建てる前に知っておきたい!「本当に快適な家」のつくり方
家を建てるなら、こんな間取りでこんな床。窓はこうして照明は…。多くの場合、インテリアの延長で家への夢を描きがちだが、長く快適に住むには機能性も大事。天井高約5mの開放的なリビングのある住まいを建てたC様ご一家は、建築家・関太一さんとの出会いで「あること」への意識が高まり、想像をはるかに超える住み心地の良さを実現。プロのアドバイスがなければなかなか気づかない、その「あること」とは?
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「快適な室温」で、住み心地はここまで変わる
玄関を入ると、ウエットスーツがずらりとかけられていた。その奥には色とりどりのサーフボードが並び、さながらサーフショップのよう。施主のC様ご一家が家を建てるにあたり、海岸から歩いて3分のこの土地を選んだ理由が想像ついた。
想像どおり、C様はマリンスポーツが趣味。2人目のお子様が誕生したとき、海に近く、買い物や交通の利便性も良いこの土地に家を建てることにしたのだそう。「最初はハウスメーカーさんなどの家も見学しました。でも、正直言って『この予算でこの家?』と思うことが多くて、今ひとつしっくりこなかったんです」
予算を最大限に活用し、「好きな」家を建てたい。その思いから、友人の紹介で出会ったアトリエ・ヒューテックの関太一さんに家づくりを依頼することに。デザイン関係の仕事を持つC様ご夫妻はインテリアへのこだわりがあり、当初はイメージに近いディテール写真を関さんにたくさん見てもらったという。
しかし打ち合わせを進めるうちに、自分たちの発想にはなかった「あること」への意識が高まっていく。その「あること」とは、家の気密・断熱だ。
関さんいわく、「僕らの理想は『3世代が住み継ぐ家』。施主様のお孫さんの代まで、安心して心地よく暮らせる家を目指しています」。建築家としてキャリアを積む中で、建物のデザインとは耐震性や温熱環境などを含めたバランスの重要性を意識するようになったという関さん。エネルギーやCO2問題も鑑みて、地球と人にやさしく、長く快適に住むことができ、社会資産となり得るような家づくりを追求している。
「それには、強度(耐震性)の高い構造体、メンテナンス性の高いシンプルな構成、安い光熱費を実現する温熱環境の確保が不可欠。C様にはまず、そのことをご理解いただきました」
耐震性はともかく、温熱環境はほとんど意識していなかったご夫妻は、関さんの話で温熱環境を整える──つまり、高気密・高断熱な家はどれほど快適で経済的なのかを知り、「そんなことができるなんて素晴らしい。ぜひお願いしたい!と思いました」
では、「安い光熱費で、家全体を快適な室温にする住まい」は、どうつくるのだろうか?
「C邸のような木造住宅、しかも天井の高い大空間で快適な室温をキープするファーストステップは高断熱。まず、家全体を断熱材でくるみ、家の中の温度が外気温に左右されないようにする『魔法びん化』を行い、徹底して失う熱量を減らします」と関さん。
しかし、『魔法びん化』による高断熱を計画しても、それだけでは足りないのだという。「一般の木造住宅は構造的に隙間があって外気が入りやすく、設計の計算どおりに断熱効果を出せないケースが多いのです。確実な断熱のためにはできるだけ隙間のない高気密な施工が大切。そのためC邸は高気密にとことんこだわり、大工さん、電気屋さん、設備屋さんなどあらゆる方々にご協力いただきました」
関さんの熱心で緻密な指示、そして施工関係者の技術と気概で万全の気密対策をとったC邸は、気密性を示す測定数値が0.7㎠/平米。この数字は小さければ小さいほど気密性が高いことを意味するが、通常の木造住宅の平均的な数値は、なんと4.0~5.0㎠/平米。つまり、「C邸は通常の5~7倍の気密性の高さを誇る」ということになる。
『魔法びん化』設計と高気密の合わせ技のおかげで、C邸は季節が変わっても温度変化が少なく、冬も夏も、驚くことに12畳用のエアコンたった1台で家中が快適な室温に。
しかも、「前に住んでいた賃貸マンションよりずっと広いのに、光熱費は今のほうが安いんです」とご夫妻。「最初はデザインや間取り、耐震性のことばかり気になっていましたが、住み心地の良さにおいて、温熱環境がここまで大事だとは。内装などはその気になれば後から変えられますが、構造的なところはそう簡単にいきません。そういう肝心な部分をしっかりつくり込むことの大切さを、関さんに教えていただけて本当によかったです」
コストはスキップフロアで解決。ずっと住みたい「好きな家」
C邸は温熱環境だけでなく、間取りなどの空間構成においても心地よさをかなえている。
「C様は天井が高い大きなリビングをご希望でしたが、使い勝手を考えると、個室や収納も必要です」と関さん。しかし天井高の大きなLDKをベースにプランニングすると、予算とのバランスがとりにくい。そこで関さんが提案したのが、半階ずつ床の高さが上がるスキップフロアの家だった。
C邸は玄関を入ると正面に階段。右手には子ども部屋とトイレ、左手にはマリンスポーツの道具を置くスペースと半地下の大きな収納がある。そして階段で半階上がった左手に洗面室とバスルーム。踊り場で階段を折り返してさらに半階上がると広々したLDK。LDKからさらに少しだけ階段を上がると個室があり、その横にはウォークインクローゼットもある。
「この家は、トイレ以外に扉がないんですよ」と奥様。そう聞いてあらためて見直すと、子ども部屋も個室も確かに扉がない。しかしそれぞれの空間の床の高さを変えているため、独立性はしっかりある。それでいて、声をかければ会話ができる一体感も十分だ。
関さんによれば、このプランはコストダウンと先述の快適な室温に大きく貢献しているのだという。普通の2階建てで希望の間取りにすると家そのものが大きくなり、コストが高くなる。しかしスキップフロアなら、床の高さの違いによって空間の独立性をキープできるから廊下や建具が要らず、コストダウンに。また、延べ床面積が増え、収納や個室のスペースもとりやすい。建具がないことは、エアコンの空調を家全体に行き渡らせる効果もある。
全ての部屋がゆる~くつながったC邸での暮らしは、家族の距離感がほど良い。休日、家族でお出かけした後は、天井高約5mののびやかなLDKで思い思いにのんびりくつろぐ。大きな窓からは明るい光がたっぷり入り、まるでバルコニーにいるような開放感。奥様がパソコン作業のために、リビングを見下ろせる半階上の個室へ行っても、階下の家族の気配は伝わってくる。「この距離感が、ちょうどいいんですよね」とご夫妻。
お2人に気に入っているスペースを尋ねると、「いっぱいありすぎて……。常に快適な室温、高い天井やデザインなど、全てに満足しています。それもこれも、どんなことでも関さんが絶対に妥協せず、私たちの希望をかなえるために、丁寧につくってくださったからだと思います」
その感謝の思いをどうしても伝えたくて、竣工後、奥様は関さんに手紙を書いた。そこには、「好きと思える家をつくってくださって、ありがとうございます」と書かれていた。
良い・悪いでもなく、便利・不便でもなく、存在を全面的に受け入れて慈しむ「好き」という言葉。それは、C様ご一家にとってこの家が、末永く大切にしたい最高の住まいであることを意味している。
撮影:フォーワードストローク
関 太一
アトリエ・ヒューテック
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