
大きく張り出す屋根を越え意識が外へ外へと 開放的な居間と魅力的な景観が繋がる家
広々とした敷地に家族4人で暮らす家を建てることにしたお施主さま。建物は敷地に対して少し小さめの2階建てを選んだ。建築家の戸川さんは、ゆとりある敷地と緑豊かな環境を存分に楽しめるようにと考えたという。連続する窓や吹き抜けで開放感を高めつつ、大きく張り出した屋根が庭や外部へ意識を誘う環境を整えた。
本サービス内ではアフィリエイト広告を利用しています
- 20
- 1
- 0
-
いいね
-
クリップ
部屋数を絞り、ライフスタイルの変化に対応ひとつひとつの空間にゆとりがある暮らし
Mさま家族が暮らす、大きく屋根が張り出した2階建ての家「かさねやね」は、長野県の西軽井沢と呼ばれるエリアにある。ご主人の実家の敷地の一角、広々した土地に対して少し小さめに計画した家だという。
それゆえ、空間にゆとりを持たせることを意識したと語るのは、設計を担当した一級建築士事務所サカキアトリエの戸川賢木さんだ。建物は、道路に面した南側から北へシンプルに伸びる長方形。1階は居間、台所、和室などを、2階には家族の寝室として使用している洋室と、ホール、水回りを配置した。
2階の洋室は、現在4歳と2歳のお子さまたちが大きくなられたら2部屋に仕切り、子ども部屋になる予定。その際、夫婦の寝室は1階の和室に移動する。「けれどそれは、だいぶ先のことですから」と戸川さん。長く暮らす家だからこそ部屋数を多く計画しすぎず、家族の生活が変わったときに家の使い方を変化させるという提案をしたことで、ひと部屋ひと部屋を広めに計画することができたそうだ。
玄関に入ると目の前に広がるのが居間。思わず息をのみ見上げてしまうほど、開放感に溢れ、自然との距離が近く感じられるのに驚く。天井は2階までの吹き抜けで高く、1階2階、それぞれの高さに連続した窓が設けられている。窓からは豊かな自然や空が見え、外部と内部の境界線が曖昧になり、まるで外部にいるかのような心地よさが得られるのだ。
下見のために敷地に赴いたとき、とにかく景色や景観がいいと感じ、外部と内部が繋がる家にしたいと考えたという戸川さん。そのものずばりな家を、より自然を楽しめるゆとりとともに実現したのが「かさねやね」なのだ。
敷地の形状を生かした構成で、視線を上げる外部に近しい素材選びが境界線をあいまいに
室内で寛いでいる間、外へ外へと意識が広がる「かさねやね」。筆舌に尽くしがたい心地よさを確保するために、外部との繋がりをスムーズにすることに加え、外に出やすい環境をつくることにも注力した。
まず、玄関側から家の奥に向かって緩やかな傾斜で上昇する敷地の形状を、家に反映させた。というのも、さらに奥に見える隣家の敷地は傾斜がぐっと急になり、山のような雰囲気。もし、敷地を平らに慣らしてしまえば山へのつながりが絶たれてしまうと危惧したからだ。そこで、1階は敷地の奥に向かって少しずつ床レベルを上げ、自然と山へ視線が伸びるような流れをつくり上げた。
また、家を縦2つに仕切り、庭に繋がる東側を高さの違う2つの空間が続く居間とした。1階に連続する低めの窓から庭が眺められるのはもちろん、吹き抜けの2階に位置する窓を抜けて空まで意識が広がるのには理由がある。天井と軒だ。
「かさねやね」は、軒を深く出すために、外観を見ると戸川さんがリブと呼ぶ袖壁がいくつか出ている。張り出したリブの幅で一枚プレートが設けられ、そのプレートに屋根や軒が被さっている状態だ。さらに2階の窓はサッシの上部を天井に埋め込み、ガラス面が天井と接して見えるようにした。そのうえで2階の天井とプレート、軒の内側を同素材で揃え、シームレスに繋げたのだ。それだけではない。一見すると地面と平行のようだが実は窓を挟んで天井、プレート、軒と3つの層の重なりが外に行くにつれ階段状に上っており、だからこそ、さらに自然に視線が上に抜ける。
空間そのものも外部と馴染むように配慮した。玄関から居間、台所はモルタルを用いた土間仕上げを採用。外部にあるものに近い素材を選び、外と室内の素材感を繋げ、外に出やすい環境を整えたという。
これだけの景色を確保したのであれば、それを存分に楽しみたい。居間の奥には室内にある縁側のような板の間を計画。先述した高さの異なる居間空間のほかにも、西側の奥という一番籠り感のある移置に計画した和室、窓が目の高さに広がる2階のホールなども合わせて、居心地の異なる居場所をたくさん用意した。
また、居間から繋がる庭は母屋である実家と結ぶ庭でもある。深い軒のおかげで外部と内部の中間領域として機能し、使い勝手にも幅ができた。お子さまたちは居間の窓から出入りすることも多いとのこと。誘われるように外に出やすい環境が設えられたおかげで、ご両親と一緒にバーベキューを楽しむなど、庭の活用や交流が一層活発となった。
絶妙な窓の配置と空間の構成により開放的でも適度な距離を保った暮らしを実現
窓が多く開放的なつくりの家だが、暮らしやすさはどうだろうか。「ご主人の実家と庭を挟み隣接するため、奥さまにとって適度な距離感があったほうがよいだろうと考えました」と戸川さん。
せっかくの景観も、楽しめなければ意味がない。そこでまず、1階の窓は地窓のように低めに設定。室内の床レベルの変化と合わせ、奥さまの活動の中心である台所を居間と壁で仕切り反対側に計画したおかげで、外からは顔が見えにくい。生活を必要以上に見せることなく、お子さまたちが庭で遊ぶ様子は見守ることができる。そんな状態を気負いがない雰囲気で可能にした。
将来夫婦の寝室となる予定の和室は、現在はお子さまのおむつ替えなど子育てに便利に使用している。大容量の押し入れも備えられ、1階全体が片付きやすい。現在は台所と段差のみで仕切っている形だが、寝室とする場合にはそこに襖を入れる予定だという。居間側にも出入口をあらかじめ計画し、襖で仕切った場合でも居間や階段にアクセスしやすいようにした。
具体的な要望はほぼなかったという「かさねやね」。Mさま夫妻はHPの作例などから、戸川さんの家づくりを信頼していたからだとのこと。「敷地を含めたこの土地に住むというイメージで設計しました」と戸川さんは語る。空間のつくり方から素材の選び方までこだわり、明確な理由を持ってプランニングするからこそ、土地が持つ魅力を何倍にも高めて享受できる家ができたのだろう。
撮影:橘 薫
戸川 賢木
一級建築士事務所サカキアトリエ
- 20
- 1
-
いいね
-
クリップ
関連キーワード
カテゴリ
このアイデアを投稿したユーザー
建築家ポータルサイト KLASIC(クラシック)さんの他のアイデア
-
窓辺の光が宿る家 100年を経た古民家の再生建築家ポータルサイト KLASIC(クラシック)
-
生活の基盤となり、暮らしを楽しむための家 緩やかなゾーニングで叶えた開放的空間建築家ポータルサイト KLASIC(クラシック)
-
家具や建具は全てオリジナル。 フルリノベを 選んだからこそできたフレキシブルな住まい建築家ポータルサイト KLASIC(クラシック)