お客さんだけが知らない! 普通の物件を「最高」と思わせる不動産仲介マンのストーリー営業術

不動産会社の営業マンが、賃貸物件の内見を案内するとき、どういう順番で物件を紹介するのかご存知ですか? 実は、その順番にはセオリーがあります。営業マンが「この物件で契約させたい」と考えた物件を、お客さんが「いい物件を見つけた!」と喜んで契約してくれるようにするための戦略があるのです。自分が本当に納得して部屋を選ぶことができるように、営業マンの戦略について知っておきましょう。

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部屋との出会いを演出するのが営業マンの仕事

「部屋探しにいちばんいい時期はいつですか?」と聞かれることがよくあります。

お客さんとして不動産会社に行くと、一年中、「いまが部屋探しにはいちばんいい時期ですよ」と言われますが、いい部屋に出会えるかどうかは、タイミングなので、この質問は不動産のプロであってもなかなか答えづらいものと言えます。

ただ、ひとつ言えるとしたら、物件のタイプによって市場に多く出回る時期は違っているということでしょう。

賃貸業界には、繁忙期と呼ばれる季節があります。具体的には10月から翌年の3月までの5カ月間なのですが、実は、この時期によく動くのはワンルームや1Kといった単身者向けの物件です。就学、就職で引っ越しをする人が増える季節だからです。特に首都圏の不動産会社にとって、この時期は激戦期といっていいほどの忙しさです。
一方、ファミリー向けの物件は6月の結婚シーズンに向けて、4月以降によく動きます。

このように、タイプによって物件が市場に多く出る時期は違うのですが、同時にそのタイプの部屋を探している人も増えるので、それが部屋探しにいちばんいい時期だとは言い切れないところがあります。
時期がいつであれ、いい部屋を見つけられるかどうかは、タイミング、まさに出会いの問題と言えるのではないでしょうか。

その出会いを演出する、つまり部屋を探す人と物件とをマッチングするのが不動産会社の営業マンの仕事です。そして仲介手数料とは、マッチングが成功したときに、入居者や大家さんが不動産会社に支払う成功報酬なのです。

現在のように、賃貸物件のポータルサイトが普及していなかった頃は、部屋探しといえば、まずは不動産会社を訪ねるのが当たり前でした。
そして、不動産会社の営業マンに希望条件を伝え、それに合いそうな物件をいくつか紹介してもらい、内見(実際に物件を見に行くこと)をして契約というのが一般的な部屋探しの流れだったと言えるでしょう。

お客さんに来店してもらうために不動産会社がすること

いまでは、多くの人がSUUMOやHOME’Sといった賃貸物件のポータルサイトを利用して、お目当ての物件を見つけてから不動産会社に電話やメールで問い合わせをします。
借りる側としては、ポータルサイトで気になった物件を内見して、気に入ったらすぐに契約といった具合に、ピンポイントで決めてしまいたいと考えるのは当然でしょう。

一方、不動産会社の営業マンにとっても、それで契約が取れれば、ほとんど手間をかけることなく仲介手数料が入ってくるのですが、話はそう簡単ではありません。

せっかく問い合わせがあっても、その部屋がまだ空室とは限りません。それに、不動産会社が扱っている物件は、数多くありますから、営業マンとしては少しでも契約を取るために、お客さんに何とか店頭まで足を運んでもらって、いろいろな物件を紹介したいと考えます。

そこで、内見の予約が取れたお客さんには、お目当ての物件以外にも何件かの物件を見てもらおうと営業トークを展開します。また、お目当ての物件が成約済みだったお客さんには、メールなどでいろいろな物件情報を送って、何とか来店してもらおうと働きかけるでしょう。

また、これはとても残念なことですが、ポータルサイトには、お客さんからの問い合わせを取るために、「おとり物件」と呼ばれる成約済みの物件や、最初から存在しない物件情報が掲載されている場合もあります。
お客さんからの問い合わせをきっかけに、営業マンはなんとか来店してもらおうと営業活動を展開していくのです。

営業マンは最初から「本命」には案内しない

さて、営業活動が実を結び、無事にお客さんに来店してもらい、物件を案内するときにもセオリーがあります。

営業マンは、お客さんを「いい物件と出会えた!」という気持ちにさせるストーリーをつくるのです。

もう少し詳しく説明しましょう。営業マンは最初から「本命物件」を紹介するようなことはしません。営業マンは、本命物件をさらに魅力的に見せて、確実に成約に結びつけるための内見ルートを組み立てています。

不動産業界では、「回し物件」という言葉がありますが、これは本命物件をより魅力的に見せるための「残念な物件」のことです。不動産会社によっては、本命物件を「決め物件」、残念な物件のことを「当て物件」「中物件」などという呼び方をするところもあります。

最初に見せるのは「がっかりしてしまう物件」

営業マンはお客さんをまず、回し物件(当て物件)に連れて行きます(3件案内する場合は、2番目の物件を中物件ということもあります)。写真で見るよりも暗い印象だったり、古く汚れていたりする残念な物件です。


営業マン:「最初の物件はここです。ちょっと築年数は経っていますがおすすめですよ!」

お客さん:「いや、ちょっと薄暗い感じの部屋ですね。うーん…(ちょっとここはないなぁ。こんなところには住みたくないよ)」

営業マン:「そうですか? なかなか人気の物件なんですけどね(よしよし、いい感じに引いてるぞ…)。では、次の物件を見てみましょうか」

後から案内する「本命物件」で契約を決める

こんなふうにお客さんをがっかりさせた後に案内するのが、本命物件(決め物件)です。回し物件と比べると格段に良い物件で、魅力に欠ける物件を見せられてきたお客さんからすると、実際の実力以上にその物件が魅力的に見えることでしょう。


営業マン:「実は僕もこの物件を案内したのは初めてなんですけど、思っていた以上に良い部屋ですね(本当は初めてじゃないけど、そう言っておかないと最初からここに連れてこいって言われちゃうからね…)。お客さんは運がいいなぁ!」

お客さん:「今日見た物件のなかではここがダントツです。ここは前向きに考えたいですね(ここに決めてもいい気がするけど、ほかの不動産会社でも物件を見てみたいな…)」

営業マン「(ここまで“感度”が出てれば、あと一押しだな。一発、“あおり”でも入れておくか!)あっ、そういえば今朝、ウチの営業がこの部屋を検討中のお客さんがいるって言っていましたよ。これはすぐに決めないと取られちゃうかもしれませんね」

お客さん「えっ、本当ですか? うーん…。 わかりました。ここに決めます。契約お願いします!」

営業マン「ありがとうございます! この物件なら間違いないですよ。お客さんは本当に運がいいですね(よっしゃ! これで今月のノルマ達成だ!)」


営業マンが心のなかでつぶやいていた「感度」とは、物件を見たお客さんの興味や関心のことです。そして、「あおり」とは、迷っているお客さんの決断をうながす殺し文句のようなものをいいます。
たとえば、「ここは人気物件なので、早く決めないと取られちゃいますよ」とか、「これほど条件のいい物件は、めったにないですよ」といったセリフがよく使われます。

最初にがっかりする物件を見せて、最後に本命物件を見せるというストーリーのなかで、営業マンはお客さんの「感度」、つまり感情がどれだけ動いているのか、注意深く観察しています。そして、ここぞというときに「あおり」を入れて、契約に結びつけます。

営業マンは最初から、本命物件(決め物件)で契約を取ろうと決めてストーリーをつくり、お客さんはその戦略にはまってしまったのです。

賃貸の場合、いまでは、店頭でお客さんといっしょにパソコンの画面を見ながら物件を探していくスタイルが増えてきているので、ここまで露骨なケースは減ってきていると思いますが、昔ながらの営業スタイルをとっている会社もまだ残っています。

また、物件の販売を行なう営業マンは、いまもこうした手法を活用していることが多いようです。

営業マンの「本命物件」に隠された裏事情とは?

ここで知っておいていただきたいのは、営業マンが本命物件にしたのは、「お客さんにとってベストな物件」とは限らないということです。

実は、不動産会社には不動産会社の事情で「優先的に契約を決めたい物件」というものがあるのです。

賃貸物件の仲介手数料は、宅建業法で「家賃1カ月分が上限」と決められていて、不動産会社はこれを越える金額を受け取ることはできません。貸し主、つまり大家さんから家賃0.5カ月分の手数料をもらったら、借り主(お客さん)かららもらう手数料の上限は0.5カ月分ということになります。

ですが、空室を優先的に埋めてもらいたい大家さんが、不動産会社に仲介手数料とは別のお金を支払うことがあります。それは、ADと呼ばれるお金で、不動産業界では半ば日常化してしまっているものです。

ADが出ない物件よりも出る物件の契約を決めたほうが売り上げは増えます。ADを1カ月分出してもらえれば、仲介手数料を合わせて家賃2カ月分の売り上げになります。ADが2カ月分出れば、3カ月分の売り上げです。

営業マンの多くは歩合給で働いているため、ADが出る物件の契約を優先して決めたくなるのは当然といえるでしょう。

そうなると、本当はお客さんの希望にピッタリの物件があっても、その物件には案内せず、ほかの条件が近いもののなかからADが出る物件を本命物件として紹介する…ということもあるかもしれません。

AD付き物件を見抜く方法は?

こんな話をすると、不動産会社の都合で物件を押しつけられるのはイヤだと思われるかもしれません。
もし、営業マンが本当のおすすめ物件を隠したまま、ほかの物件を本命物件として契約を決めようとしていた場合、それを見抜く方法はあるのでしょうか?

結論から申し上げると、それはむずかしいでしょう。

ADなどの情報は、物件図面の「オビ」と呼ばれる場所に記載されている場合が多いので(書かれていない場合もあります)、図面のオビを見せてもらえれば、営業マンがすすめる物件がADつき物件かどうかわかることでしょう。

でも、お客さんのほうから「オビを見せてください」と言うのは考えものです。不動産業界には、「10万円以下の仕事で人は動かない」という言葉があるのですが、営業マンからすると、「家賃1カ月分の手数料で、あまり面倒なことは言われたくない」という気持ちが働いてしまう可能性があります。

六本木ヒルズのように、1カ月の家賃が100万円以上する部屋を借りるのであれば話は別かもしれませんが、残念なことに、不動産業界には前述の言葉に象徴されるような文化があるのも事実なのです。

とはいえ、賃貸業界では仲介手数料の割引を行なうことが一般的になり、なかには、オビを隠さずに「これは手数料を50%引きにできる物件です」「これは手数料を無料にできる物件です」と説明してくれる営業マンも出てきているようです。

不動産会社はコンビニの数ほどありますから、手間を惜しまずに何軒かの不動産会社を回って、隠しごとをしない、信頼できる営業マンを探すのがおすすめと言えるでしょう。

営業マンの描くストーリーに乗せられないために

最後に、営業マンのストーリーに乗せられないためのヒントとして、私の経験談をお話ししたいと思います。

私が勤めていた不動産会社を退職して独立したばかりの頃、会社に泊まり込む日があまりに多かったので、会社の近くに1年ほどワンルームマンションを借りていたことがあります。

その部屋を探すとき、不動産会社の営業マンが最初に私を案内したのは、あるマンションの半地下の部屋でした。半地下の部屋は一般的に日当たりが悪く、上の階に比べて道路からの騒音の影響を受けやすいので好まれません。

まずは「残念な物件」から紹介するという営業マンのストーリーづくりが始まったのです。

私はすぐに、そのことに気づきましたが、「もういいから早く本命に案内してよ」というのは大人気ないですし、ふと、この後に営業マンがどういう行動を取るのか興味をもったので、黙って彼のストーリーにつきあうことにしました。

営業マンの手の内がわかっていれば、営業マンが描くストーリーに踊らされて、誘導されてしまうことはありません。

大切なのは自分が納得して部屋を選べるかどうかです。どんな物件を紹介されたとしても、自分が希望する条件をどれだけ満たす物件なのか、自分が本当に住みたい部屋かどうかを冷静に判断すればいいのではないでしょうか。

(執筆者:大友健右)

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