初めて明かされる『るろうに剣心』10年の秘話が満載!大友啓史監督が読者の質問に次々回答

シリーズのグランドフィナーレとして2部作として連続公開され、メガヒットを記録中の『るろうに剣心 最終章 The Fina...

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この記事の目次
  1. 「原作から映画に脚本を起こす時、どのようにまとめていくのですか。文章からですか、映像からですか?」(40代・女性)
  2. 「『るろうに剣心』初期からキャスト発表が楽しみでした。キャスティングはどのような考え方でされているのかを知りたいです!」(20代・男性)
  3. 「『The Beginning』で描かれている『追憶編』は、原作漫画やアニメと大きくテイストが異なる物語です。大友監督がアニメ版の追憶編をご覧になり、どう感じたのかをお聞きしたいです」(20代・男性)
  4. 「『The Beginning』の舞台挨拶で、大友監督は『想像以上の演技力(迫力)でカットをかけ忘れた』と言われていましたが、どのシーンでしょうか」(40代・女性)
  5. 「剣心のポニーテールの高さが、時により異なりますが、そのあたりは意識して変えていますか?」(30代・女性)
  6. 「『The Final』と『The Beginning』では撮影方法が異なっていると思いました。『The Beginning』で、剣心をかばって斬られる巴のシーンを、カメラを固定して撮影されたのは、どのような意図があったのでしょうか?」(10代・女性)
  7. 「最終章の劇中で巴が持っていた風車と、『京都大火編』で剣心が持っていた風車とはなにか関連性はありますか?」(30代・女性)
  8. 「原作コミックでは巴が持っていた小刀が偶然かすって十字傷になったのに対して、実写版では巴が意図して剣心の頬に傷をつけていました。これはどういう意図があったのでしょうか?」(20代・男性)
  9. 「剣心が巴の亡骸の隣でご飯を食べるシーンが印象的でしたが、どういう意図で撮られたのでしょうか?」(30代・女性)
  10. 「『The Beginning』の最後で、第1作の鳥羽伏見の戦いに繋がる編集がすばらしかったです。若き佐藤健さんの芝居にも驚かされましたが、最初からこの構想はあったのでしょうか?」(50代・女性)
  11. 「『The Beginning』は、第1作に撮られたシーンを混ぜて編集されていますが、一番意識したのはどんな点ですか?佐藤健さん江口洋介さんが本当に違和感なくすばらしかったです」 (40代・女性)
  12. 「いままでのシリーズでは本編が終わって暗転し、そこから主題歌が始まるパターンでしたが、『The Final』だけは本編に被せて曲が入る演出でした。佐藤健さんはそこがすごく好きだと言っていましたが、そうした理由を教えてください」(50代・女性)
  13. 「これまで『るろうに剣心』シリーズを撮ってきて、心が折れたことや、人知れず泣いたことはありましたか?」(50代・女性)
  14. 「大友監督が影響を受けた映像作品を教えてください」(40代・女性)
  15. 「大友監督は大学で法学を学ばれていましたが、畑違いである映像の道へ進まれたキッカケを教えてください」(40代・女性)
  16. 「僕はいま大学3年生なのですが、就職や将来のことで不安です。大友監督は学生時代、なにか不安なことはありましたか?アドバイスをお願いします」(20代・男性)
  17. 「大友監督作で初めて没頭したのは大河ドラマの『龍馬伝』でしたが、監督の思う幕末という時代が持つ魅力はどんな点ですか?」(30代・女性)
  18. 「幕末以外では、どの時代に興味がありますか?」(40代・女性)
  19. 「『るろうに剣心』の映画がこれで最後となるのは本当に寂しいです。現在、原作コミックでは『るろうに剣心-明治剣客浪漫譚・北海道編-』が連載中ですが、『るろ剣』ファンは続編を待ち望んでいます!」 (10代・男性)
  20. 「今後、『るろうに剣心』のキャラで誰か1人にスポットを当てたスピンオフを作るとしたら、誰のどんな話を選びますか?」(40代・女性)
  21. 「次に佐藤健さん主演で映画を撮ることになったとしたら、どんなものを撮りたいですか?」(50代・女性)
  22. 「ついに映画『るろうに剣心』シリーズが幕を閉じましたが、大友監督は燃え尽き症候群にはならなかったのですか?また、次の作品の構想があれば教えてください」(50代・女性)

シリーズのグランドフィナーレとして2部作として連続公開され、メガヒットを記録中の『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』。2011年に映画第1作が誕生してから10年という歳月が流れ、主演の佐藤健はいまや押しも押されもせぬトップスターとなった。コロナ禍での公開延期を経てようやく封切られた2作だが、シリーズ全作で監督を務め、脚本も手掛けてきた大友啓史監督は、完結を迎えたいま、どういう心境なのだろうか。

そこで今回、MOVIE WALKER PRESSではユーザーからTwitterで募った質問の数々を大友監督にぶつけて答えてもらう“AMA”(=Ask Me Anythingの略。ネットスラング風に言うと「大友啓史だけど、なにか質問ある?」といった意味)を実施。話を聞くと「荒波のなかで敢えて船出をした」と言う大友監督の胸中には、様々な葛藤があったようだ。今回は、『The Final』や『The Beginning』の製作秘話やこぼれ話はもちろん、パーソナルな側面に切り込んだ話まで、大友監督が語ってくれた様々なトピックをお届けする。

「原作から映画に脚本を起こす時、どのようにまとめていくのですか。文章からですか、映像からですか?」(40代・女性)

「るろうに剣心」シリーズのメガホンをとってきた大友啓史監督 / [c]和月伸宏/集英社 [c]2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会

「前提として、まずは撮影のことはまったく考えずに書き始めます。『るろうに剣心』の場合は原作がありますから、ストーリーの大きな流れは決まっています。『The Beginning』であれば、剣心と雪代巴(有村架純)との十字傷にまつわる出会いと別れの物語。『The Final』は、それを受けての剣心と雪代縁(新田真剣佑)の間に横たわる確執の復讐譚。それを軸に、必要な要素を取捨選択しながら、一番ワクワクするストーリーを探っていきます。同時に、それぞれのキャラクターを強化し、どういう形でどの程度登場させるかを考えます。

『るろうに剣心』シリーズの場合、特にこだわっているのは、冒頭でどれだけお客さんのハートをつかめるかということ。様々なアイデアで書き始め、中心となる人物を軸に物語を動かしていき、一旦ざっくりと最後まで書いてからリライトをしまくります。“ライティング イズ リライティング”ですからね。

一稿一稿リライトを終えるたびに、脚本の書体も明朝体やゴシック体などまったく別の字体に変えてプリントアウトして、真っ白な、新鮮な気持ちで読み返すよう心掛けています。字体を変えるのは、僕ではない誰かが書いたものとして、客観的に読むための僕なりの工夫です。あちこち読む場所も変えて、読んではまたパソコンで修正し、再度別な字体で打ちだすという作業を繰り返します。最初は剣心、次に巴や縁の気持ちになって読んだり、時には俳優の意見を聞きながら、次第に実際に撮ることを考え、手を加えていきます。その後ロケハンをし、場所を考慮したり時代考証を重ねたりして修正し、ようやく第一稿が完成します」

「『るろうに剣心』初期からキャスト発表が楽しみでした。キャスティングはどのような考え方でされているのかを知りたいです!」(20代・男性)

歴代キャストが集結し、怒涛の展開を迎える最終章 / [c]和月伸宏/集英社 [c]2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会

「漫画原作の映画化作品だと、どうしてもキャラクターと似ているか似てないかが議論されます。もちろん原作のイメージは考慮しますが、やはり二次元の世界なので、僕はそこを少し離れ、まずは役としての経歴を重視します。例えば、高荷恵(蒼井優)なら、会津の名家の医者で生まれたけど、戊辰戦争で天涯孤独の身となり、武田観柳に出会うという、リアルなプロフィールを想像しながら、生身の人間として捉える努力をします。

僕が一番大事にしているのは、その役者さんがいかにして役を引き寄せ、もしくは、役と一心同体となって芝居にのめり込んでくれるかという点です。それができる俳優たちは、自然に役と同化していく気がします。そのあと、衣装やメイクを用意して、彼ら彼女らが堂々と演じられるように作り込んでいく。つまり二次元の絵柄をなぞるのではなく、僕なりの基準で、フィクションでありつつもしっかりと生身の芝居と感情に落とし込んでいく。そこには、明確に技術と思考のツール、そして準備期間が必要です。

また、相手役との芝居の相性もあるし、スケジュール調整も必要なので、1つの役に4~5人の候補を考えておかなければならない。日本の俳優たちは忙しいですからね。最終的にはパズルのような思考作業を得て、決めていきます。みなさんが思っている以上にギリギリまで粘って、ベストチョイスを探しています」

「『The Beginning』で描かれている『追憶編』は、原作漫画やアニメと大きくテイストが異なる物語です。大友監督がアニメ版の追憶編をご覧になり、どう感じたのかをお聞きしたいです」(20代・男性)

「アニメ版の追憶編は、『最終章』の企画が始まり、脚本を書く前に1回観直しましたが、アニメでここまでストイックにやるのか!と感銘を受けました。当然10年前に第1作を撮る前にも観ましたが、引きずられすぎてもよくないので、通しで観たのはその2回だけです。すばらしい作品だと感じましたし、当然触発されている部分も少なくありません」

「『The Beginning』の舞台挨拶で、大友監督は『想像以上の演技力(迫力)でカットをかけ忘れた』と言われていましたが、どのシーンでしょうか」(40代・女性)

「いや、覚えてないですね、そんなシーンあったかな。迫力云々ということではありませんが、剣心が縁と最初に出会って、神谷道場の面々に過去を告白した後で雨に打たれるシーンでは、長い時間カットをかけませんでしたね。あのシーンは天気かなにかの都合で撮りこぼし、別日にもう1回撮り直しました。雨の降り具合や濡れ方、スモークの動きなど、細かい部分にかなりデリケートにこだわったので、テイクを重ね、めちゃくちゃ長回しをした記憶があります」

「剣心のポニーテールの高さが、時により異なりますが、そのあたりは意識して変えていますか?」(30代・女性)

佐藤のポニーテールの位置にも演出意図が! / [c]和月伸宏/集英社 [c]2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会

「髷の高さは、年齢の見え方に影響します。髷が少し高めだと若く見え、少し荒ぶっている感じになりますが、低いと少し落ち着いた印象になります。スタンダードな高さはありますが、時代によっても変えるし、あとは現場で、衣装さんやメイクさんと健くんが話しながら、細かい調整をやっていたと思いますね」

「『The Final』と『The Beginning』では撮影方法が異なっていると思いました。『The Beginning』で、剣心をかばって斬られる巴のシーンを、カメラを固定して撮影されたのは、どのような意図があったのでしょうか?」(10代・女性)

有村架純を演出する大友監督 / [c]和月伸宏/集英社 [c]2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会

「あのシーンは引いた横画の固定ショットだけではなく、当然いろんなカットを撮っています。その結果、息が止まるような瞬間をどう印象づけるかということで、撮影監督の石坂拓郎さんが足を据えて撮ったものをマスターショットとして選択し、一番印象に残るように編集しました。その場で起きていること、そして「生きている」登場人物たちの感情を思うと、とてもカメラを動かせるようなシーンではありません。フィクションとはいえ、カメラはレンズ前で起きていることの目撃者でもあります。カメラを動かすことなどできない、ただ見つめることしかできない瞬間だったと思います」

「最終章の劇中で巴が持っていた風車と、『京都大火編』で剣心が持っていた風車とはなにか関連性はありますか?」(30代・女性)

巴の秘めた想いを表現しきった有村 / [c]和月伸宏/集英社 [c]2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会

「着想は『京都大火編』からきています。あの時代はたくさんおもちゃがあったわけでもないし、風車は平和な暮らしを象徴するものでもあったので。それが巴のそばにあり、それを縁も感じていて、神谷薫(武井咲)も手にするんです。また、原作に『歴史の歯車が狂狂(くるくる)回り始める』という当て字があり、その言葉がものすごく僕のなかに残っていました。確かにあの時代は、それぞれが思う方向とは違う側に運命の歯車が回っていったので、そのイメージが連鎖し、風車を、それぞれの運命を繋ぐ小道具として活用しました」

「原作コミックでは巴が持っていた小刀が偶然かすって十字傷になったのに対して、実写版では巴が意図して剣心の頬に傷をつけていました。これはどういう意図があったのでしょうか?」(20代・男性)

2人の感情の流れを、大友監督は繊細に切り取る / [c]和月伸宏/集英社 [c]2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会

「原作とアニメを押さえたうえで、実写として見せる場合、きれいな十字傷がつくという偶然性には頼れないなと思ったからです。僕は剣心の十字傷を見た時、誰かの強い意志を感じたんですね。その誰かとは、当然巴か剣心でなければならない。巴の意志と、それを受け止める剣心の意志とが重なった方が、ドラマとして厚みのある作品になるであろうと思い、あの形を演出しました。

十字傷はある意味、剣心に託された十字架のようなもので、巴から渡された宿命でもある。巴の日記にもあった『あの人はこれからも先も人を斬るけれど、その先、さらに多くの人を助けるでしょう』という想いを剣心と巴が共有した結果が十字傷になったということです。だから助監督や美術監督といろんなポージングをしながら、どうやったら上手く傷がつけられるかを探っていきました」

「剣心が巴の亡骸の隣でご飯を食べるシーンが印象的でしたが、どういう意図で撮られたのでしょうか?」(30代・女性)

原作ファンからも圧倒的な支持を集める、追憶編 / [c]和月伸宏/集英社 [c]2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会

「剣心はあの時まだ10代で、もしかしたら巴は彼が初めて愛した人かもしれないし、しかも巴を斬る前日に2人は結ばれているわけです。それなのに、自分の意図とは違う形で、一番大切な人の命を自分の手で奪ってしまった。なので剣心としては、突然訪れた巴の死を受け止める時間が必要で、それが巴の亡骸と過ごす時間でした。あの時間に、剣心は巴と暮らした生活を思い出しながら、失くしてしまった小さな幸せ、愛する人の大切さをかみしめていたと思います。

また、大義のために、巴の許嫁だった清里(窪田正孝)を犠牲にした罪が、ズシッと重くのしかかってくる時間でもあったかと。そのなかで彼は、巴の生き方を無にしないためにも、新しい時代のためにも、自分がやれることをやるしかないというところまでたどりつく。濃密だけど、彼にとってはすごく空虚で寂しい、無に等しい時間だった。と同時に、自らのその後の人生の有様を思索し、覚悟する時間でもあったのだろうと考え、あのようなモンタージュシーンを作りました」

「『The Beginning』の最後で、第1作の鳥羽伏見の戦いに繋がる編集がすばらしかったです。若き佐藤健さんの芝居にも驚かされましたが、最初からこの構想はあったのでしょうか?」(50代・女性)

「あのシーンをもう一度撮り直したほうがいいのかどうかは考えましたが、観直して大丈夫だなと思ったので、以前撮ったものを使用しました。脚本を作りながら、『The Beginning』の最後をああいう終わり方にすれば、シリーズの連関が続いていくなと思ったんです。第1作は僕や健くん、スタッフにとってまさに“Beginning”だったし、ONE OK ROCKも当時『The Beginning』という曲を作ってくれたので、シリーズを締めくくるに美しい終わり方にたどり着けたと思いました。そして、剣心の過去と十字傷のついた経緯を知ることで、第1作からの見え方も変わるのではないかと」

「『The Beginning』は、第1作に撮られたシーンを混ぜて編集されていますが、一番意識したのはどんな点ですか?佐藤健さん江口洋介さんが本当に違和感なくすばらしかったです」 (40代・女性)

『The Final』冒頭では、汽車のなかで激しいアクションを披露した江口 / [c]和月伸宏/集英社 [c]2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会

「人間には肉体年齢と精神年齢があり、辛いことがありすぎると、精神的にも見た目的にも老けていきますが、明るく豊かな時代になると、そうはならないのだと思います。明治の明るい時代の剣心は、贖罪を抱えていても、幕末のように殺伐とした時代の彼とは違い、薫を始めとする神谷道場の仲間たちと出会い、『神谷活心流』の考えに触れたことで変わっていった。気持ち的に和らぎ、むしろ年齢的にも若く見えることが、設定上も納得できるというか、そういう考えに基づき演出しています。

逆に15年前の人斬り抜刀斎だったころの剣心は、なにを食べてもおいしくないし、酒を飲んでも血の味しかしない、社会の片隅で孤独に生きているテロリストなわけで、老いて見えて当然かなと。江口さん演じる斎藤一も同様ですね。大義をかざして剣を縦横無尽に振れる戦場こそが、剣に生きる彼が一番輝きを放つ場所でもある。鳥羽・伏見の戦いのシーンでこそ若さに溢れ、猛々しい印象を残す。そういうイメージを基に10年前の素材を利用しています」

「いままでのシリーズでは本編が終わって暗転し、そこから主題歌が始まるパターンでしたが、『The Final』だけは本編に被せて曲が入る演出でした。佐藤健さんはそこがすごく好きだと言っていましたが、そうした理由を教えてください」(50代・女性)

「ONE OK ROCKの曲『Renegades』が届いた時、反逆者という意味を持つ言葉から連想される曲調とは全く違う、予想外の前奏に惹かれました。剣心と薫が2人で仲良く手をつないでいく背中、その根っこにあるものを捉えた見事な導入です。シリーズ最後の2人のカットでは、この先剣心と薫はずっと一緒に生きていくいくんだろうなと、観客に感じて欲しかった。編集の段階で細かくタイミングを合わせ、最終的にあの形になりました」

「これまで『るろうに剣心』シリーズを撮ってきて、心が折れたことや、人知れず泣いたことはありましたか?」(50代・女性)

大友監督は全身全霊を傾けて本作に挑んだ / [c]和月伸宏/集英社 [c]2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会

「心が折れたという表現が合っているかどうかはわからないですが、撮影中は不安定になる時期もありました。様々な作業が重なり、撮影が大変すぎて睡眠時間が取れないのと、お酒を飲んだりもするので、けっこう激しく感情が揺れて、電話でやりとりをしながら、怒ったりして。撮影が終わったあとも、そこから先の方針などで上手くいかなかったりすることもありますし。僕はそういう時、ホテルに着く前の、移動中の車のなかで、落ち込んだり喜んだり、怒ったり泣いたり、感情を整理しますね。車にはドライバーも乗っていますが、基本的には僕一人のスペースになれるから、他人には見せられない感じで、感情を爆発させることがよくありました」

「大友監督が影響を受けた映像作品を教えてください」(40代・女性)

「映像作品はその時々で観るものが全然違いました。中学生時代は松田優作さん、ジャッキー・チェン、ブルース・リーなど、王道のアクション映画が好きだったし、高校時代に一人暮らしを始めたころはヨーロッパのアートムービーに没頭しました。ベルナルド・ベルトルッチの『暗殺の森』やルイ・マルの『太陽がいっぱい』、フランソワ・トリュフォーの『大人は判ってくれない』、日本映画だと寺山修司さんの映画なども繰り返し観ました。大学時代は、五社英雄さんや深作欣二さんの映画をはじめ、東京暮らしでミニシアターに行けたので、ジム・ジャームッシュ、リュック・ベッソン、レオス・カラックスなどの映画をランダムに観まくっていましたね」

「大友監督は大学で法学を学ばれていましたが、畑違いである映像の道へ進まれたキッカケを教えてください」(40代・女性)

NHKで学んだテクニックが、大友監督のキャリアの根底にある / [c]和月伸宏/集英社 [c]2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会

「僕は大学で法学部に入った時、早く司法試験に合格したいと思い、予備校みたいなセカンドスクールにも通っていました。ところが最初の2年で自分には向いてないと思い始め、学士入学で法学部を卒業したら、仏文学部とか文学系に転学しようとも思っていたんです。3、4年生になって、就職からの逃避もあったと思いますが、できれば大学に残りたいと考えていた時期もあったし、そのころから自分はメディアの仕事が向いてるんじゃないかとも思い始めました。その後、就職試験を受け、ご縁のあったNHKに入ってドキュンタリーを志望し、地方で『のど自慢』や『きょうの料理』などいろんな番組を担当したあと、映画が好きだった学生時代を思い出して、ドラマ畑に行ったという流れです」

「僕はいま大学3年生なのですが、就職や将来のことで不安です。大友監督は学生時代、なにか不安なことはありましたか?アドバイスをお願いします」(20代・男性)

「最終章」では、これまで明かされなかった剣心の苦悩が描かれる / [c]和月伸宏/集英社 [c]2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会

「僕が就職したころはバブル時代で、いまよりも恵まれた状況でしたが、僕自身も自分がどの道に進むべきなのかずっとわからなくて、就職試験でもメーカーや金融、商社、会計事務所、印刷系、出版社など、いろんな職種を受けました。ただ1つ言えることは、自分の運命を決めるのは、人との思いがけない出会いなので、部屋にこもって考えていても解決しないところがあると思います。

僕はNHKの面接官との相性がすごく良くて、そこで話が盛り上がり、内定をもらいました。一人でいる孤独な時間に自分の考えを固めるのも大事だし、いまはコロナ禍で外出しにくいのですが、僕はなるべくチャンスを活かし、リモートでも人と会って話をしたほうがいいと思います。そうすれば、自分の道が自然に開けるという場合もあるし、僕自身も映画監督になろうと思ってなったわけじゃなくて、そういう出会いを経て、結果的に映画監督にたどりついた感じです」

「大友監督作で初めて没頭したのは大河ドラマの『龍馬伝』でしたが、監督の思う幕末という時代が持つ魅力はどんな点ですか?」(30代・女性)

「幕末は時代の大きな変わり目で、個人のエネルギーが集約されます。黒船の来航以来、日本はこのままいくと取り返しがつかないことになる、という想いに駆り立てられた人たちが動き始めました。『龍馬伝』でも、人々がずっと座敷に座って延々会議をしているのではなく、龍馬が動けば風が巻き起こる。時代が動く。龍馬が巻き起こす変革のうねり、風の動きを可視化するために、スモークやコーンスターチを使った演出をしましたが、そのタッチが活劇に相性が良く、現在の作品群につながっています」

「幕末以外では、どの時代に興味がありますか?」(40代・女性)

「剣心」10年間の集大成であり、大友監督の幕末ものの集大成ともなった / [c]和月伸宏/集英社 [c]2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会

「どの時代にも興味があります。昭和、平成、令和と年号が移るたびに大きく変わったことがあると思うし、僕たちが生まれた昭和や、その前の大正、遡った戦国時代もおもしろそう。それぞれの時代によっておもしろがり方がたくさんあるので、今後はいろんな時代を撮っていきたいと思っています。ただ、幕末は比較的やりきった感はありますね」

「『るろうに剣心』の映画がこれで最後となるのは本当に寂しいです。現在、原作コミックでは『るろうに剣心-明治剣客浪漫譚・北海道編-』が連載中ですが、『るろ剣』ファンは続編を待ち望んでいます!」 (10代・男性)

20代から30代へ、シリーズを通して飛躍を続けた佐藤 / [c]和月伸宏/集英社 [c]2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会

「すみません。ここまで、『ファイナルです!』と言ってしまっているので、いまのところは『またやります』ってことにはならないです(苦笑)」

「今後、『るろうに剣心』のキャラで誰か1人にスポットを当てたスピンオフを作るとしたら、誰のどんな話を選びますか?」(40代・女性)

「それぞれのキャラにバックボーンとなるストーリーがあるので、やろうと思えばどのキャラでもスピンオフはできます。神谷道場の面子でいえば、剣心と出会う前の薫や、相楽左之助(青木崇高)、恵の話もおもしろいと思います。武田観柳(香川照之)や縁の中国時代なども興味深いですし、誰とは決められないですね」

「次に佐藤健さん主演で映画を撮ることになったとしたら、どんなものを撮りたいですか?」(50代・女性)

「健くんとは10年間みっちりやったので、僕のなかでは『恋は続くよどこまでも』でも佐藤健の姿に剣心が見えちゃうから、いまは少し時間を空けたほうがいいんじゃないかなと思います。健くんは30代なので、たぶんこれからは20代では演じられなかった役など、いろいろな勝負をしていくでしょう。その流れで、僕自身のなかにも自然と、年相応の佐藤健とまた組みたい企画が出てくる気がするので、無理やり探すものでもないかなと。役者と監督は夫婦と同じようなもので、出会う時にはまた出会えると思います」

「ついに映画『るろうに剣心』シリーズが幕を閉じましたが、大友監督は燃え尽き症候群にはならなかったのですか?また、次の作品の構想があれば教えてください」(50代・女性)

『るろうに剣心 最終章 The Beginning』は公開中 / [c]和月伸宏/集英社 [c]2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会

「なってないです(苦笑)。まだ公開中ですし、ひとりでも多くの人に観てほしいと思っているので。緊急事態宣言という嵐を受け、ほかの映画がまたどんどん延期していくなかで、僕たちは踏みとどまって公開を決めました。やはり10年間やってきたシリーズへの思い入れや、映画館を支えたいという気持ちもあったから。

緊急事態宣言のなかで、観たいと思いつつもまだ足を運んでいただけないお客さんも多いと思いますし、そういう意味で僕のなかではまだシリーズは終わっていなくて、現在進行系であがいてる感じです。だから、こういう記事を通して、劇場の方々に、ファンの方々の声を届けてほしいとも思いました。

僕はいまだに闘っています。もちろん次の作品も動きだしてはいるけど、配信など新しい流れが出てきているなかで、僕自身は映画に対する熱い想いがあり、配信作品とどう両立させていこうかとは考えています。ただ、いまはまだ、多くの方々に、最終章を観ていただきたいという気持ちでいっぱいです」

取材・文/山崎伸子


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