狭小地で8つの豊かな住空間。 開放感と快適さを生む「踊り場」の活かし方

敷地は約13坪。しかし、一見、2階建てに見えるこの住宅の内部には8つの層に分かれた住空間があり、青空と緑の爽快な眺めも楽しめる。コンパクトな敷地でここまで豊かな住まいをつくることができたのはなぜなのか? 設計を担当した松浦荘太さんの、空間を自由に操るマジックを紹介しよう。

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階段の踊り場も活かし、豊かな住空間を創出

南に大きく開口した外観。南の土地は一段下がっているため上階からの眺めは障害物がなく、とても開放的
2階のキッチン。1.5階の洋室と2.5階のリビングの中間に位置し、どちらにもすぐに行ける。それでいて適度な独立感もあり、くつろぎのスペースと家事スペースがほどよい距離感で分けられている

東京・世田谷の住宅街。周囲の住宅から頭1つ飛び出したようなこの家は、上階のリビングに上がると素晴らしい眺めが迎えてくれる。近隣は低層の住宅ばかりで視界を遮るものがほとんどなく、近くの大きな公園の緑も見渡せて気持ちがいい。敷地約13坪、しかも旗竿地という、少々ハードルの高い条件で建てられたとは思えない開放感だ。

この家を建てるとき、建築家の松浦荘太さんが施主さまご夫妻から受けた要望は、「仕事場を兼ねた住まいを建てたい。家族が増えたときのために、子ども部屋になるスペースも欲しい」というものだった。

仕事場とは、奥さまが主宰されるアクセサリーブランドnezuの企画/制作の場になる。日中、奥さまはスタッフと2人で製作などの業務にあたる。ときにはバイヤーも買い付けにやってくる。つまり仕事場には、「2人が製作するアトリエ」「作品のディスプレースペース」「来訪者と打ち合わせができる場所」という3つの役割が求められる。

しかし、先述のとおり敷地はとてもコンパクト。松浦さんに最初の感想を伺うと、「正直、この敷地で、生活の場以外にそれだけの空間を内包した家を建てるのは厳しいな……と感じました」との答えが返ってきた。

試行錯誤した結果、松浦さんは「建物全体を階段でスキップフロア状にして、生活空間と階段を一体化させる」というアイデアにたどり着く。

完成した住まいは外から見ると2階建てだが、邸内の床レベルはなんと8層にも分かれ、多くの住空間を備えている。空間構成は家の中心に配した構造壁のまわりをぐるりとのぼっていくスキップフロアで、1階は玄関と水まわり。1.5階は将来の子ども部屋にもなる洋室、2階はキッチン、2.5階にリビング。そして半地下が主寝室。

これだけで床は5層になるが、さらに、1階~2.5階までをつなぐ階段には棚やカウンターデスク付きの広い踊り場が設けられており、そこもディスプレースペースや書斎として使えるようになっている。踊り場は1~1.5階、1.5~2階、2~2.5階のそれぞれにあるから合計3つ。先述の5層にプラスして全部で8層というわけだ。

8層の空間の間は建具がなく、邸内全体に光や風を行き渡らせるとともに一体感も創出。それでいて、高さが違うことで各スペースの独立感も十分。製作や打ち合わせなど、目的によって好きなように空間を使い分けることができる。

「横に拡げられないから縦に」は、狭小地でよくある手法だ。しかし上下の移動手段である階段と踊り場をこんなにも活かし切った住まいは、なかなかないのではないだろうか。限られたスペースの敷地でも、建築家の発想次第で空間はここまで豊かになる。

2階キッチンから1.5階の洋室を見たところ。踊り場の書斎には洋室の窓と背後の窓から明るい光が入る

住む人の個性が活きるデザインと曖昧さが生む自由な暮らし

1.5階の洋室から見たところ。グレーの壁はこの家の中心となる構造壁。この壁の周囲をぐるりとまわって上にのぼるにつれ、さまざまな住空間が現れる。構造壁の左は踊り場を活用した書斎。その奥は2階キッチン。構造壁の右は踊り場を活用したディスプレースペース。その下が玄関
南に大きく開口した2.5階は抜群の開放感。奥の造作棚は奥さまがアクセサリーの素材を収納するためのもの。写真右の一段上がったところはロフト。その手前のグレーの構造壁は、どの空間でもインテリアの洒落たアクセントになっている。オーク材の床もグレーの壁と好相性

この家の特徴の1つは、空間の用途の「曖昧さ」だ。1.5階の洋室は将来の子ども部屋に、2.5階はリビングに……というイメージはあるものの、使い方をガチガチに決めて設計したわけではないという。

松浦さんはいう。「施主さまご夫妻のお話を伺うと、奥さまが仕事をする傍らのテーブルで、遅くに帰宅したご主人が食事をするなど、オン・オフの区切りが曖昧な暮らしをされていることがわかりました。そのため空間の用途もあえて曖昧にし、どこにいても、オン・オフのどちらにもシフトできる住まいにしたいと考えました」

例えば2階のキッチンで食事をつくったら2.5階に上がって食べてもいいし、来客時は1.5階に料理を運びゲストをもてなしてもいい。2.5階で奥さまが仕事をし、ご主人は同じフロアのソファで読書にふけってもいい。逆に、2.5階で奥さまがくつろいでいたら、ご主人はすぐ下の踊り場の書斎でパソコン作業をしてもいい──。

床の高さの違いが生んだ8つのスペースのつかず離れずの関係は、暮らし方を無限大にする。と同時に、施主さまご夫妻のライフステージの変化に合わせ、使い方を自由に変えていくこともできる。

住む人の好みのインテリアが映えるシンプルでセンスの良い内装も、こうした可変性の高さに一役を買っている。差し込んだ光の明るさが活きる白を基調に、家の中心となる構造壁に上品なグレーを使用。どんな色彩も受け入れる白とグレーは、アクセサリーのディスプレーに限らず空間の用途の自由度を高める。

施主さまのライフスタイルを細やかにイメージし、階段を住空間の一部ととらえた柔軟で斬新な設計と、「うるさ過ぎず・シンプル過ぎず」なデザインでベストな住まいをつくり上げた松浦さん。そんな家づくりを実現するには、住む人の暮らしを思うヒアリング力と想像力、それを形にしていく設計スキルやデザインセンスが不可欠だ。話を聞けば聞くほど、松浦さんはその全てを備えた建築家なのだと思わずにはいられない。

半地下の主寝室から1階を見たところ。階段の先は洗面室、その奥のガラス扉の先は浴室。洗面や浴室が寝室と近い、便利な生活動線がうれしい

松浦 荘太

松浦荘太建築設計事務所

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