100年住める家を目指して。伝統的なスタイルをモダンにアレンジ 〜「10年愛♡の家」 Vol.6〜

時を経ていくことでより愛情が深まり、永く愛せる家とは、どんな家なのでしょうか? そんな、たっぷりと愛情を注がれた家の魅力を紐解いていく連載企画「10年愛♡の家」。今回はこの企画にぴったりの、まさに「100年住める家」を目指して施主自らがアイデアを紡いで家づくりを行ったHさん宅。そこは見事な庭園のある、日本の伝統的なスタイルをモダンにアレンジしたお宅だったのです。

重量木骨の家

必ず帰る場所がある、そんな安心感を持つ家を求めて

「私の定年後に夫婦で第二の人生を送るための家づくりだったのですが、子どももいるし孫も出来た。将来彼ら彼女らが長く住める、それこそ100年持つ木造の家を作りたかったんです」

と開口一番、施主であるHさんは語ってくれました。Hさんは日本の高度成長期を支えてきたトップメーカーで長年エンジニアとして勤めていましたが、十年前定年を迎え新たな職場に移ることになりました。それを機に、この地で第二の人生を過ごそうとこのお宅をたてたそうです。長年日本の、いや世界のモノ造りをリードしていたメーカーでエンジニアをされていた経験から、家づくりに関しても並々ならぬ情熱を抱いていたそうで、実際にこの家を作る、と決めてからは自分に出来得る限りの情報収集と勉強に励んだのだと言います。

見事な庭園にマッチする和風な外観のHさん宅。しかしこの家には”100年住む”ための工夫が沢山詰まっています。

「エンジニアの性分なんですね、やる、となったらトコトンそれに関して調べ尽くさないと納得できないんです。そしてそこから自分なりの最適解を導き出す。まさにエンジニアの仕事に対する向き合い方と同じなんですが、そうして隅々までこだわり尽くしたのがこの家です。今は夫婦2人で住んでいますが、子どもも孫もいて、彼らもゆくゆくはここに住めるといいのでは、と考えて『100年住める家』というのをまずコンセプトとしました。もちろん耐震もしっかりしていてしかも木造で出来ないか、というのが条件でした」

木造で100年住める家、常識的に考えてそれは中々ハードルの高い目標設定です。しかし鉄筋コンクリートやRC工法など”鉄”を主材とする建築工法であった場合でも、鉄やコンクリートは条件によっては意外に経年劣化が激しいというデータも出ています。鉄筋や鉄骨だからといって100年持たせるのは至難。それを木造で…となると現代の感覚で言えば不安は拭えませんが、少し考えてみましょう。例えば現存する日本最古の木造建築と言われているユネスコ文化遺産、法隆寺西院伽藍の創建は実に7世紀、定期的に修復工事が行われているとはいえ、木で作った建物が現実に1300年以上も残っているのです。その事実は我が日本人の並々ならぬ木造建築への情熱と信念、そして技術の奥深さの証明でもあるわけです。その10分の1の年月でもいいから現代の技術で少しでも近付けられないか、と考えたHさんが探し当てたのが重量木骨という構造計算が可能な集成材を使用する”耐震構法 SE構法”の”重量木骨の家”だったのです。

100年持たせるための木造建築”耐震構法 SE構法”とは

こちらがSE構法で使われる集成材。鉄筋や鉄骨材と同様に構造計算が可能。

従来の木造建築の場合、使用する木材は無垢材から切り出したものを使用するため、材によって強度がまちまちでした。圧倒的な質と量を投入して「強度と耐久性」を確保できる神社仏閣であればいざ知らず、効率性を重視せざるを得ない一般家屋の場合ではなかなかそうもいきません。しかし、強度を算出できる集成材を使用することによって、強度や耐久性を具体的に数値化する構造計算を可能にした構法が”耐震構法 SE構法”なのです。今までに無い「強度計算の出来る木造建築」という部分に長年エンジニアを勤めたHさんは共鳴したのだそうです。

”耐震構法 SE構法”を扱う工務店は全国に約500社ほどありますが、その中から選び抜かれた64社のみが”プレミアムパートナー”として、建てることを許されているのが”重量木骨の家”。Hさんもプレミアムパートナーの栃井建設工業に施工を依頼。基礎から構造計算をするというプレミアムパートナーならではの技術力と豊富な経験値が決め手だったと言います。

自慢の庭にマッチする和モダンを目指して設計

伝統的な庭園方式「枯山水」を目指した庭園。たっぷりとしたスペースに広がる伝統的な風景は我が日本ならでは。四季折々の眺めが楽しめるのだそうです。

Hさん宅には家を建て替える以前から広々と贅沢に空間を使った素晴らしい日本庭園がありました。このお庭を大変気に入っていたHさんは建て替えをする際に、もちろんこの庭園をそのまま残す事を決めていました。家の設計デザインもこのお庭を活かす方向性で決まっていたと言います。

「この庭は私の親の代からのもので、私も大変気に入っておりました。ですからこの庭に合うような建物にしたいと当初から考えていたのです。とはいえ、住みやすさを考えた際に、空間を柔軟に活用できる日本家屋の特徴を生かしながら、耐震、温熱環境、自然素材等に、現在の最新技術を融合させる方針としました。また私が趣味として陶芸やお茶のような日本的なものから、西洋美術やフルートなど、和洋折衷で嗜んでいますので、和を基調としながらもディテールはモダンに、というようなコンセプトで考えておりました」

ちなみに家を建てるに当たって相当な勉強をされたというHさんは、いざ設計となった際に要望を纏めた資料を作成。設計間取りなどもご自身で考えたそうです。実際にそれをもとにしてプロの設計士が立てた設計プランはほぼHさんの要望通りだったそうです。

玄関からすぐに和室を置く、独特の間取りが特徴

1階の間取りでまず特徴的なのが和室です。Hさんが茶道を嗜むということからも和室があることは普通なのですが、独特なのがその配置。一般的な設計で考える間取りであれば和室は奥まった場所に配置する事が多いのですが、Hさん宅では玄関を入るとすぐに和室があり、リビングダイニングは更にその奥という配置となっています。

「確かに和室は動線の一番奥まった所に配置するのが普通です。以前住んでいた家もそういった間取りでした。しかしそれで分かったのが、奥まっている場所にある和室は結果的にあまり使わないということだったんです。それであれば思い切って和室をパブリックな場所として使える位置にしようと思い立ったのです。そうすれば庭の趣きをより感じる事ができますし、私が友人を招いてお茶を立てるのにも都合がいい。なにより和室をアクセスのしやすい客間=応接室とすることでリビングダイニングをパーソナルな空間として使うことが出来ると考えました。お客様が来る、となって慌ててリビングを片付ける必要も無くなりましたし、通常は、リビングとの間の引き戸を開放することにより、広大な空間を確保することにも成功しました。」

Hさんのご趣味である茶道。炉も切り込まれています。

庭園を臨める大きな窓、そして薩摩中霧島壁とオーク床のリビングダイニング

和室の次の間となるのがたっぷりの広さを有したリビングダイニングです。庭園に面した南側に大きな開口部を持つ窓を設置することでその景観を十二分に楽しむことが出来る、開放的な造りとなっています。また、床にはオークの無垢材をふんだんに使用し、畳敷きの和室とのコントラストが。加えてHさんがこだわられたという薩摩中桐島壁も注目したいところです。

「シラス(火砕流が土になったもの)を使った薩摩中霧島壁は調湿性能や消臭性能に優れているのですが、この自然が生み出した独特の質感が気に入ったのです。床はオーク材という硬い材を使っています。年月を経て風合いが出てくる感じは良かったなと思っています。」

火山灰のシラスを使用した”薩摩中霧島壁”。調湿や消臭効果に優れています。自然素材を上手に採用するあたりもHさんの博識ぶりが伺えます。

床材には無垢のオーク材を採用しています。モダンかつ温かみの感じられる空間演出に一役買っています。

ちなみに機能性に関しては、家屋全面に断熱性能、保水性の高いセルロースファイバーを採用し、窓は全て2重窓の樹脂サッシを採用しました。断熱性、気密性に関しても当時最先端のものを投入。和の景観と最新技術を両立させて住みやすい家を実現しているのです。この辺りのセレクトもなんとHさんが当初から考えていたアイデアだそうで、そのエンジニアならではの勉強熱心ぶりが伺えますね。

また、ご夫婦が趣味で集められた西洋美術に関するポスターやインテリア小物や、長い間愛用している家具類などがセンスよく飾られています。機能性やデザインも含め、ご夫婦の歴史がそのまま感じられる、刺激的なリビングダイニングとなっています。

これは自作の水指。陶芸がご趣味ということで骨董にも造詣が深い。

30年以上使用してきたという家具。他にも数点あり、実際に使ってきた風格がうかがえるものばかり。

ご夫婦で海外を訪れるのもご趣味だそうで、世界各地で購入してきた小物が飾られています。ご夫婦の思い出がこもっているのでしょうね。

”趣味を存分に楽しむ”打って変わってモダンスタイルな2階フロア

和風建築の”大広間”的考え方を基本として設計された1階とは打って変わって、2階は、各部屋が完全に独立した、西洋的、もしくは現代的といってもいい間取りで設計されています。なかでも一番の見所は階段を上がってすぐの「Hさんの趣味室」です。

「2階は完全にパーソナルなスペースとして使いやすいように、ベッドルームにクローゼット部屋、そして私の趣味を楽しむリビングという構成になっています。特にこの趣味室は書斎のような機能も持たせた私が一番気に入っている空間です。天井は屋根の形状をそのまま活かしたモダンで動きのあるスタイルとし、床は柔らかく、優しい踏み心地のある杉材を採用しています。北欧ヴィンテージのデスク、英国アールデコの本棚、イサム・ノグチの照明なども工夫して設置してあります。時間を忘れて静かに趣味を楽しめる、そんな部屋が作りたかったんですよ」

このお部屋で心ゆくまで趣味のフルート演奏をするそうです。理想的な楽しみ方ですね。

Hさんがご自身で制作されたという陶器が飾られています。県展にも連続入選したシリーズだそうです。

”和”と”洋”、そして”伝統”と”最新”が絶妙に交差する「100年住みたい家」

現実的に100年住み続ける、ということは「家族が受け継いでいく」という意味も含まれています。そしてそれを実現できるのは昔ながらの日本家屋の伝統に加え、セルロースファイバーや薩摩中霧島壁など、機能性の高い素材の採用はもちろん、現代の技術である安心な耐震構造を持つ家だからこそ。

安心できてとっても住みやすい、そんな家だからこそ子どもの世代や、更に孫の世代にまで愛されるのではないでしょうか。

「建てて十年になりますが、仕事で遠く離れて暮らしている子どもたちもよく孫を連れて帰省してくれますし、彼ら彼女らがここを長く受け継いでいってくれるといいですね」

和室のふすまはオリジナル。ベージュの部分は奥様の母上が使っていた帯を切って貼ったもの。

Text:藤川経雄
Photo:塩谷佳史

◇取材協力
栃井建設工業株式会社


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