日本一予約が取れない温泉宿「箱根吟遊」の人気の秘密。

宿・ホテル予約サイト「じゃらん」で行われたユーザーアンケートで「人気温泉地ランキング」として見事1位を獲得した神奈川県の「箱根温泉」。新宿からロマンスカーに乗れば1時間30分程度で訪れることができ、外国人観光客からも大人気の温泉リゾートだ。そんな箱根に芸能人や企業のトップがお忍びで訪れる、人気の高級旅館「箱根吟遊」はある。日本一予約が取れない宿として有名な箱根吟遊、その人気の秘密に迫っていきましょう。

火災がきっかけで「和」と「アジアン」の融合空間に生まれ変わった

箱根湯本駅から車で約15分の宮ノ下に位置する箱根吟遊。一度は泊まってみたい高級旅館として憧れているファンも多く、半年先までは常に予約で埋まっているという今大人気の宿なのだ。

元々は現専務・太田明宏氏の祖母の代(昭和26年)に「武蔵野観光旅館」として創業し、箱根の和風旅館として長きにわたり愛されていた。しかし2000年に旅館内で火災が発生し、幸いにも軽傷者しか出さずに済んだが建物は全焼。修復か建て替えかという議論の末、新しく「箱根吟遊」として生まれ変わることとなった。

そして専務の太田明宏氏と旅館建築で有名な石井建築事務所の一級建築士・大川孝信氏がタッグを組んで、当時の箱根には無い全く新しいスタイルの旅館を造り上げたのだ。そのコンセプトは「和とアジアンの融合」。無類のバリ好きだった太田氏は大量の写真データや雑誌を大川氏に渡し、幾度となく打ち合わせを繰り返しバリの雰囲気を和の中に取り入れたこの斬新な空間が完成したのだという。

エントランスホールは某大手音響メーカーの取締役が音の反響が素晴らしいと太鼓判を押し、現在では定期的に演奏会なども行われている。

エントランスに入るといきなり目に飛び込んでくる箱根の広大な景色。そして天井に使われている素材は太田氏と大川氏が何度も相談を繰り返しながら造られたココナッツの繊維を細かく編み込んだもの。バリの古民家を意識し、バリの屋根材に起用されているアランアランという素材を求めていた太田氏に、最も近く安全ということで建築士の大川氏が提案した。

孔雀の羽のようなデザインの「ピーコックチェア」は箱根吟遊の看板でもある。ビスやネジ止めが一切無く、組み込みのみで完成させた造形が美しい。ここで箱根の山々を眺めながら語るのも至福のひと時。

ロビーや廊下など、至る所に配置されている装飾品のほとんどは専務の太田氏がバリで直接仕入れてきたもの。そして常に入れ替えも行っていて、全て販売可能なアイテムだという。

バリの"インフィニティプール"をイメージした露天風呂

バリの高級リゾートホテルにある、柵などが無く水面がそのまま景色と溶け込むプール「インフィニティプール」。それを日本の露天風呂に最初に取り入れたのが箱根吟遊なのだ。湯に浸かりながら何かに遮られることなく景色が楽しめ、目の前の人工物の無い大自然からパワーをもらえるような気分に浸れる。今では「インフィニティ風呂」などと呼ばれ日本各地に存在するが、箱根吟遊はまさにその走りなのだ。

泉質は肌にも優しいナトリウム-塩化物泉。

「心地よさ」を計算し尽くされた客室の設計

箱根吟遊の人気の秘密は、もちろん心地よい客室にもある。食事は全室部屋出しとなっているが、朝は就寝されているお客様も多い。そのため準備の際は就寝している和室を通らずに客室内の廊下から直接テーブルのある居間スペースに入れるように設計されている。そうしたお客様の気持ちになることで初めて「心地よさ」を感じてもらえるのだという。

就寝する和室からの眺め。テーブルを低く設定しているため、座った状態でもプライベートガーデンまでを一望できる。

落ち着ける「古民家」を意識したという客室は、アジアンテイストを盛り込んだ和風。バリで調達したというテーブルや籐編みの吊椅子などが和の中に自然と融合している。通常食事をとるテーブルは床から70cmが基本になっているということだが、それでは和室に座っている状態で庭の方を眺めたときに視界を遮ってしまう。そのために床を半掘り仕様にし、25cm低くしたことで景色が見えるように工夫しているのだという。日本建築の特徴でもある「中のような外のような一体感」も高次元で設計されている。

部屋から段差も無く続く露天風呂付きのプライベートガーデン。箱根に自生している木々が自然にあるイメージでプロデュースされている。

1階の客室はこのように露天風呂からプライベートガーデンが眺められ、2階以上の客室からは人工物の無い山々が眺望できる。どちらにも違った魅力がある。

ガラス張りの内風呂からもプライベートガーデンが眺められる。

本物の素材にこだわりぬき、和紙も工場で生産されているものではなく、伝統の手漉き和紙を使用。現在では木材にはオイルステインを塗ることが多いが、昔の家では柿渋を防虫効果として塗っていたという歴史があり、箱根吟遊でもそれを採用。美しい飴色が古民家テイストを生んでいる。

水上コテージのようなバーラウンジ

1階にあるアジアンリゾートをイメージさせるバーラウンジ。水上のコテージのような佇まいでリゾート感を演出。

インテリアもバリのコテージのような雰囲気を取り入れた造り。明るい照明はあえて使わず、夜になるとさらに落ち着けるムードを演出する。

世界中のお酒が楽しめるバーラウンジでは、凄腕のバーテンダーがオリジナルのカクテルなどを提供してくれる。もちろんお酒が苦手なお客様にはノンアルコールカクテルを用意。

多くの女性を惹きつける本格スパ

箱根吟遊の人気の秘訣でもあるのが、離れにある「Ginyu Spa」。本格的なエステを提供するスパルームとして女性客からの人気が高い。宿泊客以外のお客様用の日帰りスパ(DaySpa)も行っているのが嬉しい。

壁や天井には焼き木を使い、自然の中にいるようなリラックス空間を作り上げている。

このリラクゼーションルームはウォーターガーデンとその奥に箱根の山々が望めるという、至福の時間を過ごせる空間。

エステルームはペアルームもあり、2人で同時に受けることができる。ボディマッサージやリフレクソロジー、フェイシャルなど多くのメニューから本格的なトリートメントが受けられる。

祖母の代から受け継いだ"守り神"のような存在

祖母の代から敷地内にそびえ立っていたが、立ち枯れしてしまった赤松。その赤松を敷地から出すのはいけないのではないかと考えていた専務の太田氏は、建て替え時に建築士と相談し木材として再生させることにした。長野の専門業者によって1年間乾燥させ、漆を塗られたその赤松は箱根吟遊にとっても、太田氏にとっても"守り神"のような存在なのだという。

再生された赤松はスパの廊下部分に使用され、温かみのある雰囲気を演出している。

重厚な一枚板として、5階にあるバーのカウンターとしても使用されている。

玄関に入ってお客様が靴を脱いで1歩踏み入れる場所にあるのもこの赤松。

この空間を造り上げた仕掛け人にインタビュー

半年先まで予約でいっぱいの旅館を造り上げた2人の仕掛け人、箱根吟遊・専務の太田明宏氏と石井建築事務所の大川孝信氏にインタビューし、その多くの人を魅了する空間作りについてのこだわりを伺いました。

左が箱根吟遊・専務の太田明宏氏。右が石井建築事務所の一級建築士大川孝信氏。

太田氏:「私は精神的なところからサービス業は成り立つと思っています。旅館経営に携わる前までは旅行代理店で添乗員をやっていて、満足したお客様の話も不満を持っていたお客様の話も多く聞くことができました。そんな中で重要だなと感じていたのは、お客様のほうが"緊張している"ということでした。例えばチェックインの時など、我々はそこに毎日いるけれどお客様は初めて訪れるわけで、その精神状態や抑揚をうまくコントロールしていかなければと思っています。ここではこう思ってもらえるかなとか、お部屋に着くまでのストーリーを作り上げるというか。そういうことって旅館の建築を多くされているところにしか造り上げられないなと思い、大川さんにお願いしたんです。」

大川氏:「太田さんから、せっかくの景色だから回廊を通してからラウンジに案内したいという要望がありましたね。2002年に完成させるために工期は1年しかなかったので、時間があまりなかったのですが、アジアンを和の中に取り入れたいということでバリの雑誌や写真など付箋が貼り付けられた山積みになった資料を渡されたことを覚えていますよ。当時はそんな旅館は無かったですし、ロビーの天井でもアランアランを使って欲しいというオーダーがあったのですが、使用が困難だったので代わりの素材を探して提案したりと、こだわりが強いので大変でしたね(笑)」

太田氏:「私はどこかの真似をすることが一番カッコ悪いと思っているので、他の旅館を参考にすることは無かったですね。設計の段階では長期間バリに出向き、現地の方々とも話をしながら色々吸収していました。その中で現地の方々は日本の神社仏閣などを勉強してバリの建築に生かしているという話を聞いたんです。それならばその雰囲気は絶対に日本の旅館にも合うはずだと確信しました。そこを融合させる設計を大川さんにうまくやっていただきましたね。そしてトータルで満足していただかないとお客様はリピートしていただけないと思い、料理や旅館内の小物に至るまでこだわり抜いています。全てのお客様に本当に満足していただけるようにと考えると、迎え入れられる限界が20室だと思い、利益を求めていたずらに部屋を増やすようなことはしませんでしたね。」

チェックインを済ませたお客様が最初に通るのが、この広大な箱根の山々が見渡せる回廊。

ロビーがある5階の吹き抜けから下を眺めると、この建物が山に沿って建てられていることがわかる。エントランスやロビー、大浴場は5階にあり、客室は4階から1階までとなっている。

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お客様の立ち場に立って設計段階から綿密にコンセプトを打ち出し、徹底したサービスに対するこだわりを持つことが箱根吟遊の人気の秘訣なのかもしれません。そして存在しているものを追いかけるわけではなく、自分が信じているものを新しく生み出すというチャレンジで、他の旅館にはない箱根吟遊だけの魅力を生み出していると感じました。日本一予約が取れない宿は、日本一お客様の心地よさを追求した宿なのでした。

Photo:木下誠
Text:小久保直宣(LIMIA編集部)

◆取材協力
箱根吟遊(はこねぎんゆう)
神奈川県足柄下郡箱根町宮ノ下100-1
TEL 0460-82-3355
アクセス 車:箱根湯本駅から15分 電車:箱根湯本駅から箱根登山電車で「 宮ノ下」駅下車(徒歩3分)


設計・施工:石井建築事務所
静岡県熱海市田原本町3-1 熱海魚熊ビル2F
TEL 0557-82-4171
http://www.ishii-aa.com

箱根吟遊イメージムービー

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