内と外が緩やかにつながった、「空間グラデーション」の妙
施主であるHさんが自邸を建てるために選んだ土地は、住宅街のなかにある角地でした。南北に細長い敷地の南と東に面した道路は、それぞれ幅員4mほど。建築家の植村康平さんは敷地を何度も訪れ、Hさんファミリーが暮らす理想的な住空間をイメージしながらプランニングしたといいます。そうして誕生したのが、道路と庭、室内がゆるやかなグラデーションでつながった「カドニワの家」でした。
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現地へ何度も足を運び、敷地と環境にあった家をプランニング
「お施主様の要望がそれぞれで違うように、土地の形状や周辺環境も毎回異なります。メリット、デメリットを含めそれぞれの場所にそれぞれの特性があり、その特性の中に良い家になるヒントが隠れています。土地の立地条件や周辺環境をよく理解し、その場所に合った住宅を提案したいと考えています。今回に限らずどの案件でも設計に取りかかる前には計画地に何度も足を運びます」と、植村さん。敷地の大きさや形、方角はもちろん、周りの住宅や道路、日当たりや風の通りなど環境を含め実際に自分の目で見て、空気を肌で感じ、そこから得られたイメージを徐々に形にしていく。それが植村さんのいつものスタイルだ。今回のH邸にしても同様で、プランを固める前に当然ながら何度も現地を訪れたという。
Hさんの購入した敷地には、かつての持ち主が住んでいた古い家が残っていた。そこには周囲の視線を遮るように、道路に面した敷地の境界に生け垣が植えられていた。
「敷地を何度も訪れ観察しているうちに色々な気づきがありました。最も大きな気づきは、敷地に面した道路を通り抜ける車がないこと。同じ道に接道している住居の住人が使う程度で、道路というよりはむしろ限られた人が使う共用スペースのような存在でした。角地にある今回の敷地は最もその傾向が強く、角地に面している道路は共用スペース以上にプライベートな気配さえ感じました」と、植村さんは敷地の印象を語る。
そこで植村さんは、既存のように生け垣やフェンス等を設けて敷地と道路を切り離してしまうのではなく、庭や駐車スペースを道に対して開放的なつくりにすることで道路も自身の庭と感じられるようなプランを提案。「開放的な“カドニワ”を設けることで、道路と敷地が境界線を超越して緩やかなグラデーションでつながった関係となり、敷地により広がりを生み出しています」と。
もちろん、Hさん夫妻の「使いやすい駐車場、BBQができる広い庭」という要望も同時に満たしている。駐車スペースを敷地の長辺側に設け、バックや切り返しをすることなくスムーズに駐車できるように設計。また駐車場と庭のスペースをあえて区切らず、造園業者と相談をして「車も停められる庭」に。車が停まってない時は広い庭、友人や両親が車で来た時も最大3台まで駐車できる、そんなフレキシブルな使い方のできる空間を実現した。植栽の配置も駐車スペースや室内との関係に配慮して計画したという。
どこにいても家族の気配が分かる、ちょうどいい“塩梅”
道路と敷地の境界線を曖昧にする「緩やかなグラデーション」は、外部だけでなく屋内にも及んでいる。庭に面した1階リビングは2面に大きな窓を配し、ウッドデッキを介して屋外と屋内を緩やかにつなぐクッションの役割を果たしている。一見したところかなり開放的な印象を受けるが「一般的には開放的すぎる造りかもしれませんが、前面道路のプライベート性が高いこの角地だからこそ、ここまで開放的につくることが出来ました。その結果リビングにいても庭にいるかのような気持ち良さが体験できます」と植村さんは語る。
一方、同じ1階にあるダイニングキッチンはリビングの奥へ配置し、壁で仕切ることなくリビングとの連続性を維持しながらも、外部からの直接的な視線を緩和。料理好きなHさんの奥様が希望したオーダーメイドのアイランドキッチンで料理をしている時も、リビングや庭にまで目が届くようなレイアウトとなっている。
1階と2階をつなぐのは、途中に畳間のあるスキップフロア。住空間に縦方向の広がりを演出するとともに、2階開口部を大きく設けることで1階と2階の一体感をも持たせている。
「畳スペースからさらに階段を上がった先にある広いスペースは子供達の溜まり場=キッズリビングです。子供たちの各個室はありますが、まだ小さいうちはキッズリビングで兄弟や友達と遊んだり宿題をしたりできる多目的スペースという位置付けです。親が1階にいても2階の子供たちの様子が何となく分かる、ということに配慮しました」。
将来子供たちが巣立って行った後には、Hさん夫妻の家事や趣味のスペース、ギャラリーなどとして活用されることも想定している。
キッズリビングから廊下やウォーク・イン・クローゼットを挟んで、子供たちの各個室と夫妻の寝室をレイアウト。緩やかなグラデーションでつながった最深部にあたり、ドアや壁で仕切られているためプライバシーも十分確保されているという寸法だ。
道路から庭、そして家の中の各部屋まで、パブリックからパーソナルへと緩やかにつながった「カドニワの家」。位置や空間、目的などに応じて絶妙なグラデーションで彩られたこの家は、あたかも一幅の水墨画のよう。植村さんが描いたその水墨画に、Hさんファミリーがこれから美しい色を重ねていく──。
植村 康平
植村康平建築設計事務所
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