巨大な「き」を描く。日本の森へ思いを込めて/ミヤケマイ×佐野文彦

どこか日本らしさを感じさせる親しみやすいイラストなど、多彩な表現で幅広いファンをもつ、ミヤケマイ氏が気鋭の建築家&美術家の佐野文彦氏とのコラボレーション。デザインイベント「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH」でユニークな作品を展開した。隈研吾氏の考案による「つみき」が一体どのような形に?

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木を使った巨大な作品「木ヲ見て森ヲ見ズ 森ヲ見て木ヲ見ズ」

隈研吾氏が考案した「つみき」を使って作品をつくるというテーマで、異なるジャンルのクリエイターがさまざまなデザインを生み出した「つみきの広場」。2015年10月中旬、東京ミッドタウンで行われた「デザインを五感で楽しむ」をコンセプトにしたイベント「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH」のひとつである。「つみきの広場」は、音楽家・坂本龍一氏が設立した森林保全団体であるmore trees(モア・トゥリーズ)が制作を担当した。


アーティストのミヤケマイさんと建築家&芸術家の佐野文彦氏が、「つみき」を使うという課題を受けて、生み出したのが、屋外のインスタレーションだ。

作品タイトルは、「木ヲ見て森ヲ見ズ 森ヲ見て木ヲ見ズ」。

ミヤケ氏と佐野氏が展開した作品は、芝生広場の上に、華奢に見える細い木材が間隔をもって立ち並び、頭上でつながっている「構造体」。

少し遠くから見ると何かの塊のように見え、近づいて中に入ると木々のように見えてくる。そして、頭上へと目をやると…。

体験しているうちにさらに別の視点に気付かされ、見方によって意味合いが変わり、木と森、森と人、人と人とのつながりを感じさせるこの作品。この不思議な世界は、どのようにして生まれたのだろうか。

今の日本における森林の状況を伝えたいーー

ミヤケマイさんによる大分県立美術館(OPAM)の作品写真。 Photo: Satoshi Shigeta

──LIMIA編集部:この作品が生み出された背景を教えて下さい。

ミヤケマイさん(以下、ミヤケ):今回、モア・トゥリーズから依頼を受けたことをきっかけに、日本の森林について話を伺いました。半世紀前、木材の自給率は100%だったものが、今は20%にまで落ち込んでいると知って驚愕しました。林業に携わっている友人知人が何人かいるのですが、その息子たちが家業を継いでいないのはそういうことだったのかと。それで、森林の状況を表すコンセプトを考えていきました。

優しさと厳しさ。両方のメッセージを伝える

地面に刺してある木材は間伐材で、細いこれらが並ぶことで林や森のように見えてきます。この森の中を歩きながら空を眺めてみてください。木材の上部分に、緑と赤の色を塗った「つみき」を取り付けてあるのに気付きましたか?

全体のうち、20%の部分が初夏をイメージした「緑」に、80%は紅葉を感じさせる「赤」に塗っています。これは、日本の森林に生える木のうち、20%しか使われていないことを表しているわけです。

それぞれの「つみき」には赤と緑の色が付いた透明板が張られていて、そこにはメッセージが透明に抜かれています。空が青ければ青い文字、白ければ白文字が見える。自然と融合したようなかたちで、また近づかないと見えないものを用意しました。

森の中を歩き回って読んでいただくとわかると思いますが、緑色のところでは優しいメッセージが、赤色のところでは森林に関する警告文のようなメッセージが刻まれています。

上空から眺めると「き」に気付く仕掛け

──LIMIA編集部:木材自体の配置はどのようにされたのでしょうか?

ミヤケ:実はこれ、高いところから見ると、2本の直線に斜線が入ったカタカナの「キ」の形になるように配置してあるんです。赤い「つみき」が付いた部分を目で追っていただくとそう見えるはずです。これは「≠(ノットイコール)」の記号ともかけていて、森林はたくさんあるのに実は使えるわけではない、という意味を表したかったのです。

そして、緑の「つみき」が付いた部分を目で追うと湾曲していることに気付くと思います。これは、緑の部分と赤い部分と合わせて上から見ると、平仮名の「き」として見えるようにするため。でも、緑は地面に生えている芝生の緑色と溶けこむので、赤い色が目立ってくる。近くで見ないと見えないものと、遠くで見ないと見えないもの、二つのビジョンを含めています。

とはいえ、作品自体が大きいので気付くことができた方は少ないかもしれないのですが(苦笑)。

こうしたコンセプトや文字での表現方法などは自分が考えましたが、実現するにあたって佐野さんにお声がけしました。以前から佐野さんのことや作風は知っていたので、最初の話し合いから途中での中間報告を経て、スムーズに進めることができましたね。

細い木の集合体に入り込むことでもたらされる、さまざまな感覚

佐野文彦氏(以下、佐野):僕はもともと数寄屋大工をしていたので、木材をどうやって使うかということはある程度わかっています。今回は仕上げなどは特にせず、素地そのままの木材にしました。モア・トゥリーズから購入して搬送してもらった材料で、間伐材を1辺が30ミリという細いサイズにしてもらったもの。

杭を打つように垂直の木材を立て、上のほうで水平の材料でつなぐ。垂直と水平方向でシンプルに組んでいます。1本を立てただけだとぐらつきますが、全体がつながっていることでガッチリとするんです。

配置はいろいろとシミュレーションしましたね。平仮名の案が最もつながって見えながら、密度のあるところとないところが出て、カーブで囲まれた感じになりやすかった。また、下を通り抜けていくときに、木組みを体感しやすいだろうと考えました。現地に入る前に一度仮組みして確かめましたね。

ミヤケ:ジャングルジムのようだという感想もいただきましたが、実際に体験すると面白さが感じられるものができたかなと思います。

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木材の連なる様子を見て木と森を連想させる。また、木組みの間を通る体感で人の深層に訴える。そして、視覚に入るメッセージを通して森の現状に対する意識を高める。
ミヤケ氏ならではのインパクトがあって多様な見方を受け容れる作品が、期間限定であったことは残念。

しかし、佐野氏とのコラボレーションによる不思議な強度をもつ体験型の形は、これからも発展が見られるに違いない。


Photo:木下 誠
Text:加藤 純
Edit:山本奈奈(LIMIA編集部)

ミヤケマイさんによる、大分県立美術館(OPAM)での水をテーマにした作品写真。 Photo: Satoshi Shigeta

プロフィール/
ミヤケマイ
美術家。日本の伝統的な美術の繊細な奥深さに独自のエスプリを加え、見る者に物事の本質を問う作品を制作。多彩な表現方法を用いて、大分県立美術館(OPAM)、水戸芸術館現代美術ギャラリー、銀座メゾンエルメスのウィンドウなど、国内外を問わず活動を続ける。2008年パリ国立美術大学大学院に留学。『膜迷路』(羽鳥書店/2012年)など3冊の作品集がある。

佐野文彦
建築家/美術家。studio PHENOMENON 代表。1981年奈良県生まれ。京都、中村外二工務店にて数寄屋大工として弟子入り。設計事務所などを経て、2011年佐野文彦studio PHENOMENONを設立。大工として、技術や素材、文化などと現場で触れ合った経験を現代の感覚と合わせ未来への新しい日本の価値観をつくることを目指し、デザインやインスタレーションを手掛ける。

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