倉庫&大きなワンフロアがイメージ! スキップフロアを活用した「住み手が完成させる住まい」

今回の施主であるⅯさんは、まだ20代と若いご夫婦である。もともと建築好きということもあり、家を建てることが決まった際にも頭の中には理想の住まいのイメージがあったという。土地を購入した不動産会社の紹介でハウスメーカーの家などを見て回ったが、どうもピンと来なかったというⅯさん。悩んだ末に最終的に設計を依頼したのが、中山秀樹さんだった。

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木造住宅ながら、鉄骨の武骨さをみごとに表現

一般的な住宅とデザインに違いを持たせるために、屋根の形が外側からわかりにくいよう工夫されている。またリビングの外にはご夫婦の趣味であるテントも張れる広々としたウッドデッキも設けられた
玄関を入ったところに設けられた6畳の土間。コンクリートで倉庫の雰囲気を出した空間となっており、ご夫婦の趣味など自由に使い方を工夫できるようつくられている

Ⅿさんと出会った頃を振り返り、中山さんはこう語る。「Ⅿさんはもともととてもセンスの良い方で、建てたい家のイメージもしっかりお持ちだったんです。写真なども持ってきてくださったので、まずはそのイメージに共通するテイストを探していく作業からスタートしました」。何度か話し合いをするなかで明確になってきたイメージは「倉庫を改装したような家」。そして、スタイリッシュな武骨さが感じられるテイストだった。
「通常の住宅はリビング、ダイニング、寝室、子ども部屋と用途に合わせて空間を設計していくのが一般的ですが、Ⅿさんはそのように用途で仕切った家ではなく、大きな吹き抜けとガラス窓のあるワンルームタイプを希望されていました」。このイメージを実現すべくプランを練り始めた中山さんだったが、早速大きな課題にぶつかることになる。Ⅿさんの希望する鉄骨を使うとどうしてもコストが高くなり、Ⅿさんの予算を大幅にオーバーしてしまうことがわかったのだ。「木造の家で、Ⅿさんが希望される鉄骨のイメージをどう演出するか、そこが大きなチャレンジでした」。と中山さんは言う。

それでは、中山さんはこれらの要望にどのような形で応えていったのだろうか。完成したⅯ邸の中を見ていこう。まず玄関に入ると、そこには6畳という広い土間が配されている。床はクールなコンクリート敷き。そして窓枠にはシンプルな黒を使用。木造ながら、Ⅿさんの希望する「倉庫感」や「武骨さ」をみごとに表現した空間が広がっている。そしてこの玄関で興味深いのは、作り付けのクローゼットやシューズボックスなどが一切ないことだ。
「通常だとシューズクローゼットなどを作って仕切ることもできるのですが、あえてそのようなものは置かず<何かしたくなる場所>を意図してつくりました」と中山さん。できた空間は、何もないだけに、何をするかワクワクと想像を膨らませる余地が残されている。

住みながら完成させていく余白を残したデザイン

スキップフロアを採用することで床に高低差を演出。さらに階段の下のステップなどが用途を決めない「居場所」となっている
クローゼットスペース。ここにも作り付けの棚などは一切置かず、衣装箱とパイプのみでシンプルに収納している。これも物をあまり持たないというⅯさんならでは

次に、Ⅿさんのもう1つの希望だった「吹き抜けのリビング」を見てみよう。吹き抜けの高さは約5m。そしてこの空間を強く印象付けているのが、複数の窓をモザイクのように組み合わせた大きな窓である。
「もともとⅯさんはフレームのない全面ガラスがご要望だったのですが、それだとどうしても、普通の住宅っぽいテイストになってしまいます。そこで私が提案したのが、このモザイク型の窓でした。1つの窓にするよりは、木組みにガラスを貼るイメージの方が、鉄骨の武骨感が出ると思ったんです」。
そしてさまざまなパターンを検討した結果、4種類の窓を規則正しく配置することに。こうしてⅯ邸の表情を決める印象的な窓が完成した。

さらにこのⅯ邸の空間に変化をつけるのが、Ⅿ邸の随所に設けられたスキップフロアの存在だ。まず階段下には60㎝の段差が設けられており、そこにひと部屋となる空間が配されている。「段差があることで空間に変化が生まれます。スキップフロアに座って本を読んだり、くつろいだり。そこがひとつの居場所になることをイメージしました」と中山さん。ここはあえて吹き抜けにせず、空間にコントラストを生み出しているところも、中山さんらしいアイディアだ。
そして、黒の素材で武骨感を残した階段を上った2層目に配されたのがセカンドリビング。家族が自分のスペースで何かしたいときに使える空間だ。さらに同じ層には将来の子供部屋を想定した寝室と、クローゼットスペース、ギャラリースペースなどを配置。1階の床が木の風合いなのに対し、2階には黒い塩ビタイルを使用し、仕上げのテイストを変えることで、空間に面白い変化をもたらしている。

さて、ここまで紹介してきたようにあらゆる点で通常の住宅とは一線を画すⅯ邸だが、もう1つ特徴的なのが、収納家具の少なさだ。「一般的に家を作るときは収納用のクローゼットなどを造作することが多いのですが、Ⅿ邸にはこのような作り付けの家具がほとんどないんです。2階のクローゼットスペースにも収納はなく、ご自身でパイプを通して服をディスプレイするように収納されています」
家は実際に住んでみないと、どの空間をどう使うのかがわからない。そのため空間にも収納にも自由度を残し、住みながら自分たちで完成させていくというのが、Ⅿさんのスタイルなのだ。
そんなⅯ邸を中山さんは「ヨハクノイエ」と名付けている。最初から完成形ではなく、住み手が作り上げていく余白のある家。この余白は、Ⅿさんが暮らしながら埋めていく面白みの部分でもある。これから何年もの時を経て、この「ヨハクノイエ」は少しずつ、ゆっくりと完成形に近づいていくことだろう。

黒いアイアンを用いることで「武骨さ」を演出した階段。窓から明るい光が注ぐこの階段も、ひとつの「居場所」となっている

中山 秀樹

株式会社 中山秀樹建築デザイン事務所

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