負けて悔しくても続ける。そして強くなる。将棋の世界に惚れました【永山絢斗さんインタビュー】

藤井聡太七段の登場もあり、いまは空前の将棋ブーム。子どもの習い事としても注目を集めていますが、将棋の世界はまだまだ謎に包まれていると感じている人も多いはず。そこで、将棋に詳しくない女性たちでも感動必至の、実話に基づいた映画『泣き虫しょったんの奇跡』をご紹介します。今回は、本作で奨励会員役の新藤和正を演じた俳優の永山絢斗さんに、撮影の裏話からいまハマっているものなどについて語っていただきました。

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どんな役でもいいからこの作品に出たかった

――豊田利晃監督の作品に出演されるのは、『クローズEXPLODE』(2014)以来となりますが、今回オファーがあったときはどのようなお気持ちでしたか?

永山絢斗さん(以下、永山さん):「豊田監督の作品ならどんな映画でも出たい」という気持ちは以前から変わらないんですが、今回は特に将棋の話と聞いてすごく興奮しました。というのも、『クローズEXPLODE』の現場でも将棋の話になったことがあって、将棋とは縁の深い豊田監督から「レベルが違うから指さないよ」と言われていたんです。その豊田監督が撮る将棋の映画ですから、どんな役でもいいから出たいと思っていたので、すごくうれしかったですね。

――将棋はもともとお好きだったんですか?

永山さん:小さいころに父親と遊びでやっていたこともあったので好きでしたが、ちゃんと勉強したことはないですし、将棋の世界についてはあまり詳しくありませんでした。将棋のプロを目指すには奨励会というところに入らないといけないとか、いろいろと深いところまで知ることができ、個人的にも興味深かったです。

――豊田監督はその奨励会に9歳から17歳まで在籍していた経歴をお持ちということで、将棋に対するこだわりも強かったと思いますが、どのような演出がありましたか?

永山さん:撮影前からプロの棋士の方に指導をしていただいていましたが、監督からは指し慣れておいて欲しいと言われました。なので、僕は将棋盤と駒を買って、家で指したり、駒を磨いてみたりしていたんです。でも、指すタイミングが悪いとか、指し方がダサいとかそういうことは言われました。

――指し方にダサいというのがあるのは驚きですね(笑)。対局のシーンでは非常に迫力がありましたが、役者同士の間にも、緊張感はありましたか?

永山さん:豊田監督の現場は台本通りにテストをやったあと、本番前にセリフの書いてある紙切れを誰かにこっそり渡すことがあるんです。そこには渡された本人しか知らないことが書いてあって、本番のときだけ違うことが起きるので、そういう緊張感はありました。
たとえば、奨励会の仲間が家に集まっているシーンで、僕が染谷(将太)くんを言い負かすはずなのに、本番だけ染谷くんが反論してきたりとか。でも、居酒屋のシーンでは僕が紙をもらう方だったんですけど、逆にそれに緊張してしまったこともありました(笑)。だから、豊田組ではお互いに目を見て「紙もらってないよな?」みたいな探り合いとかせめぎ合いがあるんです。そういう現場はほかにはないですね。

――もともと豊田監督の『青い春』(2002)を観て俳優を目指したという永山さんにとって、豊田組の現場はやはり刺激がありますか?

永山さん:それはありますね。僕にとって豊田監督との仕事はボーナスのような感じなんです。

待ち時間もずっと対局するほど虜になってしまいました

――主演の松田(龍平)さんとはこれまで共演もされていますし、一緒のシーンも多かったと思いますが、話し合ったことはありましたか?

永山さん:現場で龍平くんといろいろ話したりもしましたが、2人で「こうしようか」と決めごとを作ったりはそんなになかったですね。テストを重ねていくうちにテンポが生まれ、その過程でできあがっていく感じでした。ただ、本番になると龍平くんは結構違うことをするんですよ(笑)。だから、僕もその場で生まれたことを活かそうと意識していました。

――ということはアドリブも多い現場だったんですね。

永山さん:そうですね。もちろん事前に考えていくのも大事なんですが、そういうのは結構現場で壊されたりするんですよ。たとえば、監督から「ここでおもしろいことを言う」という指示が役者にあったとき、「全然おもしろくないからもう一回」と言われたりもするので、そういう厳しさや残酷さはありました。

――現場で印象に残っていることはありますか?

©️2018「泣き虫しょったんの奇跡」製作委員会 ©️瀬川晶司/講談社

永山さん:現場には棋士の方が常にいてくださったので、待ち時間はみんなでずっと対局していました。僕はこの作品で本当に将棋の虜になってしまったので、本番中も対局のことを考えていたくらいです(笑)。

――永山さんは10代でデビューして以降、ずっと役者の道を歩み続けているので、早くから将棋の世界に身を投じる棋士の方たちに自分を重ねる部分もあったのではないですか?

永山さん:将棋は1対1の勝負なので、役者という仕事とは全然違うなと思いました。将棋をやっているとどんどんその深さに気づかされるんですが、本当に天才じゃないと勝ち上がっていけない世界。しかも、負けたときの悔しさがすごいんですよ。
それがたまらないところでもありますが、あの悔しさを小さいころから味わっているのに、「それでもまだ続けるんですか?」と思ったりもしました。だからこそ、精神的に強くなるのも納得できますし、すごく惹かれるところでもあります。

――そのなかで共感することはありましたか?

永山さん:奨励会には年齢制限があるというのも大きいですが、退会するときの「どうしてもっと一生懸命やらなかったんだろう」という気持ちは理解できました。でも、好きなことをやりたいという気持ちだけで前例がないことを成し遂げようとするのは、将棋への計り知れない愛だと思います。ひとつのことに対して、みんながそうなれるわけではないですからね。

――そういう部分では役者としての自分を問われるようなところもありましたか?

永山さん:僕は芝居が好きということよりも、映画が好きということの方が強いと感じています。だから、好きなことを仕事にしているというのはとても贅沢なことなんだと改めて確認することができました。

――ちなみに、将棋界を去った瀬川さんのように挫折して、役者以外の道を考えたことはこれまでにありますか?

永山さん:違う仕事をしようと思ったことやほかのことでお金を稼ぎたいというのはありません。それよりも、「観客の方が心にしまっておけるような作品に出たい」という思いの方が強いです。もちろん嫌になることもたくさんありますが、それはどの仕事でもあることですよね。ただ、瀬川さんのように、ほかの仕事をしてからまた元の世界に戻るというのはすごい勇気だと思います。

男が見てかっこいいと思う男になりたい

――今回、タイトルに「泣き虫」とあるのでお聞きしますが、最近何かに感動したり悔しくて泣いたりしたことがあれば教えてください。

永山さん:泣けないことを悩んでいたこともあるくらい、僕は泣かない男なんです。なので、いろんな人に「泣ける映画ない?」と聞いていたりしていたこともあるんですが、見ても泣けないんですよ(笑)。

――それは、泣きたくないという気持ちが先行しているんですか?

永山さん:おそらく、自分で止めているのかもしれませんね。まだ若いので、涙腺がゆるくなるのはもう少し先だと思います(笑)。

――そろそろ30代に入りますが、今後の理想像はありますか?

永山さん:男が見てかっこいい男になりたいですね。いまの自分はまだまだガキだなと思っているので。そのためには、友達とつるんでばかりじゃなくて、もっと孤独にならないといけないかなと思っています。勝新太郎さんみたいなかっこいい男になりたいんです。

――そんな永山さんがいまハマっていることがあれば教えてください。

永山さん:それは、まさに将棋です。いまはパソコンやネットでいろんな人と対局もできますし、この前も現場で4時間くらい空き時間があったときに、近くの将棋道場にひとりで指しに行ったこともあるくらいどっぷりハマっています(笑)。あとは、絵を描いたりもします。この前も久しぶりに一日中絵を描いて過ごしました。

――完成した絵は飾ったりするんですか?

永山さん:そのときは一週間くらい取っておいたんですけど、絵に哀愁が漂いすぎていたので捨ててしまいました(笑)。でも、絵を描くと自分の心情や気持ちがわかるので、それを知ることができるのはおもしろいですよね。

――それでは、最後にLIMIA読者に向けて、この作品のオススメポイントを教えてください。

永山さん:最近は将棋ブームで話題にはなっているものの、女性はあまり詳しくないかもしれません。せっかく流行っているので、そこに向き合っている人たちの世界をちょっとでも見てもらいたいというのはあります。そして、将棋界に集まっている異色の天才たちが繰り広げている“神々の戦い”もぜひ知って欲しいですね。将棋に人生をかけて立ち向かっていく男の姿にも注目してもらいたいと思います。

【STORY】
瀬川晶司五段の自伝的作品を映画化。小学生のころから、将棋一筋で生きてきた「しょったん」こと瀬川晶司。プロ棋士になることだけを夢見ていたものの、26歳までに四段にならなければいけないという年齢制限の壁にぶつかってしまう。その後、一度は将棋と縁を切り、サラリーマンとして新たな人生を歩んでいたしょったんだったが、将棋の楽しさを改めて知り、いつしかアマ名人としてその名をとどろかせることになる。そして、35歳となったしょったんはプロになるため、前代未聞の挑戦に立ち向かうのだった……。

©️2018「泣き虫しょったんの奇跡」製作委員会 ©️瀬川晶司/講談社

『泣き虫しょったんの奇跡』
2018年9月7日(金)〜全国ロードショー
●監督・脚本:豊田利晃
●原作:瀬川晶司『泣き虫しょったんの奇跡』(講談社文庫刊)
●音楽:照井利幸
●出演:松田龍平、野田洋次郎、永山絢斗、染谷将太、渋川清彦、駒木根隆介、新井浩文、早乙女太一、妻夫木聡、松たか子、美保純、イッセー尾形、小林薫、國村隼
●製作:『泣き虫しょったんの奇跡』製作委員会 制作プロダクション:ホリプロ/エフ・プロジェクト
●特別協力:公益社団法人日本将棋連盟
●配給・宣伝:東京テアトル

●取材、文:志村昌美
●写真:土佐麻理子

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