超常的な世界であぶり出される“人間の本能”…劇団「イキウメ」の魅力に迫る

超常的な世界観で人気の劇団「イキウメ」が2015年に舞台上演した作品を、近未来SF『AI崩壊』(20)の入江悠監督が映画...

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超常的な世界観で人気の劇団「イキウメ」が2015年に舞台上演した作品を、近未来SF『AI崩壊』(20)の入江悠監督が映画化した『聖地X』(公開中)。オール韓国ロケを敢行し、岡田将生と川口春奈が主人公の兄妹を演じるほか、緒形直人に真木よう子、渋川清彦、山田真歩、薬丸翔らに加えて韓国からも実力派俳優が集い、脇を固めている。イキウメの作品が映画化されるのは、同じく入江が監督した『太陽』(16)、『散歩する侵略者』(17/黒沢清監督)に続いて3度目。イキウメ作品の魅力とはなにか?本作の見どころと合わせて紹介したい。
【写真を見る】『聖地X』で主人公の兄妹を演じる岡田将生と川口春奈

【写真を見る】『聖地X』で主人公の兄妹を演じる岡田将生と川口春奈 / [c]2021「聖地 X」製作委員会

舞台を韓国に置き換えて映画化した『聖地X』

劇作家・演出家の前川知大が主宰するイキウメが旗揚げされたのは2003年。浜田信也、安井順平、盛隆二、森下創、大窪人衛の5人の俳優が所属し、オリジナルのSFやオカルト、ホラー作品を創作して公演を行ってきた。超常的な世界観のなかで、日常生活の裏側にある世界から人間の心理を描くことが特徴として挙げられる。映画『聖地X』の監督を務める入江自身もイキウメのファンであることを公言しており、本作は『太陽』に続く5年ぶり、2度目のタッグになる。

“聖地X”とは、巨木と古井戸がつかさどる呪われた地のことを指し、一度足を踏み入れた者は精神に異常を来し、常軌を逸した悪夢に取り憑かれ、忽然と姿を消すという。原作舞台では地理的な場所の特定はされておらず、架空の都市とされていた。

しかし、このたびの映画化では、場所を大胆にも韓国の仁川に置き換えている。主人公で小説家志望の輝夫(岡田)は、父親が遺した別荘のある韓国に渡り、悠々自適な引きこもりライフを満喫している。そこへ結婚生活に愛想を尽かした妹の要(川口)が転がり込んできたことから、穏やかな生活が一変する。

東京にいるはずの要の夫、滋が韓国に現れる / [c]2021「聖地 X」製作委員会

巨大な木と不気味な井戸を擁する和食店から、いるはずもない要の夫、滋(薬丸)が姿を現す。しかも同時期に東京では、滋が会社にいるというではないか。世の中には自分とそっくりの顔をした人がいるというが、どういうことなのか?

さらには、仁川で和食店を経営しようと意気込んでいた店長、忠(渋川)は、妻の京子(山田)が謎の記憶喪失に襲われたことで、「この店は呪われているのかもしれません」と言いだす始末。日本人オーナーの江口(緒形)や、滋の上司である星野(真木)を巻き込んで、その土地でこれまでに繰り返されてきた数々の呪いを祓い、解放されるべく手を尽くしていく…。

緒形直人演じる和食店の日本人オーナー、江口 / [c]2021「聖地 X」製作委員会

『聖地X』で、抽象的な世界観の映像化に挑戦した入江悠監督

入江のオフィシャルコメントによると、演出家の前川が描く世界は、抽象的な部分が多く映像化は難しいと感じたそう。しかし、それを逆手に取って、前川のオリジナリティあふれる作品の力を借りながら、映画監督としての作品づくりに楽しみながら挑戦したという。

“聖地X”の場所を韓国の仁川とし、オール韓国ロケを敢行 / [c]2021「聖地 X」製作委員会

その最たるものが、舞台を韓国にしたということだろうが、日本と韓国は距離的に近いながらも歴史や文化に大きな違いがあるということを如実に表現している。劇中で聖地Xに宿る悪霊を祓おうと、ムーダンと呼ばれるシャーマンによって除霊の儀式が行われるシーンがあるのだが、チャンゴやテピョンソといった韓国伝統楽器の生演奏が響くなか、カラフルな装束をまとったムーダンが激しく踊る。

いわゆる日本の悪霊祓いのイメージとは少し異なり、日本人にとって見慣れない光景で圧倒されるのだが、イキウメがこれまで舞台で表現してきた“目に見えないものと人間との関わり”というのは、どの国にも昔から存在しているのだと改めて理解させてくれる。そしてこのシーンによって、“目に見えないもの”に対する対処法は、国によって様子が異なるということを肌で感じるのだが、それは映像だからこそ、よりリアルに実感できるのだ。

聖地Xに一度足を踏み入れた者は精神に異常を来し、常軌を逸した悪夢に取り憑かれ、忽然と姿を消してしまう / [c]2021「聖地 X」製作委員会

「それって、本当にあるかも」と思わせる煩悩を断ち切れない人間の本質

また、本作はホラーといえども、なんとなくクスッと笑ってしまうシーンが多い。その理由として、目に見えない悪霊と戦いながらも、煩悩を断ち切れない人間の本質をこと細かく描いているところにあるように感じられる。人を震え上がらせるだけでなく「それって、本当にあるかも」と観る者に思わせることを得意としているイキウメの魅力が、本作にも投影されているといえるだろう。

非現実的な現象に巻き込まれているにもかかわらず、登場人物たちがどのような心理状態に置かれているのか、丁寧に描かれているのだ。他人と話すことが苦手な輝夫、夫に愛想を尽かし、イライラしながらも夫のことが気になってしかたがない要、自分勝手な言動や行動を繰り返す無神経な滋…。切羽詰まった状況でも、“自分第一”に考えてしまう人間の本能は、コメディそのものだ。きめ細やかな人間描写はまさに演劇的で、映画化されたことによって、より鮮やかに引き立っている。

渋川清彦演じる仁川で和食店を経営しようと意気込んでいる忠 / [c]2021「聖地 X」製作委員会

バイオテロにより人類の大半が死滅し、人々が“2種類”に二分されてしまった近未来が舞台の『太陽』と、とある町で住人が“侵略者”に乗っ取られ、親しい人間が別人になってしまう『散歩する侵略者』。当たり前の日常が突然終わりを告げ、登場人物たちが翻弄されることで繰り広げられる不思議な人間ドラマに、観客は目が離せなくなる。そのような世界観にもし興味を引かれたなら、『聖地X』やイキウメ原作の映画をチェックしてみてほしい。

文/咲田真菜


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