『旅するダンボール』が教えてくれた、素材としての温もり、そこにあるストーリー【島津冬樹さんインタビュー】

おそらくどこの家庭にもひとつはある段ボールですが、かさばるうえにただのゴミだと思っていませんか? そんな固定概念を180度変えてくれるのは、現在「段ボールアーティスト」として、世界から注目を集めている島津冬樹さん。不要なものとされている段ボールから財布を生み出し、リサイクルや再利用の先といわれている「アップサイクル」のムーブメントを巻き起こしています。そこで今回は、3年に渡って島津冬樹さんに密着したドキュメンタリー『旅するダンボール』の公開を記念して、段ボールの知られざる魅力や新たな活用方法について教えていただきました。

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段ボールには2つの「温かさ」がある

――まずは、一見ゴミだと思われがちな段ボールの魅力について教えてください。

●島津冬樹(しまづふゆき)さん
1987年、神奈川県生まれ。多摩美術大学情報デザイン学科卒業し、広告代理店を経てアーテイストヘ。「不要なものから大切なものへ」をコンセプトに、2009年から路上や店先で放置されている段ボールから財布を作る『Carton』をスタートさせる。国内外を巡り段ボールを集めては財布を作ったり、コレクションしている。展示会やワークショップも多数開催。

島津冬樹さん(以下、島津さん):段ボールの魅力とは、まず「温かさ」です。それは、保温性の良さという意味もありますが、それだけでなく段ボールは世界中からいろんな人の思いがこもったまま日本にやってくるので、そこに物理的な温かさではない温もりもあると思っています。あとは、みかん箱のように何年も前からずっと変わらないデザイン。特に、ひと昔前の手書きのデザインにはレトロさや哀愁があるので、僕にとってはそれも魅力のひとつかなと思います。

――とはいえ、どのようなきっかけで段ボールの財布を作ることになったのでしょうか?

島津さん:大学時代のことでした。課題で使ったおしゃれな段ボールが残っていて、ちょうど財布がボロボロだったので、「間に合わせでもいいからとりあえずこれで財布を作ろう」と思いついたのがきっかけ。最初は1ヶ月持てばいいと思っていたんですが、それが3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月、さらに1年と使うことができたんです。そのことに自分でもすごく驚いて、そこからその面白さを伝えるための活動してみようということで始めました。

手前が、島津さんが普段使いしているお財布。段ボールで作られているとは思えない質感! その奥は、おなじみのバナナのロゴを活かして作られたもの。

――現在では、段ボールとは思えないような見事な仕上がりですが、ここまでくるにはどのくらいの時間がかかったのでしょうか?

島津さん:現在の形になるまでは、9年くらいかかっています。いまはボタンを使っていますが、マジックテープを使ったり、ゴムを使ったり、いろいろと試行錯誤もありました。

――そのなかでも、一番こだわっている部分はどこですか?

島津さん:段ボールの片面をはがして使っていますが、蛇腹の部分の向きですね。というのも、最初は横向きにしていましたが、それだと開けるたびにどんどんと劣化していってしまったので、縦向きにして強度を保てるようにしました。

段ボールは3枚貼り合わせて作られている。それを剥がすと、このように蛇腹の面が出てくる。

――ひとつの財布を作るのに、だいたいどのくらいに時間がかかるのでしょうか?

島津さん:いまは型紙も完成していて、作り方も理解しているので、40分くらいですね。ワークショップでみなさんが作るとしたら、もう少し簡単なものですが、だいたい1時間半くらいでできると思います。

強度もさることながら「この手触りが好き」と島津さん。

――段ボールを選ぶ際のコツがあれば教えてください。

島津さん:人それぞれですが、たとえば財布にしたときに段ボール感が欲しいかどうか、それとも段ボールと気づかれない方がいいか、その2択で考えてみるのがオススメです。僕の場合は、色が鮮やかなものが目に入ってくるので、まずは色でピンときたものを拾っています。あとは、海外の珍しい段ボールですね。たとえば〔コストコ〕みたいに海外の段ボールがたくさんあるところは、外れが少ないかなと思います。

段ボールが好きすぎて悩むこととは!?

――ちなみに、一番お気に入りの段ボールは、いつどこで見つけたものですか?

島津さん:実は、去年から「カードボード・オブ・ザ・イヤー」といって、1年間で拾った段ボールのなかから一番いいものを決めるというのを自分のなかで勝手に始めました(笑)。2017年の1位に輝いたのは、ブルガリアで拾った支援物資の段ボール。シリアの赤十字からの段ボールでしたが、かなり珍しいものなので、いまはそれが宝物に近いですね。でも、好きすぎて財布にできなくて(笑)。2枚拾えたときは、1枚を財布にと思うんですが、日本に帰ってくると、やっぱりもったいなくて2枚とも切れないんです……。

お気に入りの段ボールの話になると笑みが溢れて止まらない島津さん。本当に“段ボール愛”が深い!

――これまで、海外での段ボール探しで大変だったことはありましたか?

島津さん:怪しまれることも多く、フランスではテロリストと間違えられたこともありました。なので、税関で問い詰められたときには「キャリーケースを守るための緩衝材だ」と言い張るようにしています。ただ、段ボールのなかに段ボールを詰めて持って帰ったとき、「中身は?」と聞かれて、「段ボールです」と言うと、「だから、中身は何?」となってらちがあかないときもありましたね(笑)。

――これまでに世界30ヶ国を巡って段ボールを集めてきたということですが、どういった場所で見つけることが多いですか?

島津さん:まず行き先が決まったら、その周辺にあるスーパーやホームセンター、マーケットなどを全部チェックして、そこから巡っていくようにしています。なので、観光地や大自然というよりも、生活圏に行くことが多いですね。スーパーの裏とかはちょっと怖いかもしれないですけど、女性ならフランスのマルシェみたいなところがオススメです。

――そういった段ボール探しの旅で、喜びを感じる瞬間を教えてください。

島津さん:いつどこでどんな段ボールに出会えるかわからないので、いい意味で予想を裏切られるときはうれしいです。以前、オーストラリアに行ったとき、シドニーの空港でアラブの航空会社の段ボールを拾ったんです。僕は飛行機も好きなので、それと段ボールが組み合わさっていることがあまりにうれしくて、着いたばかりなのに「もう帰ってもいいや」と思ったくらいでした(笑)。そんな風に新たな発見があることも、行ってみないとわからないので、毎回そういう喜びはありますね。

段ボールには捨てるところがない

――では、一般の人でも簡単に段ボールで作れるものや気をつけた方がいいことがあれば教えてください。

島津さん:たとえば、初心者の方には座布団がいいかなと思います。なかに気泡緩衝材を3巻くらい挟んで、あとは木工用ボンドで止めるだけ。これはアウトドアなんかにぴったりです。それから、財布を作る場合は、片面をすべてはがすことで柔らかくしていますが、それによって折り紙のように折ることもできますし、強度もあるので可能性がグッと広がりますよ。

段ボールの座布団。いわゆる「プチプチ」と呼ばれる気泡緩衝材が入っているので柔らかくて温かい。

――段ボールの片面をはがす際のコツはありますか?

島津さん:デザインとは反対の面をはがすのですが、バケツに入れたぬるま湯に段ボールを一回通して少し放置するだけで、熱で圧着しているところが取れるようになります。それだけで汎用性が高くなるので、まずは3層あるうちの片面をはがすというのがポイント。ちなみに、はがした紙も財布のカード入れの仕切りとして再利用するので、段ボールは本当に捨てるところがないんですよ。

――とにかく“段ボール愛”の強い島津さんですが、ほかに注目している素材などはありますか?

島津さん:いまのところないですね。段ボールに浮気なしです(笑)! もともと貝拾いが趣味だったので、拾うということとコレクター的な性格は昔からですが、お宝発見みたいにまだ人が気付いていないものを見つける喜びとタダというのも魅力。それに、段ボールにはまだまだポテンシャルもあるので、ほかに移れないというのもあります。まだ見ぬ段ボールたちが待っている国もたくさんありますから。

――では、次に行ってみたい国はどこですか?

島津さん:気になっているのは、太平洋に浮かぶ孤島。どうやってその島に物資がやってくるのかが気になっています。なかでも、ツバル諸島というところは海面上昇の影響で沈んでしまいそうなので、どんな段ボールがあるのか知りたいですね。あとは、ブラジルなどの南米にも行ったことがないので、いつか行きたいなと思います。いつも行先は、その国の言語や名産から逆算して決めています。

好きなことをして生きているからストレスもない

――美大を卒業したあと、広告代理店に就職していたそうですが、安定した生活を捨てて段ボールアーティストとして生きていくことに対して不安はありませんでしたか? 

島津さん:会社にそのままいれば給料も上がっていくので、どちらかというと「やめられないんじゃないか」ということの方が怖かったかもしれないです。3年くらいでやめようと思ってはいたものの、段ボールで生活できる保証もなかったので、正直言ってとまどったことも。でも、「やっぱり段ボールに挑戦せずに死にたくない」という思いと「やっておけばよかった」と段ボールに出会うたびに後悔するのが嫌だったので、やめることにしました。

――ということは、不安よりも楽しみの方が大きかったのでしょうか?

島津さん:そうですね。「いよいよ自分の人生が始まるんだ」みたいな気持ちでした。

島津さんの作品群。収められているケースも段ボールで作られたもの。

――ご自分の姿を客観的に映画で見たときには、この道に進んで正解だったと改めて感じましたか?

島津さん:それもありましたが、僕がよく会社員としてやっていられたなと思いました(笑)。あとはフリーになってからの方が、仕事のありがたみをより感じています。それに、好きなことをして生きていけるというのは、本当にストレスがないので、どんなに忙しくても、全然辛くないですね。

――そんな島津さんの姿に影響を受ける人も多いのではないでしょうか?

島津さん:今回の映画では、「続けることの大切さ」というのも裏のテーマとしてあるので、好きなことに踏み出せない人にはぜひ観ていただきたいです。

――それでは最後に、この作品を通じて伝えたいことをメッセージとしてお願いします。

島津さん:世の中にはいろんな素材が世の中にはあるので、何かを新しく作るときには、いったん周りを見回してみてください。そうすると、「意外とこれがこんな風に使えるんだ」みたいなことに気がつくことができるはず。新しい素材で作るのもいいですが、それを買う前に「ゴミとされたものから作れるかもしれない」と考えてみて欲しいです。主婦のみなさんならいろんな知恵やアイデアをお持ちだと思うので、そういう心掛けをしていただけると面白いなと思います。

映画『旅するダンボール』概要

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【STORY】
世界で注目を集めている話題の「段ボールアーティスト」島津冬樹。誰も見向きもしない段ボールを世界各国の街角から拾い、デザインと機能性を兼ね備えた段ボールの財布として生まれ変わらせている。国内外で活躍し、ただひたすらに段ボールが好きな島津だったが、ある日、徳之島産のジャガイモの段ボールを見つけ、その源流をたどる旅へと出ることに。そこで待ち受けていたのは、その途中で出会った人たちとの温かい交流だった。

●2018年12月7日(金)〜全国順次公開
●シアター:YEBISU GARDEN CINEMA/新宿ピカデリー/ミッドランドスクエアシネマ(名古屋)、MOVIX京都/神戸国際松竹/MOVIX仙台/MOVIX橋下ほか
●出演:島津冬樹
●監督、撮影、編集:岡島龍介
●プロデューサー:汐巻裕子
●映画音楽コンポーザー:吉田大致
●製作、配給:ピクチャーズデプト
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