【子どものミライ】地上と宇宙をつなぐ宇宙エレベーター

2020年を間近に迎えた近年、さまざまなテクノロジーの進化で世の中が大きく変わろうとしている。私たちの子どもが大人になる頃にはどのような時代になっているのか。今の当たり前が当たり前ではなくなっているだろう。KIDSNA編集部の新連載企画『子どものミライ』#03では、宇宙エレベーターの実現に向け情報発信や啓発活動を行う宇宙エレベーター協会に、その全貌と、協会が考える宇宙プロジェクトの実現によって訪れるミライについて聞いた。

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2020年を間近に迎えた近年、さまざまなテクノロジーの進化で世の中が大きく変わろうとしている。私たちの子どもが大人になる頃にはどのような時代になっているのか。今の当たり前が当たり前ではなくなっているだろう。KIDSNA編集部の新連載企画『子どものミライ』#03では、宇宙エレベーターの実現に向け情報発信や啓発活動を行う宇宙エレベーター協会に、その全貌と、協会が考える宇宙プロジェクトの実現によって訪れるミライについて聞いた。

幼い子どもと一緒に夜空を見上げ、「みてみて!お月さまだよ!」という子どもの声に目を細めた経験のある人も多いだろう。小学校に進むと天体学習が始まり、星空観察の機会も増える。宇宙の存在は、幼い頃から私たちの身近にあった。

人類が初めて宇宙に飛び立ってから50年余り経ち、宇宙産業は飛躍的に成長してきた。世界各国からは人工衛星が飛ばされ、その働きにより得られる気象情報やGPS、放送、通信などは、私たちの生活になくてはならない存在となっている。

民間宇宙旅行の実現も目前へと迫り、かつては宇宙飛行士のみ許されていた宇宙飛行も、夢ではなくなりつつある。それをさらに現実的なものへと近づけるのが世界中の宇宙工学の研究者が関心を寄せる、宇宙エレベーターの存在だ。私たちの子どもが成人を迎えるころには、"宇宙への旅行"や"宇宙で働く"なんてことも当たり前の時代になっているのかもしれない。

日本で宇宙エレベーターの早期実現を目指し活動する一般社団法人宇宙エレベーター協会は、情報発信や技術開発の促進、世界中に向けた啓発活動を行っている。その代表理事である大野修一氏に、宇宙エレベーターの全貌と実現によって訪れるであろうミライについて聞いた。

宇宙エレベーターの全貌

今現在、人類の宇宙への移動手段は有人宇宙船のみであるが、宇宙エレベーターが実現すれば物資搬送はもちろん、人々の往来も今より格段に効率的になるという。果たしてその全貌はどのようなものなのだろうか。

地上と衛星をケーブルでつなぎ昇降する

ーー地球と宇宙をつなぐエレベーター、その全体像を教えてください。

「宇宙エレベーターは、地上と衛星をケーブルでつなぎ、そのケーブルに昇降機(エレベーターの箱)を取り付けて行き来します。

つなぐ衛星は地上から約3万6000キロ上空にある静止軌道上にあります。BS放送などの放送衛星が位置する軌道と同じですね」

ーー宇宙空間の衛星に、ケーブルの重みや地球の重力は影響してこないのですか?

「影響します。このままだと、地球側に少しずつ下がってきてしまうでしょう。そうならないために、静止軌道上の衛星(以下、静止衛星)には地球と反対側にもさらにケーブルを伸ばします。地上から伸びるケーブルの長さは全体で10万キロになります。

これによりケーブルには地球の重力と引き合うだけの遠心力が発生し、静止衛星の高度を保つバランスが保たれ、地上とまっすぐに繋がることができるのです」

ーーそのケーブルに最適な素材が近年発見されたと言われている「カーボンナノチューブ」ですね。

「10万キロの長さを自重に負けずに伸びた状態を保つには、ケーブル自体の軽さが重要になります。そこが大きな課題だったのですが、1991年に物理学者であり化学者の飯島澄男先生が非常に軽く、かつ引力に強いカーボンナノチューブを発見しました。

糸を紡ぐようには生産できないため、長さを作り出すことが現段階の課題となっています。生産方法の問題ですから、早い段階で解決できるでしょう。今は技術革新が早いですからね」

宇宙へ向かう宿泊機能付きモビリティ

ーー「エレベーター」というと箱型の乗り物が昇降するイメージですが、どのような作りになるのでしょう?

「宇宙エレベーターの用途として第一に考えられているのが物資搬送ですが、ゆくゆくは人々の宇宙へ向かう移動手段としても活用されるでしょう。

静止衛星までの3万6000キロの旅は、時速300キロで登り120時間、およそ5日間から1週間ほどかかります。

時速300キロというのは新幹線と同じ速さです。世界的にも日本の新幹線は、速い速度で安定的に運行を継続できる運送システムとして認知されているので、宇宙エレベーターも同じ速度で考えられています。

静止衛星にたどり着くまで日数がかかりますから、宇宙旅行用のエレベーターには人が眠れるだけの広さが必要となります。食事や身だしなみを整えるスペースも必要となるでしょう。無重力空間でも人々が数日間を快適に過ごせる仕様で作られると考えられます」

地球環境に優しく何度でも使える

ーー人々が宇宙旅行に使用するとなると、それなりの大きさが必要となりそうですね。

「大きさや重さに関しては、宇宙船やロケットに比べ宇宙エレベーターは非常に有利になります。

例えばロケットでいうと、ロケットそのものの重量に対し、その9割の燃料を積む必要があるため、ひとつのロケットの積載重量は限られています。

一方、宇宙エレベーターは主に電力と地球の自転による遠心力を使用して登っていきます。この電力は外部からの供給も可能ですが、昇降機が降りる際に生じる勢いをエネルギーとして回収し、登る際に活用することもできます。

登るためのエネルギーにコストがかからないと積載重量に制限はなくなり、昇降機を連ならせることも可能です。人々が宇宙旅行に使用する昇降機は、列車のように連結された形になるでしょう」

ーー噴射する燃料を使用しないことで、地球環境にも優しいと言われていますね。

「その通りです。地球の環境汚染やオゾン層を壊す心配もありません。

さらに、宇宙エレベーターは一度建ててしまえば、その後何度でも使用することができる。再利用の難しいロケットと比べると、非常に経済的になります」

ケーブルを昇降する作りから「エレベーター」と名づけられているが、作りとしては列車に近いイメージをもつ。このモビリティを利用して可能となる物事には何があるのだろうか。

旅行も仕事も、行き先は宇宙に

人類の行動範囲が大気圏を超え宇宙まで広がると、体験できることやテクノロジーの進化も飛躍的に拡大し地球に差し迫る資源問題の解消にもつながるという。

誰もが行ける?!身近になる宇宙旅行

ーー宇宙エレベーターでの宇宙旅行は、静止衛星が目的地点となるのでしょうか?

「無重力を体験したいのであれば静止衛星まで行く必要がありますが、例えば地球が最も美しく見えると言われている、地上から約700キロの高さまで1日かけて登り、そこにある宇宙ステーションに2泊する旅行プランなどでも良いでしょう。

宇宙エレベーターは地球の自転による遠心力を使っているので、ケーブルから離れれば遠心力の勢いを利用して他の惑星へ行くことも、地球の周りを周遊することもできます。

もちろん軌道修正のための燃料や操作は多少必要となりますが、この原理を利用すれば、宇宙エレベーターから最小限の燃料で火星や木星へ飛び立つことも可能です」

ーー行き先は宇宙全体に広がるわけですね。旅費はどれくらいかかりそうですか?

「旅費はニーズによって異なるので一概には言えないと考えています。今までにない旅行プランですから、打倒な費用はマーケットが決定していくことでしょう。

どちらにせよ地球上の旅行プランと同じように、さまざまなパターンが誕生するでしょうね。美味しい宇宙食付きの豪華プランや格安プラン、立ち乗りのプランなど(笑)。

それに、宇宙エレベーターは一基完成すれば、同じ要領で何基でも作ることができます。宇宙エレベーターの数が増えれば行ける人数も増えますし、そうなれば旅費はより抑えることができるでしょう。

各国の静止衛星ステーションができれば、静止軌道上で国境を超える移動ができたり、各国の静止衛星ステーションをすべて軌道上でつなげることも、後々できるかもしれませんね」

ーー無重力に対する人体の反応も気になるのですが、宇宙飛行士のように特別な訓練はやはり必要になるのでしょうか?

「ロケットの場合、発射から30秒以内で無重力の状態になると言われています。突然の変化に身体が対応するためには、訓練は必要ですよね。

対する宇宙エレベーターは、5日間という時間をかけて無重力空間へと進んでいきます。ゆっくりと登っていくので、身体は自然に慣れていくのではないでしょうか。登山と同じように考えると、わかりやすいですね。

無重力状態になると、ジュースをコップに注ぐなど地上で行っていた行動はできなくなるので、そういったすべての作法を学びながら登っていくことになるかもしれません」

生活や仕事も惑星へと広がる

ーー静止衛星までの間に途中下車可能なステーションができた場合、テクノロジーの開発にも大きく影響を与えそうですね。

「そうですね。1/2Gの状態だと工業的な実験や研究開発はしやすいと考えられます。1/6Gの状態なら、月で使う道具のシミュレーションができる。

高度によって重力が異なるので、それを活用するさまざまな施設ができると思います。そうなると、宇宙は職場となり、地球はベッドタウンになるかもしれません。反対に、地球以外の惑星が人類の新たな住環境になる可能性もあります。

ラスベガスのような娯楽だけの星や、景色を楽しむデートは宇宙ステーションが定番になるなど、地球はあくまでも宇宙の中のひとつの星、という考えになるかもしれません」

資源問題解消で人類を救う

「宇宙エレベーターができることで、資源問題も解消されると考えられています。

地球に住む私たちは、地下方向に掘って手に入る石油と鉱物資源、上から注がれる太陽エネルギーで全てを賄っています。非常に限られた資源の中で生きているわけですが、宇宙空間には資源やエネルギーは無限に存在しています。

地上の戦争は基本的に鉱物資源と石油の奪い合いが要因になっています。限られた場所に少量しかないから戦争が起こるわけですが、その概念が宇宙に出ると崩れる。資源を奪い合う戦争は地上からなくなるかもしれませんね。

現在のロケットや宇宙船では、重さの問題で宇宙の鉱物資源を地上に持ち帰ることはできませんが、積載重量に制限がない宇宙エレベーターなら、鉱物資源を持ち帰ることも可能です。ただし、宇宙の鉱物資源に地上価格をつけると、兆の2つ先の"垓"の単位が付くほど高額になると言われています。

鉱物資源の搬送が可能になったとしても、地上のさまざまな価値あるものが突然暴落しないように、事前のコントロールは必須です」

宇宙エレベーターの建設を巡っては、どこに作るのか、地上を離れてからの法律や条約などについて議論されるところだが、飛行機と同じように全世界共通の条約が結ばれ、人類のインフラとして成立するだろうと大野氏は考えている。それが実現すれば、人々が生きる世界は格段に広がり、人がもつ能力の可能性も大幅に拡大していくことだろう。

日本特有の文化がもたらした宇宙への夢

神奈川大学に勤務していた大野氏は、2008年、宇宙エレベーター協会を立ち上げ、正規メンバー8名と少人数での運営でありながら設立後まもなく国際会議を開催。その熱意の原点にある想いについて聞いた。

宇宙への欲求は人間の本能

ーー宇宙エレベーター協会設立の原点にはどのような想いがあったのでしょう?

「アメリカのリフトポート・グループ社による宇宙エレベーター昇降実験実施の発表をインターネットで発見した時、これは世の中を変えるかもしれない、と興奮しました。何としてでも関わりたい。それが協会設立のきっかけですね。

昔からテレビアニメの影響もあり、宇宙は大好きでした。日本には宇宙を題材としたサブカルチャーに子どもの頃から接する文化があります。

一方で、宇宙エレベーターの構想は日本では夢物語のように捉えられがちです。しかし、インターネットが導入された当初も『みんながメールを毎日使うようになる』と訴えてもインフラ導入に予算が出ないほど、周囲の人は『毎日使うわけがない』と考えていました。その5年後には何十億という予算が付いたわけですが、それと同じですね。

インターネットが普及した一端には人間の『知りたい、記録したい』という根本的な能力の拡張への欲求があったわけですが、宇宙エレベーターも同じで、『まだ見たことのない景色を見たい、行ったことのない場所に行きたい』という欲求が存在すると考えています。

なかなか理解してもらえない実情にもどかしさを感じながらも、本能にフィットするものは必ず流行る、という信念のもと、どんどん没頭していきました」

世界中への周知で開発が前進する

「宇宙エレベーター実現のためには、世界中の何パーセントの人が、このストーリーやアイデアを正確に知るかにもかかっています。

今では高校の普通科クラスで使用されている一部の英語の教科書には、宇宙エレベータについて書かれているので、30万人ほどの高校生は授業で習っています。取材してもらえる機会も増えたので、1000万人から2000万人の日本人がテーマとして知っていると思います。

世界で考えると、20億人以上の人に宇宙エレベーターについて知ってもらうことができれば、技術開発に対する投資なども始まり、そうなれば開発はより早まるでしょう」

ーーより多くの人が知れば、アイデアや技術がさらに集まりやすくなりそうですね。

「そうですね。宇宙エレベーターはこれからがスタートなので、航空技術やロケット技術を持っていない国でも宇宙開発に参入しやすくなる。そうなると、やりたい国や企業が増えるだろうと考えられます。

現段階で、2050年から作り始めるという企業もあれば、2045年に完成させると言っている国もあります。技術的な課題はあるにしても、そこを基準に物事は動き始めています。

人類はこれまでも不可能と言われる物事でも実現に向けて動くことで可能にしてきていますから、宇宙エレベーターも同様に進むでしょう」

宇宙エレベーターの世界に向けた周知活動は、宇宙エレベーター協会の主な活動の中心に位置づけられている。それにより世間一般からの理解も徐々に広がり、ミライの可能性を信じ続けた人々の想いに、時代とテクノロジーが追いついてきたと言えるだろう。

大野修一氏が考えるこれからのミライ

人類の行動範囲が宇宙へと広がったミライはどういった世界なのだろうか。その世界を生きるだろう今の子どもたちに伝えたい想い、そのために私たち大人ができることとは。

新しい世界をつくり上げる一員となるために

ーー宇宙エレベーターが実現したミライで活躍するために、今の子どもたちにはどういった意識が必要となるでしょう?

「人々が過ごす空間が宇宙まで広がると、まったく新しい世界をゼロから作り上げることになります。子どもたちはその一員になれる可能性を持っている。そのために勉強する、という意識を持ってもらいたいと考えています。

今、宇宙には法律などありませんが、人々が進出することで社会的制度が必ず必要となる。法律や経済的ルール、通貨や言語など、人類社会で必要とされている決まり事のすべてを、まっさらな状態から組み立てていく。

芸術面でいうなら、CGを使わずに宇宙を題材にした映画も撮れる。演出や撮影技術はどうするのか。料理が好きなら、宇宙でも地上と同じように美味しいご飯をどうしたら食べられるのか。宇宙でしか食べられない料理開発なども、新しい世界ならではの取り組みになります。

そうした世界で活躍するためには、あらゆる分野のベースとなる知識を蓄え、自分自身を観察し、興味のある物事へ挑戦する力が必要となります。そのために勉強をする。

今、福島県の教育委員会から要請を受け県内の中学校を回って講演を行っていますが、こうした意識を日本中の子どもたちに持ってもらえるよう、伝えていきたいですね」

幼い頃のイメージ付けがミライを作る

ーー最後に、大野さんのミライに対する想いを教えてください。

「『悔しい』の一言に尽きますね(笑)。私は宇宙エレベーターの完成を見ることも、それで宇宙へ行くこともできない。

ただ私は、いつか自分の子どもたちやそのまた子どもたちが開発に携わり、実用化することを見据えて活動をしています。

宇宙エレベーターの建設が始まり実験が進み、10年後には誰もが行けるようになるとなった時、人々の意識は大きく変わり、『人類はここまでできる』と実証することで、さらなる進化へとつながっていくことでしょう。

ただ今の子どもたちに、私たち大人は50年後の世界を提示できていません。

私が子どもの頃は”50年後の世界”と示された先に、テレビ電話や電子レンジ、壁掛けテレビが描かれていました。幼い頃思い描いたイメージはそのまま人類が進む方向性となり、やがて実現される。

子どもたちはいつか、太陽系中を飛び回る時代を生きるようになる。それを実現させるためにも、幼少期から小学校高学年までの間に、ミライへのイメージを意識づけてあげたいですね」

編集後記

人類は古くから、宇宙へ行くことを願望として抱いていた。宇宙船やロケット開発の目覚ましい進化はもとより、宇宙エレベーターの発想自体も1960年代にソ連の技術者によって示されていたという。空を見上げロケット発射のニュースに目を輝かせる私たちには縁遠い夢だと思っていた世界は、実際には20年後、30年後のミライに近づいているのかもしれない。

ミライを描くとき、実現可能か不可能かは問題ではなく「将来こうなるかもね」という進化に伴う新しい世界の話は心をワクワクさせ、ミライへの希望へとつながっていくのだろう。

TOP画像:iStock.com/3000ad

<取材・執筆・撮影>KIDSNA編集部

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