面白いと思った本を人にすすめてはいけない−−人気作家が語る「読書」の本質とは?

仕事柄、かなりの量の文章を読む。種類は新聞・雑誌記事、論文、そしてエッセイやコラムとさまざまだ。できるだけかさばらないようにするため、電子ブックリーダーやニュースキュレーションアプリを常用している。   純粋な…

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仕事柄、かなりの量の文章を読む。種類は新聞・雑誌記事、論文、そしてエッセイやコラムとさまざまだ。できるだけかさばらないようにするため、電子ブックリーダーやニュースキュレーションアプリを常用している。

 

純粋な意味での読書

読むことは子どものころから好きだったので、量がいくら多くてもプレッシャーはまったく感じない。行い自体は子ども時代から何ら変わらないのだが、最近は方法が激変した。仕事がらみで読む文章はほぼ100%電子媒体由来だ。移動中も違和感なく読めるので便利なのだが、新幹線とか飛行機に乗るまとまった時間の移動には、本を持って行くことにしている。

 

情報収集とは明らかに違う意味合いの“読書”には、物体としての本を手に取ってページを繰る感覚を伴わせたい。そう考えると、ここ何年かは純粋な意味での読書をほとんど楽しめていないことになる。

 

読書嫌いだった少年がベストセラー作家になるまで

筆者が抱くこうした感覚を言語化してくれているのが、『読書の価値』(森 博嗣・著/NHK出版・刊)だ。著者の森氏は小学校4年生の時に堀江謙一さんの『太平洋ひとりぼっち』と出会い、本を読むという行いに初めて価値を見出したと語る。読書に対するネガティブなバイアスが外れた直後に『初歩の電磁気学』という本を手に取った森氏は、本を通して人類の知識を得られることに気づいた。本という媒体を通して、全人類レベルの知識が連綿とアップデートされていく過程を実感した瞬間だ。そこから先、それまでとはまったく違った方向に走っていくスピードが増していった。

 

『初歩の電磁気学』が大きな意味でのきっかけになったことは間違いない。森氏はやがて工学研究者になり、38歳のときに作家デビューした。ちょっと驚いてしまったのだが、初めて小説を書いたのはその前の年だったらしい。

 

 

デビュー20数年で300冊以上の本を世に出してきたキャリアのスタートとしては、意外を超えて異質だ。

 

面白いと思った本を人にすすめてはいけない

次の一文を読んでいただきたい。

 

しかし、いずれにしても明らかなことは、僕がもの凄く沢山のことをすべて本から学んできた、という事実である。文字がすらすらと読めないハンディを背負いながらも、とにかく本を読むしかなかった。知りたいことは、活字を追うことでしか得られなかったのだ。

『読書の価値』より引用

森氏は子どものころから極度の遠視に悩まされていて、ほかの人に比べて文字にピントを合わせにくい状態だった。こうした物理的な理由も読書嫌いになる原因のひとつだったはずだ。ただ、特異な事情の上に構築された読書に対する価値観が、おそらく意識的ではなかったにせよ、やがて作家としての才能の開花につながったのではないだろうか。森氏にとっての読書の価値は、以下のような明解な言葉で示されている。

 

僕が本から得た最大の価値は「僕が面白かった」という部分にある。だから、もし同じ体験をしたいなら、各自が自分で自分を感動させる本を見つけることである。同じ本が別の人間に同じ作用を示す保証はないからだ。

『読書の価値』より引用

 

「あの本、面白かったよ」なんて、ごく軽い口調で話してしまうことが多い筆者は、ここでちょっと反省した。

 

本は知識のアップデートである

章立てを見てみよう。

 

第1章 僕の読書生活
第2章 自由な読書、本の選び方
第3章 文字を読む生活
第4章 インプットとアウトプット
第5章 読書の未来

「翻訳小説の魅力」「つまらない本の読み方」「文章は何のためにあるのか」「読書感想文は無意味だ」「本の未来像」など、興味深い響きの項目が80近く並ぶ。この本は、どの項目から読み始めてもいいと思う。少なくとも、筆者にはそういう読み方が合っていた。アトランダムな順番ですべての項目を読んで、すんなり納得できたからだ。

 

この世につまらない本はない

本を読むのは本当に嫌い。苦痛でしかない。そういう人たちに向けて、森氏の次のような言葉を伝えておきたい。

 

この世につまらない本などない、と僕は思っている。読む本読む本、それぞれに面白い。面白さが違う。これは、人間がいろいろいる、ということだ。どの人間も、きっと面白いところがある。それぞれに、人とは違ったものを持っていて、生きている間に、それぞれがさまざまに出会い、学び、考える。そういったもので、本はできている。だから、面白くないはずがない。

『読書の価値』より引用

 

面白いこと、楽しいことはこの世に数えきれないほどある。だからこそ、あえて言う。読書という行いそのものを最初から面白くないと決めつけてしまうのは、ちょっと違うと思うのだ。

 

【書籍紹介】

 

読書の価値

著者:森博嗣
刊行:NHK出版

なんでも検索できる時代だ。娯楽だって山のように溢れている。それでも、本を読むことでしか得られないものがあるー。著作発行累計1600万部を誇る人気作家が、並外れた発想力とアウトプットを下支えする、読書の極意を明らかにする。本選びで大事にすべきただ一つの原則とは?「つまらない本」はどう読むべきか? きれいごと抜きに読書という行為の本質を突く、唯一無二の一冊!

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