二川由夫の世界建築日記 ~3州を巡るアメリカ建築記~

GAシリーズの編集長を務める二川由夫氏の特別寄稿第五弾。
最新の建築トレンドを、今回は晩秋の北米からお送りします。

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ミシガン州・デトロイトへ

この世界建築日記,前回のアップから諸事情があり,随分と時間が空いてしまった。今回は昨年の11月,晩秋アメリカの早足な旅行記。
まずは直行便でデトロイトへ。かつてこの町は自動車王国アメリカのメッカであったが,その栄光は今は昔の話であり,昨今は財政破綻のニュースや治安悪化などが伝えられる。ダウンタウンは空洞化し,富裕層や企業のオフィスは郊外に。しかし過去の産業遺構の建築のスケールの大きさにかつての栄華が偲ばれる。
今回のデトロイトでの目的はローレンス工科大学,トーブマン・コンプレックスの撮影。ロサンゼルスを拠点に世界的に活躍する,トム・メイン率いるモーフォシスの設計。この大学もデトロイト郊外にある比較的新しいキャンパス。近接する道路の両側には大企業のタワーオフィスが建つものの,まだまだ緑が多く残っていて,鴨の群れが観られるのどかさ。キャンパスは方形の広場を囲む口の字型で,既存の建物を結ぶ様に建てられた。昨今のモーフォシスの作品は複雑な形態操作によるものが多いのだが,これは内外部ともにかなりシンプルな構成。夜に発光するファサードが美しい。

ローレンス工科大学トーブマン・コンプレックス

アイオワ州・アイオワシティへ

デトロイトから西に移動,シカゴを通り過ごしてアイオワシティへ。アイオワ大学のスティーヴン・ホール設計,視聴覚芸術棟の撮影。敷地は以前ホールが手がけた芸術西棟の隣,2つの建物の対比は興味深い。それは決して時間が作った差ではなく,時代を超えた2つの建築アプローチであり,2つの建物は同じように輝いている。西側の古い建物は鉄とガラスの力強いフォルムと仕上げに対して,新しい棟は,繊細なパターンが与えられ,美しい輝き発散するをチタン/亜鉛の有孔パネルとガラス壁による。2つの建物とも,スティーヴン・ホールにしか作れないオリジナリティに溢れていて,時代に消費されない強さを持っている。

アイオワ大学視聴覚芸術棟

内部は外観の閉じた印象とは異なり,中央の大きなアトリウムにはトップライトと南北両サイドのガラス壁からもたらされる自然光に浮かび上がる白亜の空間。各階のスタジオ/教室郡はそれぞれに光や空間のアイデンティティが与えられている。

アイオワ大学視聴覚芸術棟アトリウム

テキサス州・フォートワースへ

アイオワシティから再びデトロイトを経由してテキサス州のオースチンへ。初日天候がすぐれないので予定していた撮影を延期,日帰りでフォートワースに行くことにする。フォートワースはこの30年間で何度行ったことだろうか,世界的な建築巡礼の街である。最大の巡礼地はキンベル美術館である。設計は戦後アメリカ現代建築最大の巨匠,ルイス・カーン。近年,イタリア人建築家のレンゾ・ピアノにより隣地に大規模な増築が行われたが,カーンの建物は十分な距離を取られることでオリジナルの姿を保っている。増築は昨今のアートの巨大化に対応する大空間であるが,オリジナルの美術館に一度入れば,かつてアートが鑑賞されたヒューマニスティックな親しみのある空間がそこにある。連鎖するヴォールトによる構成。精微にして優しく,完璧なカーブを描く天井のヴォールトはその頂に素晴らしいディテールのトップライトが設けられ,光は天井のカーブを伝って展示室を浮かび上がらせている。その様は30数年前に初めて体験した驚きを瑞々しくリピートさせ,そして未来永劫にその感性は朽ちない。完璧な建築。美術館であり,神殿である。

キンベル美術館

キンベルの向かいには安藤忠雄さんのフォートワース現代美術館が建つ。コンクリートとガラスの美術館はやはりカーンに対して最大級の敬意を表する安藤さんの傑作。

フォートワース現代美術館

最後に。 〜 二夜連続で訪れたお気に入りのバーベキュー屋 〜

テキサスには独特な食べ物,バーベキューがある。日本で言う所のキャンプでするようなバーベキューではなく,低温でじっくり燻製され,真っ黒けになった味わい深い「肉」。オースチンには好きなバーベキュー屋がある。そこに二夜連続で行った。とても美味しいが毎日食べたら早死にしそうな食べ物。

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建築書籍/雑誌=GA DOCUMENT, GA HOUSES, GA JAPAN発行人・編集長/評論/写真家。1962年東京都生まれ。早稲田大学理工学部機械工学…

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