フリーダムのデザイン住宅。「個室」が一切ない家の、真の魅力とは?

建て主のライフスタイルを表現する「デザイン住宅」を手がけるフリーダムアーキテクツデザイン。「住宅作品」の一方的な提案ではなく、その建て主ならではの個性的な空間を、設計者が丁寧にデザインしています。実際に、千葉県に建てられたフリーダムの家を紹介します。

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Photo:Kazue Shibuya
2階LDK。ワンルームだが、木毛セメント板の壁がさりげなく空間を仕切る。

ドアも間仕切り壁も、一切ない!?

Photo:Kazue Shibuya
リビングに連続してプライベートバルコニーがある。壁を高くして外からの視線を遮った。

 小川が流れる遊歩道沿いに建つ白い家。この家ができあがったとき建て主のご夫婦は、こうつぶやいたそう。「素敵すぎて、どうやって住んでいいかわからないくらい」と。

 1階に寝室とクローゼット、水まわりを配置し、光の取りやすい2階にLDKを設けた箱形の家。玄関を入り、そのまま2階へと進んでまず驚くのは、この家には壁で囲われた個室がどこにもないこと。バス・トイレを除いて玄関ドア以外にドアは1枚もありません! 2階のLDKもワンルーム。その空間を、家を支える構造体を兼ねた壁が、適度に視線を遮り、空間の独立感をつくっています。

「この家に個室はありません。すべてがひとつながりのワンルーム空間です」とフリーダムの設計者。「アクセントになる壁が空間をあいまいに仕切るだけ。そこに『間』ができ、それがさまざまな用途の部屋となり、プライバシーも適度に保っています。立つ場所によっていろいろな風景が見える家なんです」。

Photo:Kazue Shibuya
3つの箱を重ねたイメージでつくった外観。ポストとインターホンもさりげなく組み込んだ。

マルタンマルジェラの世界観を目指して

Photo:Kazue Shibuya
玄関へのアプローチ。ファッションブランドのメゾン マルタン マルジェラの「タビシューズ」をイメージした足形が玄関へと誘う。

 ホームページを見てフリーダムの存在を知ったご夫婦。この会社なら、自分たちのイメージが具現化できるかもしれないと思ったそうです。細かい注文はあえてせず、設計者に伝えたのは「自然の物が好き。その経年変化を楽しみたい」「個室はいらない」そして「ファッションブランドのメゾン マルタン マルジェラの世界が好き」ということだけ。

 マルタンマルジェラのブティックは、シンプルな箱があり、1階と2階にあるそれぞれのフロアがすべて連続しながらアクセント壁で柔らかく区切られています。そのような空間イメージが設計者の中にふくらんでいきました。

Photo:Kazue Shibuya
間伐材などとセメントを混ぜた木毛セメント板。家づくりでは、天然の素材をふんだんに用いた。

 アクセント壁に「木毛(もくもう)セメント板」を使うアイデアもすぐに浮かんだといいます。「この板は、間伐材や残材を有効利用し、それにセメントを加えた壁材で、自然素材ばかりを使ったものです。通常は下地材やコンクリートの型枠材などに使われますね。ただ、今回はお二人のイメージにぴったりなので、そのまま見せることにして壁の仕上げに使いました」。

キッチンとダイニングもオリジナル

Photo:Kazue Shibuya
キッチンカウンターとつなげたダイニングテーブル。キッチンの奥側の床を一段下げている。

 2階の一角を占めるキッチンとダイニングテーブルも、白をベースにこの空間に合わせてデザインし、製作したオリジナルのもの。キッチンの食器棚にも扉はつけていません。LDKの床はすべて無垢のオーク。ホワイトオイル仕上げにすることで、柔らかな雰囲気をつくっています。

1階と2階をつなぐ吹抜け

Photo:Kazue Shibuya
カーテンを閉めれば独立した個室にすることができる。

 1階にあるのが寝室とクローゼット。ここも木毛セメント板の壁がさりげなく空間を仕切っています。カーテンを閉めれば空間を独立させることもできます。

 1階は玄関の土間を広く取り、そのまま水まわりへと連続させました。さらに吹抜けにして1階と2階の空間をつないでいます。あえて土間の幅を狭くして高さを強調しています。

 階段や手すりは、白い空間に似合うグレーの仕上げ。実はさび止めの塗料の色そのままです。「グレーの色がいいですね。これなら仕上げの塗装はいらない」と設計者と建て主が現場で決めたのだそう。

人の動きや視線の行き止まりをつくらない

Photo:Kazue Shibuya
玄関からバスルームへと土間が続く。通路の幅を狭くすることで吹き抜けの高さを強調した。

この住まいのイメージをつくっているのは、木毛セメント板だけではありません。例えば手すりや、2階フロアの側面をカバーするスチール板が、いずれも曲線を描きながらつながっていることによって、空間に柔らかな印象が生まれています。もしこれらがコーナー部で切れ、直角を形作っていたら、このやさしさは表現できなかったでしょう。

Photo:Kazue Shibuya
2階の床の角部分。直角に継ぐことをせず、曲線でつなげた。このカーブが空間に柔らかな表情をもたらす。

 建て主のご夫婦の好きな物やライフスタイルを知ることから、二人に似合う世界を大胆にデザインした住まい。建て主が言葉にすることも、想像することもできなかったオンリーワンの空間を、設計者が引き出しています。「ニュートラルからの発想」「お客様の想いを形にした世界でたった一つの家づくり」――フリーダムらしさがあふれる住まいです。

Photo:Kazue Shibuya
1階の土間の面したガラス窓に入れた防犯用の格子。間隔はあえてアトランダムに。リズム感のある壁面に。

【実例DATA】

実例名/『間』の家(CASE273)

建築費用/1750万円
その他費用/445万円

設計監理/フリーダムアーキテクツデザイン
所在地/千葉県市川市
形態/新築・一戸建て

敷地面積/141.00㎡
延床面積/96.00㎡
構造/木造(地上2階)
工事期間/2011年8月〜12月 

◆取材協力/フリーダムアーキテクツデザイン


Photo:渋谷和江
Text :酒井 新
Edit:山本奈奈(LIMIA編集部)

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