「私の庭・私の暮らし」相模湾を見晴らす天空の庭 静岡県・増田邸

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花や緑に親しみ、季節感に溢れる暮らしを訪ねる「私の庭・私の暮らし」。今回ご紹介するのは、静岡県伊豆半島の、海を見渡す高台にある、増田節子さんの庭〈節子ガーデン〉です。どこまでも広がる海と空の青いグラデーションという、特別な借景を持つこの庭。バラをはじめ、彩り豊かな季節の花々がふんだんに咲いて、明るく開放感に溢れています。節子さんはご主人の助けを借りつつ、25年かけて庭をつくってきました。

抜群の眺望が楽しめる庭

伊豆大島を臨むロケーション。撮影/宇藤カザン

静岡県伊東市、伊豆半島の海沿いをぐるりと巡る道路から脇に入って、勾配のきつい坂道をぐんぐん上っていくと、その先に〈節子ガーデン〉はあります。晴れた日には、正面の大島を始めとする伊豆七島や、遠くには房総半島まで眺めることができるという、展望台のような素晴らしいロケーション。この高台はご主人が育った土地で、お二人はここで養蜂園を営んできました。

白壁の間を抜ける小道。

節子さんはDIYが得意なご主人と共に、広さ約1,500㎡の庭をつくってきました。海側は緩やかに下る斜面。階段状の花壇が立体的に重なり、その間を白壁の小道で周遊できるようになっています。晴れた日には地中海の島を思わせる、明るい雰囲気です。

段差のある立体的な花壇。撮影/宇藤カザン

庭の中心ポイントである東屋を始め、テラスや小道、白壁、花壇、ガーデンシェッドなど、構造物はすべてご主人の手作りです。節子さんも手伝って、毎年少しずつ、時間をかけて作ってきました。

お気に入りの東屋

東屋の屋根にはミツバチが。

節子さんが庭の中でも気に入っている場所は、ご主人が最初に作ってくれたという東屋です。ここから眺める海と庭の景色が、なんといっても一番だそう。ご主人の遊び心から、東屋の屋根にはミツバチのオブジェが載っています。

東屋から眺める海。

青い海と空を背景に、光と風の中で、色とりどりの草花が踊っているよう。節子さんの庭には、ゆったりとした、おおらかな時間が流れています。

思いがけず始まった庭づくり

石垣を背に、流木を使ったコーナー。

今やベテランガーデナーとなった節子さんの庭づくりは、ひょんなことから始まりました。きっかけは、家屋近くの斜面でがけ崩れが起きたら怖いからと、業者さんに土手の石積みを頼んだこと。その業者さんは、2段の石積みだけでなく、その近くに滝や石灯籠を配して、おしゃれな空間に仕上げてくれたのです。

家屋近くはどことなく和の雰囲気。石段もご主人の手作り。

思いがけず生まれた小さな庭を目にして、それなら、自分たちでもやってみようかと、2人の庭づくりが始まります。「もともと、植物は嫌いではなかったけれど、こんなにはまると思わなかった」と笑う、節子さん。まずは、家屋の近くから小道を伸ばしながら、庭を広げていきました。

山野草やアジサイの多い家屋近く。撮影/宇藤カザン

オープンガーデンに挑戦

青系のバラが咲く一角。紫のジギタリスは原種らしく、勝手にどんどん増えるそう。撮影/増田節子

東屋が建ち、10年のうちにだんだんと庭が形になって、友達が遊びに来てくれるようになりました。すると、「もっとたくさんの方に見ていただきたい」という思いが生まれ、節子さんは伊豆ガーデニングクラブの〈伊豆オープンガーデン〉で、庭の公開を始めました。

お気に入りのバラ‘ラプソディー・イン・ブルー’は来園者にも人気。

節子ガーデンは、すぐに人気の庭となりました。「花の好きな方が来てくださって、一緒に花の話ができるのが楽しい」と、節子さんはオープンガーデンの魅力を語ります。現在の状況では、今までのようにお客さんとおしゃべりすることはできませんが、来園者を迎えることは、庭仕事の大きな励みになりました。

青空に映えるバラの庭

真っ赤なゼラニウムがアクセントに。撮影/増田節子

5月のころ、節子さんの庭はたくさんのバラが花開いて、一年で一番華やかになります。バラを育てるきっかけとなったのは、近所のお友達の家に活けてあった、庭育ちのきれいなバラを見たこと。それは近くの別荘地にあるお宅の庭でもらったもので、節子さんは興味を引かれて、その庭を訪ねてみました。

四季咲きの‘アンブリッジローズ’。

その庭には、さまざまな美しいバラが育っていました。バラは育てるのが難しいに違いないと、手出しを控えていた節子さんですが、その素敵なバラの庭を見て「私もやりたい」とエンジンがかかります。育て始めたら夢中になって、気が付けば、庭には200種近くのバラが咲くように。株の4分の1ほどは挿し木で増やしたものです。

バラ‘サハラ98’が覆うアーチ。撮影/増田節子
バラに囲まれる小道。撮影/宇藤カザン

バラが多く植わっている海側のエリアは、近所の茶畑を譲ってもらった土地で、構造物担当のご主人が、毎年1段ずつ斜面を切り開いて、白壁や階段状の花壇、小道をつくってきました。

構造物の設計はご主人におまかせです。設計図は頭の中に描かれるので、毎回どんな風に仕上がるかは、見てのお楽しみ。階段状の花壇は、その場にある土をそのまま生かしてつくられました。庭の土はもともと茶畑だったからか小石もなく、良質です。伊豆高原に多く見られる、溶岩石の混じる土を持つ近隣の庭仲間からは、土がよいと羨ましがられるそう。

草花を植えるスペースが生まれると、節子さんは早速、植栽に取り掛かります。立体的な階段状の花壇は、平面より植栽がしやすいように感じています。

ご主人が腕を振るったガーデンシェッド。

多彩な植物コレクション

多種類のギボウシが植わる家屋近くのコーナー。

節子さんは、ある一つの植物に興味を持つと、そのバリエーションをたくさん集めたくなると言います。例えば、多肉植物にギボウシ、アルストロメリア、ダリア、ニューサイランにコルディリネ。アルストロメリアはいろんな花色が欲しくなり、ダリアもいろいろな種類のダリアを集めました。一度はまったら2~3年かけてその植物を収集し、満足するまでマイブームは続きます。

ピンクのカルミア(アメリカシャクナゲ)。

節子さんの庭には、あまり目にしたことがない植物がたくさん育っています。「見たことのない植物を目にするとお客様が喜ぶので、夢中になって集めてしまいます」。ご本人も何の植物が何種類あるかはっきりと把握していませんが、そのコレクションは小さな植物園のようです。

赤いピンクッションと、丸太型の特注陶器に植わる多肉植物。撮影/宇藤カザン

現在のマイブームはカラー。白の花色が定番ですが、ピンクや黄色の花をきれいに咲かせることができて嬉しくなり、今度は、黒い葉に黒い花のカラーを育てようとしています。今年はこの暑さで球根が溶けてしまったので、挑戦は来年に続きます。

台風は大敵

撮影/宇藤カザン

海沿いの高台という素晴らしいロケーションは、それ故のデメリットもあります。塩害は、標高230mという高さのせいか、それほど困ることはないそうですが、大きな脅威は台風。海から台風の暴風を直に受けると、バラも植木もすべて倒れてしまいます。

高さのある花壇は斜面ならでは。撮影/増田節子

対策として、バラなどはかなりしっかりとした支柱を立てていますが、昨年は2回の台風に多くの植物が根本から倒れてしまい、後片付けに追われました。ダリアの二番花がようやく咲く頃になって、台風に見舞われるという残念なこともありました。

庭と共にある生活

節子さんにとって、庭仕事は生活の一部です。気候の良い時期は、朝5時に起きて、草取りに2時間、夕方に水やりでまた2時間、庭で過ごします。「庭があるから、メリハリのある生活ができます。朝と夕に、少しでも外に出ると気持ちよくて、体にもよいように思いますね」。ステイホーム期間や、夏の猛暑の中で健康を保つのに、庭仕事は役立ったようです。

頂き物の車輪をデザインに生かしたコーナー。

しかし、近年、体調を崩したこともあって、元気なころは苦でなかった日々のお世話がだんだんと大変になってきました。抜いた雑草を片付けてもらうなど、ご主人の協力はずいぶん増えましたが、草取り自体は「花を抜かれると困るから」と、任せることができません。広い庭は、草取りだけでも重労働です。

ピンクと紫のペインテッドセージ。撮影/宇藤カザン

「この広さを今後どうしようかと考えます。メンテナンスのいらない、簡単な庭にしていくしかないかなと思いますが、すぐに好きな植物を買ってきてしまうし、手をかけてしまいます。10年前くらいがベストの状態だったかと思うけれど、一人で全部きれいにするのは無理なので、今は、お客様には『上だけ見てください、下は見ないでください』とお声をかけています」と、節子さんは微笑みます。

ハナショウブとアーチのバラ。撮影/宇藤カザン

完璧な姿を維持するのは難しいけれど、それでも、季節がくれば草花が美しく咲いて、安らぎを与えてくれる、節子さんの庭。これからは体力と相談しつつ、しかし、探求心を失うことなく、節子さんの庭物語は続いていきます。

Credit

取材&文/ 萩尾昌美 (Masami Hagio)
早稲田大学第一文学部英文学専修卒業。ガーデン及びガーデニングを専門分野に、英日翻訳と執筆に携わる。世界の庭情報をお届けすべく、日々勉強中。20代の頃、ロンドンで働き、暮らすうちに、英国の田舎と庭めぐり、お茶の時間をこよなく愛するように。神奈川生まれ、2児の母。

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