか相続財産がなく、相続人が複数いるケース。相続財産の評価額が基礎控除額を超えそうであれば、遺産分割で家族がもめないようにするため、あるいは相続税の負担を減らすため、相続発生前の対策が重要になってきます。
そこで、検討していただきたいのが、相続人が保険金受取人となる生命保険に加入すること。相続人が受け取る生命保険金には、以下のような非課税枠が設けられており、この相続対策ではこれを利用します。
【相続人の受け取る生命保険金の非課税枠=500万円×法定相続人数】
上記のように法定相続人3人のケースでは、生命保険金の非課税枠は1500万円(=500万円×3)。配偶者または子どもが受け取る生命保険金については、1500万円まで相続税がかかりません。
相続人が保険金受取人となる生命保険に加入すると、保険料分だけ相続財産となる現金が減ります。その後相続が発生すると、相続人は生命保険金として現金を受け取ることになりますが、非課税枠内であれば相続税はかからず、そのまま現金で相続するよりも、相続税が軽減されることになります。
これが保険を使った相続対策の基本であり、まず検討すべき対策です。もし基礎控除と生命保険金の非課税枠を使って相続税がゼロになるのであれば、ほかの対策は必要ありません。
では、この記事のテーマでもある医療保険を使った相続対策は、どのような場合に必要になるのでしょう? それは、主に以下のような場合です。
・基礎控除と生命保険金の非課税枠で控除しきれない相続財産がある(相続税がゼロにならない)
・相続人以外にも大きな負担なく財産を残したい
このような場合には、相続対策として、医療保険に加入するメリットがあります。
相続対策として有効な医療保険
医療保険は相続対策として活用することができます。とはいえ、もともと入院などのリスクに備えるための医療保険に、普通に加入したところで相続対策にはなりません。相続対策として有効に使えるのは、主に以下のような医療保険です。
●被相続人(親・祖父母)が契約者となり、子(孫)などを被保険者とする終身医療保険
このケースでは、契約者である親(または祖父母)が亡くなった場合、「保険契約に関する権利」が相続財産として相続されます。このとき、保険契約に関する権利の相続財産としての価値は、契約を解約した場合に受け取れる「解約返戻金」の額によって評価されます。
解約返戻金がない医療保険であれば、相続財産としての評価額はゼロです(ただし保険料の払込終了後には、少額の解約返戻金が生じるのが一般的)。
被相続人が生前に保険料をすべて払い終えておくことで、保険料相当分の相続財産が減り、被保険者の子や孫などは、保険料の負担なく一生涯の医療保障が手に入ります。
より多くの相続財産を減らしたいのであれば、子のほか、孫やその配偶者などを被保険者として、複数の医療保険を契約することも可能です。
ただしこの方法の欠点は、相続するのが現金ではなく医療保険に変わってしまうこと。保険料負担のない一生涯の医療保障と、相続税を払った後に残る現金、どちらが相続人にとってメリットが大きいのかを考えて検討してみてください。
●解約返戻金のない医療保険の死亡(・介護)保障特約
解約返戻金がほとんどなく、死亡(・介護)保障を高額に設定できる特約を取り扱う保険会社もあります。この特約を使えば、保険料として数千万円単位で相続財産を減らすこともできるでしょう。
●契約例
(相続発生前)契約者:親 被保険者:子
親の死亡後子が契約者としての権利を相続(相続財産評価額は解約返戻金相当額)
(相続発生後)契約者:子 被保険者:子
子が要介護状態となった場合、子(被保険者)が介護給付金を受け取る
子が死亡した場合、子の相続人(孫など)が死亡保険金を受け取る
この特約を使う方法では、契約者(被相続人)に相続が発生した時点では、最初の方法と同じく、相続財産評価額(ほぼ)ゼロ、保険料負担なしの医療保険の権利(保障)を相続します。
特約から(高額な)保険金が支払われることになるのは、被保険者が要介護状態となるか死亡したときで、被保険者あるいはその相続人が受取人となります。
被保険者が受け取る介護給付金は非課税。被保険者の相続人が受け取る死亡保険金については、相続税の対象となりますが、基礎控除と生命保険金の非課税枠の適用があるため、税負担は少なくなります。ただし、このメリットが現れるのは、通常最初の相続からはかなり時間が経ってからの話となります。
●生存還付給付金のついた終身医療保険
ある保険会社では、生存還付給付金のついた終身医療保険を取り扱っています。この医療保険の特徴は、保険料の払込期間終了するまで被保険者が生きていれば、実質的に保険料が全額戻ってくること。
被保険者を相続人(子)としてこの保険に加入し、契約者(親)に相続が発生したときに、契約者と生存還付給付金の受取人を相続人(子)に変更します。このとき、解約返戻金相当額が相続財産として評価されますが相続税がかかりますが、この保険自体にはほとんど解約返戻金がありません。
(※相続対策として加入する場合には、変更後に保険料負担が生じないよう、全期前納で保険料全額を契約時に支払うのが一般的なので、変更時点から保険料払込終了までの保険料(未経過期間保険料)が解約返戻金として加算されます)
変更後に保険料払込期間が終了すれば、相続人は生存還付給付金を受け取り、一生涯の医療保障を手にすることができます。その際に税金がかかることはありません(契約変更時に相続財産として課税が終わっているため)。
この商品では、数千万円単位で相続財産を減らす効果が期待できます。しかし、契約から相続発生までの期間が短いほど未経過期間保険料が多くなり、対策効果は薄くなります。また、保険料払込期間終了までに相続が発生しなければ、被相続人が生存還付給付金を受け取ることになるため、対策をやり直す必要も出てきます。
さらに問題なのが、保険料払込期間中に、被保険者(子)が先に亡くなってしまうこと。この場合、保険契約が終了し、生存還付給付金は支払われません。未経過期間保険料については戻ってきますが、それまでの保険料については実質掛け捨てとなってしまうのです(※このリスク対策としては、被保険者が保険料払込期間中、支払保険料相当額の定期保険に加入しておく方法があります)。
医療保険を使った相続対策を検討してみよう
相続対策は一部の資産家だけでなく、多くの人が考えておくべき問題です。相続対策としては、生命保険の非課税枠を使った対策が一般的ですが、今回ご紹介した医療保険を活用する方法についても、知っておいて損はないでしょう。
また、相続財産を減らすことばかりに目が行きがちな相続対策ですが、それが家族(相続人)のためのものだということも忘れてはいけません。どのような対策を行うか、それをよく考えて検討していきましょう。
プロフィール
竹国 弘城
証券会社、生損保総合代理店での勤務を経てファイナンシャルプランナー(FP)として独立。金融商品を販売しない独立系FPとして、企業の利益ではなく相談者の利益を第一に考え、その場しのぎで終わらない、自分のお金の問題に自分自身で対処できるようになるためのコンサルティングを行う。1級FP技能士。
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