人と家とを繋ぐ〜小田原空き家バンクの活動家・瀬戸ひふ美〜

突然ですが”空き家バンク”ってご存知でしょうか? 地域が過疎化するなかで生まれてしまう空き家は現在、社会問題となっています。住民の高齢化及び人口密集地への流出によって増加傾向にある、人の住んでない家=空き家となってしまった物件。それを自治体が定住を促進するために紹介する制度が空き家バンクなのです。その制度を活用し、地元小田原で新たな地域活性プロジェクトに取り組んでいる中心人物が瀬戸ひふ美さん。その活動に密着しながら、空き家バンクとはどんなものなのか、そして地元を愛する瀬戸さんの想いなどを紐解いていきましょう。

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空き家問題に取り組む才女の素顔とは

創業108年の父親が経営する地元の建設会社に籍を置く瀬戸ひふ美さん。普段は社長秘書としての顔の他、二級建築士資格を持ち営業職もこなすご息女。その他、日本の建築技術の未来を研究する一般社団法人HEAD研究会の理事も務めているという才女ですが、素顔の瀬戸さんは聡明さの中にも常に笑顔を絶やさない、周りの人をほっとさせる、どちらかといえばおっとりとした女性です。そんな彼女が今、重点を置いている活動に地元で課題になっている空き家の解決と移住促進を図る「片浦空き家バンク」があります。

現在、片浦地区の空き家を中心に「片浦空き家バンク」は、空き家移住希望の方と空き家バンクに登録されている物件をマッチアップさせる為の移住支援活動で、瀬戸さんと小田原市議会議員、鈴木敦子氏の2人が中心となって進めているプロジェクト。この活動から生まれた「空き家の冒険」というワークショップの特色は、ただマッチアップさせるのみに終わらせず、片浦地産地消プロジェクトや、建築業界を目指す学生の為の設計ワークショップなど、様々な関連企画を盛り込む事で様々な空き家活用の可能性を探る、非常に有意義なワークショップとして企画されている点なのです。

空き家バンクツアーをきっかけに地域活性化

4/23日の朝8時30分、瀬戸さんは小田原の片浦地区唯一の駅、JR根府川駅にいました。この日から2日間に掛けて行われる”片浦地区空き家冒険設計ワークショップ2016”の主宰として、そして先導役として大役を果たすためです。

瀬戸さん主導で行われるこのワークショップは、地域に貢献したい、という移住希望の事業者数組を対象に、学生がリフォーム設計をプレゼンするという企画が中心となっています。更に地元の地産地消プロジェクトリーダーの方も参加するという、これまで行ってきた空き家バンク推進活動の中でも、これほど規模の大きいワークショップは瀬戸さんにとっても初めての経験。プレッシャーが掛かりますが、笑顔で姿を表した瀬戸さんにはそんな重圧は微塵も感じられませんでした。

移住希望事業者とワークショップに参加する学生、そして地元の支援者が集合したところで、根府川駅構内を借りて今日一日のブリーフィング。
この空き家バンク活動と学生達とのマッチアップを担当したMonowaの中嶋滋夫氏(写真左)が当日のタイムスケジュールと概要を発表。
瀬戸さんとともに片浦地区の空き家バンク活動を行っている地元市議会議員の鈴木敦子氏(写真右)。

学生に空き家リフォーム設計を提案させるという新しい取り組み

あらかじめ組分けされた学生数名とアドバイザー役として協力するプロの設計デザイナーがチームなり、移住希望者とともにそれぞれ目当ての空き家へ。そう、空き家を再生させるためにはリフォームが欠かせませんが、その設計を建築志望の学生に行ってもらうという、新しい取り組みがこのワークショップの肝となる部分なのです。

実物の空き家を見て、さらに移住希望の事業者の要望を聞きながらどのような設計デザインがベストか、を学生に考えてもらう。学生、空き家バンク双方にとって実り多きプロジェクトとなるのではないでしょうか。

実際に家屋を見て、間取りの確認や実物から採寸をおこなう。学生にとっても現物を扱う実地研修は非常に有意義な活動といえます。
内装などはすでに手が入っている箇所も。ちなみに実際の施工も地元支援者やボランティア、学生などが可能な限りDIYで行う事を基本としているとのこと。

「守るべきものがあるから動く。それが私の活動理念」

裕福な家庭で何不自由なく育った瀬戸ひふみさん。ご本人の人柄も育ちの良さが滲み出てくるような柔和で聡明な印象。端的にいえばおっとりしたタイプで、決して生き馬の目を抜くビジネスの世界で成り上がったようなガツガツとした積極的な活動家タイプではありません。しかし、空き家バンクの支援活動とはいえ、ここまで能動的に周囲の人々を巻き込んで積極的に活動する、その行動力の源とはなんなのでしょうか?

「私はお金儲けとか、ビジネスとして自分を大きく見せようとか、そういった野望みたいなものにはまったく興味がないんです。父親が地元であるここ小田原で建設会社を営んでいますが、若い頃はほとんど興味がなくて。若い頃は東京でインテリアコーディネイターのような仕事をしていたのでまったく影響が無かったわけではなかったのですが、どちらかというと東京で仕事をしている、という環境自体が楽しいという受動的なタイプでした。それが年齢を経て少しつづ変わっていったのは地元、小田原との関わりに段々と変化が生まれてきてからです。

ある出来事から地元愛が芽生え、そして空き家バンク活動へ

「”小田原小町”というのをご存知ですか? モヤモヤさまぁ〜ずなどのTV番組に出演したこともあるのですが、地元小田原の良さを伝えようということで自分達で勝手に作ったPRユニットです(笑)。そんな小町での活動をしていく中で地元愛に目覚め始めたんですが、その気持ちが決定的になったある出来事がありました。

昨年1月に私の実家の近くの桜並木が”倒木の可能性がある”ということで急に伐採される事になったんです。地域文化的にもとっても大切な桜で、私自身もたくさんの思い出がある場所。それを住民に充分な説明もないまま、いきなり伐採を始めてしまった。伐採理由も納得がいかない理不尽なものだったので”これは守らないといけない!”と思いました。そこからは自分でも驚く程行動が速かったです。地域住民を総意を汲んだ提案書を作成し計画中止を求めて、それが認められて伐採途中での無期延期が決定しました。これは全国的にも非常に珍しいことだったらしいのですが、その活動の中で懇意にさせていただいたのが敦子さん(前述の鈴木敦子議員)だったんです。

敦子さんと行動しているうちに、私の立場から地元になにか貢献できることはないか、という強い想いが生まれてきました。その想いからこの空き家バンク推進活動を敦子さんとともにスタートさせたんです。この活動を中心として、地産地消プロジェクトや事業者の移住など、地元活性化に繋がる活動が大きな輪になってくれれば、と願いながら日々活動しています」

現地視察後はセミナー&リフォームプランミーティング

片浦小学校の教室をお借りしてのセミナー&ミーティング風景。各チームがリフォームプランを練る。

各チームの現地視察が終了した後は、地元にある片浦小学校の教室に集合。瀬戸さんや鈴木敦子議員のお話の他、片浦地産地消プロジェクトコーディネイター帰山さんのセミナーなどを行った後、それぞれのチームが具体的なリフォームプランニングのミーティングに入ります。ここで固めたリフォームプランは翌日の午後の発表会の中でそれぞれが発表。そして具体的に実現可能か、という面まで踏み込んでディスカッションするとの事。参加していただいたプロの設計デザイナーの方々のアドバイスを聞きながら、そして実際の移住希望事業者の事業内容や要望なども取り入れたプランを練る、というプログラムは学生の立場ではなかなかできない経験。学生達の気持ちも引き締まります。

鈴木議員はここ片浦の持つ地域性や活性化に向けてのお話を学生達に向けて発信。普段なかなか聞けない、実際の地域や生活に根差した、机上の論理ではない話に学生達も熱心に耳を傾ける。
地域で清算された農作物などをその地域で消費する、という地産地消という考え方を片浦地区で推進する「片浦食とエネルギーの地産地消プロジェクト」リーダー帰山寧子さんのセミナー。片浦植物蒸留所など、片浦地区に根差したプランニングを図解イラストなどを使用して分かり易く解説。

さてここで、今回のワークショップ「空き家の冒険」に参加された双方の立場の方々の声を少しだけ拾ってみたいと思います。

家作りだけでなく、地域作りという大きな視点を勉強できたのが収穫(法政大学・坂梨桃子さん)

今回設計プランニングで参加した建築学生サークル♭(フラット)の代表、法政大学デザイン工学部建築学科3年の坂梨桃子さんに今回のワークショップに参加した印象を伺ってみました。

「学校での課題では、仮想の案件を元にやることがほとんどです。このように実際にオーナーさんが希望を言ってくださって、地域性なども把握したうえでプランを練る、ということは中々できない経験です。課題ではどうしても自分がどうやりたいか、という事しか考えくなってしまうのですが、実際の建築というのは、施主さんがいてその希望をどう具現化するか、が基準になってきますよね。実際の物件を基に実測や設計する機会は学校ではなかなか経験できないので、すごく魅力的なプログラムだな、と思っています。

瀬戸さんは人との繋がりを大切にされている方だなという印象です。今回も私たち学生にある程度任せる、というのはすごく勇気がいることだと思うんです。そういった企画を実現して頂いた事にすごく感謝していますね。街づくり、地域づくりの一環を座学ではなく、実際に感じられたというのは学生にとっては大きな収穫でした」

瀬戸さんはこれからの片浦地域活性に欠かせない人物(移住希望者・吉川 明さん)

神奈川県平塚市で「森の学校」を主宰する吉川 明さんは、この地でも「森の学校」を展開したい、との希望を持ってご家族で移住を希望している方だそうです。以前からこの片浦空き家バンク活動に熱心に参加されている方で、今回の移住希望者の中でもリーダー的な存在と言える方だそうです。

「元々瀬戸さんと知り合いで、この片浦でも森の学校をやりませんか?と提案を受けていたのですが、私達の周りにも移住希望の方が集まってくるようになりまして、今はそこを繋ぐチャンネルの一つになっているカタチですね。

瀬戸さんは初めてお会いした時から視野が広くて、とかく自分の事ばかりな人が多い昨今、すごく廻りの事を常に考えていらっしゃる素敵な方ですバイタリティがあって忙しく活動されているのにいつも笑顔を絶やさない、怒っているのを見た事がない。とてもハートフルなんですよ。そういう方なので今後の片浦の街づくりには欠かせないキーマンだと思っています」

「地元から発信する、空き家バンクを中心とした諸活動が”地域”を”守る”ことに繋がるんです」

瀬戸さんと共に片浦地区空き家バンク推進活動を行う鈴木敦子議員。鈴木氏との出会いが転機となった。

「空き家の冒険ワークショップ」はこの翌日に空き家設計プランニングの発表会、そして夜には打ち上げとして許可を取って狩猟された猪を振る舞うジビエパーティーが開催されたとのこと。瀬戸さんは主宰者として2日間動き回っただけでなく、自らのご実家を学生達の宿泊所として開放したそうです。その行動力には、この活動に対する熱量の高さ、そして地域を守りたい、という志の高さをヒシヒシと感じました。

「この片浦地区を始め、小田原には豊かな自然と人が人らしく生きていくのに絶好の環境があります。そんな環境を守っていく為、そして分かち合える出会いを生み出せる活動に誇りを持っていますし、地元発信で自分達で行動することこそが継続させるのには大事な要素だと感じていますので、地元の皆さんが支援して下さるのにも非常に感謝しています。今回開催した空き家の冒険プロジェクトは移住希望者の夢を乗せて今後も引き続き継続させていく予定です。更なる地域活性の芽を蒔いていけたらな、と感じていますね」

瀬戸さんのもう一つの柱。それは美人エステート

「女性による女性のための不動産プラットフォーム」として活動するbijin estate(美人エステート)の主要メンバー。中央が代表の中村マリアさん、前列右から2番目が瀬戸さん。

「こういった活動は地域の中だけで動いていてもなかなか上手くいかないときがあります。私自身も東京で働いていた経験や、現在も父親の建設会社に勤務し、HEAD研究会の活動も精力的に行っています。

その中で培った繋がりの中に美人エステートもあります。美人エステートは物件をコーディネイトする不動産仲介の側面が強いのですが、私は建築設計、つまりビルダーの立場から関わらさせていただいています。中村マリアさんとも密に連絡を取って常にいくつかのプロジェクトを話し合っていますね。そういった外との繋がりは実は非常に重要になってきていて、何かの時に役立つ事ももちろんありますし、自分の行っている地域活動を俯瞰で見る視点も養えます。自分自身、人との出会いに恵まれているな、と感じています。敦子さんもそうですし、中村マリアさんとの出会いもそう。私の行動原理は人との繋がり、そして人の想いや熱意が源になっているのは間違いありません」

瀬戸ひふ美 Profile
神奈川県小田原市出身。二級建築士資格取得。
父親が経営する瀬戸建設で業務にいそしむ傍ら、片浦地区空き家バンク推進活動を始め、美人エステートのメンバー、そしてHEAD研究会理事としても精力的に活動する。


Text:藤川経雄
Photo:木下 誠

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