中村拓志氏インタビュー8/東急プラザ表参道原宿【前編】ミラーが人を引き寄せる⁉︎

思わず目が止まるミラー張りのエスカレーター。原宿と表参道の交差点にあるランドマーク「東急プラザ表参道原宿」。これも建築家・中村拓志氏が設計を手がけた複合施設です。フォトジェニックな建物は、今や海外の観光客も必ず訪れて写真撮影すると言われているほど。TOKYOを代表する風景となったビルは、一体どのような発想から生まれたのでしょうか? 話は中村氏の青年時代の記憶へと遡ります。

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photo by Hiroshi Nakamura & NAP Co.,Ltd.

表参道という場にふさわしい建築とは?

表参道と聞いて思い出すのは、僕が中学校の頃のこと。当時住んでいた鎌倉から、背伸びをして渋谷へ買い物に行っていました。明治通りをぶらぶら歩いて、原宿方面に着き、また渋谷へ戻る。その折り返し地点が、今、「東急プラザ表参道原宿」が建っている場所、神宮前交差点でした。そんな華やかな場所にある建物の設計を担当させてもらうなんて、なんだか感慨深いですね。

ふと佇める場所があることは、街の豊かさにつながる

明治通りと表参道の交差点。記憶に残る場所であり、待ち合わせにもなる地点に新たにつくる建築とは? どんな建物がいいか検討し始めたとき、真っ先に「あるといいな」と思った機能があります。無料で休める場所です。昔に比べたらそういう場所が少なくなりましたよね? 以前は、同潤会アパートの階段や、道路沿いのオープンカフェ、狭い路地にあるちょっとした空き地といった、ちょっと休める場所があったけれど、今は、ブティックやショップのショーウィンドウがところ狭しと並ぶ、やや硬質な街になってしまったと感じています。

交差点に着いてふと見上げたら、すぐ近くに無料で休める広場や公共的な空間がある。交差点からの見上げの視線を考えながら、形を決めていきました。建物の隙間から木々やパラソルが見えたら、広場を求めて人はそこへ上がっていくのではないだろうか、と。

photo by Koji Fujii / Nacasa and Partners Inc.

この建物に関しては、特に日当たりがよく、交差点のどこからでも見える外周部と屋上に、木を配置したかった。だから建物の設計よりも先に、樹木をレイアウトしましたね。その結果、木々の枝葉によって室内空間がえぐられたような形になりました。しかも、植える予定の大木は根も大きくて。屋上広場はこの根鉢の分、盛り上がってしまった。でも、この不自由さを訪れる人やテナントがポジティブに捉え、使っていくことで樹木と人の密接な関係をつくり出すきっかけになると考えたのです。

僕は常に、環境と建築を融合をさせることを重視しています。商環境も、環境という意味では他と分けて考えていないんです。ある環境にどう建築を融合させるかという課題に関しては一緒だと思って取り組んでいます。

表参道の地域性を建築に取り込む

表参道にはケヤキ並木が続いていて、夏になると道路に木漏れ日が落ちます。その光景こそ、表参道らしさだと思う。樹の下がそのまま商店街のアーケードのようです。この表参道固有のイメージを東急プラザ表参道原宿にも引っ張ろうと考えたのですね。

では、どうするか?

建物と樹木が一体化した空間を上空に浮かせたわけです。木漏れ日のある空間を地上から上へと連続させたのがあの建物です。屋上庭園が人が上階へと行くきっかけになり、もしかしたら、蝶や鳥も屋上の森へとやってくるかもしれない。

「シャワー効果」というデパートや商業施設特有の集客手法があって、それは、最上階に目的性の高い施設をつくり、まずそこで集客してから、水が下に流れるように各階に人を誘導する手法です。この建物は屋上の緑あふれる空間がシャワー効果をつくり出すのです。

複数の独立した路面店が集まったようなイメージ

さて、エントランス部分のミラーのエスカレーターについてです。

あそこに行くと、なぜかみんな写真を撮ってしまうようですね。海外のアーティストが東京を舞台に撮影したミュージックビデオにも使われてるようです。“バズった”とも言えるので、ある意味成功したのかもしれませんね。

鏡にたどり着くまでいろいろな経緯がありました。

まず、あの建物の概要についてお話ししておきましょう。東急プラザ表参道原宿の構成は少し普通と異なるんです。

地下1階から地上2階までは、3層分を使ってメガストアとしてそれぞれ3店舗並べています。各ショップは路面店のように独立した形式をとっています。よくある複合施設のように1つの四角い建物の中にテナントビルが入っている、という形式とは違う。しかも、これらの“路面店”は建物とは切り離された外観をもっています。それぞれのショップが自立しながら、あたかも表参道の街並みのように、フラグシップの路面店が立っている状態を目指しました。各ショップともに三面に壁があり、角にあり、完全に上階とも切り離されています。

3階の入り口へ人を誘導するという大きなチャレンジ

photo by Tadanori Okubo

独立した路面店なわけですから、外装も自由に変えていいわけですし、僕はあえてデザインしないと決めました。
ただ、その判断を下すのは難しいですよね。建築家というのは自分の世界観に染めたがる生き物ですから(笑)。今回、そういう考えはなくて。なぜなら無理に統一感を持たせることが、テナントやブランドの価値観を毀損してしまうことがあるからです。

じゃあ、今度は、どうやって3階より上に人を上げるか?という問題が生じます。

これ、とても難しい課題なのです。

東急プラザ表参道原宿のメインエントランスは1階ではなく、3階になる、ということですから。3階までエスカレーターでつながなければなりません。実際に、国内外問わず、同様の商業建築は大体失敗しますね(苦笑)。客は長いエスカレーターに乗ることを逡巡してしまいますから。長い時間をかけて上った先に果たして自分の目的の店があるのだろうか、と。この強制時間に勝つことは簡単ではありませんので、大きなチャレンジでした。

ミラー=体験型の空間=ふるまいのデザイン

photo by Hiroshi Nakamura & NAP Co.,Ltd.

僕らは、「体験型の空間をつくったらどうか」と提案しました。
前回お話ししたリボンチャペルと同じですね。形をデザインするのではなく、人の体験をデザインする。すべてそこから考えています。そして、それがふるまいのデザインなのです。

東急プラザ表参道原宿はファッションの館です。気軽に人が上に行くように誘導することを考えると、間口が広く見えた方がいい。時代を経ても色あせない建築であってほしい。そこで、ミラーを使って、無限に反射させることにしました。

ハレの場では、いつもよりちょっとお洒落をするし、人からどういう風に見えているかな、と鏡でチェックしたくなるものです。これもふるまいですね。

photo by Hiroshi Nakamura & NAP Co.,Ltd.

着飾った人々が万華鏡の中のカラフルなパーツのように反射を繰り返す。人がエスカレーターに乗り、振り返ると、その時代の流行、色、ファッションが色とりどりの万華鏡のように見える。ずっと眺めていても飽きないとなれば、人は自然と上がってくれるのではないか?

それに、ここにはもともと「原宿セントラルアパート」という伝説的な建物がありました。当時の気鋭のクリエイター達が集ったビルなんですが、取り壊される前のセントラルアパートメントで使われていたミラーガラスへのオマージュという気持ちもこもっています。あのミラーがくしゅくしゅっとまとまって、未来につながっていくような。場所の記憶も継承できると考えたわけです。

ミラーを使うことの二次的な効果として、ファッション特有の高揚感が生まれますし、間口を実際より広く見せてくれます。また、無限に反射するので、エスカレーターに1人が乗ると一度に8人ぐらい上がって見えるという(笑)。ハーメルンの笛吹き効果ではないけれど、「あ、自分もついていかないと」という気持ちになる。つまり行列効果ですね。

“緑”が人の回遊を誘発する

屋上に森をつくることは、ある種の無駄なコストがかかります。だけど、その緑と無料で休める場所が上階へと人を引っ張り上げ、お客さんの滞在時間を長くし、各店舗に回遊させるメリットにちゃんとつながるのだと僕は考えています。

もちろん、建築家は商業の売り上げを増やすという目的を実現させるために要請される存在です。けれども、一方で「公共に資する」という志がなければならないとも思うのです。志と利益をきちっとうまく紐付けることができたら…。その道を見つけ出すことが、この仕事の醍醐味だったと振り返って感じています。

この建物、表参道・原宿らしさ、若さやパワーがある感じというのは出ていますよね?
僕は作品ごとに全然異なる答えを出します。その場所にあったテイストで、その場所の最適解を目指すというデザインをしています。後になって、東急プラザ表参道原宿が、あの場所の最適解だったといってもらえれば嬉しいですね。


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【プロフィール】
中村拓志(なかむら ひろし)
1974年東京生まれ。神奈川県鎌倉市、石川県金沢市で少年時代を過ごす。1999年明治大学大学院理工学研究科博士前期課程修了。同年隈研吾建築都市設計事務所入所。2002年にNAP建築設計事務所を設立し、現在に至る。地域の風土や産業、敷地の地形や自然、そこで活動する人々のふるまいや気持ちに寄り添う設計をモットーとしている。

代表作に「狭山の森 礼拝堂」、「Ribbon Chapel」、「Optical Glass House」、「録museum」など。主な受賞歴にJIA環境建築賞、日本建築家協会賞、リーフ賞大賞などがある。

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広大な屋上庭園や印象的なミラーのエレベーターは、人のふるまいをじっくりと見つめることから生まれたアイデアでした。そして、中村氏の原宿&表参道という街への憧憬や希望も込められているのでしょう。何気なく通っていたあの交差点を、そんな視点で眺めてみると、また違った風景に見えてくるかもしれません。

次回は、東急プラザ表参道原宿の屋上庭園に話が映ります。人が自然と集う場の裏にどんな仕掛けがあるのでしょうか?
お楽しみに!

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