二川由夫の世界建築日記 ~初夏のアメリカ・カナダ~

GAシリーズの編集長を務める二川由夫氏の特別寄稿第二弾。
最新の建築トレンドを、今回は初夏の北米からお送りします。

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1.ニューヨーク

今回は10日間のアメリカとカナダ巡業。まずはニューヨークへ。
久しぶりにハイラインを見に行く。
長く放置されていた鉄道の高架橋の上につくられたこの「空中公園」は今や市民のみならず観光客の一大人気スポットとなっている。30年前,私はこの近所に住んでいたのだが,あの頃のこのエリア=ミートパッキング地区は,正に精肉業,その流通業者の街で,夜になるとトラックドライバー目当ての男娼の立つ殺風景な場所であった。
街の様相は劇的な変貌を遂げた。この公園は,植えられた様々な木々や草花も十二分に生い茂って,訪れる人々に大都会のくつろぎ空間を提供している。

Photo by Yoshio Futagawa
Photo by Yoshio utagawa

ハイラインの南端,2015年オープンしたホィットニー美術館はイタリアのレンゾ・ピアノ設計。昨今の高密度大都市に建てられる大型美術館は,積層された展示フロアを上下に巡る,デパートのような形式が多いが,この美術館もその一例。その先駆けはニューヨーク近代美術館だった。
しかし,この美術館では単に閉じた同じような展示室群をエレベータやエスカレーターで単純につなぐのではなく,途中にテラスを挟んだり,街やハドソン川の風景をアクセントとして巧みに取り込んでいる。1階ロビーは高い天井にガラス壁によって街路に向けて開かれる明るい空間で,併設される大きなカフェ/レストランは美術館利用者だけでなく多くの人々で賑わい,街の一部となっている。

アップタウンに移動して,メトロポリタン博物館で開催されているMANUS×MACHINA(手×機械)展を観に行く。
19世紀のオートクチュールに始まる人間の技術と機械によって芸術作品にまで高められたコスチュームの発展の歴史を見る。展示デザインは重松象平氏率いるOMAニューヨーク。パイプ足場を使って骨組みをつくりそこに半透過性のファブリックをねぶたのように張りめぐらせることで会場全体に柔らかな空間が演出されている。ファブリックに映し出されるプロジェクションマッピングのテクスチャーと動きによって,展示される美しいドレスは表情がつけられる。

Photo by Yoshio utagawa
Photo by Yoshio Futagawa

続いて,ミッドタウンの近代美術館へ。遅ればせながら伊東豊雄さんとフォロワー達,A Japanese Constellation: Toyo Ito, SANAA, and Beyond(日本建築家の布置:伊東豊雄、SANAAとそれ以降)展を観に行く。展示はそれぞれの代表作を模型とイメージで展示するオーソドックスなもの。3月にオープンしてしばらく経つというのにかなり大勢の人で賑わっていた。日本の現代建築に対する興味は依然として高いのだろうか。

Photo by Yoshio Futagawa
Photo buy Yoshio Futagawa
Photo by Yoshio Futagawa

最後はワールドトレードセンターの新しい駅。スイスのサンティアゴ・カラトラバ設計。オープンしたもののまだ工事が残っていた。色々と工期の遅れや工費の増大で非難されていたがスケールのある壮大な空間は駅舎としての風格があり,市民の集まる公共空間としての質を備えているように思える。

Photo by Yoshio Futagawa

2. ケベック・シティ

前述,重松氏率いるOMAニューヨーク設計のケベック国立美術館新館。街とその周辺に当たる公園との境界に特徴的な敷地に建つ。

旧館と地下トンネルで結ばれた新しい建物は3つのガラスのヴォリュームが明快にずらされて重ねられる構成。
重松氏の師匠,レム・コールハース直系の明快なダイアグラム的建築である。内部空間の焦点となる白い大螺旋階段と金色のエレベータが地下から3つの展示ヴォリュームをつなぐ。

3.トロント

フランク・ゲーリーが2008年にリニュアルしてオープンしたAGO(Art Gallery of Ontario=オンタリオ美術館)を再訪。
この建物も旧館への増築計画であったが,新旧が見事に混ざり合う素晴らしい美術館は今も健在。旧館の中庭に突き出された蛇のような螺旋階段の見事な造形,北側,建物の長手いっぱいにつくられたガラスの大空間,一人の超越的なアーティスト建築家が今の世の中でも成し得ることができる街や社会への貢献がここにある。

Photo by Yoshio Futagawa

4.サン・フランシスコ

サンフランシスコの現代美術館新館。1995年に建てられたスイスのマリオ・ボッタ設計の旧館への増築は,ノルウェイの設計事務所,スノヘッタによってなされた。旧館の裏側に位置する窮屈な敷地に建てられた新館は北欧の建築家らしく?白い氷山のようであり,レンガの旧館の背後に白い背景のように姿を現した。この新館によって従来よりも3倍に拡張された美術館は素晴らしいコレクションで埋め尽くされていることに驚く。個人のコレクターの寄贈であるが,アメリカのコレクターの見識と社会へのフィードバックは素晴らしい。アメリカのこういう文化的な大きさには好感が持てる。

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建築書籍/雑誌=GA DOCUMENT, GA HOUSES, GA JAPAN発行人・編集長/評論/写真家。1962年東京都生まれ。早稲田大学理工学部機械工学…

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