
「オレ」は乱暴?いつまでも名前呼びは心配? 男の子が自分を表現する「一人称」を使い分ける心理
男の子の自分の呼び方の使い分け、「オレ」が乱暴に聞こえたり、自分のことをずっと名前や愛称で呼び続けるのが気になったりする場合に、親はどうすればよいのか、考えてみましょう。
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男の子はいつから「オレ」「ぼく」を使うようになるの?
突然、自分のことを「オレ」と呼ぶようになったわが子に、驚いたり戸惑ったりしたというのは、子育て中の方からしばしば聞くお話です。
子どもの多くは、まず、「〇〇」「〇〇ちゃん」というように、名前や愛称など他の人から呼ばれるのと同じことばで自分のことを呼ぶようになります。
その後、男の子の場合は3歳くらいから「オレ」や「ぼく」を使い始める子が出始め、時に「自分」なども使用しながら成長し、必要に応じて最もフォーマルな「私(わたし・わたくし)」も用いるようになっていきます。
「オレ」や「ぼく」など男の子の自分の呼び方の使い分けのほか、「オレ」が乱暴に聞こえたり、自分のことをずっと名前や愛称で呼び続けるのが気になったりする場合に、親はどうすればいいのか、考えてみましょう。
いくつもの「自称詞」を使い分ける日本人
日本語は、自分自身を呼ぶときに用いる「自称詞」が豊富な言語で、さらにそれらが年齢・性別・出身・役割などと結びつきやすいという特徴があります。
注目したいのは、同じ人が常に同じ自称詞を用いるわけではないということ。話し相手が同じでも、場面や話題によっては異なる自称詞を使うことがあります。
たとえば、男性の自称詞には「オレ」「ぼく」「私」などがありますが、「オレ」は力強くカジュアル、「ぼく」はていねい、「私」はフォーマルなど、それぞれのことばは、ある程度共通の認識が持たれています。そのため、場面によって使い分ける人が多いのでしょう。普段母親との会話に「オレ」を使っていても、そこに第三者が加わると「ぼく」に変えることもありますね。
つまり自分をどう呼ぶかは、自分をどう表現したいか、また話している相手とどういう関係なのかによって変わるということになります。さらに、その表現が適切かどうかの基準は、話している相手によって変わる、繊細であいまいなものだといえるでしょう。
「わしゃ、おじいさんじゃ」― 5歳児はキャラクターと話し方の類型を理解している
金水敏さん(大阪大学大学院文学研究科教授)が代表者を務める研究グループでは、「おれはこの町が大好きだぜ」なら男の子、「わたくしは、この町が大好きですわ」ならお嬢様というように、特定のキャラクターと話し方を結びつける実験を行いました。その結果、5歳児では、この結びつけがほぼ完璧にできたそうです(※1)。
アンパンマンは「ぼく」、ばいきんまんは「おれさま」、戦隊ものなどのヒーローは「おれ」、クレヨンしんちゃんは「オラ」、また幼児の絵本の定番『三びきのやぎのがらがらどん』でも、ちびやぎは「ぼく」、おおきいやぎは「おれ」と明確に書き分けられています。
こういった特定の人物像を思い浮かべることができることば遣いを、金水さんは「役割語」と名付けました。実際に役割語通りの話し方をする人は少なく、主にフィクションや翻訳された外国人のことばの中などで用いられています。
子ども向けのメディアでは、年齢や性別、性格が強調された登場人物が多く、子どもたちはそこからキャラクターと自称詞を含む話し方の類型を学んでいるといえるでしょう。
自分でそれらを見聞きするだけでなく、友だちやきょうだい(特に兄)の影響を受けたりしながら、日常での使い方を学んでいきます。それと同時に、ことばからイメージをふくらませたり、イメージに合ったことばを使ったりしながら、日本語の豊かさを味わってもいます。
もちろん、過度に類型化することは固定観念を植え付けてしまう危険もありますから、大人の適切なフォローは必要です。
たとえば、「オレ」と「男は強い」「男は泣いてはいけない」などのイメージが結びついてしまいそうであれば、強さや泣くことに男女は関係ない、自分の中にある弱さを否定する必要はないということを伝えていかなければなりません。
「オレ」「ぼく」「○○ちゃん」…… 男の子の自称詞の使い分け
男の子が「オレ」「ぼく」を使い始めるようになっても、名前や愛称を全く使わなくなるわけではありません。新たな自称詞を名前や愛称と併用し、気分に応じて上手に使い分けます。
強い人になりたいときには「オレ」、あまえたいときには名前や愛称、おもしろい人になりたいときには「おら」、さらに、妹や弟、親しい年下の子どもがいれば、自分を「お兄ちゃん」と呼ぶこともあります。
一般に、年齢を重ねると、その場の状況に応じて自称詞を使い分けるようになりますが、幼児であっても、ことばに対するイメージは持っており、感情や表現したい自分に合ったものを選び、使っているのではないかと思います。
ただ、普段意識的に「オレ」「ぼく」としてふるまっていても、感情の起伏が大きいときには、自分が呼びたい呼び方が出てきてしまうこともあります。
たとえば、いつもは「ぼく」という子と園の先生の会話の場合、友だちと騒いでいる勢いで「オレ」を使うことも、悲しい気持ちを訴えたいときに「〇〇ちゃんね」と言うことも、特段珍しくないでしょう。
子どもの「オレ」が乱暴に感じてしまうときに考えたいこと
子どもの使う「オレ」が気になるときにどうすればいいのかは、乱暴に感じる理由によって異なります。
もし子どもの中で、「オレ」ということばと、暴力な価値観やジェンダーバイアスとが結びついているように感じられるときは、受け流さずにていねいに注意することが必要です。
また、身近な大人が「男の子はやんちゃなくらいがちょうどいい」など、男の子ならいい(悪い)というような発言をしていると、子どももそれをまねしたり、そういうものだと思い込んでしまったりすることがありますから、大人も改めなければなりません。
そうではなく、単純な響きやイメージの問題であれば、まずは見守ってみることをおすすめします。
4・5歳になると「大きい」「強い」ものに憧れる気持ちが強まるため、強そうな「オレ」を使うようになる子もいます。周囲に「オレ」を使う子が増えれば、自分も同じ呼び方をすると帰属意識が高まりますから、「オレ」と言うことに喜びを感じます。
また、自分の感情に合ったことばを用いることで、気持ちが開放的になったり、ことばを操る楽しさを感じたりすることもあります。新しく知ったことばを使ってみたい、周囲の関心をひきたいという気持ちもあるでしょう。
いずれにしても、成長するに従い、その場に適切な自称詞やことば遣いを用いることを求められる場面は増えてきますから、子どもも徐々に使い分けを覚えなければならなくなります。
大人が気になることば遣いについては、「そのことばを聞いて自分がどう感じたのか」「どんなふうに気持ちを伝えたらいいのか」など、話してみてはいかがでしょうか。
ちなみに教員をしていたとき私は、高校生にこんなことを言われたことがあります。「先生、オレは先生に対して『ぼく』じゃなくて『オレ』って言っちゃうけど、漢字の『俺』じゃないから、そんなに失礼じゃないということにしてください。」
確かに日本語は、どう書くかによってイメージが変わります。ことばに対する理解や感性、そして私に対する配慮に感心してしまった出来事でした。
ドキッとしたりモヤモヤしたり、お子さんのことば遣いに悩んでしまうこともありますよね。けれども、お子さんがことばを覚え、使いこなすようになるまでの過程も、ぜひ楽しんでいただけたらと思います。
「オレ」「ぼく」を使わない! いつまでも自分を名前で呼ぶのが心配
小学校入学前後あたりには、自然と「オレ」「ぼく」を使うようになる子が多くなりますから、保育園・幼稚園の友だちと比べて悩む必要はありません。
ただ、呼び方を変えることで、自分や、周りとの関係が変わってしまうのではと不安になってしまう子もいます。成長による変化に対する不安や戸惑いであることも多いので、子どもの話に耳を傾け、その意思を尊重してあげてください。いつの間にか変わっていたということもあるでしょう。
また、自分の性に悩んでいるために、自称詞を選べないこともあります。そもそも自分が使いたい自称詞が見つからないこともあれば、男の子の「わたし」など、使いたくても使えないということもあります。園や学校の指導に困惑してしまったり、自分を名前で呼ぶことを友だちにからかわれて辛い思いをしたりしているかもしれません。
先述の通り、自称詞は「自分をどう表現したいか」で選ぶものでもあります。つまり、アイデンティティと深く結びついているということです。自分をどう呼ぶにしても、子どもが安心して自分らしく生きられるよう、大人として、ていねいに関わっていきたいですね。
【注】
※1 金水敏(2011)「役割語と日本語教育」『日本語教育』150(0), 34-41
【参考】
大和田智文(2010)「若者における一人称の使用の様相とその機能的意味」『関西福祉大学社会福祉学部研究紀要』(13), 77-86
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