古びた団地が南仏リゾート空間に一変⁉︎ブルースタジオのリノベ実例
中古マンションをリノベーションして素敵に暮らしたい。でも、本当にうまくできるのか、新築とどこが違うのか、疑問に感じる人も多いはず。そこで、リノベーションのプロ中のプロ、ブルースタジオが手がけたリノベ実例をご紹介。古さや広さ、撤去できないものといった「条件」と夫妻の「夢と希望」をデザイン力で見事に混ぜ合わせる。その鮮やかなリノベ実例をご覧ください!
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住宅リノベーションの草分け、ブルースタジオが手がけた団地リノベ
今ではたくさんの人が選ぶ中古マンションのリノベーション。でも、10年前はまだまだ一般的な選択肢では決してなかった。そのずっと前から中古マンションのリノベを提案していた会社がある。それがブルースタジオ。
建築設計事務所であり、不動産業の顔をもち、団地丸ごとの改装まで、家に関することのすべてを行う、ブルースタジオが手がけた数多くのリノベのひとつが、このM邸だ。
夫は乗り気、妻は懸念。築30年団地の購入&リノベまでの道のり
中古住宅を買う意識が一切なかったMさん夫妻。ご主人が雑誌で中古リノベやブルースタジオを見かけなかったら、今の家はなかっただろう。不安だった奥さまと共にブルースタジオが主催のリノベーションセミナー、内覧会へ通ううちに、ある実感が生まれたという。
「新しいことだけが、いいことではない」。
場所や築年数によっては、新築よりも圧倒的に手頃な価格で購入できる中古物件。だんだんと夫妻には中古マンションをリノベーションして「好きなように暮らしたい」という思いが強くなっていった。気がかりだったのは耐震性能。それがクリアになり、和光市の築30年を超える団地を購入。ブルースタジオの石井 健さん達と共に家づくりを具体的に進めることに。
趣味や好きなこと、やりたいこと&やりたくないことを石井さんがじっくりとヒアリングし、表で整理することで、コンセプトが定まっていった。
南仏にあるような古民家リゾートで好きなように暮らしたい!
「南仏の古民家リゾートにチェックインして、ルームメイキングしたあとの部屋に初めて入った時のように」。
これが、M邸のテーマ。なんとも具体的!
ブルースタジオが常に大切にしているのが、キーワード出しとコンセプトシート作りだ。(場合によっては)古く汚い現状の部屋を見ただけで、おしゃれな未来の我が家を簡単に想像できる一般人はいない。夢の家に関するキーワードを聞き出し、言語化し、全員が同じ方向を向くことがとにかく大事。
M夫妻から出たのは、「ぱりっとした感じ」「南フランス」「ヨーロッパの古民家」「明るい」「片付けがしやすい」「好きな雑貨を並べたい」という言葉。そこから、あのユニークなテーマが導き出された。
「ご主人がきっちりしていて、ファシリテーションできる方でした。一方、奥さまはおおらかな方。ご夫妻の駆け引きが面白かったですね(笑)。収納や家具の配置など細かな部分をご主人がリードし、徹底的に話し合いながら決められていました」と石井さんは振り返る。
パブリックな場所とプライベートな場所を分ける間取り
購入時の部屋は夫妻が「暗い」「古い」と感じる状態。M邸では、壁や天井板などのすべてを解体する「スケルトン・リノベーション」を行った。ただ、この物件の場合、配管の撤去は撤去できず、天井の断熱を取り、天井高を上げることはためらわれた。
だから、あえて、がらりと間取りを入れ替えていない。LDKなどのパブリックな場所と寝室などのプライベートな場所がきっちり分かれたプランとした。
北側半分の個室の位置はそのまま。「設備の整ったキッチンと広いリビング、多めの収納がほしい」という要望を受け、台所、和室、食堂と分かれていた南側半分を大きな一室空間に。広めのウォークイン・クローゼットを加え、L字型のLDKに変えている。
床の素材に注目! ある部分できっぱり分けるユニークな使い方。
配管などの制限のある中、石井さんはどうデザインをしていったのだろうか? 注目したいのは、床の素材。ある場所は白いタイル、ある場所は木のフローリングと素材が切り替わっている。LDKを見てみよう。リビング側は、オークの無垢材を斜め張りにしたフローリング、キッチン・ダイニング側は白いタイルに。この無垢材とタイルは両方共に、廊下や個室の床に使われている。
「バスルームや部屋の一部が木の廊下に“にじみ出ている”ような感じにしたかった。玄関とLDKをつなげたいという思いがあり、床の素材を分けるとまとまりがつくのではないか、と考えました」と石井さん。
玄関から入り、無垢材を伝っていくと自然とリビングに着く。反対にリビングからタイルの床をたどって歩くと、バスルームや寝室など各部屋へつながっていく。異なる素材がメリハリをつけて使われていることで、家全体がなんだかすっきりと見えてくるから不思議だ。
南フランスの空と海のよう。限りなく透明感のあるブルー
まるで、晴れた日の透き通った空のよう。LDKのテーマカラーはブルーと当初から決まっていた。そこで、最も目立つ造作キッチンの扉材の全面に使うことに。夫妻で決めた空と海を思わせるブルーをいかにきれいに見せるか、という視点から床やテーブルの木、タイルの色を決めていったそう。
キッチンとダイニングテーブルの長さを合わせると、全部で4.3m! 堂々としたオープンキッチンだ。壁側にも低く抑えた壁付けの棚がある。調理をするときのワークスペースにもなり、M夫妻が希望していた大容量の収納を叶えている。
シンプルな間取りだからこそ、ちょっとしたデザインや色の遊びが生き、ヴィンテージ感、ナチュラル感、モダン感、それぞれのバランスが取れた空間になった。
家で過ごす時間が増えた! リノベーションの感想は?
部屋でくつろぎながら、「快適で何も不満がない」と話すM夫妻に、リノベーションをしている最中を振り返ってもらった。
「最初、私には中古マンションに対してマイナスイメージがあったんです。今は、理想の空間が手に入り、とても満足。大変だったのは、とにかく決めなければならないことが多かったこと。だからこそ、自分たちでつくった、という感覚が強いですね」と奥さま。
「素材決めが難しかったですね。まだ存在しないものを決めていくわけですから。サンプルを見ながら、とことん話し合いましたね。それと、キッチンの天板のバイブレーション加工(マットな質感に仕上げる加工法)をDIYしました。施工に参加することで、より愛着が湧いた気がします」とご主人。
ここに暮らし始めてから、外出が少なくなり、家で過ごす時間が格段に増えたMさん夫妻。家の中をどう飾るかを話し合うことも増えたそう。リノベーションをすることで、夢の暮らしが手に入れることを教えてくれる。
【住宅データ】
住宅名/M邸
設計/ブルースタジオ 石井 健
所在地/埼玉県和光市
形態/中古マンション(築32年)
専有面積/79.54㎡
間取り/3LDK→2LDK
家族構成/夫婦
これからリノベをする人に。ブルースタジオ・ 石井さんからのメッセージ
「消費税増税を控え、必ず駆け込み需要は起きるでしょう。物件も工事価格も上がるはず。中古物件は約3ヶ月で買い手が決まるため、素早い決断を迫られることもあります。ベストな買い物をするためにも、何年住む? 子供は何人?、個室はいくつ?など、早い段階で自分自身の暮らしを見つめ直しておきましょう」と石井さんからのアドバイス。
「中古の購入&リノベに対して『いいね!』がつくまで、10年、20年かかりました。古いものはNGというある種の呪いとの戦いでもあったわけです(笑)。それが今や当たり前の選択肢になりました。
その結果、似たようなリノベーション実例が増えてきているというのが正直な感想です。無垢材にして、オープンキッチンにして、サッシを変えて…だけが答えではありません。物件のあるエリアにしろ、物件にしろ、空間のデザインにしろ、もっと住まいに対して、自由に考えてみてもいいのでは? どんな暮らし方の可能性があるかを深く考えていくべきです」。
今まで大事にしていたものを一旦捨ててみる。リノベーションを考えるすべての人の小さな勇気が、日本の中古マンションのリノベをもっと豊かにするはずだ。
【建築家プロフィール】
石井健(いしい・たけし)/
ブルースタジオ執行役員
武蔵野美術大学建築学科卒業。T.I.S. & Partners を経て2001年よりブルースタジオにて建物ストックの再生「リノベーション」をテーマに建築設計、コンサルティング、マーケティング、ブランディングなど多岐の活動を展開。
2012年度グッドデザイン賞「郷さくら美術館」
2014年度グッドデザイン賞「さくらアパートメント」
◆著書
「リノベーションでかなえる、自分らしい暮らしとインテリア LIFE in TOKYO」
「リノベーション物件に住もう」
「MUJI家について話そう」(部分監修)
Text:山本奈奈(LIMIA編集部)
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