人を微笑ませるカタチ。若手デザイナー・鈴木啓太が目指すもの

「富士山グラス」を知っていますか? ビールを注ぐと泡が山頂に冠雪したように見えるユニークなグラス。その他、銅とシルバーメッキの素材で紅白を表現したカップ「RED & WHITE」など、愛着のわく日用品を手がけているのが、鈴木啓太氏です。今、最も活躍するプロダクトデザイナーが今秋に開催された「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH」をきっかけに、新たに魅力的なプロダクトを提案しました。

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「つみき」を用いてつくられたシンプルな鳥のための家。

若手デザイナーの新たな作品は、鳥のための家

鈴木啓太という名前を知っているだろうか?

デザイナーとしての名前は知らなくても、ビールを注ぐことで富士山の形が現れる「富士山グラス」を目にしたことがある人は多いかもしれない。プロダクトデザイナー、鈴木啓太氏の生み出すアイテムは、どれも、なぜか、心に引っかかる。

・シャボン玉にそっくりなガラスの風鈴 〈虹色風鈴〉
・障子を写したフラワーベース〈KYOTO〉
・「ほぼ日」のための富士山の扇子 〈Appare〉
・絶対に垂れない醤油差し 〈THE SOYSAUCE CRUET〉


2012年に独立し、自身のデザイン会社「PRODUCT DESIGN CENTER」を設立。以来、さまざまなジャンルの日用品を手がけてきた。そんな鈴木氏が今年の秋にデザインしたのが、鳥のためのスタンド。「モア・トゥリーズ」の呼びかけから考案された「つみき」(設計:隈研吾氏)を使った「鳥の家」である。

地面からすっと伸びた杭の上に黒い横木を渡し、三角形の「つみき」をのせたもの。横木が鳥の止まり木のようになり、「つみき」が屋根のようになる。最小限の要素で成り立っている、度がつくほどシンプルな鳥小屋だ。

それでも、このスタンドで鳥が休んだり、餌を食べていると、鳥たちが自分の家でくつろいでいるよう。洗練されていながら、素朴で、どこかユーモラスな鈴木氏の世界観があますところなく表現されたプロダクトとなっている。

では、この作品はどのようなプロセスで生まれたのだろう?

ブータンの高僧との会話がデザインのきっかけに

東京ミッドタウンでインタビューを受ける鈴木啓太氏。

──LIMIA編集部:この鳥の家をつくるにあたって一番に考えたことは?

木を扱うときに、思い出したことがあるんです。僕は、ブータンに仕事で訪れていたことがあるんです。そこで親しくさせていただいた高僧とのやりとりです。自己紹介でプロダクトデザイナーだと言うと、その高僧からこう尋ねられました。

「君は木を使うのだろう?」

「いいことを教えてあげよう。木は鳥の家なんだ」。

実に当たり前のことなのですが、私たちが木材を見るときには、つい木目や色味をまず先に気にして見てしまいます。でも、「その木材は昔は鳥の家であったことを考えながらモノをつくったほうがいい」と高僧は言っていたのです。自分にとっては目からうろこでした。木を使うことがテーマとして掲げられた「つみき」の企画で、どうにかしてうまく使う方法はないかと自問自答を繰り返しました。


また、モア・トゥリーズは、日本全国の森の木を大切にしていて、森の保全のために木を切っています。そうした活動を見た人に感じさせるプロダクトをつくりたいと思いました。切りだされた木をどのように新しい価値として生まれ変わらせることができるか、と。

都会の森に「鳥の家」を再構築する

鳥のための家には、東京ミッドタウンのアドレスが記載されている。

そうして、もとは鳥の家だった「木」を一度「つみき」という形に組み直し、それが東京ミッドタウンにやってきたら新しい都会の「鳥の家」に変わる、というコンセプトを導き出しました。

「つみき」を使って何かをつくるという題目でしたが、「つみき」を積み上げていくのではなく、最後に「つみき」を一つポンと載せる形としています。それが結果的に意味になっていくことを考えたのです。だから、今回僕がやったことは「台座をつくった」ことなのかもしれません(笑)。

東京ミッドタウンは東京エリアの再開発では珍しく、かなり多くの自然のスペースを設けています。ここを訪れるたびに鳥の姿を目にし、年を経るごとに鳴き声の種類も多くなっているように感じます。だから、ここも都会の森なのだと定義して、日本全国の森とつなげたかった。台座には、「新しい鳥の家だよ」という思いを込めて、東京ミッドタウンの住所を記しています。

単純で、素朴な、わざとらしくないモノの方が拡散する

「素朴な感じを出したかった」と語る鈴木啓太氏。

──LIMIA編集部:このプロダクトにはシンプルさと細部へのこだわりが同居していますよね。下の杭が丸太材なのは、あえてでしょうか?

鈴木氏:その通りです。森の気配をどこかに残したいと思いまして。僕が「この丸太材を」と特別に指示したのではなく、工場の方に「適当に選んでください」とお願いしました。森に生えている普通の木で、皮をむいてもらっただけの材料で、その辺りに打ち込んである杭と同じようなもの。それでいい、それがいいと考えました。

素朴な丸太材の上にこれまたシンプルな「つみき」がのってくる。わざとらしくない、そういったモノのあり方もいいと思いました。全体的には、飾り気のないモノを目指しています。

そう、全体の見え方として、田舎の工場のおじさんがさっとつくったように見える、というものを目指しています(笑)。「丸太を切ったら誰でもつくれます」というふうな見え感ですね。複雑なもの、難しいものは世の中になかなか広がっていかないものです。これは単純な形式ですし、拡散するといいなと願っています。

商品化することはもちろん考えています。杭はどこにでも刺していくことができますから。モア・トゥリーズは森を広げていくイメージをもつ活動なので、この丸太1本の鳥の家が、日本のいろんなところに刺さっていったらいいな。

自然を追い求めるデザイナーの心

鈴木啓太氏は今後、さまざまな大きなプロジェクトを手がけていくそう。

──LIMIA編集部:これまでのプロダクトでは、自然や自然現象を取り入れられているイメージがあります。それは常に追いかけているテーマなのでしょうか?


たまに言われるのですが、実は特別に狙っているわけではないんです。「そういえばそうですね」という感じかな。どうしてかは自分でも分からないのですけど(笑)。

モノをつくるうえでは、ある種の感動や喜び、形以上の何かをつくりたいと思っています。そう考えていくと「自然はすごいな!」といつも感じるんですよね。人は夕焼けを見て、泣いたりする。そういうことって、人がつくったものや技術からはなかなか生まれません。
富士山にしても、あの山をみんなが目にしようとして、思わず写真を撮ってしまう。ちょっとおかしいくらい、すごいことですよね。そういった自然のすごさを「お借りしている」ところはあるのではないかと思います。

美しいものを追い求めていくと、自然や自然現象に行き着いてしまうことが多々あります。どんな物質よりも水が一番綺麗だなとか、それが清らかな水だとさらにいいなとか。単純に自然を模すのではなく、デザインを追求していくうちに自然のモチーフがすっと入ってくるのかもしれません。今、そう思い当たりました(笑)。


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丸太材に「つみき」を載せれば完成するシンプルなプロダクトだからこそ、目にした人にさまざまな想像を抱かせる余地がある。たとえば高原の別荘地、ハイキングコースの休憩場、白樺が連なる雪の道。そこに三角形の家がぽつぽつと立ち、鳥がいっとき羽をやすめていたらーー。

鈴木啓太氏が「つみき」でつくった小さな家は、日本の景色をささやかに、でも確実に楽しいものへと変える、そんな力を秘めている。


◆取材協力:東京ミッドタウン 

Photo:木下 誠
Text:加藤 純
Edit:山本奈奈(LIMIA編集部)

プロフィール/
鈴木啓太(すずき・けいた)

PRODUCT DESIGN CENTER、THE/ディレクター&プロダクトデザイナー。1982年愛知県生まれ。幼少の頃より骨董蒐集家の祖父の影響を受け、ものづくりを始める。2006年多摩美術大学を卒業後、(株)NECデザイン、イワサキデザインスタジオを経て、2012年に PRODUCT DESIGN CENTERを設立。プロダクトデザインを中心に、 プランニングからエンジニアリングまでを統合的に行い、家電製品、モヴィリティ、家具、日用品、アートに至るまで、国内外で様々なプロジェクトを手掛けている。2015年にはフランスで開催された『 第9回サンテティエンヌ国際デザインビエンナーレ2015(Biennale Internationale Design Saint-Étienne)』に参加している。

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