『DUNE/デューン』続編では「砂」が増量?美術担当が語る製作の極意【単独インタビュー】

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第94回アカデミー賞授賞式が日本時間2022年3月28日(月)に開催される。2021年は『スパイダーマン』や『ワイルド・スピード』『007』『マトリックス』といった大作映画のプレゼンスが大きかった中、おなじく大作に分類されるドゥニ・ヴィルヌーヴ監督最新作『DUNE/デューン 砂の惑星』が、作品賞を含む計10部門で候補入りを果たした。『パワー・オブ・ザ・ドッグ』に次ぐノミネート数ということで、最多受賞作としての期待も高まる。

このたびTHE RIVERは、アカデミー賞授賞式を前に、『DUNE/デューン 砂の惑星』で美術賞部門にノミネートされたプロダクション・デザイナーのパトリス・ヴァーメット氏にインタビューする機会に恵まれた。パトリス・ヴァーメット氏はカナダ出身で、同郷のヴィルヌーヴ監督とは『プリズナーズ』(2013)『複製された男』(2013)『ボーダーライン 』(2015)『メッセージ』(2016)に続く5度目のタッグとなった。ほか、『C.R.A.Z.Y.』(2005)や『ヴィクトリア女王 世紀の愛』(2009)といったジャン=マルク・ヴァレ監督作でも活躍している。

ヴァーメット氏の次回作は、ヴィルヌーヴ監督の『DUNE/デューン 砂の惑星』続編『Dune:Part Two(原題)』となり、さっそく現在は製作スタジオがあるハンガリーはブダペストに滞在している模様。インタビューでは、劇中の建物や乗り物などに見られる隠れた着想元や、精緻な開発プロセスについて訊いてみた。また、ヴァーメット氏が力説する「自然」の重要性からは続編でも継続されることになるであろう製作スタイルの極意を学ぶことが出来るはずだ。

『DUNE/デューン 砂の惑星』パトリス・ヴァーメット氏 インタビュー

── パトリスさん、本日はどうぞよろしくお願いいたします!

どうも、はじめまして。調子はいかがでしょうか?

── 元気にしております。いかがお過ごしでしょうか?

私もとても元気です。今は(ハンガリーの)ブダペストに滞在していて、気分も最高です。でも今日は少し肌寒いかな?それでも元気にやってます。

── 良かったです。まずは『DUNE/デューン 砂の惑星』が10カテゴリーでノミネートされたということで、おめでとうございます。美術賞も含まれておりますが、ノミネートされた時の感想をお聞かせ下さい。

ありがとうございます。その時はプロダクションのオフィスにいたのですが、ずっとお祝いしていました。コロナ禍の影響で、みんなそれぞれの部屋で待機していましたけれど、発表の時は『DUNE/デューン 砂の惑星』の名前が呼ばれる度に「ウォーッ」って叫んでました(笑)。チームがゴールを決めた時のような感じでしたね。すごく興奮した瞬間でした。アカデミー賞会員からの愛も感じましたし、最高でした。

── 今日、衣装デザイナーのロバート・モーガン氏ともお話したのですが、彼は「泣いてしまった」とおっしゃっていました。パトリスさんは泣かれました?アカデミー賞にノミネートされるのは今回で3度目(※)ですよね。

そう、3回目です。今回は泣かなかったんですよ。2回目の時に泣きましたね。今回は満面の笑みでした。それから、自分のアシスタントに「ワインショップに行って、チーム全員のためにシャンパンを2ケース買ってきてくれ」って頼みました(笑)。「ここにクレジットカードがあるから」って(笑)。その日の午後は、シャンパンを片手に仕事していました。

(※)1度目はジャン=マルク・ヴァレ監督『ヴィクトリア女王 世紀の愛』(2009)、2度目はドゥニ・ヴィルヌーヴ監督『メッセージ』(2016)。

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── ロバートさんは『DUNE/デューン 砂の惑星』の製作開始前に、あなたがルックブックを作られたともおっしゃっていました。これはどのようにして作ったのですか?

ルックブックは、映画を作る前に私が取るプロセスの一つで、プリプロダクション(撮影前準備)前は“ソフト・プレップ”と呼んでいました。ドゥニとディスカッションしている段階で作り始めて、私自身はコンセプトアーティストたちと一緒にスケッチアプリでセットの図を描き始めようとしていた頃でした。それからは、ゆっくりと言葉を見つけていくような感じで。プリプロダクションの前には(準備期間に)7ヶ月いただいていて、開始するまでにセットや小道具、初期の衣装などをあわせて130枚程の画が準備できていました。セットの照明など全てがそこに収められていたんです。

ルックブックはビジュアル言語として、どんな映画を作るのかをチーム全体に把握してもらうために、私とドゥニが用いていたものです。ただの“ルックブック”ではなく、絵コンテ担当や撮影監督、視覚効果担当、衣装担当など、全員が一つの参考として活用するのです。「これはどのような見た目になるのかな」と考えるたびに、ルックブックを見返せるようになっていました。

── そのルックブックは“バイブル”と呼ばれていたとお聞きしたのですが、現場では聖書のように扱われていたのでしょうか?

そうですよ(笑)。バイブルのような存在でした。ビジュアルソースのようなものでしたから。みんなもそれを“バイブル”と呼んでいました。私もそう呼んでいました。

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『スター・ウォーズ』はタブー、惑星に反映された季節の移ろい

── 撮影の大部分が実写で行われたそうですね。プロダクション・デザインに取り組む上で、どのような好影響がありましたか?

まず第一に、砂漠など全ての野外ロケーションが実写で行われました。ドゥニが取るアプローチはほとんどドキュメンタリー作品に近くて、俳優にもいてもらって、出来る限り没入できる環境を活用することが望ましいと考えられています。砂漠は、ヨルダンと(UAEの)アブダビで撮影しました。ただ、他の全てのロケーションについては、ステージ上、もしくはバックロットで行いました。全てをゼロから組み立てたのです。自分たちだけの言語を作り出すために、全てがステージ上で行われました。そこがとても難しかった点でもあって。

私がドゥニと『DUNE/デューン 砂の惑星』で目指したのは、スケール感と上手く付き合うことでした。小説を読んだら、何もかもが大きいことが分かりますし、そうした全てが、突然未知の旅に出ることになるポールを支えるために存在しています。人生よりも大きなものなのです。小説では住居についての言及もあって、(原作者の)フランク・ハーバートは「人類史上最大の建造物だ」と記していました。なのでスケールを理解しなければいけなくて、そうして初めて独自のセットが生まれるのです。セットを作るにはコツが必要で、それも映画で使われる昔ながらのコツだったり、新しいコツだったりがあります。セットに最大限の没入感を醸し出させるための翻訳作業なのです。それが私たちのアプローチであり、大変だったことです。ただ、最後にはコツを見つけましたよ。

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──ところで、ヴィルヌーヴ監督はスタッフ全員に『スター・ウォーズ』から引用することを禁止したと伺ったのですが、製作にはどのような影響をもたらしましたか?

これ本当のことなんです。私は『スター・ウォーズ』からとても影響を受けました。7歳の時に父親と初めて映画を観て以来、たくさん影響されました。ただ、ジョージ・ルーカスも明らかに『DUNE/デューン 砂の惑星』から影響を受けていると言う方もいます。タトゥイーンや砂の惑星、岩の造りなどに関してね。フォースにはベネ・ゲセリットの影響があります。ライトセーバーもそう。双子の太陽だって(『DUNE/デューン 砂の惑星』の)二つの月からです。すごくインスパイアされていますよね。だからこそ、『スター・ウォーズ』はタブーのようなもので、私たちも出来るだけ『スター・ウォーズ』の世界からは距離を置きたかったのです。『DUNE/デューン 砂の惑星』の(小説の)方が早く世に出たとはいえ、『スター・ウォーズ』と比較されることになるだろうと分かっていたから。視覚的に見ても、『スター・ウォーズ』のユニバースは巨大です。だから全く違うことに挑戦したかったのです。本作では、自然から着想を得ていて、ドゥニも小説で描かれる生態系の側面に大きく着目していました。

──アラキスの砂漠やカラダンの緑など、『DUNE/デューン 砂の惑星』は自然に囲まれた世界です。プロダクション・デザインに取り組むにあたり、「自然」はどう機能しましたか?

自然は大きなインスピレーションとなりました。ゴキブリから着想を得た宇宙船もありました。ゴキブリはどこでも生きられる昆虫で、核による大変動が起きたとしても生き抜くことができます。オーニソプターもトンボからインスパイアされていることは明白です。ハルコンネンの大きなノーシップ(軍艦)もアルマジロから生まれたんですよ。サンドワームの表皮は木の樹皮にヒントを得ましたし、干潟のようにも見えます。参照したものはたくさんありました。ビジュアルに対応するように、自然から参考にしようと心がけました。

このほかにも自然から着想を得たこととしては、カラダンでの季節の移り変わりがあります。小説で描かれるカラダンはとても霧が深いじゃないですか。海と島からなる惑星です。しかし、物語を支える雰囲気はカナダの秋からヒントを得たのです。秋は何かの終わりを告げるものだから。アトレイデス家は終わりへと進み出し、冬に向っていくことになる。そして彼らは終わりを迎えてしまう。それからポールに新たな始まりが訪れる。その旅は春へと進んでいくのです。私たちは、こういったことを映画のビジュアルに精妙に組み込んでいこうとしました。

建造物の考え方、続編は「砂」が増量

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── とっても深いですね。ビジュアルといえば、ステラン・スカルスガルドが演じたハルコンネン男爵が黒い液体に浸かるシーンは非常に強烈でした。再現する上で大変だったことはございますか?

大変だったことか……私にとっては常に、(創作は)書かれた文字への感情的な反応から生まれるのです。ハルコンネン家は大きくて奥行きが深かったので、スケールが必要だと感じました。まるでクジラの中にいるかのような。ちょっとした秘密を教えますが、(風呂の)デザインは浄化槽から着想を得ていました。浄化槽の中には汚水があって、嫌な気分になりますよね。(ハルコンネン家の居住惑星の)ジエディ・プライムは天然資源を搾取した惑星でもありますから、私のおかしな相利共生的な考え方にはマッチしたんです。(風呂については)浄化槽の形を見ることが良いスタート地点だと思いました。おかしなことではありますが、すごくインスパイアされましたよ(笑)。

── アポカリプスな世界ですよね。

そうとも言えます。彼ら(ハルコンネン家)の行いと言ったら惑星を犯しているようなもので、ジエディ・プライムはずっと搾取されてきましたから。だからそこには何も残っていなくて、余り物というか悪いものしか無いんです。惑星自体が消化されてしまって、残ったのは悪いモノしかない。

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── 『DUNE/デューン 砂の惑星』では、巨大な建造物の圧倒される外観と、壁に掘られたフレメンの文字彫刻や流線、波紋といったデザインに見られる精緻な内観のコントラストに驚かされました。特に内観についてお聞きしたいのですが、このようなきめ細かさについて、完成までにどのようなリサーチが行われていたのでしょう?

(アラキスの都市の)アラキーンの内観は基本的に(土地の)環境に呼応するように意識していました。建築物というのは、惑星のリアリティとの関係に依存しているわけですので。例えば、アラキーンの建物の内観は、フランク・ハーバートが小説で、「惑星では砂嵐のようなものがあって、風速は毎時180キロにも及ぶ」と記していました。正気であれば、そこに直立した建物を作る人はいないはずです。建物を風が吹き通れるような傾斜を加える必要がありますよね。

それからあのような環境では、サンドワームも生存しています。少しでも振動を加えると、サンドワームは一瞬にしてそれを聞きつけます。どんなリズムでも聞きつけてしまう。だから、もしそのような街なら、自然の保護を探しておそらく岩のボウルのような場所に建設しなければいけないと考えるでしょう。間違ってでも砂漠一面みたいな場所には建てないはずです。壁の厚さだって、あの惑星の耐えられないくらいの暑さに対応しています。まるで洞窟に入って体を冷やしたり湿度を得たりする時のように、自然の保護が必要になります。そこにはとっても厚い壁があるはずです。暑さを避けるためには、直射日光も遮りたいと思いますよね。私は、光を建物内に届ける光井(こうせい)の仕組みを想像しました。(劇中に)とても暗い場所が幾つかあって、そこに光が差し込んでいたのもそういう理由からなのです。

内観の建築は、イタリア人の建築家であるカルロ・スカルパからの影響もあります。ポールの寝室のベッドの近くには大きなブロックがありますが、それは彼の肩にのしかかった重荷を表しています。あんなに重そうなものがあったら、普通は眠れませんよね。何かあった時は潰されてしまいます。そういった考え方をしていました。

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── 最後に、ブダペストに滞在されているとおっしゃっていましたが、パトリスさんは続編にも参加されていますよね。続編で期待できることを教えていただけますか。

続編では、たくさんの砂を期待できます。もっと多くの砂が出てくるのです。多くのサプライズも登場しますよ。友人でもあるドゥニや続投される全員と物語を継続できることにワクワクしています。再会が楽しみです。

第94回アカデミー賞受賞結果は、2022年3月28日(日本時間)に発表。『DUNE/デューン 砂の惑星』デジタル配信中、4K UHD、ブルーレイ&DVD好評リリース中。

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発売元:ワーナー・ブラザースホームエンターテイメント
販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
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