築50年の古民家をセルフリノベーション。蒸しパン屋さんを営む移住ライフ【我が家の暮らし #3】

住宅街に佇む一軒の蒸しパン屋さん〔だいちや〕。木戸をガラガラと開け、店内へ一歩足を踏み入れると、木の温もりと、やわらかな陽射しが差し込む開放的な空間が広がります。1年半かけて、ご夫婦が自分たちの手で作り上げたお店を、さっそくのぞいてみましょう。

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まずはお店を開く場所探しからスタート

「ここはもともと、築50年ほどの民家で、7、8年ほど人が住んでいない空き家だったようです。千葉、山梨、茨城、神奈川とあちこち本当によく歩いて探して、ここを見つけた時は即決でした」とご主人の友晃さん。

東京に暮らし、整体の仕事をしていた大出夫妻。ふたりには、夢がありました。「休みの日に、よくふたりでパン屋さんめぐりをしていました。その延長線上には“自分たちのお店を持ちたい”という夢がありました。パン屋さんめぐりをしながら、どこか移住できるようなところはないかと、その町を見て歩いていました」と奥さまの香織さん。

そして出会ったのが、現在、お店を構える神奈川県の二宮という小さな町でした。ふたりにとって、この町は、縁もゆかりもない土地だったけれど、自分たちの手でお店を作りたいという想いがあったため“セルフリノベーションがOK”というこの古民家に決めました。

そして、ふたりはリノベーションをスタート。友晃さんはそれまでやってきた整体の仕事を辞め、メインでお店づくりの作業を。香織さんは整体の仕事を続けながら進めてきたのだそうです。

「いつ完成予定? と夫にきいたら『半年くらいかなあ』という答えが返ってきました。でも実際は1年半かかりました」と香織さん。つづけて「僕としては、おそらく1年半くらいかかるだろうなあと、一応、想定内でした(笑)」と友晃さん。2016年2月から作業を始め、〔むしぱん だいちや〕がオープンしたのは2017年7月21日のことでした。

解体、基礎工事、内部補強、外壁も自分たちの手で

解体がとにかく大変だったと友晃さん。知り合いの大工さんに月に10日ほど手伝いに来てもらい、丁寧に現況を確認しながら、手壊しによる解体作業を行ったそうです。「中身はほぼ新築といえるほど作り直したと思います。床、壁、天井、補強、トイレ、洗面所など全部、作りました」と友晃さん。水道や電気も、通ってはいたものの、配管や分電盤は古く、配線もそのままだったので、すべて交換したそうです。

古民家などの古い建物は、実際に解体をしてみると、経年劣化が想像以上に進んでいることがあったり、それまで覆われていた部分があらわになることで、その構造に驚かされたりすることがあるそうです。こちらの建物も、解体したことで衝撃的な発見があったそうです。

「木造住宅だと思っていたのですが、解体したら鉄骨が出てきたんです。それまで壁や天井などで覆われていてわからなかったのですが、解体したら出てきました。表に見えていた“柱”も鉄骨で、周囲を木で覆って木の柱のように見せていたんです。当時の流行りだったのか“木造風”だったんですよね」

解体したら顔を出した鉄骨。腐敗がひどく、サビを落とすだけで、なんと3ヶ月かかったのだそうです。「この作業がいちばん時間がかかったんじゃないかなあ」と友晃さん。鉄骨にはサビ止めが塗ってあったけれど、上から塗料を塗ったら浮いてきてしまうため、鉄骨の1本1本を、毎日毎日、ガリガリと手作業で削り、とっていったのだそうです。

壁をすべて壊して床もはがし、解体を終えると、床下にコンクリートを流し込み、基礎を作る工事に取り掛かりました。友晃さんが「あの作業がいちばん心が折れそうになりました」と振り返るのは“根太(ねだ)”を組んでいく作業です。根太とは、床板を支えるために、その下に渡す木のことで、コンクリートの上に格子状に置き、下地を組んでいきます。

腐敗が進んでいた既存の外壁も解体し、下地を作り、透湿防水シートを張り巡らし、窓枠を作ります。友晃さんがその後に行ったのは、杉の板を壁に貼っていく作業です。

ここでは杉の木の板を “下見板張り”で張っていきました。ヨーロッパで古くから用いられるこの技法は、上方の板の下端を下方の板の上端に羽重ねにして張っていきます。鎧の錣(しころ)に似ていることから“鎧張り”とよばれることもあります。

最初の1枚は水平に測って取り付け、2枚目以降は板と板に一定の重なり部分(2cm程度)を作り、板を張っていきます。この下見板張りは、板を平坦に張るよりも、雨が入りにくく、かつ通気性を保つことができるというメリットがあるそうです。

外壁の塗装に使用したのは植物油ベースの自然塗料「オスモカラー」。淡いグリーンに、グレーが入ったような色です。白い部分も、白色にグレーを少し足して調色し、グリーンの色と合うように調整をしたそうです。

中の壁も、天井も、鉄骨を残しすべて解体しました。解体した後は、梁と柱を入れて補強し、新たに天井と壁を作り、内装も少しずつ手を入れて作っていきました。

入口は、最初はスロープにしようと思っていたという友晃さん。しかし実際に計測してみると、高低差が大きく、スロープにすると急になってしまうため、ウッドデッキを作ることにしました。ウッドデッキを作るにあたっては、一度土を掘り起こし、コンクリートを流し込んで土台を作ったそうです。

解体、基礎工事、外壁が終わり内装へ

基礎工事などが終わり、内部の壁や床、天井などの仕上げや、装飾および設備の配置へとうつっていきました。「木戸は中古のものをいただきました。木戸を引くと出る“ガタガタガタ”という音を再現したくて、入口はこのようにしました」と友晃さん。

子供の頃に、駄菓子屋さんや和菓子屋さんの木戸を引くと聞こえた、あの“ガタガタガタ”という音。友晃さんの心には、この音が残っていました。そのため、入口を作るにあたっては、譲っていただいた木戸の大きさに合わせ、入口を作り上げていったそうです。

お客さまを迎え入れる入口は、ファサードといわれる建築物の正面部分にあたるところ。ここは最も目につく場所であり、建物の顔です。木戸にはめるガラスは、解体した際に出たガラスをはめたり、ガラス屋さんでカットしてもらったものをはめこんだそうです。

「ガラスや廃材も捨てるのにはお金がかかります。まだ使えるものもたくさんあるのでなるべく使うようにしました」と友晃さん。

このブロックガラスも、近所のパン屋さんが古民家をリノベーションし、カフェスペースを作った際に、使われずに転がっていたものを譲っていただいたのだそう。木枠も、もともとキッチンにはまっていたものを磨き、塗装して使っています。

照明を吊るしている材木は、知り合いの大工さんに譲っていただいたものを利用しています。上に電気のコードを這わせ、電球をぶら下げました。

店内に入り、まず目を引くのが、蒸しパンの並ぶこのカウンターです。こちらも友晃さんお手製。神奈川県産の木材を探していたところ、近所に材木屋さんがあることを知り訪れたそうです。カウンターはその木材屋さんで購入したのだそう。以来、そこへ毎日のように通い、木についていろいろ教えていただいたのだとか。

そしてもうひとつ、カウンターと共に目に飛び込んでくるのが、こちらのグリーンの2本の柱です。「これは解体して出てきた鉄骨です。サビをとって塗装をしたのですが、妻がこの柱はこういう色にしたいということで、特別に調色してもらい作りました」と友晃さん。

この柱の、このグリーンを基調色にし、店内はこの色に合うように塗装をしていったのだそうです。塗料は、保育園や幼稚園などでも使用されている水彩のものを使用しています。

2階へ続く階段。これはもともとあったものをそのまま残し、磨き補強し使用しています。床板部分も一部、残しています。

この階段はもともと、水色の壁(写真奥)の裏側にありました。階段の下にはトイレと階段下収納があったそうです。リノベーションするにあたり、もう少しトイレを大きくしたいと思い、壁とトイレは壊し、別のところに設置することにしたのだそうです。

壁を取り壊し、トイレをなくした階段下のスペースには、チェアとテーブルを置き、お客さんが座ってくつろげるようにイートインスペースにしました。

もちろんこのチェアとサイドテーブルも友晃さんお手製です。廃材を利用しています。

向かいのカウンターに置かれた2脚の椅子も、友晃さんが廃材を利用して作ったものです。

トイレの移動先は、もともとお風呂場だったところにしました。ここに洗面所とトイレを作りました。洗面台も端材を利用して作っています。「シンクをまず購入して、それに端材を合わせてどうやって作るかが苦労しました。シンクと蛇口の高さを合わせるために、木のブロックを間に挟んで高さ調整をしたり、水道管の位置を合わせたりするのもとても難しかったです」と友晃さん。

トイレと手洗い場です。ここはもともとお風呂場でした。壁にはタイルが貼ってあったため、木材をタイル状に加工し、1枚1枚貼り合わせていったのだそう。タイルも処分するのにお金がかかります。それならばと、タイルのサイズに合わせてベニヤ板を切りだし、角をとって貼ってタイルを見えないようにしました。

壁も1枚1枚、手作業で塗っていきます。使用したのは「ホタテ漆喰」。ホタテの貝殻を砕いてつくったものです。ホタテの貝殻をブレンドすることによって収縮が少なく、クラックが生じにくいそうです。また貝殻には消臭機能があるほか、貝殻のもつ細微な穴が、室内温度に応じて調湿する効果があるため結露防止や抗カビ機能もあるといわれています。

トイレ、洗面所、キッチンは、それぞれ異なる色のホタテ漆喰で塗装しました。小麦、生成り、灰という3色で塗っています。温かみがあり、とても味わいのある表情豊かな壁に仕上がっています。

こちらは入口の脇に設けられたイートインコーナーです。ここでは、蒸し立ての蒸しパンや、蒸し直しをしてくれた蒸しパンを食べることができます。ここでひときわ目を引くのが右手の壁の装飾です。

大小さまざまな色とりどりの木のブロックが組み合わさり、一枚絵のようになっています。「最初に木を削って色を塗り、壁の幅に合わせて、積み木のように組み合わせて並べました。それをこのまま、壁にボンドに1つ1つ貼り付けていきました」と友晃さん。1つ1つの木片に色を塗って乾かし、また塗り乾かし、削って角をとるという作業をひたすら続け、およそ2週間かかったそうです。

お客さんが触ってケガなどしないように角をとる作業はとても大変だったと思います。「大変な作業ではありましたが、装飾なので楽しんでやりました。お子さんたちが興味をもって、楽しそうに触ってくれるのでとても嬉しいです」と香織さん。

かわいい装飾を眺め、木の温もりを感じながら蒸しパンをほおばる。やさしい甘みが口いっぱいに広がり、気分もほっこり。

新たに壁を作り、蒸しパン屋さんのスペースの隣に作った部屋は、おふたりのもう1つの仕事場、整体の施術室です。施術室の入口にも木のブロックで作った装飾があります。

木の温もりがあふれる施術室です。床板も1枚1枚貼り、木のカウンターも友晃さんが作りました。施術室は天然の杉板を使用していて、部屋に入ると無垢材の良い香りがします。靴を脱いでこちらにあがるので、足には木の温もりが伝わって来ます。

施術台の脇に置かれていた踏み台も友晃さんの手作り。こちらも廃材を使って作っているそうです。そのほか荷物置きなども廃材を利用して作ったものが置かれていました。木のやさしい風合いを五感で感じるとても心地の良い空間です。

解体前の建物は、もともと明かり取りがなく薄暗い印象の室内だったそうです。そのため、天井も一部を抜き、明かり取りにしました。

天井を見上げるとこのようになっています。ここから明かりが差し込み、店内はやわらかな日差しに包まれます。

お客さんがガラガラと戸を開け「こんにちは」と、ひとり、また、ひとり入って来ます。ご年配の方や、お子さん連れのお母さん、犬の散歩途中の方などなど。みなさん、友晃さんや香織さんと世間話を楽しみ、蒸しパンを2つ、3つと買って行きます。

カウンターに並ぶ蒸しパンの数が少なくなってくると、奥のキッチンで作り、蒸しあげていきます。蒸しパンはふたりで作り、整体もふたりで行います。〔だいちや〕さんは、夫婦ふたりで切り盛りしているのです。

もっちりムチムチとした独特な食感が印象的な生地は、3日以上時間をかけ、ゆっくりじっくりと発酵させて作っていくのだそうです。今まで食べた蒸しパンのイメージがガラっと変わります。メニューも、甘い系のおやつにぴったりなものから、お惣菜と合わせたおかず系までさまざまで目移りしてしまいます。

自分たちらしい暮らしを求め、この町に移り住み、1つひとつ、自分たちの手でお店を作り上げていったふたり。お店に一歩、足を踏み入れた時から感じる心地よさや、心の緊張がするするとほどけていくようなやさしい味わいの蒸しパンは、そんなふたりが作り上げたからこそ、感じるものなのかもしれません。

【だいちや】
●住所 神奈川県中郡二宮町川匂71-6
●電話 0463-71-7113
●営業時間 9〜18時(パンは生地がなくなり次第終了)
●定休日 日・月曜
●URL https://www.daichiya.com/

●ライター 忍章子

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