[リノベコンペティション2017 プロリノベ部門 グランプリ受賞] 中古プレハブ住宅のリノベーションー生田の家ー
ハウスメーカー設計施工の築36年中古プレハブ住宅を購入しリノベーションをした自邸
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建築設計を仕事とする私たちの自邸である。
資産価値という点において、日本では経済や法の観点から一定の築年数が経った建物は価値が認められていない。不動産市場では資産としての価値が無い上物が残っている土地は、更地よりも価格的に不利となることもある。
私たちは本来は資産価値が無い古家付きの土地を購入し、古家の構造躯体の利用や既存部を活用しながらリノベーションすることで、一般に首都圏で更地を購入し新築を建てるよりも価格を大幅に抑えて戸建てを手に入れた。
そもそもは土地を買って新しく家を建てるつもりだった。
古家があれば解体して更地にしようとしていた。
ところが2,3年探し続けても希望エリアで予算に合う土地が見つからない。
二人で話し合う中で、不動産(資産)価値に対する考え方や、
昨今の空家問題や過剰住宅供給への関心が私たちの物件探しの方向を変えていく。
日本では建物の不動産価値はほぼゼロになっていく。
もしかしたら将来売りにだすことだってあるかもしれない。
どうしても新築というこだわりは無い。
それなら将来も資産価値が残るであろう土地の立地や広さを重視し、
初期費用を抑えることのできる中古戸建のリノベーションが我々には合っている。
土地よりも物件数は少ないが、物件探しの焦点を中古住宅に絞ることにする。
ある日、私たちの希望条件を熟知していた不動産業者が見せたい物件があると言う。
紹介された中古戸建は大手ハウスメーカー設計施工のプレハブ造住宅。
昭和54年築の初期のプレハブ住宅はサイコロのような形で、
雨漏りなどの不具合もなく36年が経過したとのことだった。
建物に可能性を感じた私たちは購入を決める。
土地の広さも魅力的だった。
建物は旧耐震だが、ハウスメーカーの耐震診断で現行耐震基準を満たしていることを確認した。
改修前の内部は部屋ごとに細かく区切られ、周囲の環境の良さを上手く取り入れていなかった。
そこで以前は1階にあった一日の多くを過ごすリビング・ダイニング・キッチンを2階に移動し、近くの森や遠くは富士山や東京都心を見渡せ、風や日光をより多く享受できるようにした。
プレハブ造は主に外周のみで構造が成り立っている。
私たちが購入した建物は内部に耐力壁が存在しなかったので、
間仕切りを最小限としたほぼワンルームの空間とした。
変わりゆく家族構成や生活スタイルに対応できる冗長性や可変性を持たせている。
上下の繋がりが無かったため、2階の床を一部グレーチングにして二層に分断されていた空間に広がりと変化を与えている。
グレーチングを介して2層を貫く空間は、構造躯体が露わとなった新旧混在する場である。黒い壁は時間と共に移り変わる光と影をより印象付け、グレーチング越しに家族の声や気配が伝わる。
また、グレーチングで建物の1・2階を繋げることで、通常室単位で起こる上下の温度差を層間で作り出している。冬期は、昼間は高台の日当たりの良さと熱溜まりを生かし空調無しで過ごし、夜間は日中の暖かさが残っている約30畳のワンルーム空間を15畳用の小さなガスストーブで暖めている。グレーチングで上下が繋がっているが、暖気の為空調ロスにはならない。夏期は2階に集まった熱溜まりを四周の開口部からの通風を生かして解消し、エアコン使用時はグレーチング際に設置したカーテンを閉め空調効率を高めている。
外部は、過半でないS造部外壁の2面のみを新装し、新装面の開口部は風景を取り込む為に移動し、サッシも刷新して性能を上げた。壁と屋根は室内側から断熱補強を施し、屋根・外構・残り2面(東・南面)の外壁・サッシ・雨戸等は全て既存を補修の上利用している。
新旧の外装全てをシルバーで抽象化し、プレハブ創成期の姿と新装部が混在した意匠とした
大胆なリノベーションと思われがちだが、確認申請の必要になる大規模な改修とならないように構造上主要な部分の改修が過半に至らない改修内容としている。
プレハブ造は型式認定構造の為、大規模な改修による申請は時間・コスト面においてハードルが高くなってしまうからだ。
リノベーションならではの知恵・工夫・思想がつまった思い入れのある住宅となった。
躯体を利用し、既存部を活用することは省資源・産業廃棄物の抑制にもなり環境にも優しい。
社会や経済が不安定で資源も限りあるなか、
中古住宅を引継ぎリノベーションをするという選択がもっと広がっていってほしい。
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