【リノベを愛する人たちへ】生田から届けるリノベの気持ち。「リノベコンペティション2017」グランプリ受賞者インタビュー

HEAD研究会とLIMIAで共催した「リノベコンペティション2017」。プロリノベ部門でグランプリを受賞したのは、サイコロのような中古プレハブ住宅を知恵・工夫・思想を込めてリノベしたすてきなご夫婦——浦木建築設計事務所の浦木美樹子さんと、建物の施主兼共同設計者の浦木拓也さんでした。コンテストの対象物件兼ご自宅である《生田の家》にお邪魔してうかがった、受賞のこと、わが家のこと、自分たちの将来のこと。建築・設計を生業にされているお二人の言葉から、リノベの思いを感じてみてください。

受賞につながった「リノベの選択の幅を〇〇する」という考え

——あらためまして、グランプリ受賞、おめでとうございます。今の率直なご感想をお聞かせください。

浦木拓也さん(以下、拓也さん):私は施主兼設計者の立場ですが、やはり1等賞はすごいことだと思っているので、素直にうれしいです。また、《生田の家》を通じて設計者として何かしらのメッセージを残したいという強い思いがあり、妻と会話を重ねてつくった家なので、グランプリという対外的な評価は私たち夫婦としても誇りです。

浦木美樹子さん(以下、美樹子さん):お電話で「グランプリです」と伝えられたとき、「え⁉ え? 『グランプリ』って……1番のことですか⁉」と何回か聞き返してしまったくらい、最初は信じられなかったです(笑)。

——確かに、「間違い電話がかかってきたのでは?」というリアクションをされていましたよね(笑)。

美樹子さん:すいません、慌てちゃって(笑)。受賞については……夫と同じ感想になりますが、とてもうれしかったです。特に、今回はコンペの趣旨でもある「リノベーションストーリー」を、LIMIAを通じてどのように伝えればいいのか……ということに腐心したのですが、結果として審査員の方から「ストーリーに感銘を受けた」というコメントをいただけたので、本当に良かったですね。

浦木拓也さん/1979年、千葉県生まれ。名古屋工業大学・工学部・社会開発工学科、卒業。東京工業大学大学院・総合理工学研究科・人間環境システム修士課程、修了。一級建築士。現在、株式会社日本設計に在籍

——なぜ、グランプリを受賞できたと思いますか?

拓也さん:敬遠されがちなプレハブ造りの中古住宅を資源と見いだし、現存を尊重した合理的なリノベができたところを評価いただけたからだと思っています。住宅の既存ストックの再利用は、これからもっと注目・開拓されなければいけない分野です。住宅は、われわれが考えている以上に物としての寿命が長い。中古だからといって敬遠するのは、少し違うような気がしています。そういう観点では、「リノベの選択の幅を拡張すること」が目的でもあったので、すごく良い試みになりました。

美樹子さん:大手ハウスメーカーが多数残した工業化住宅をリノベしたことが、他の方々の作品と比較すると、特徴的だったのかもしれません。審査員の方のコメントに「既存利用を積極的に行い、プレハブの構造を生かした」とありましたが、今後、その一例となり得るという評価をいただけたのではないかと考えています。

「合理的」という言葉を定義する、3つのキーワード

——今、拓也さんから「合理的なリノベ」というお話しがありました。お二人が考える「合理的」の定義について、詳しく聞かせてください。

拓也さん:合理的という言葉は、一般的に「無駄のない様(さま)」という意味がありますが、私たちが考える合理的には、さらに3つのキーワードがあります。それは「生かす」「兼ねる」「引き継ぐ」です。例えば、今回の《生田の家》で例を挙げてみると……

【①生かす】
●資産価値のない築36年の古家を生かす。
●利用できる既存部材(サッシ、埋設配管、東南の外壁材、階段など)を生かす。
●プレハブ構造を生かす(内部に柱のないワンルーム)。
●環境(風景や高台の通風)を生かす。

【②兼ねる】
●意匠性、断熱、吸音性能を兼ね備えた木毛セメント板を使う(2階の天井)。
●2階からの採光と上下層の通風やつながりを兼ねるグレーチング(※)を使う(2階の一部の床)。
●間仕切りを減らし、ときの変化に応じられるよう、用途を兼ねる。
※鉄などの素材でつくられた、格子状の溝蓋(みぞぶた)のこと。↓に現物の写真あり。

【③引き継ぐ】
●資源を無駄にすることなく、古家を再生して引き継ぐ。
●次世代に引き継げるよう、可変性を持った間取りにする。

というふうに、まとめられます。合理的に整理することで、初期費用を抑えつつ、建物の寿命を延ばし、資産価値が高められるのです。

——完成する家は1つであっても、その過程には、3つのキーワードに基づいたいくつもの手法が散りばめられているんですね。それも踏まえ、今回のリノベで特に思いを込めたところを教えてください。

拓也さん:この建物の構造を極力尊重したところです。もともと、工業化住宅はいろいろなニーズを受け止めるために建物の周りだけでフレームが固まっており、間仕切りが自由に設けられるようになっています。そのような特徴を尊重して素直に表現するようにデザインしたことが、一番意識した点ですね。また、2人の間に「使えるものは、しっかり使おう」という考えが、基本理念としてありました。そして、「既存のものを無駄にせず、どうすればうまく見せられるか」という視点——ここもかなり意識しましたね。

浦木美樹子さん/1980年、三重県生まれ。名古屋工業大学・工学部・社会開発工学科、卒業。一級建築士。現在、浦木建築設計事務所に在籍

《生田の家》で「三丁目の夕日」⁉

——《生田の家》を「住みやすくする」ために、住み心地で意識した点はありますか?

拓也さん:一番滞在する時間が長い部屋を、上階に持っていきました。夕陽が沈んでいく景色がきれいだったり、朝にきちんと日差しを浴びながら起きられたりするのが、気持ち良いんですよね(笑)。元々、そういう季節や時間の流れを感じるような情景への素直な憧れがあって、この高台を選んだところもありました。窓も大きく、遮るものもないので、開放的だし、冬は本当に暖かいです。

美樹子さん:エアコンがいらないくらい、暖かいんです。高台に位置していることもあって、夏は窓を開けると心地良い風が本当によく通ります。

——リノベから約1年がたったそうですが、実際に住まわれて気付かれた点や「ここは直したい!」という点はありますか?

拓也さん:建築の設計をしていると、通年で建物のいろいろな部分の経過を観察し、変化を見ていくのですが、この建物はトラブルが今のところなくてすごく良いです。当初は36年という築年数もあり、何かしらの不具合が出てくるのかな?と思っていました。

美樹子さん:私も満足しています。駅から家までの道のりに急こう配な坂がありますが、それも慣れましたね(笑)。自宅から東京タワーや富士山が眺められる!と思えば、問題ありません(笑)。

——これほど、『ALWAYS 三丁目の夕日』のビジュアルがぴったり合う住宅も、なかなかありませんよね!

拓也さん&美樹子さん:ありがとうございます(笑)。

この大きな窓からは、あの『ALWAYS 三丁目の夕日』のような景色が望める

HEAD研究会・理事長の松永氏に「鉄骨造の軽快な内部空間が見事に生かされた設計は特筆に値する」と言わしめた、住空間。「使えるもの」を使いつつ、内装をほぼ全面をリニューアル。大きな窓からは心地良い風が吹き込み、ぜいたくな日の光が差し込む

仕事をする上で大切にしていること

——ここからは、お二人の仕事観について、聞かせてください。普段、お仕事をしているときに意識していることや大切にされていることはなんでしょうか?

拓也さん:どんどん高齢化が進む現代、私たちの世代の未来は、とても不安定だと思っています。私たちが60歳を迎えたとき、日本は年金がもらえる国ではないかもしれません。イニシャルコストを落としつつ、「資産」として残るものを見極めながら、使えるものは利用していく。これからは、一人ひとりが資産をより大事にしなければならない時代にシフトしていくでしょう。少しでも多くの資本を残し、資産価値を維持しながら、「生きる術」を見つけていかなければいけない世代。それが、私たちの世代だと思います。

そういった背景もあり、「どうすれば、自分たちの仕事が社会に対してメッセージを発信できるか」「どのような社会性を獲得できるか」「社会に対して、どのように存在価値を認めてもらうか」という会話は、常に妻としています。今回のプロジェクトも、それらを強く意識しました。今後もそのスタンスは変えずに、チャレンジしていきたいと思っています。

美樹子さん:建築家としての私たちのスタンスを語る上で、新築にしろ、リノベにしろ、「合理的」は大きな重要なキーワードです。また、「資産や価値を付加していくこと」も大切にしています。日本人はこれまで不動産の価値の現状や在り方、矛盾に対してあまり言及してこなかったので、先ほど夫が話していた社会性の部分も考えながら、掘り下げていきたいです。もちろん、「かっこいい」「デザインがすてき」といったお客さまの声に応えることは大前提です。

拓也さん:どれだけ「私は一生懸命、頑張りました」と言っても、価値化しなければ意味がありません。携わった建物に意味をしっかり与えて、それが認められれば施主にとっても一番良いですし、社会に発信することで何かの気付きを提案できるかもしれない。これからも社会に発信する努力は継続していきたいと思います。

インタビュー中も息がぴったりな、拓也さんと美樹子さん。「けんかはよくしますが、夫が折れてくれるので、何となく、仲直りできています(笑)」(美樹子さん)

——価値化のお考えは、建築・設計の仕事だけに限らず、私たちのようなWebメディアにも、当てはまるのかもしれません。ユーザーの方々の想いを汲み取った上でLIMIAから発信されている情報をもっともっと価値化していかなければ、Webメディアとしての成長もないのかなと感じました。

美樹子さん:以前、日本テレビの『ヒルナンデス!』に出演し、番組内で「合理的」について触れたのですが、番組放映後、その考えに共感したお客さまが事務所に来てくださいました。そのお客さまは最初、「新築を考えているので、土地を探しています」と言っていたのですが、コミュニケーションを取っていくうちにだんだんリノベに気持ちがシフトしていったようで、ある日「ここ(《生田の家》)を見ると、古家が宝物に見えてきました」「少し困難でも、合理的な視点で手間暇かけてつくった家の方が、ずっと大切に思える気がします」と言われたのです。私たちの考えに共感してくださった結果、お客さまの住まいに対する考えも変わった……といううれしいエピソードですが、これは「合理的」に加えて中古住宅の「価値化」がお客さまに認められたからだと思っています。

2階リビングの床の一部は、グレーチングでできている。「グレーチングにすることで、床越しに1階にいる子どもの姿が見えたり、声が聞こえたりするんです」(拓也さん)

5本のパイプが強度を計算しつつ調和して絡み合う、機能的なオリジナルテーブル。拓也さんが発案されたそう

お二人から、HEAD研究会へのメッセージ

——最後に、今回のコンペティションを主催したHEAD研究会に期待することを聞かせてください。

拓也さん:HEAD研究会は、「リノベーション」という概念を社会に浸透させていくためのハブとして機能されています。今後、新築住宅は縮小市場になっていくはずなので、その分、中古住宅は、社会ニーズ・社会問題に背中を押されて、どんどん拡大していかなければならない市場です。その動向を、HEAD研究会のような権威ある団体が適切に、学識も含めて社会に対して発信されていることは、とても意義あることだと思っています。

美樹子さん:今回、私たちは大手ハウスメーカーの工業化住宅を利用しましたが、中身を見ても、錆一つなくて、日本の工業製品やハウスメーカーのレベルの高さと可能性を感じました。(サッシを指差しながら)このサッシは1979年につくられたものですが、とても技術力が高いのです。しかし、建物にまつわる情報はあまり開示されておらず、ブラックボックスになっています。

HEAD研究会の理念にもあったように、大小関わらず、企業間のつながりがもっと強くなって、オープンな関係性が構築できれば、文化と生活の質が良くなる空間や環境がもっと誕生すると思います。また、最近は建築家とハウスメーカーがコラボした住宅がたくさんありますが、その動きがリノベーションの分野でも活発になるよう、促していただけるとうれしいです。

おわりに

裏庭の畑ですくすく育っていたトマトやジャガイモなどの野菜たちを見ていると……何と、取材後に美樹子さんから新ジャガのプレゼントが!(後日、ふかして食べたら、絶品でした)

お話しにも出てきた急こう配な坂(階段)を実際に上りましたが、山の上の寺にお参りに来ているんじゃないかと錯覚するほどの、傾斜……(足、がくがく。汗、だらだら)。けれども、美樹子さんのお話しにあったように、《生田の家》からの眺めや建物の構造の価値を体感すると、それを全く苦には感じませんでした。もし、「リノベって、結局のところ、中古物件だからな......」という考えがあるのなら、その考え自体をリノベしなければいけないのかもしれません。

帰り道、意気揚々と「家を買おうと思ってたけど……これからの時代は新築じゃなくて、中古リノベだな!」と話し、早速家族に電話で相談していた編集スタッフがいたことも、付け加えておきます(笑)。

(おしまい)

●Photographer:Suzuyo Kashiwagi
●Interviewer:Maki Furukawa(LIMIA)
●Writer/Editor:Takashi Otsubo(LIMIA)

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