恋の達人ユーミンが語った「初恋」のこと 音楽の達人“秘話”・松任谷由実(2)

『おとなの週末Web』では、グルメ情報をはじめ、旅や文化など週末や休日をより楽しんでいただけるようなコンテンツも発信しています。国内外のアーティスト2000人以上にインタビューした音楽評論家の岩田由記夫さんが、とっておきの秘話を交えて、昭和・平成・令和の「音楽の達人たち」の実像に迫ります。“ユーミン”こと松任谷由実の第2回は、自身の恋、そして多くの共感を呼ぶ詞が生まれた背景がつづられます。

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21歳のユーミンは言った「私ね、音楽評論家って嫌いなの」その真意は… 音楽の達人“秘話”・松任谷由実(1)はコチラ

東京・御茶ノ水の予備校に通っていた“カレ”

現在の自分に満足できている人は、過去も楽しかったり、なつかしかったりなど、肯定的な思い出にできる。現在に満足できない人には、過去も辛いことばかりとなってしまうことが多い。

ぼくが恋の達人と思う松任谷由実~ユーミンが、過去の恋の思い出を語り出した時、その眼は懐かしそうに、しかし輝いていた。

“初恋は、恥ずかしいくらいに哀れだったわね”

そうユーミンは語り始めた。

それは、ユーミンが中学3年生の時だった。美術大学を目指していた彼女は、実家のある東京・八王子から、夏休みの間、御茶ノ水にあった美大志望者のための予備校に通っていた。

“その予備校は、高校3年生が主体で、私のような中学生はほかにいなかったの。そこで、名前も知らない3級上の高校生に恋をしてしまったの。自分から声を掛けるなんて、絶対にできないから、彼の近くで、彼の横顔を見ながら、デッサンを続ける日々が続いたの。八王子から毎回ドキドキして出掛け、毎回シュンとして御茶ノ水から帰る日々だった”

ユーミンの名盤の数々。アルバムの総売上枚数は3000万枚以上を誇る

失恋描写の達人 「電車の中吊り広告」が作詞に役立った

彼の名前くらいしか分からず、互いに声を掛け合うこともなく、ひと夏の片想いは終わった。恋の達人みたいに思えるユーミンにも、こんな美しい、失恋とも呼べない淡い恋があった。そのことは新鮮な驚きをぼくに与えてくれた。

ユーミンを恋の達人と述べたが、それは恋愛成就の達人というわけではない。ユーミンは、その楽曲をすべて聴けば分かるが、失恋描写の達人なのだ。彼女の中学3年生の夏のひと夏の経験とも言えそうな体験も、きっと後の彼女の楽曲に影響したのではないだろうか。人は多くの失恋を土台にしている。恋愛成就の曲より、失恋の唄のほうが、多くの人の心を捉えるものだ。

早熟だったと自ら語るユーミンだが、この中学3年生の御茶ノ水予備校通いは、後から振り返って良い思い出だったのだろう。このちょっとした打ち明け話を訊いた時には、松任谷正隆氏と結婚し、出すアルバムはすべてヒットするという、幸せな状態にユーミンはいた。ユーミン自身が幸せだったからこそ、この“御茶ノ水の恋”は、懐かしく、美しい思い出に昇華していたのだろう。

悲しい心を抱えて帰る、御茶ノ水から八王子への長い電車旅は、ただの悲しい時間ばかりではなかった。その長い時間、いつも眠ることもなく、電車の吊り広告に書かれた文字を、ぶつぶつ言いながら読んでいたという。

“吊り広告のコピーって、下手な詞より生き生きとしていて、作詞に役立つと思うの。私の書く詞には、そういうところから閃いたものが結構多いのよね”

ここはユーミンのすごいところだと思う。普通、失恋の予感を抱えながら、別のことを考えるのは、大人でも難しい。それがミドルティーンといえる中学3年生時に、パラレルに同時進行できてしまう。そこが、すごいのだ。

深夜のファミレス、カップルを観察してイメージが湧く

かつてファミリー・レストランができ始めた頃、そこは若者の溜まり場だった。夜、どこか、例えば東京在住なら、カップルで江の島など湘南へドライヴに出かける。その帰りの夜、ファミレスに寄って、もしかして今日、最後になるかも知れない、ラヴ・トークをする。そんな若者が、初期のファミレスには多かった。

その頃、ユーミンは今と同じ世田谷で暮らしていて、ぼくも世田谷に住んでいた。深夜のファミレスで何度か、ユーミンと会った。トレンドを先取りするのが上手なユーミンにとって、ファミレスは新鮮だったのだろう。

“ファミレスにいて、シートにぴったりと背中を付けて、後ろの席にいるカップルとかの話を訊いてみるの。そうすると、新しい詞のイメージが湧くこともある。前の席に座っているカップルを観察して、そこにいる彼女が自分だったら、どうなるんだろうって思ってみる。それも詞になることがあるわ”

ただ、恋をするだけでなく、恋を観察できる。それが、ユーミンなのだ。

2012年発売の『日本の恋と、ユーミンと。』は、デビュー40周年記念ベストアルバム

岩田由記夫

岩田由記夫1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo」で、貴重なアナログ・レコードをLINNの約350万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。

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