
【LIMIA歳時記】3月は「弥生」。空気がゆるんで、動物が動き始めます
本格的な春の訪れを前に、少しずつですが、確実に暖かくなってきているのを感じます。動物たちも活動開始。私たちも、早く重いコートを脱いで、軽やかに日々を過ごしていきたいですね。「LIMIA歳時記」では季語とそれにまつわるストーリーを月に1回ご紹介しています。
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猫たちの恋の季節が季語になったのは江戸時代から
これくらいの季節になると、屋根の上や草むらなど、どこからともなく聞こえてくる赤ん坊の泣くような声があります。
以前、実家で飼っていた雄猫がそんな声を出してソワソワしていたかと思うと何日も家を空け、必死になって探していたら、どこからともなくふらりと帰ってきたことがあります。傷だらけになっていたのですが、これが「猫の恋」。つまり、猫の発情期です。
古くから猫は人に飼われていたのに、この現象は和歌や連歌には詠まれていません。なぜならば、王朝和歌の美意識のもとでは、卑属だとされていたからなのです。確かに、何もかも放り出してけたたましい鳴き声を出しながらどこまでも出かけ、時にはケンカまでして発情する猫の姿は、雅とは言えなかったかもしれません。
それでも、人間にはとてもなじみ深い、この「猫の恋」を季語としたところに、江戸時代以降の俳句の人間らしい表現があったといえます。
「猫の恋」という季語は、他にも「恋猫」「猫の思い」「春の猫」などと言われます。今では飼い猫は不妊治療をしていることが多く、野良猫もあまり見かけなくなりましたが、もしどこかからあの鳴き声が聞こえてきたら、卑属という決めつけを破って猫たちの恋を季語と定めた江戸時代の俳人たちに思いを馳せてみるのもいいかもしれません。
【今月の一句】
恋猫のかへる野の星沼の星 橋本多佳子
●文 如月サラ(きさらぎさら)
エディター、俳人。(株)マガジンハウスで『anan』『Hanako』などの編集者を経て独立。現在、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士課程にて女性のエンパワーメントについて研究中。
●イラスト アネタイヨシコ
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